リノベーションブランドの確立とリリース
設計事務所が中古マンションのリノベーション設計をするのは一般的に、個人ユーザーや不動産業者から依頼されてから。
設計する内容は当然、クライアントの要望や要件に沿ったかたちとなり、一品生産的になる。
そうした流れに乗らず、自分たちがよいと確信するリノベーション住宅をブランド化した建築家が現れた。
建築家の小嶋伸也氏と小嶋綾香氏による小大建築設計事務所が手がける、住宅に特化したフルリノベーション設計事業「一畳十間(いちじょうとおま)」。小嶋氏らは自邸を「一畳十間」第1弾として、設計手法と仕様を確立した。
新たに完成させた事例について2021年末に行われた内覧会を、TECTURE MAGは取材。
小嶋綾香氏に事例を通して「一畳十間」の特徴、また場所や建物が変わる中でのリノベーション手法と狙いについて、語ってもらった。
Movie: toha(動画中画像は堀越圭晋 / SS)
Photographs: Keishin Horikoshi | 堀越圭晋 / SS
広がりを感じさせるリノベーション
「1つの大きな空間でも、10通り以上の十分な居場所が散りばめられている」という意味で「一畳十間」と名付けたという、小嶋綾香氏。
nLDKとして区切られていることが一般的なマンション住戸の間取りに対して、リノベーションで大きな空間をつくることが目指されている。
今回の事例はヴィンテージマンションで、上下階に分かれたメゾネットタイプの住戸。
小嶋氏は「面積は約120m²で、下階のほうにリビングキッチンがあるのですが、玄関を入って仕切られていたところを、ドアを取り除いて開放的にして、そのままリビング空間まで広がっていくような構成にしています」と説明する。
リビング・ダイニングでは、景色の良い2カ所の大きな開口部に向けて、落ち着く空間をつくることを意図。
「窓側は少し天井高を下げて、珪藻土で包んで落ち着く空間をつくっています。リビングキッチンにも仕切りや建具を設けず、全体的に緩く繋がっている構成としています」(小嶋氏)。
リビング・ダイニングでは、丸くくり抜かれたような天井の意匠が特徴だ。
「天井高が低かったのですが、配管を一部寄せることで部分的に天井を高く取れるところがありました。落ち着いた空間をつくるため、円を描いたような折り上げ天井にしています。その中に間接照明を仕込み、間接光が珪藻土をふわっと包み込むような仕上げとしました」(小嶋氏)。
上階は、2つの個室が水回りを挟んで配される。各スペースは、現在の新築マンション住戸ではほとんど見なくなった、障子や襖で仕切られている。
小嶋氏は「障子や襖は光や音が漏れる不便さもあるのですが、昔から奥にいる人を配慮して、開け閉めして生活してきました。生活の中でそうした繊細な感覚が生まれるのではないかと思って、障子や襖を取り入れています」と語る。
日本的な素材感を全面的に取り入れる
そして「一畳十間」の大きな特徴は、味わいのある素材が多用されていることにある。
「日本の職人さんが丁寧に手をかけたような自然素材を、なるべく採用しています。多くの時間を過ごす場所の壁や床は特に、色も手触りも、無限にあるような素材を使っています」と小嶋氏。
「一畳十間」ではプランは異なっても素材は標準化して採用することで、できるだけコストを圧縮。
「建築家とは馴染みのない方々にとっても、建築家に頼めるような世の中になってほしい」と想いを語る。
大きな空間を確保する間取り、襖や障子による間仕切り、味わいのある素材。
「一畳十間」で大切にされている価値観は、個室の確保や経済合理性を優先させてきた一般的なマンション住戸に対して、一石を投じるものとなっている。
(jk)
「一畳十間」
事業名:暮らしと素材事業部
代表者:小嶋伸也、小嶋綾香
事業開始:2021年3月
公式ウェブサイト
http://ichijo-toma.jp/
https://www.instagram.com/ichijo_toma/小大建築設計事務所 公式ウェブサイト
www.ko-oo.jp
https://www.instagram.com/koooarchitects/