開通前のトンネルと道路を使った3日限りの宿泊イベント
大分県北部、中津市の景勝地・耶馬渓(やばけい)に今春開通するトンネルと道路に、2月11日から3日間限定で”ホテル”が出現しました。
中津市と日田市を結び、約50kmにわたり整備された「中津日田道路」の一部区間、今月28日の15時に開通する耶馬溪道路(約5km)に完成したトンネル(鹿熊ふるさとトンネル)が、この特別イベント「耶馬渓トンネルホテル」の会場となりました(1枚目のトンネル入口写真:撮影 谷 知英)。
新しいトンネルの長さは約3km、県内最長となる規模です。道路ともども正式に開通する前に、トンネル手前の陸橋にキャンピングカーを用意して人々が泊まれるようにし、食事を楽しめる空間をトンネル内にしつらえたのが「耶馬溪トンネルホテル」です(主催:耶馬溪トンネルホテル実行委員会)。
「耶馬溪トンネルホテル」概要
日程:2021年2月11日(木・祝)・12日(金)・13日(土)いずれかの日程で1泊2日
チェックイン:17:30
チェックアウト:翌朝9:00
会場:大分県中津市耶馬溪町 中津日田道路 耶馬溪道路区間
宿泊定員数:各日35人(未就学児の宿泊は不可、中津市民限定)
全体統括:テンポラリ耶馬溪(代表 福田まや)
プロデュース:Fumihiko Sano Studio
協賛:下郷農協
特別協力:大分県中津土木事務所
主催:耶馬渓トンネルホテル実行委員会
詳細:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000001.000072619.html
コロナで落ち込んだ観光産業への試金石
このプロジェクトが企画された背景には、COVID-19(新型コロナウイルス感染症)の拡大により、観光客が前年比の40%まで落ち込んだことがまず1つ。そして、景勝地として知られる耶馬溪のさらなる魅力を広く知ってもらいたいという、当地に惹かれ、移り住んだ主催者、福田まや氏の強い思いがあります。
「耶馬溪トンネルホテル」は、従来のような観光ではなく、地域に密着した、耶馬渓での特別な旅の体験ができるプログラムとして、ファンを増やし、これまでとは違う層の観光客の獲得と、関係人口を増やすことを目的に企画されました。
イベント当日は、周辺地域の特色を詰め込んだ体験や食事が味わえるようにと、地元有志や関係各所と協働し、地元の材を使った食事のケータリングやドリンクメニューを用意。加えて、この地で創作活動に取り組む作家らの手による工芸品の展示販売も行われました。
空間プロデュースは佐野文彦氏
これまでにない観光プロジェクト「耶馬溪トンネルホテル」において、空間プロデュースを担当したのが、建築家で美術家でもある佐野文彦氏(Fumihiko Sano Studio代表)です。
佐野文彦プロフィール:
1981年奈良県生まれ。京都の中村外二工務店に数寄屋大工として弟子入り。年季明け後、設計事務所などを経て、2011年独立。現場を経験したことから得た、工法や素材、寸法感覚などを活かし、コンセプトから現代における日本の文化とは何かを掘り下げ作品を製作している。
2016年には文化庁文化交流使として世界16か国を歴訪し各地でプロジェクトを敢行。さまざまな地域の持つ文化の新しい価値を作ることを目指し、建築、インテリア、プロダクト、インスタレーションなど、国内外で領域横断的な活動を積極的に続けている。Fumihiko Sano Stuidio Website:http://fumihikosano.jp/
佐野氏は今回のイベントのために、地元・耶馬渓産で採れた樹齢200年以上の木材を使って巨大な長テーブルや、組み立て式のブースの制作など、訪れた人々をもてなすための空間デザインも手がけています。
「耶馬溪トンネルホテル」の宿泊イベントはすでに終了していますが、佐野事務所より、画像と、設計コンセプトのテキスト提供を受け、イベント開催時の様子をお伝えします(なお、プロジェクトの概要などは、主催者が1月14日に発表したプレスリリースと、大分県中津土木事務所の公式ウェブサイトで公表されている情報から引き、構成しています)。
大分県中津市の耶馬渓に新たにできるトンネルで、開通前に泊まる「耶馬溪トンネルホテル」のプロジェクトである。
大分県は日本で一番トンネルが多い県で、今回開通する鹿熊トンネルも大分県最長の約3キロメートルとなる。
このトンネルは以前からできているが、道路と接道していないため、開通するまでの期間限定で、トンネルとその前後が工事中ではあるものの、巨大な空間として使われていない状態だった。15年もの歳月をかけて掘ったトンネルの存在を知ってもらうことと、耶馬溪(やばけい)という名勝地をもっと知ってもらえるようなイベントを、この空間でできないかという想いから、未開通のトンネルで宿泊するという企画が動き出した。(文:佐野文彦)
地産地消で耶馬溪近郊で育った杉を使った躯体や、地域の寺に生えていた樹齢200年を超える樫の木を使った30m以上あるテーブルで、テンポラリーな空間をつくり、地元の食材を使った食事やお酒を楽しんでもらい、DJがトンネル特有の反響の中、音楽を流す。
夜はキャンピングカーにて宿泊し、朝はオーガニックの地元のパンと蜂蜜やコーヒーをいただく。
通常は入ることのできない開通前の道路上で、2度と再現できない。そんなイベントが開催された。今回つくられた躯体は、蛍や紅葉などの時期に、耶馬溪を違う角度から感じてもらえる宿泊イベントの構造躯体として再活用することを前提としてつくられている。
ロケーションや季節を変えて、より多くの人にさまざまな耶馬溪の魅力を感じてもらえると嬉しい。(文:佐野文彦)
クラウドファンディングは間もなく終了
“トンネルホテル”としてのイベントはすでに終了していますが、耶馬溪の魅力を伝えたいという思いから発したプロジェクトは現在進行形です。「耶馬渓トンネルホテル」開催にあたり、ホテル運営資金への支援を求めたクラウドファンディングが2021年1月より実施されています。
同ホテル宿泊権など、いくつかのメニューはすでに定員に達していますが、「佐野文彦さんデザインのブースを耶馬渓の森の中に組み立てて滞在できる特別プログラム」などが、残数僅少ながら受付中です(本稿掲載時点であと6日)。詳細は、下記クラファンページを参照してください。(en)
CAMPFIRE プロジェクトページ
日本初、開通前夜の道路がホテルに変身! 3夜だけの「耶馬渓トンネルホテル」
https://camp-fire.jp/projects/view/359745