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[Report]21_21 DESIGN SIGHT 企画展「スープはいのち」 常山未央+能作文徳が構成した会場の歩き方

[Report]21_21 DESIGN SIGHT 企画展「スープはいのち」 常山未央+能作文徳が構成した会場の歩き方

東京・六本木の21_21 DESIGN SIGHTギャラリー1&2にて、企画展「スープはいのち」が開催されています。会期は8月9日まで。

展覧会ディレクターは、食という内側の環境を「身体を包む行為」として捉えてきたデザイナーの遠山夏未氏。アートディレクターをグラフィックデザイナーで美術家の田中義久氏、会場構成を建築家の常山未央と能作文徳の両氏がそれぞれ担当しています。

衣・食・住は、身体を外側と内側から包み、生命を守り育む基本的な営みです。その原型は胎内環境にも見られ、母体は「住」、胞衣は「衣」、羊水は「食」に相当します。最小限の衣食住があれば暮らしは成立し、そこから生まれる柔軟な創造性は、時代を超えて人の生を支えてきました。本展は、布や音によるインスタレーションや、香りの作品、写真、スープにまつわる資料展示を通じて、五感で衣食住の根源に触れる展覧会です。(本展プレスリリースより)

 

『TECTURE MAG』では、開幕前のプレスカンファレンス(以下、一部でプレカンと略)を見学しました。会場写真を中心に本展をレポートします。会場構成を担当した建築家のひとり、能作文徳氏へのインタビューも掲載します。

INDEX

ディレクターズ・メッセージ
会場風景〜「スープはいのち」展の歩き方
能作文徳氏インタビュー


ディレクターズ・メッセージ

スープは包む、いのちを満たす、はじまりの衣食住

「スープ」という言葉から、あなたは何を思い浮かべますか?

私には記憶に残るスープ体験があります。2003年、ロシアや東欧を巡った旅の中で、唯一の温かな食事といえばスープでした。キッチンのあるユースホステルでは、市場で手に入れた野菜を鍋に入れるだけでつくるその一杯が、”最小限の食”として旅を支える存在となりました。

その旅で、私は一枚の写真に出会いました。1900年のルーマニアで撮影された、地べたに座り、大きな器を手にスープを口に運ぶ農民たちの姿です。そこには、豊かさでも貧しさでもない、生きることを分かち合う、たしかな気配が写し出されていました。スープは、人と人、場と時間、そしていのちを結んできたのです。

そして私たちは、誰もが同じ根源的なスープの中で育まれてきました。生まれる前の私たちは、母体という”住”、胞衣(えな/胎膜・胎盤など)という”衣”、そして羊水という”食”に包まれていました。

羊水の塩分濃度は、人が「おいしい」と感じるスープと同じ0.9%。うま味成分であるグルタミン酸も豊富に含まれています。つまり私たちは、お腹の中にいるときから、すでに”おいしいスープに包まれていた”のです。

衣食住とは、私たちの外側と内側を包む営み。本展は、スープをそのはじまりとして、身体感覚を通して衣食住をあらためて見つめ直す試みです。それは同時に、いのちへの眼差しを忘れてはならないという問いかけでもあります。

湯気の向こうに、あなたには何が見えますか?

衣食住––––すなわち生きることが、すべての人々にとって喜びと希望に満ちた世界であることを願って。

遠山夏未

 

21_21 DESIGN SIGHT企画展「スープはいのち」コンセプトスケッチ

遠山夏未氏によるコンセプトスケッチ(3点とも)

遠山夏未(Natsumi Toyama)プロフィール
デザイナー。武蔵野美術大学空間演出デザイン学科卒業。イッセイ ミヤケで衣服のデザインをする傍ら、「衣」と「住」は身体を外側から包み、「食」は身体を内側から包むものであると考え、最小限の食として”スープ”に着目し、身体空間をデザインする活動を始める。著書に『ポタージュ –野菜たっぷり家族のスープ–』(池田書店、2014年)がある。

 

会場風景〜企画展「スープはいのち」の歩き方

※テキストは本展プレスリリースをもとに作成

空間をつくる「12の動詞」

「宿る、滴る、包まれる、結ぶ、集まる、味わう、遊ぶ、満たす、包む、生まれる、分つ、灯す」
12の動詞を軸にしたゾーンを順にめぐり、はじまりへの回帰から再生、分かち合いへと至る、いのちの循環を体験。動詞が示す行為の変化がそのまま空間の変化となり、鑑賞者の身体感覚を自然に導く展示構成。

展示の入口には、会場の地図が記された封筒が用意され、来場者はそれを手に取ってから場内を巡るとよい。本展に参加した料理家たちがこしらえた、展示作品に対応するスープのレシピカードを、手紙のように封筒に収め、持ち帰ることで、鑑賞後も「つくる」や「味わう」へとスープをめぐる物語が続いていく。

21_21 DESIGN SIGHT企画展「スープはいのち」会場風景

ロビー展示「原始スープ、0.9%の濃度」 Photo: TEAM TECTURE MAG

インスタレーション「はじまりのスープ」

ギャラリー1の展示作品「はじまりのスープ」では、空間の中心に羊水と同じ0.9%の塩分濃度を再現した水を湛えた器が据えられている。その上から垂らされているのは、蚕が吐き出す繭の最初の線である「緒糸(ちょし)」である。展示室を包む、母体の鼓動に包まれたるような音響は、岡 篤郎の設計による。誰しもがかつては「はじまりのスープ」(羊水)に包まれていた記憶を思い起こす、没入感型のインタレーション。

21_21 DESIGN SIGHT企画展「スープはいのち」会場風景

ギャラリー1 会場風景 / 遠山夏未+岡 篤郎+NOTA&design(加藤駿介、加藤佳世子)「はじまりのスープ」 Photo: TEAM TECTURE MAG

21_21 DESIGN SIGHT企画展「スープはいのち」会場風景

「はじまりのスープ」(部分) Photo: TEAM TECTURE MAG

21_21 DESIGN SIGHT企画展「スープはいのち」会場風景

ギャラリー1 会場風景 Photo: TEAM TECTURE MAG

「土紙の大屋根」が包む空間

ギャラリー2では、間仕切り壁なしの大空間に、和紙に土を混ぜ込んだ「土紙(つちがみ)」でつくられた屋根がしつらえられ、空間を大きく包み込む。この大屋根の下では、太古から火とともに営まれてきた「煮炊き」の原風景や、台所で「遊ぶ」作品など、時代を超えた衣食住の営みを幾つかの作品で提示している。

21_21 DESIGN SIGHT企画展「スープはいのち」会場風景

ギャラリー2 会場風景 Photo: TEAM TECTURE MAG

21_21 DESIGN SIGHT企画展「スープはいのち」会場風景

ギャラリー2 会場風景 Photo: TEAM TECTURE MAG

21_21 DESIGN SIGHT企画展「スープはいのち」会場風景

ギャラリー2 会場風景 Photo: TEAM TECTURE MAG
「土紙(つちがみ)」による大屋根は常山未央+能作文徳と田中義久の3氏共作

21_21 DESIGN SIGHT企画展「スープはいのち」会場風景

大屋根の下の展示は履き物を脱いで近づいて見ることができる Photo: TEAM TECTURE MAG

21_21 DESIGN SIGHT企画展「スープはいのち」会場風景

ギャラリー2 会場風景 Photo: TEAM TECTURE MAG

21_21 DESIGN SIGHT企画展「スープはいのち」会場風景

ISSEY MIYAKE「つながる食卓 ―スープと夢を見る―」(手前)/ 佐藤政人「世界のスープ図鑑」(画面中央奥) Photo: TEAM TECTURE MAG

21_21 DESIGN SIGHT企画展「スープはいのち」会場風景

ISSEY MIYAKE「つながる食卓 ―スープと夢を見る―」 Photo: TEAM TECTURE MAG

21_21 DESIGN SIGHT企画展「スープはいのち」会場風景

高橋孝治「くぼみから器へ」(部分) Photo: TEAM TECTURE MAG

21_21 DESIGN SIGHT企画展「スープはいのち」会場風景

山フーズ(小桧山聡子)+志鎌康平+UMA/design farm(原田祐馬、津田祐果)「台所で遊ぶ」より、高度経済成長期に建てられた公団住宅にみられた木製収納とセットになった「ステンレス流し台」 Photo: TEAM TECTURE MAG

21_21 DESIGN SIGHT企画展「スープはいのち」会場風景

「ステンレス流し台」の設計は建築家の浜口ミホ(1915-1988)によるもの Photo: TEAM TECTURE MAG

21_21 DESIGN SIGHT企画展「スープはいのち」会場風景

ギャラリー2 展示風景 Photo: TEAM TECTURE MAG

21_21 DESIGN SIGHT企画展「スープはいのち」会場風景

ISSEY MIYAKE+林 響太朗+長尾智子「色をまとい、色を味わう ―身体を染める色と味―」 Photo: TEAM TECTURE MAG

21_21 DESIGN SIGHT企画展「スープはいのち」会場風景

ISSEY MIYAKE+林 響太朗+長尾智子「色をまとい、色を味わう ―身体を染める色と味―」 Photo: TEAM TECTURE MAG

21_21 DESIGN SIGHT企画展「スープはいのち」会場風景

和泉 侃「香りの記憶装置」 Photo: TEAM TECTURE MAG

スープからひろがる創造

会場内では、3名の作家による映像インスタレーションを展開、スープと私たちの関係を見つめる。
岡本憲昭は、陶芸家・二階堂明弘が原初的な手法である「野焼き」によって焼き上げた器から、スープが生まれる根源的な光景を追う。本展のために制作された二階堂明弘の器も合わせて展示し、映像と実物を重ね合わせながら、作品世界をより多角的かつ身体的に体験できる。林 響太朗は、野菜がスープやテキスタイルへと姿を変える過程を映し出し、衣と食が「内と外から身体を包む」ことを可視化。岡 篤郎は、あわいにある生命が必要とする重湯(おもゆ)を、陶芸家・木村 肇の器とともに捉えなおす。

21_21 DESIGN SIGHT企画展「スープはいのち」会場風景

ギャラリー2(出口付近)岡 篤郎「重湯」(部分) Photo: TEAM TECTURE MAG

田島征三による、原画の展示

本展のポスターには絵本作家・美術家の田島征三氏が本展のために描き下ろしたドローイングが使用されている。会場ではこの田島氏によるスープをテーマとした原画を数点展示しているほか、本展を構成する上でディレクターの遠山氏が大切にしてきた、料理研究家・辰巳芳子氏によるテキストや、これまで収集してきたスープにまつわる切手やポストカード、広告などの資料も展示している。

21_21 DESIGN SIGHT企画展「スープはいのち」会場風景

ロビー展示 田島征三「ポスターのための原画」 Photo: TEAM TECTURE MAG

21_21 DESIGN SIGHT企画展「スープはいのち」会場風景

サンクンコート見下ろし / veig「風土スケープ」 Photo: TEAM TECTURE MAG

能作文徳氏インタビュー

——能作さんと常山さんといえば、2024年にTOTOギャラリー・間で開催された「能作文徳+常山未央展:都市菌(としきのこ)――複数種の網目としての建築」が記憶に新しいです。ギャラ間では「人間と、人間以外の存在とのつながりや共存を建築がどう引き受けられるのか」がテーマでした。本展はより原初的な作品が多い印象です。どのような経緯で会場構成を担当することになったのでしょうか。

——能作文徳氏
私と常山は食について関心がありました。ギャラ間での展覧会にあわせて刊行された書籍『アーバンワイルドエコロジー』(TOTO出版)のブックデザインを手がけたのが、本展アートディレクターの田中義久さんで、我々の取り組みや自邸〈西大井のあな〉のこともご存知でした。田中さんから、遠山夏未さんと一緒に展覧会をつくってみませんか、という流れでした。

——21_21 DESIGN SIGHTでの会場構成は、安藤忠雄建築と対峙することになりますが、ギャラリー2を壁や什器で仕切らない会場構成は久々に見た気がします。柱の間を布の作品で緩やかに仕切り、柱の存在を薄めていますね。

——能作文徳氏
大きな屋根の下に食が展開するという、食の原風景を展示するイメージが最初から提示されました。1枚の天幕の下に食卓があるだけで人々の生きる場を表現できるのではないかと。加えて、田中さんは和紙をテーマに作品を制作しており、土と和紙を混ぜた「土紙(つちがみ)」による大屋根というかたちにまとまりました。

——敷き物の上に展示があって、靴を脱いで見にいく動線も新鮮でした。今回の会場構成でいちばん苦労したのはどんなところでしたか。

——能作文徳氏
とくにギャラリー2では、多彩な作品とコンテンツをいかに1つの空間にまとめるかという点に尽きます。大勢の参加作家さんにはそれぞれにやりたいことがあり、ギリギリまで制作されていました。私たちはこれほど大きな展覧会の会場構成を過去にやったことがなく、各作品のコンセプトのテキストだけを頼りに準備を進めるのはなかなか大変でした。サンクンコートの作品「風土スケープ」は、これまで何度もこの屋外空間で展示をやられているveig(ベイグ)さんにほとんどお任せしました。

——最後にもうひとつ。出口付近に設置された関連書閲覧コーナーのブックシェルフは、常山未央+能作文徳のおふたりによるデザインですか?

——能作文徳氏
はい。我々は、2024年の能登半島地震で被災・倒壊した家屋から木材をレスキューする活動を、現地の専門家と共同で取り組んでいます。本展会場内のテキストに、阪神淡路大震災で被災した人々が避難先で温かい炊き出しのスープに救われたというエピソードが紹介されていますが、遠山さんの「いのちへの眼差しを忘れてはならない」というメッセージにも呼応して、レスキューされた古材を使ってブックシェルフを設計しました。能登での「古材レスキュープロジェクト」は最近ようやく1つのかたちになってきたところで、訪れた人の目に留まって関心をもってもらえると嬉しいです。

[了]
Text and photos taken on the day were by Naoko Endo / TEAM TECTURE MAG

21_21 DESIGN SIGHT企画展「スープはいのち」会場風景

関連書籍閲覧コーナー Photo: TEAM TECTURE MAG
ブックシェルフは2024年1月に発生した能登半島地震で被災・倒壊した民家から取り出された古材を用いている(設計:常山未央+能作文徳)

21_21 DESIGN SIGHT企画展「スープはいのち」開催概要

会期 2026年3月27日(金)– 8月9日(日)
休館日:火曜
開館時間:10:00–19:00(入場は18:30まで)
入場料:一般1,600円、大学生800円、高校生500円、中学生以下無料
*オンラインチケット取り扱い / https://artsticker.app/events/119957
会場:21_21 DESIGN SIGHTギャラリー1&2
所在地:東京都港区赤坂9-7-6 東京ミッドタウン ミッドタウン・ガーデン(Google Map
展覧会ディレクター:遠山夏未
アートディレクター:田中義久
グラフィックデザイン:centre Inc.
会場構成:常山未央+能作文徳
音響設計:岡 篤郎
テキスト:保田園佳
企画協力:小池一子
参加作家:和泉 侃、ISSEY MIYAKE、veig、岡 篤郎、岡本憲昭、加藤奈摘、佐藤政人、志鎌康平、関口涼子、高橋孝治、田中義久、津田 直、常山未央+能作文徳、遠山夏未、長尾智子、二階堂明弘、NOTA&design(加藤駿介、加藤佳世子)、野村友里、林 響太朗、UMA/design farm(原田祐馬、津田祐果)、山フーズ(小桧山聡子)
レシピ出展:遠山夏未、長尾智子、野村友里、船越雅代、細川亜衣、山フーズ(小桧山聡子)
テキスト出展:有元利彦、今道友信、LTshop(松田沙織)、小池一子、早川茉莉、丸元淑生

21_21 DESIGN SIGHT企画展「スープはいのち」フライヤー

主催:21_21 DESIGN SIGHT、公益財団法人 三宅一生デザイン文化財団
後援:文化庁、経済産業省、港区教育委員会
特別協賛:三井不動産
協賛:三宅デザイン事務所、イッセイミヤケ

本展詳細
https://www.2121designsight.jp/program/soup/index.html

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