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Special Report & Movie

「素」の内井昭蔵建築を堪能する「作品のない展示室」展、会期終了間近!!

FEATURE2020.08.26

Exhibition: Galleries Without Artworks

内井昭蔵設計の名建築〈世田谷美術館〉を味わう絶好の機会

すでにTECTURE MAGでもお伝えしているとおり、世田谷美術館で異例の企画「作品のない展示室」が行われている。

Photographs & movie: toha

何が異例かというと、この企画が行われているスペースでは、作品を一切展示していないこと。
先が見えづらいコロナ禍の局面にあっては多方面で影響が出ているが、美術館もその1つ。
展覧会は延期や中止を余儀なくされ、各美術館では対応や企画立案に苦慮している。

その中で世田谷美術館では、作品のない状態の美術館を、入場無料で公開している。
〈世田谷美術館〉(1986)は、建築家・内井昭蔵の代表作であり、緑豊かな都立砧公園の環境と一体となるように設計された傑作として知られ、愛されている。

世田谷美術館の設計コンセプトは、「生活空間としての美術館」「オープンシステムとしての美術館」「公園美術館としての美術館」の3つ。

建築そのものが美術品のように感じられる建築ファンにとっては、「素」の建築を体感し、建築家の理念を理解する絶好の機会。

主催する側からすると難しい判断が求められるなか、今回のような企画が実現したことに心から感謝したい。

入場して廊下を進み、展示室を移っていくと、周辺も含めたシークエンスが展開する。

通常の美術館ではさまざまな種類の展示に対応するため、閉じたボックス状にするのが定石であるが、世田谷美術館では多くの窓が設けられているのである。

今回の企画では、普段の企画展では白い移動壁を引いて閉じた状態にするところも、開け放って窓を見せている。
そのため、窓からは日光が入り、外の樹木や植栽などの多彩な緑が目に入ってくる。

普段は体験しにくい大きな空間を感じ、見逃しがちなディテールをじっくりと見ながら歩を進める。

窓の前にはベンチが据えられているので、しばらく腰掛けて、風に揺られる木々の緑を堪能するのもよいだろう。

壁面の所々には、内井昭蔵による著作から引用されたフレーズが、控えめに掲げられている。
例えば「今日の建築に魅力がないのは建築から自然のイメージが消えてしまったからである」(「建築に大地をとりもどそう」『THIS IS 読売』1993年11月号より)といったもの。

現在にも通じるような内井昭蔵の言葉の1つひとつが、見る人の心に迫り、訴えかけてくる。

後半の展示室では、これまでに世田谷美術館で開催されてきた音楽会やダンス公演をはじめとしたプログラムの様子をおさめた動画を上映。

美術館建築と絡み、一体となることで増幅し昇華されるパフォーマンスの底知れない力にも触れることができる。

この魅力的な企画も、残すところあとわずか。ぜひ足を運んでいただきたい。

そして、世田谷美術館では「作品のない展示室」の「クロージング・プロジェクト」として、「明日の美術館をひらくために」というパフォーマンスの実行を決定した。

「作品のない展示室」の最終日となる2020.08.27に、非公開でパフォーマンスを行い、記録写真や映像を後日一般公開するというもの。

「作品のない展示室」の記憶をとどめ、「明日の美術館」の姿を探る本パフォーマンスも、必見である。
(jk)

世田美チャンネルvol.13 パフォーマンス「明日の美術館をひらくために」前編。
「作品のない展示室」クロージング・プロジェクト、パフォーマンス「明日の美術館をひらくために」の構成・振付を担当する振付家・ダンサーの鈴木ユキオ氏へのインタビューを収録

世田美チャンネルvol.14  パフォーマンス「明日の美術館をひらくために」後編。
vol.13に引き続き、パフォーマンスの構成・振付を担当する振付家・ダンサーの鈴木ユキオ氏へのインタビューを収録。「作品のない展示室」の体験を踏まえ、パフォーマンスに向けて考えていることが語られる

■「作品のない展示室
実施期間:2020年7月4日(土)~8月27日(木)
開館時間:10:00-18:00
休館日:毎週月曜日(但し、8月10日[月・祝]は開館、翌平日休館)、8月11日(火)
会場:世田谷美術館 1階展示室
主催:世田谷美術館(公益財団法人せたがや文化財団)
公式ウェブサイト:https://www.setagayaartmuseum.or.jp/

 

「作品のない展示室」クロージング・プロジェクト
パフォーマンス「明日の美術館をひらくために」
2020.08.27ー10.31

美術館と、そこに集う人々。そこに身を置き、作品を「鏡」として自身を見つめ、想像力を羽ばたかせたいと願う人々によってこそ命を吹き込まれるのが、美術館という場です。

世田谷美術館の「作品のない展示室」には、「鏡」としての作品はありません。ただ窓はあり、その向こうに刻々と変化する光と緑があります。部屋の奥には、30数年分の展覧会やパフォーマンスの記録もあります。作品の不在、圧倒的な借景、過去の動きのイメージ群。それらによって、ここで人々が体験してきた空間と時間が、また美術のみならず音楽・ダンス・演劇など、いかに多様なジャンルのアーティストにこの館が支えられてきたかが、はからずも開示されることになりました。

ほどなく、展示室には作品が戻ってきます。しかし作品の不在によって見えてきたこと、支えてくださる人々とのつながりを記憶しておくために、この空間/時間そのものを味わうことから生まれるパフォーマンスを、「作品のない展示室」の最終日に、創造します。

これまで何度も当館の空間と対話しつつ踊ってきたダンサー、鈴木ユキオ(YUKIO SUZUKI projects代表)に、シンプルな動きの連続による振付・構成を委嘱し、過去のパフォーマンス・プログラムに関わったアーティストたちに参集を呼びかけ、館内スタッフも加わって、世田谷美術館の空間/時間をともに味わい、「明日の美術館をひらくために」、ともに表現するプロジェクトです。

ただ、コロナ禍により、この創造の現場に、一般の来場者のみなさんをお迎えできません。残念でなりません。しかし、「空間/時間そのものを味わう動き」のいくつかは、どなたでも試せるよう、短い動画として事前に一般公開します。またパフォーマンスの記録写真・映像は、編集を経て、後日一般公開します。

「明日の美術館をひらくために」、当館としては初めて試す方法で、このプロジェクトをみなさんと広く共有したいと願っています。

振付・構成・出演 鈴木ユキオ
出演予定者 YUKIO SUZUKI projects(安次嶺菜緒、赤木はるか、山田暁、小谷葉月、栗朱音、阿部朱里)、当館のパフォーマンス・プログラム等に関わったアーティスト(ボヴェ太郎、柏木陽、尾引浩志、大熊ワタル、こぐれみわぞう、福田毅、三宅一樹、群馬直美、上村なおか、CORVUS(鯨井謙太郒+定方まこと)、神村恵、笠井禮示、浅見裕子、砂連尾理、杉本文、吉野さつき、笠井瑞丈ほか。随時情報を更新します)、当館スタッフ
記録写真 堀 哲平
記録映像 杉田協士

振付の一部公開(Instagram: setabi.performance 2020年8月17日~ 公開中
記録写真の公開(Instagram: setabi.performance 2020年9月予定
記録映像等の公開(YouTube) 2020年10月17日(土)予定

本番撮影 2020年8月27日(木)閉館後(非公開)
撮影場所 当館1階「作品のない展示室」ほか

アーティストコメント:
美術館という箱に、美術というモノが展示され、
そのモノを糸口に、そこに集う人たちが、それぞれの頭の中に、
いや頭という枠を飛び越えながら、想像し、思考はどんどん遠くへ飛んでいく。
どこまで遠くに飛べるのか、あるいはどこまで遠くに飛ばせるのか。
偶然居合わせたあの人の想像と、どこかで少しずつ繋がりながら、旅をする。

そして、それと同時に、美術というモノに向かい合った自分自身を内省する時間でもある。
美術館とはそういうところだと思う。
静かに、自分と向き合う場所。
静かに、自分を積んでいく場所。
静かに、自分を作っていく場所。

一つひとつの身体が、想像そのものになって、
この空間に居合わせた人と重なり合って、
そうして、何もないこの場所で、何かを作り出すことができれば、
それこそが、ダンスにしかできないことだと思う。

シンプルな動きが連なって、
動きが時間になり、
身体が風景になり、
そこにいる全てのヒトやモノがダンスになり、作品になる
「作品のない展示室」が作り出す、一夜限りの「展示室から生まれる作品」
――鈴木ユキオ

アーティストプロフィール:
鈴木ユキオ
「YUKIO SUZUKI projects」代表/振付家・ダンサー。世界40都市を超える地域で活動を展開し、しなやかで繊細、かつ空間からはみだすような強靭な身体・ダンスは、多くの観客を魅了している。2008年に「トヨタ コレオグラフィーアワード」にて「次代を担う振付家賞」(グランプリ)を受賞。2012年フランス・パリ市立劇場「Danse Élargie 」では10組のファイナリストに選ばれた。世田谷美術館では、「INSIDE/OUT 建築の時間・ダンスの瞬間」(2009年)、トランス/エントランスvol.15「イン・ビジブル in・vísible」(2017年)、「風が吹くかぎりずっと――ブルーノ・ムナーリのために[Tanto quanto dura il soffio: per Bruno Munari]」(2018年)に出演している。
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