[Report]方丈庵から生き方を問う、21_21 DESIGN SIGHT 企画展「方丈記に学ぶ –生きるを編み直す小さな建築–」会場レポート - TECTURE MAG(テクチャーマガジン) | 空間デザイン・建築メディア
[Report]方丈庵から生き方を問う、21_21 DESIGN SIGHT 企画展「方丈記に学ぶ –生きるを編み直す小さな建築–」会場レポート

[Report]方丈庵から生き方を問う、21_21 DESIGN SIGHT 企画展「方丈記に学ぶ –生きるを編み直す小さな建築–」会場レポート

東京・六本木の21_21 DESIGN SIGHTギャラリー1&2にて、企画展「方丈記に学ぶ – 生きるを編み直す小さな建築 –」が開催されています。

本展は、鴨 長明(1155-1216)の随筆として知られる『方丈記』に記された彼の住まい「方丈の庵」を起点に、現代の私たちの生活とそのまわりにある環境、豊かな暮らしとは何かを見つめ直そうとする展覧会です。展覧会ディレクターを建築家の塚本由晴氏が務め、会場構成を建築家の正田智樹氏が担当しています。

『TECTURE MAG』では、開幕前日にメディア向けに行われた内覧会を取材しました(本稿1枚目の外観画像[撮影者クレジットあり]を除く会場風景はすべてTEAM TECTURE MAG撮影、一部で作家敬称略とする)。

21_21 DESIGN SIGHT 企画展「方丈記に学ぶ」メディア向け内覧会風景

記者会見でサンクンコート展示作品「蓑庵 マウン庭」について説明する正田智樹氏(右端)と参加作家(左から、veigの2氏と竹中工務店の3氏 ※5氏の氏名は後述)

INDEX

12世紀の書『方丈記』からの学びとは?
佐藤卓館長コメント / 塚本由晴本展ディレクターコメント ▶︎▶︎ 読む
現代の方丈から浮かび上がる「生」 / 主な展示作品 ▶︎▶︎ 確認する
PICK-UP!「物置小屋 移築計画」(大室佑介+川長組) ▶︎▶︎ 大室氏インタビューを読む
会場構成の狙い ▶︎▶︎ 正田智樹氏インタビューを読む
展覧会チーム プロフィール ▶︎▶︎ 確認する
開催概要 ▶︎▶︎ 確認する


12世紀の書『方丈記』からの学びとは?

本展開催の経緯と企図について、21_21 DESIGN SIGHT 館長を務める佐藤 卓氏は次のように語っています。

「鴨長明の『方丈記』をもし未読ならきちんと読んだほうがいいと、2019年に僕が展覧会ディレクターを勤めて当館で開催した『虫展 −デザインのお手本−』の企画監修をお願いして以来、おつきあいが続いている養老孟司さんに勧められていました。現代語訳の文庫本(佐藤春夫訳)も出ているからと。読み始めてみると、そこに書かれているのは、飢饉、疫病、地震や大火などに度々見舞われる平安末期から鎌倉初期にかけての京のまちの様子、平氏による遷都による都市の変容、人心の乱れ、戦争、栄達への人の妬み恨みといった、今の時代と何も変わらない人々の暮らしでした。そんな情勢から距離を置いた鴨 長明は、気の向くままに住まいを転居し、最終的に伏見の日野山に建てた小さな庵(いおり)で『方丈記』を著しました。その庵は小さく、3m×3m=9m²ほど。容易に解体ができて、台車が2台あれば材を積んで移設できた。これが方丈庵です。この身軽さは、現代の暮らしや生き方にも通じるものがあると考え、展覧会を企画して建築家の塚本由晴さんにディレクターをお願いしました。8組の作家が参加した本展には、彼らがそれぞれ考えた多種多様な庵とともに、『方丈記』に描かれた自然や暮らしのほか、海外でも見られる同様の考え方へのリサーチなどもあわせて展示され、僕の予想を超えた内容となっています」(佐藤 卓氏 記者会見冒頭挨拶より)

 21_21 DESIGN SIGHT 企画展「方丈記に学ぶ」

佐藤卓氏(左)/ 塚本由晴氏(右)

本展は、『方丈記』そのものを読み解くのではなく、『方丈記』と、現代を生きる私たちのあいだに現れる「生(せい)」に目を向け、人々が暮らしのあり方とあらためて向き合う機会となることを目指した展覧会です。
「生きるを編み直す小さな建築」と題した本展のサブタイトルについて、展覧会ディレクターを務める塚本由晴氏は次のように語っています。

「この”編み直す”という言葉は、広島大学教授の松嶋 健(まつしま たけし)さんとの議論の中で出てきたもので、本展のタイトルで使う許可を松嶋先生に得ています。今の世の中は、生の実感をしにくい社会になってきていて、なにかいちど編み直す、再編成する必要があるのではないか? 松嶋先生は文化人類学者の立場から、僕は建築設計者の立場から、ずっとこの問題について考えています。いくつかの庵は内部にも入れるようにもなっているので、そこで住まいや暮らしについて考えを巡らせてみたり、何らかの体験を持ち帰ってほしいと願っています」(記者会見に寄せられたビデオメッセージより)

 

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現代の方丈から浮かび上がる「生」

鴨 長明は、12世紀半ばに京の神職の名家に生まれ、父親の職を継ぐことを希望しながら、その道を親族の妨害に遭って閉ざされ、歌と弦楽の世界に生き、随筆家としても後世に名を残した人物です。都(みやこ)の外に構えた居は次第に小規模となり、京都・伏見の日野山に建てた1辺約3m(一丈)の庵が終のすみかとなり、『方丈記』はそこで執筆されました。62歳で没。
本展は、約800年前(1212年に成る)の書『方丈記』を紐解きつつも、方丈庵の小さなスケールを手がかりに、現代の作家らがそれぞれの庵を制作しています。現代を生きる我々とのあいだにさまざまな「生」を浮かび上がらせ、今の暮らしのあり方と向き合うきっかけを提示しています。

主な展示作品

ギャラリー1
(正田智樹、6lines studio / 大山 亮、増井柚香子による3作品)
「非実在空間としての方丈の庵」
「方丈記リレー」
「方丈巡礼」
ギャラリー2
「物置小屋 移築計画」(大室佑介+川長組)
「歩く方丈」(小渕祐介+中村 純)
「ロンドン方丈記 ― Atlas / Afterimage」(江頭 慎)
「living with」(2m26)
「螺庵(つびあん)」(山口 晃)
サンクンコートほか
「庵案1」「庵案3」「庵案5」(山口 晃)
「蓑庵 マウン庭」(正田智樹+竹中工務店+veig)
「回転する風景」(田部井美奈)
「朝顔」(須田悦弘)

作品の説明は会場内に掲示がありますが、会場で配布されているハンドアウトが詳しく、作家が執筆した長短のテキストが掲載されています(本稿レポートでも参照、一部を引用した)。


ギャラリー1

「非実在空間としての方丈の庵」

ギャラリー1に据えられた庵は、『方丈記』に記されていた調度品や弦楽器といったモノを中心に再構築したもので、忠実な再現展示とは異なります。「非実在空間としての方丈の庵」として、”ひとつの正解を示すのではなく、実在しないことに豊かさを見出す試み”です(展示キャプションより)。
なお、同書における方丈庵に関する記述は多くはなく、会場写真のキャプションにつけたテキストのボリュームほどしかありません。

21_21 DESIGN SIGHT 企画展「方丈記に学ぶ」会場写真

“その家のありさまよのつねにも似ず、廣さはわづかに方丈、高さは七尺が内なり。所をおもひ定めざるがゆゑに、地をしめて造らず。土居をくみ、うちおほひをふきて、つぎめごとにかけがねをかけたり。もし心にかなはぬことあらば、やすく外へうつさむがためなり。そのあらため造るとき、いくばくのわづらひかある。積むところわづかに二輌なり。”(『方丈記』青空文庫サイト公開テキストより)

21_21 DESIGN SIGHT 企画展「方丈記に学ぶ」会場写真

“南にかりの日がくしをさし出して、竹のすのこを敷き、その西に閼伽棚を作り、うちには西の垣に添へて、阿彌陀の畫像を安置したてまつりて、落日をうけて、眉間のひかりとす。かの帳のとびらに、普賢ならびに不動の像をかけたり。北の障子の上に、ちひさき棚をかまへて、黒き皮籠三四合を置く。すなはち和歌、管絃、往生要集ごときの抄物を入れたり。傍にこと、琵琶、おのおの一張をたつ。”(『方丈記』青空文庫サイト公開テキストより)

21_21 DESIGN SIGHT 企画展「方丈記に学ぶ」会場写真

“南にかけひ[懸桶]あり、岩をたゝみて水をためたり”(『方丈記』青空文庫サイト公開テキストより)

21_21 DESIGN SIGHT 企画展「方丈記に学ぶ」会場写真

「非実在空間としての方丈の庵」

『方丈記』に関するリサーチ(正田智樹+6lines studio / 大山 亮、増井柚香子)

ギャラリー1 四方の壁は、本展の会場構成も担当している正田智樹氏と6lines studioの大山 亮、増井柚香子の両氏によるリサーチ展示です。明治期以降に確認できた、『方丈記』に関する研究・記述・表現のほか、海外にみられる「方丈庵」に近しい暮らしの思想に触れることができます。

21_21 DESIGN SIGHT 企画展「方丈記に学ぶ」エントランス

「方丈記リレー」 展示のためのグラフィックデザインは田部井美奈氏が担当

21_21 DESIGN SIGHT 企画展「方丈記に学ぶ」会場写真

「方丈記巡礼」

このギャラリー1の展示は、出展作家が鴨 長明および『方丈庵』を読み込んで本展に臨んだのと同じような追体験をしてもらえるように用意された、いわばプロローグです(会場構成を担当した正田氏インタビューより、本稿終盤に掲載)。

 

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ギャラリー2

ギャラリー2では、大室佑介+川長組による「物置小屋 移築計画」、小渕祐介+中村 純による「歩く方丈」、江頭 慎「ロンドン方丈記 ― Atlas / Afterimage」、2m26「living with」、そして複数の庵を制作・出展している山口 晃による「螺庵(つびあん)」が展示されています。

21_21 DESIGN SIGHT 企画展「方丈記に学ぶ」会場写真

ギャラリー2 展示風景 画面左側:山口 晃「螺庵(つびあん)」/ 中央奥:2m26「living with」/ 右手前:江頭 慎「ロンドン方丈記 ― Atlas / Afterimage」展示の一部

21_21 DESIGN SIGHT 企画展「方丈記に学ぶ」会場写真

ギャラリー2 展示風景 画面左側:小渕祐介+中村 純「歩く方丈」/ 画面右側:大室佑介+川長組「物置小屋 移築計画」


PICK-UP!「物置小屋 移築計画」(大室佑介+川長組)

本展で『TECTURE MAG』がピックアップしたいのが、建築家が参画している「川長組(かわちょうぐみ)」の取り組みです。
川長組とは、私小説家の川崎長太郎(1901-1985年)が、37歳から57歳までのあいだ日常生活と執筆活動の拠点とした、小田原の海辺に建てられた元は漁具の物置だった小屋を、残された写真や証言と川崎長太郎の私小説作品に散見される小屋についての文学表現をもとに再建を目指す研究ユニットで、メンバーは詩人・小説家で造本家でもある平出 隆(1950-)、建築家の青木 淳(1956-)、大室佑介(1981-)、近代文学研究者の齋藤秀昭(1971-)の4氏。2015年に小田原文学館で行われた、川崎長太郎の没後30年特別展の展示企画として、原寸大での小屋の部分再現を行っており、本展はこれに続くものです。

『TECTURE MAG』では、前回と今回の展示で”再建小屋”の設計を担当した大室佑介氏に話を聞きました。

21_21 DESIGN SIGHT 企画展「方丈記に学ぶ」会場写真

大室佑介+川長組「物置小屋 移築計画」
画面奥:川崎長太郎が暮らした「小屋」の再構築展示 / 手前:暮らしに関する作家のテキスト(抜粋)が読めるようになっている

——今回の展示で川崎長太郎という作家と、川長組という研究ユニットを初めて知る人も多いと思います。どのような人物だったのでしょうか。

大室佑介
川崎長太郎は、小田原で繁盛していた魚屋の生まれで、この物置小屋はその生家の隣地にあったものです。漁具をしまっておくための物置小屋で、板を張らずにスカスカの2階部分に濡れた漁網を投げ入れて、下の土間に水を落として自然乾燥させていました。長太郎はこの2階が気に入り、畳を2枚持ち込んで、ビール箱を机にして、蝋燭の火の下で執筆をして、寝起きもしていた。37歳から57歳まで、作家としていちばん脂がのっていた時期をこの空間で過ごしたのです。

——そんな作家がいたのだと、本展で初めて知りました。興味深い生き方ですね。

大室佑介
私も多摩美術大学在籍時に平出先生から教わるまでは知りませんでした。調べてみると、実家の経済状況が安定していたこともあり、貧困生活を送っていたわけではなく、地元の老舗食堂に毎日通って美味しいものを食べて暮らしています。ただ、そういう出自の良さは自身の作品の中ではあまり見せていません。この小屋は最終的に台風で吹き飛んでしまい、それを機に実家の母屋に転がり込み、のちに結婚もして、小田原市内で暮らしていました。最期に暮らした自宅を解体前に見学することができたのですが、そこも小じんまりとした住まいでした。

——建築家から見て、この物置小屋にはどのような魅力がありますか。

大室佑介
正直、建築的な魅力はないです(笑)。ガスも電灯も水道も引いてない。トイレもないから容器で用を足して夜な夜な棄てに行ったり、そのうち海辺に公衆便所ができるとそこを利用して、歯を磨いたりして。リサーチを通して川崎長太郎について知るうちに、住もうと思えば人はどこにでも住めるのだと感じました。

——川崎長太郎「物置小屋 移築計画」には、大室さんのほかに青木淳さんが建築家として名を連ねています。どういった経緯で参画されたのでしょうか。

大室佑介
川崎長太郎以外にも、著名な小説家や詩人が拠点としていた場所が見つかっていて、それらをつなぎあわせて架空の美術館をつくろうという計画が、今から17-18年前に、平出先生を発起人として立ち上がったのです。ちょうど私が磯崎新アトリエを退所して自分の事務所を構えるタイミングで、平出先生から声がかかり、研究と並行してプロジェクトの実務設計担当のような立場で参画しました。

——青木さんも在籍された磯崎アトリエつながりかと思っていましたが、違うのですね。

大室佑介
青木さんが参加するようになったのはその後で、2014年に青山のスパイラルで、『crystal cage』という叢書の刊行に合わせて平出先生がコーディネーターを務めて開催されたトークセッションの中で、川崎長太郎の小屋の再建計画を含めたトークの回に登壇者されたのがきっかけだったと思います。そこから一緒に研究をするようになりました。

——2015年に小田原文学館で、没後30年の記念展が開催された際に制作された小屋と、今回はどこか違うのでしょうか。

大室佑介
前回と規模はほぼ同じですが、床が50cmだけ上がり、屋根の輪郭が再現されています。11年前は、小田原で集めた材を使ったのですが、今回は私が拠点としている三重県の自宅周辺で集めたものを使っています。そして外壁のトタン葺きでは、オリジナルの物置小屋に近い、大波板を使うことができました。現在は小波板しか流通していないので、板金屋さんに特注でつくってもらいました。オリジナルと異なるのは、長太郎の小屋はコールタールが外側にぶ厚く塗られていたのですが、ここでそれをやると異臭騒ぎになってしまうので(笑)、油性塗料仕上げになっています。小屋の背面のスクリーンは、物置小屋が建っていた場所から相模湾の海を撮影した写真です。中に入りやすいよう、1階の土間部分は省いていますので、ぜひ、中に入って、長太郎が過ごした日々に思いを馳せてみてください。

21_21 DESIGN SIGHT 企画展「方丈記に学ぶ」会場写真

大室佑介+川長組「物置小屋 移築計画」
川長組および大室氏のプロフィール写真は、小田原文学館で展示された作品が使われている

“川崎長太郎の文学作品において繰り返し描写され、度々その小説の舞台となる「物置小屋」の移築計画。実際には取り壊されてしまっているため、この小屋を建てることは「復元」という言葉が適当かもしれないが、ここではあえて「移築」という言葉を使用する。「移築計画」にすることで、すでに存在しない物置小屋を再現するのではなく、あくまでも作品の中に現存する物置小屋を現実の世界におとしこむ、という通常の設計作業とは異なったアプローチをとることになる。”(本展ハンドアウトより)

21_21 DESIGN SIGHT 企画展「方丈記に学ぶ」会場写真

大室佑介+川長組「物置小屋 移築計画」

 

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「歩く方丈」(小渕祐介+中村 純)

「歩く方丈」は、台車が2輌あればたやすく解体・移築できるという鴨 長明の記述に着想を得たもので、地方の農村に放置されたFRP製の飼料タンクを、人が最小限の条件で暮らすための住まいとして転用。断熱材は張らず、空調機などで内部環境をコントロールするのではなく、生き物のように、その時々で快適な環境を探して”自分で歩いて移動する”方丈の提案です。

21_21 DESIGN SIGHT 企画展「方丈記に学ぶ」会場写真

小渕祐介+中村 純「歩く方丈」

21_21 DESIGN SIGHT 企画展「方丈記に学ぶ」会場写真

内覧会では方丈を搭載しない状態でゆっくりと自走させるデモンストレーションも行われた

21_21 DESIGN SIGHT 企画展「方丈記に学ぶ」会場写真

旧飼料タンクを横倒しにした場合の模型ほか

21_21 DESIGN SIGHT 企画展「方丈記に学ぶ」会場写真

演奏装置に改装した場合の内部(注.立ち入りは不可)

 

「ロンドン方丈記 ― Atlas / Afterimage」(江頭 慎)

ロンドンに活動拠点を構える江頭氏は、京のまちを観察し記述した鴨 長明を記録者と位置付け、ピンホールカメラを備えた「カメラ方丈庵」とともにロンドンのまちを巡り、収集・記録した”都市の残像”を披露しています。

21_21 DESIGN SIGHT 企画展「方丈記に学ぶ」会場写真

江頭 慎「ロンドン方丈記 ― Atlas / Afterimage」

21_21 DESIGN SIGHT 企画展「方丈記に学ぶ」会場写真

江頭氏が制作した「カメラ方丈庵」

21_21 DESIGN SIGHT 企画展「方丈記に学ぶ」会場写真

「ロンドン方丈記 ― Atlas / Afterimage」

21_21 DESIGN SIGHT 企画展「方丈記に学ぶ」会場写真

ギャラリー2 展示風景

 

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「living with」(2m26)

2m26(deux metres vingt six / ドゥ・メートル・ヴァン・シス)は、フランス出身のメラニー・ヘレスバックとセバスチャン・ルノーの2氏による建築家・アーティストデュオで、京都に拠点を構え、2021年からは市内山間部に移転し、茅葺き古民家を改修設計した〈2m26 Atelier〉を構えています(詳細は「第2回みんなの建築大賞」ノミネート作品を紹介した当媒体ニュースを参照)。

本展のために制作した小さな庵は、会期終了後、〈2m26 Atelier〉の敷地に移され、アトリエ訪問者のための宿泊施設になる予定です。

21_21 DESIGN SIGHT 企画展「方丈記に学ぶ」会場写真

2m26「living with」(注.立ち入りは不可)

21_21 DESIGN SIGHT 企画展「方丈記に学ぶ」会場写真

2m26「living with」(注.立ち入りは不可)

21_21 DESIGN SIGHT 企画展「方丈記に学ぶ」会場写真

左奥:山口 晃「螺庵(つびあん)」/ 右手前:2m26「living with」

 

「螺庵」(山口 晃)

日本を代表する画家・美術家の山口 晃氏は「どこか楽しげな世捨て人生活《於片田舎》」をイメージして案を練り、最終的に4つの「庵」を館内に展示しています。その1つ「螺庵(つびあん)」は、玄関から炊事場、段を上がって机が置かれた窓辺までの室内動線が螺旋状であることからの命名です。

21_21 DESIGN SIGHT 企画展「方丈記に学ぶ」会場写真

山口 晃「螺庵」内観

21_21 DESIGN SIGHT 企画展「方丈記に学ぶ」会場写真

山口 晃「螺庵」最深部内観

21_21 DESIGN SIGHT 企画展「方丈記に学ぶ」会場写真

山口 晃 ドローイング

「庵案1」(山口 晃)

「庵案(あんあん)」1〜5の構想のうち、3作品を展示。安藤忠雄建築で知られる”21_21 DESIGN SIGHTの余白に寄生したような、建築とも言えない廃材製の居場所・寝場所”がつくられました(本展ハンドアウトより)。

21_21 DESIGN SIGHT 企画展「方丈記に学ぶ」会場写真

山口 晃「庵案1」
躯体のあいだに斜めに嵌め込まれている”寝板”までは”カイダンイス”で上がり、その後はそれを引き上げて不可侵とする設計(注.立ち入りは不可)

「庵案3」(山口 晃)

21_21 DESIGN SIGHT 企画展「方丈記に学ぶ」会場写真

山口 晃「庵案3」(注.立ち入りは不可)

「庵案5」(山口 晃)

21_21 DESIGN SIGHT 企画展「方丈記に学ぶ」会場写真

画面左奥: 山口 晃「庵案3」(注.立ち入りは不可)

21_21 DESIGN SIGHT 企画展「方丈記に学ぶ」会場写真

山口 晃「庵案3」 注.立ち入り不可

 

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「蓑庵 マウン庭」(正田智樹+竹中工務店+veig)

サンクンコートの展示は3組合同によるもの。本展の会場構成も担当している正田智樹氏が、昨年末まで在籍していた竹中工務店で設計または構造設計を担当している片山 遥、亀田鈴香、小浦幸平の3氏に声をかけ、「蓑庵」を展示。21_21 DESIGN SIGHTの過去の企画展で多様なランドスケープを展開している片野晃輔氏と西尾耀輔氏によるユニット・veigは、薬草園を備えた「マウン庭(てい)」を造園。この2作品によって、”サンクンコートに生活圏を立ち上げ、環境勾配[*]を可視化する試み”です。

*.環境勾配(environmental gradient):空間または時間による非生物的要因の変化を指す(HiSoULより)。生物の営巣のように鴨 長明が山中に方丈庵を営んだことで、まわりの環境に生じたであろう微細な変化を生態学では撹乱(かくらん)といい、本作ではこれらの可視化を目指す

21_21 DESIGN SIGHT 企画展「方丈記に学ぶ」会場写真

正田智樹+竹中工務店+veig「蓑庵 マウン庭」

 

生物は環境の中に住処を構えることで、その周辺環境を変化させる。巣や寝ぐらの周囲では移動や採食が繰り返され、植生や土壌、資源分布、さらには個体数や種 の多様性に偏りが生じる。こうした変化は明確な境界として現れるのではなく、利用頻度や滞在時間に応じた攪乱の強弱が環境勾配として現れる。
方丈の庵を環境として捉えた場合、それは人間という生物が山中に小さな生活圏を立ち上げるための営巣装置と捉えることができるだろう。鴨 長明が日野山に庵を結び、薪を集めて火を使い、懸樋から水を引き、山を歩くことで、庵の周辺には緩やかな攪乱と恣意的な管理が蓄積していただろう。そうした自然と人の暮らしの間の静かなダイナミズムが鴨長明の方丈の庵と生活圏の風景となっていたのではないだろうか。「蓑庵 マウン庭」は、こうした静かなダイナミズムを「無常」と捉え、21_21 DESIGN SIGHTのサンクンコートに生活圏を立ち上げ、その環境勾配を可視化する試みである。庭や菜園の近接領域から外縁領域へと変化する構成は、人間 活動と周辺環境との相互作用の濃淡を表している。巣や寝ぐらを持つ多くの生物と同様に、人間の生活圏も資源の供給源との往来によって成立している。そのため生活圏の周囲には、住処から外側へ向かって移動頻度や資源利用の強度が変化する非対称な勾配が形成される。(ハンドアウトより)

 

21_21 DESIGN SIGHT 企画展「方丈記に学ぶ」会場写真

veig「マウン庭」解説

「蓑庵」を構成している材は、埼玉・小川町から運ばれた剪定枝葉を活用したもので、鴨長明の方丈庵に倣い、移設が容易となる掛金(かけがね)を用いて施工されています(1月11日までの会期中、冬の仕様に切り替える計画あり)。本展終了後、部材の一部が小川町に戻り、かたちと役割を変えて使われ続けることを想定した設計となっています。

21_21 DESIGN SIGHT 企画展「方丈記に学ぶ」会場写真

正田智樹+竹中工務店+veig「蓑庵 マウン庭」

21_21 DESIGN SIGHT 企画展「方丈記に学ぶ」会場写真

「蓑庵」内部 Photo: Keizo Kioku

 

「回転する風景」田部井美奈

本展のメインビジュアルを担当した田部井美奈氏による作品「回転する風景」の展示は、ギャラリー1の手前、”板塀”で組まれた暗室にて。小さな窓から中を覗き込むと、その名の通り「回転する風景」が展開されています。

21_21 DESIGN SIGHT 企画展「方丈記に学ぶ」会場写真

田部井美奈「回転する風景」

21_21 DESIGN SIGHT 企画展「方丈記に学ぶ」会場写真

田部井美奈「回転する風景」※静止画

田部井美奈による本展のメインビジュアルは、『方丈記』に記された庵の要素を、線や面に置き換えた立体構成と、そこに光を当てることで生じる影を、一点から透視した「風景」を改めて平面として捉えたものです。本作は移動する光源により刻々と変化するこの仕掛けを庵に閉じ込めて、実体として固定されない二次元と三次元のあいだを光と影のなかに浮き上がらせます。(展示キャプションテキストより)

光によって形や影が変化していく、その移ろいの中に、長名が眺めていたであろう庵の風景と、そしてその風景の中に、長明がこの庵で見つけていたであろう、静かな豊かさを想像します。(ハンドアウトより)

21_21 DESIGN SIGHT 企画展「方丈記に学ぶ」会場写真

田部井美奈「回転する風景」※『TECTURE MAG』による連続写真

 

「朝顔」「桔梗」(須田悦弘)

精緻な木彫で知られる須田悦弘氏の作品は2つ、「朝顔」「桔梗」が会場内のどこかに展示されていますのでお見逃しなく。

21_21 DESIGN SIGHT 企画展「方丈記に学ぶ」会場写真

須田悦弘「朝顔」

21_21 DESIGN SIGHT 企画展「方丈記に学ぶ」会場写真

須田悦弘「桔梗」

 

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会場構成の狙い

サンクンコートの「蓑庵 マウン庭」の作家の1人でもある正田智樹氏に、本展の会場構成について話を聞きました。

21_21 DESIGN SIGHT 企画展「方丈記に学ぶ」記者会見に登壇した正田智樹氏

記者会見にて「蓑庵 マウン庭」について説明する正田智樹氏

——正田さんは昨年の企画展「ラーメンどんぶり展」では竹中工務店設計部のチームとして出展し、「Nomado Roof / 拡張するラーメン屋台」を展示していました(作品詳細は竹中工務店ウェブサイトのアーカイブページを参照)。今回は会場構成も担当されています。

正田智樹
関わり方が前回とは異なり、参加作家の検討段階から参加しています。企画メンバーの全員がフラットに案を出し合いました。その際に基準となったのが、本展が掲げている「生きるを編み直す」というテーマ性です。ゆえに、いわゆるタイニーハウスは本展には見られません。多様な「生き方」の表現を求めて、最終的に塚本さんが作家を選出し、視点もコンセプトも姿かたちもそれぞれ全く異なる、こちらの想像を超えるような多様な庵が会場に結ばれました。特に、2m26のアトリエには事前に見学に行ったのですが、彼らは京都市右京区の北部、京北の山間で、動物たちに囲まれて生活しており、生命の循環の中に人がたまたま入ってるのだという印象を強く受けました。そのサイクルの1つとして、会期終了後に「living with」の移築が行われるそうです。そうした作家自身の生き様や、経験してきたものが庵に表現されています。

——いずれも「方丈」なのだろうかと考えさせられる作品ばかり。どのようなことに留意して会場をデザインしたのですか。

正田智樹
本展では、六本木という喧騒な場所から入り、須田さんの作品だけ展示されるブランクな空間を通り、ギャラリー1に入ります。そこでギュッと圧縮された「非実在空間としての方丈の庵」とリサーチ展示などで鴨 長明について知ることができます。そして黒の帆布と柱が並ぶ緊張感のある移行空間を通り、多様な庵が並ぶギャラリー2に入る。ギャラリー2からサンクンコートへと向かうあいだのZ字の通路も、今回は作品を置かずにブランクな状態です。
このように、本展では展示する場所をかなり絞り込み、圧縮された空間と何もないひらけた空間が交互にあらわれるのが大きな特徴です。何もない場所だからこそ、身の回りの環境が移ろい変わっていく無常観を感じることができる。「ゆく河の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず。」という、『方丈記』の出だしの一文にもあらわれている、鴨 長明の生き方を貫いていた無常観を表現しつつ、空間に緊張感をもたせています。

21_21 DESIGN SIGHT 企画展「方丈記に学ぶ」会場写真

ギャラリー1 展示風景

正田智樹
ギャラリー1に関しては、中央の非実在空間を主に制作しています。鴨 長明は55歳で京都日野山へ移り住み、「方丈の庵」を結びます。『方丈記』には長明が捨てきれずに持ち込んだモノが詳細に記されていますが、庵の具体的な記述は書かれていません。一丈四方の平面と、高さ七尺のスケールを柱・梁・貫で表現し、そこに鴨長明が捨てきれなかったモノたちを表現していきました。根壺や受壺のある掛金、閼伽棚、皮籠、机、懸け樋、寝具にしてた蕨の敷き詰め方などを企画チームで模索しながら制作をしました。

当初、霧のようなカーテンを吊り下げてつくった小径を分け入るようにしてある庵に出会い、また小径を抜けて別の庵に辿り着くという構成を考えていたのですが、それでは動線が強すぎて、庵どうしの関連性が分断されてしまうと思い、今のようなフラットな構成にしました。

——過去の展覧会と比較すると、ギャラリー1からすぐギャラリー2に入り、奥へと誘うようなゆるやかな動線が考慮されていることが多いのですが、本展では、ギャラリー2には真ん中から入ることになり、サンクンコート側に通路が設けられています。

正田智樹
ギャラリー2は、天井高3.6mの柱のあるスペースと、天井高4.8mのスペースは、黒頒布で仕切り、ギャラリー1から6つの庵への移行空間としています。中央付近から一気にドンとひらけた展示空間に入ってもらうことで、庵どうしの関連性が分断せず、フラットな構成にしています。もう1つ、視覚的、心理的にメリハリをつけたかったという理由もあります。

21_21 DESIGN SIGHT 企画展「方丈記に学ぶ」会場写真

ギャラリー1から2への移行空間

21_21 DESIGN SIGHT 企画展「方丈記に学ぶ」会場写真

ギャラリー2 展示風景

21_21 DESIGN SIGHT 企画展「方丈記に学ぶ」会場写真

ギャラリー2 展示風景

21_21 DESIGN SIGHT 企画展「方丈記に学ぶ」会場写真

サンクンコート展示、ギャラリー2からの眺め Photo: Keizo Kioku

正田智樹
設営終盤の2週間、会場に詰めていたのですが、出展者の熱量がビシビシと伝わってきました。鴨 長明の言葉が800年の時を超えて、今また新しいかたちで解釈されている。作家それぞれが「生きるを編み直す」ということに問題意識をもっているのだと感じました。ただ、「編み直す」ためには、まず「ほどく」ことが必要だと考えています。現代社会で当たり前のように目の前に現れる多くのモノや情報を、捨て、ほどいていく必要がある。鴨 長明が日野山で暮らし、植物や虫・鳥の移ろいや変化などの微細な変化を受け止められたのは、必要最低限のモノだけを持っていたから。そうした想いが、展示された庵からは滲み出ているので、ぜひ会場に足を運んで感じ取ってほしい。出展者の1人としてもそう願っています。この展覧会で、ぜひ「ほどく」きっかけを見つけていただきたいです。

展覧会チーム プロフィール

展覧会ディレクター:塚本由晴
グラフィックデザイン:田部井美奈
会場構成:正田智樹
施工:HIGURE 17-15cas
アーカイブ編集:大山 亮、増井柚香子(6lines studio)
学術協力:杉本欣久
参加作家:江頭 慎、大室佑介+川長組、小渕祐介+中村 純、正田智樹+竹中工務店+veig、須田悦弘、田部井美奈、2m26、山口 晃
21_21 DESIGN SIGHTディレクター:佐藤 卓、深澤直人
アソシエイトディレクター:川上典李子
プログラム・マネージャー:中洞貴子
プログラム・オフィサー:安田萌音

 

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21_21 DESIGN SIGHT 企画展「方丈記に学ぶ – 生きるを編み直す小さな建築–」開催概要

会期:2026年8月28日(金)〜2027年1月11日(月・祝)
休館日:火曜(9月22日、11月3日は開館)、11月21日〜23日、年末年始(12月27日〜1月3日)
開館時間:10:00–19:00(入場は18:30まで)
※「六本木アートナイト」特別開館時間:10月31日(土)10:00–22:00(入場は21:30まで)
入場料:一般 1,700円、大学生 800円、高校生 500円、中学生以下無料
会場:21_21 DESIGN SIGHTギャラリー1&2
所在地:東京都港区赤坂9-7-6 東京ミッドタウン ミッドタウン・ガーデン(Google Map)
主催:21_21 DESIGN SIGHT、公益財団法人 三宅一生デザイン文化財団
後援:文化庁、経済産業省、港区教育委員会
特別協賛:三井不動産
協賛:竹中工務店


関連プログラム

トーク「方丈記に学ぶ」
日時:2026年10月25日(日)14:00-15:30
会場:東京ミッドタウン・カンファレンス(ミッドタウン・タワー4F)
登壇者:養老孟司、塚本由晴、佐藤 卓
参加費:無料
参加方法:要申し込み(受付開始日など決まり次第、下記ページにて発表)
https://www.2121designsight.jp/program/hojoki/events/261025.html

※会期中、このほかにも関連プログラムを追加で開催予定(詳細が決まり次第、ウェブサイトにて発表)

「方丈記に学ぶ – 生きるを編み直す小さな建築 –」関連プログラムページ
https://www.2121designsight.jp/program/hojoki/events.html

 

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Text and photos by Naoko Endo / TEAM TECTURE MAG
※正田氏インタビューは一部寄稿

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