
建築家の伊東豊雄氏(1941-)が熊本県阿蘇市小国町にて設計し、1997年に竣工した個人邸が、宿泊施設に再生するプロジェクトの立ち上げに伴い、すでに始まっている大規模修繕が完了する前の姿をプロセスとして公開する見学会が、5月19日から期間限定で開催されます(予約制)。
主催はSHARE ARCHITECTURE(シェアアーキテクチャー)[*1]。昨年12月には山梨県内にて「内田繁 森の中の建築と家具」展を開催。「名建築の保全活動を日本の文化に」をコンセプトに活動中の団体による再生プロジェクトです。
*1.SHARE ARCHITECTURE(シェアアーキテクチャー)
建築史に名を残すような著名建築家が手掛けた作品が惜しまれつつ解体されてしまう昨今、この動きに歯止めをかけることを目的に立ち上げられたプロジェクト。国内で休眠状態を含めた名建築の所有者、あるいはこれらの名建築の保全活動を行っている人々の協力を得て、本展のような、建物各個に即したテーマのもとでのインスタレーションや見学会などを企画・実施。日本の名建築の次世代継承を目指す。企画展示のほか、会員制シェア別荘といった事業展開も計画中。現時点では、奈良県生駒市にて安藤忠雄が設計した住宅作品(南林邸、1984年竣工)のシェア会員を募集中。プロジェクトの運営母体は、デザイナーズ・ヴィンテージ家具を世界各地から集め、国や年代に捉われない独自のセレクトとコーディネートを提案している、ATELIER GALLERY(アトリエギャラリー)が担っている。
現在の伊東豊雄設計〈小国S邸〉内外観 提供:SHARE ARCHITECTURE
主催者メッセージ
熊本県阿蘇市小国に現存する〈小国S邸〉は、建築家の伊東豊雄氏(1941-)が設計し、1997年に竣工した住宅作品である。施主は彫刻家の末田龍介と造形作家の末田 栞夫妻。夫妻の住宅兼アトリエである。住居、アトリエ、展示の場など、複数の機能を有している。
末田龍介の出身地であった小国にこの住宅兼アトリエを建てる前は、建築家の林 雅子(1928-2001)や原 広司(1936-2025)に自邸の設計を依頼したこともあり、夫妻にとって、”終の住処”となることを見越して伊東に設計を依頼したとされる。その当時、公共建築の設計が多くなっていた伊東にとって、施主と共鳴する悦びと創作に満ちた実験的な住宅作品となった(当時の建築業界の文脈に一石を投じる作品となることを意識していたと、のちに伊東は「批判性のない建築は可能か」と題して建築専門誌に寄稿したテキストで回想している / 主催者調べ)。
末田夫妻が逝去した後は空き家となり、建物は傷みが進んでいたが、2024年に新たなオーナーが建物を取得。SHARE ARCHITECTUREによるプロジェクトの一環として、2025年3月より大規模修繕が始まっている。計画では、建物をできるかぎり往時の姿へと戻し、建築の魅力を人々に体感してもらえる宿泊施設として生まれ変わる予定である。
かつての住まい手である末田龍介は、建築家の吉田五十八が設計した成田山新勝寺(1968年竣工)にしつらえられた1室のために彫刻を提供。1976年には建築家の池辺 陽主宰した大学研究室との共同でオブジェ作品を出品するなど、建築家とのあいだでは知られた彫刻家であった。
本イベントでは、龍介・栞夫妻が長年にわたる創作活動で生み出してきた彫刻作品を紹介するとともに、建築の魅力が引き立つようなインテリアも配置して、邸内全体でインスタレーションを行う。建築の魅力を紹介するとともに、末田夫妻の芸術作品にも光をあてる特別な試みとなる。また、建物の4つの区画のうち3区画において、建築および空間を活用する希望者(地元の事業者やクリエーターなど)を募る。名建築保全の道を拓きながら、それが町の魅力のひとつにもなっていくとよい。伊東氏の活動初期の作品である住宅建築や、芸術家夫妻のアート作品を見るために、まちおよび県外、さらには海外からも人々が訪れ、小国のまちのさらなる活性化にも貢献できればと考えている。
※以上、テキストは主催者発信のプレスリリースをもとに『TECTURE MAG』にて一部を追補
〈小国S邸〉内観 提供:SHARE ARCHITECTURE
会場:小国S邸
所在地:熊本県阿蘇市小国町で ※見学確定者にのみ詳細を通知
実施期間:2025年5月19日(月)〜25(日)、6月16日(月)〜22日(日)
時間枠:10:00-11:30 / 12:30-14:00 / 14:30-16:00
参加費:無料
参加方法:予約制 / 見学を希望する日と時間枠を組み合わせて、見学希望者の氏名(複数人の場合は代表者)、電話番号(緊急時連絡先)、メールアドレスを明記し、建物保全への関心などを書き添え、下記担当までメールで申請
担当:志摩<minamibayashi.house[@]gmail.com> ※ [@]→@に変えて送信
各回定員:現時点でなし
申込受付締切:現時点でなし、当日有効
主催・問い合わせ先:Share Architecture
本イベントの見学申し込みおよび問い合わせは、上記・SHARE ARCHITECTURE 窓口まで。
SHARE ARCHITECTURE Website
https://www.sharearchitecture.net/
※本稿では人物名は敬称略とした
※画像提供:SHARE ARCHITECTURE