仕事獲得につながるSNS
Instagram(インスタグラム)が設計事務所・デザイン事務所の発信のツールとして注目されてしばらく経つ。
しかし、アカウントを開設し投稿を続けても、なかなか成果が見えにくいと感じる事務所も多いのではないだろうか。
TECTURE MAGではInstagramで数多くのフォロワーを獲得し、「リノベしまくる東大卒建築家」として活躍する “つじぽよ。” こと 辻 繁輝氏にインタビュー。
つじぽよ。Instagram
https://www.instagram.com/poyostagram0213/
自らのプロジェクトを発信するとともに、ファンを増やし受注に結び付ける極意を伺った。
Interview & photo(特記の提供資料を除く): TECTURE MAG
この記事でわかること
■ Instagramと投稿のフォーマットについて
■ Instagramから設計依頼が殺到
■ “ゆるふわ” “オープン”が信頼感を生む
■ 見る人の視点で面白さとタメになることを両立させる
■ フィードとストーリーズの使い分け
■ 設計事務所が投稿するならコレ!
Instagramと投稿のフォーマットについて
インタビュー内容の前に、まずはInstagramのカンタン解説を。
話の中で何度も出てくる用語なので、ざっと読んでいただきたい。
Instagramとは
2010年10月に開始された写真・動画共有SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)。
ビジュアル重視のSNSで、「インスタ映え」という言葉も身近なものに。
月間でのアクティブユーザー数は国内で3,300万、世界で10億とされる(2022年9月現在)。
ライブ配信やショッピング機能も備え、マーケティングなどに活用する企業も多い。
「フィード」とは
Instagramのホーム画面に表示される場所のこと。画像や動画が表示され、常に更新される。
投稿者アカウントのプロフィール画面からも見られ、第一印象を決める。
フィードに投稿された写真・動画は、削除しないかぎり消えない。
FacebookやTwitterなどのSNSアカウントと紐付けすると、Instagramでの投稿内容をシェアできる。
「ストーリーズ」とは
写真や動画を24時間限定でアップロードできる機能のこと。
通常のフィードへの投稿とは異なり、フルスクリーンで表示される。
複数の写真や動画に、文字やステッカーを入れるなどのアレンジができる。
投稿してから24時間後に自動消滅するが、ストーリーズを見たアカウントの足跡は残る。
▲左が閲覧者のホーム画面、右が投稿者のストーリーズ(@poyostagram0213)
■「アーカイブ」と「ハイライト」とは
アーカイブは、ストーリーや投稿した写真や動画を、自分だけが見える状態で保存しておける機能。
ハイライトは、アーカイブに保存されたストーリーを、好きなように組み合わせてプロフィールに表示する機能。
投稿してから24時間以上経ったストーリーでも、時間制限なく公開できる。
▲プロフィールとハイライト、フィードが並ぶホーム画面。ハイライトのタイトルは自由に設定できる(@poyostagram0213)
Instagramから設計依頼が殺到
── Instagramを活用されている経緯は?
辻:自分はいちおう東大の建築学科を出て、設計での賞をもらったこともあるのですが、どちらかというとコンセプトづくりのほうに興味がありました。なので社会人になってからは、不動産企画をできるようになるべく事業収支検討などの経験を積めるようキャリアを歩んできました。
大学卒業後にオープンハウスに勤め、その後に東京・広尾にあるEATPLAYWORKSという、ミシュランの星付きのレストランが1階に入り、上階にコワーキングが入る施設の事業企画をしました。たまたま自宅マンションを購入してリノベーションし、Instagramで発信していたら「リノベの設計をしてほしい」という話がけっこう来たんですね。最初は副業で受けていたのですが、あまりにも依頼が多かったので、2021年3月に独立しました。
▲東京・新宿のマンション住戸をリノベーションした、辻氏の自邸
自宅しかリノベしたことがなかったのに、1年ちょっとで100人以上は問い合わせがあって。そのうち、15件ほどが着工に至り、間取りの作成だけなどを受けたものも入れると30〜40件ほどが案件になりました。不動産の相談にも乗っていて、物件さえ決まればリノベーションを進めようとしている方も現状で15人ほどいます。
── 独立起業したい設計者にとって、希望が持てる話ですね。
辻:正直言うと、断りまくってます。完成してInstagramに投稿すると、「私もお願いします」という方がまた現れる。最近は断るのが忍びなくて、どうしよう…となっています。
今の時代、みんなネットで調べて、どこに依頼するかを決めるじゃないですか。昔は「あの人の家の設計者はよさそう」とか、宣伝とかで見られていたものが、今はSNSでも「リノベーション 設計」とか、「リノベーション会社」などで検索されているので、設計者も発信していないと、気づいたらそういう人たちに仕事をもっていかれている時代なのかなと感じます。
── 依頼されるのは、マンションのリノベーションでしょうか?
辻:自宅がマンションリノベなので、マンションがほとんどです。戸建てだと、解体してみないと構造を見きれなかったり、自分の知識が浅いこともあるので基本、消極的です。普段、物件探しからお手伝いしていて、物件を購入する前に間取りを描いて物件購入の判断材料にしてもらっているのですが、戸建てだとそれが事前に的確に描くのが難しく、自分に依頼してもらう良さが活きないということもあります。
戸建ての依頼も月に1件くらいはあるんですけど、「戸建てはやっていません」と発信しています。
── 相談に来られる方の年齢層は?
辻:30代の方が一番多いかな。でも20代もけっこういますね。感覚的に20代が全体の10のうち3.5、30代4.5、40代以上が残り2という感じです。
自分が20代で物件を購入していることもありますし、「家賃は消えていくだけのお金だけど、購入の場合は借金じゃなくて資産形成になる」という差に僕の発信で気付けたり、「撮影のスタジオ的に貸してお金を産むことができるのなら、今払っている家賃って何なんだ?」ということに気付かれて、20代の方から「お願いしたいんですけど、自分の年収でもいけますか」という相談は定期的にあります。
“ゆるふわ” “オープン”が信頼感を生む
── Instagramで相談に来られる方の特徴は?
辻:SNS経由で仕事をとることは、世代が上の人からするとネガティブというか、「大丈夫なの、それ?」みたいな反応を受けることがありますね。「変な人が来そう」とか思われていそうですけど、実際は真逆なんですよね。
リノベーションでは、後から少し揉めるようなこともあると聞くんですけど、自分は全然ないし、むしろ「辻さんに頼んで本当によかったです」と言っていただくことしかないです。工務店の人から「辻さんって、お客さんを人柄で選んでます?」って聞かれるくらい(笑)。
工務店からすると、お客さんがSNSから来ているということに対して、どんな人が寄ってくるのか分からない、という印象を持たれているようです。
── 普段のSNSでの発信も、よく見られてからコンタクトされるでしょうしね。
辻:今の若い人は、自宅の設計士を選ぶ際に、「一緒につくるプロセスをまかせられる人」という視点で見ていて、自分みたいな“ゆるっと ふわっと”した、普段「みんなこうするといいんだよー」みたいなことを言っている人に対して信頼感を持ってくれているのかな、と感じます。「自分はこうだ」と強く主張するというよりは。
── オープンな雰囲気で情報を公開されているのも、信頼感につながっているのでしょうね。
辻:ダメだなと思うことはダメだなと言うし、自分がつくったものでも「もっとこうすればよかった」ということを普通にさらけ出しちゃっているので、表裏なさそうだと思われるのかな。実際に表裏はないんですけど(笑)。
自分はあくまで建築リノベの話題を中心にしつつも、ゴルフをしている姿も上げているし、サウナ行ったり、旅行したりと普通に楽しんでいる姿とかも上げるので。自分の人柄はたぶんすごくお客さん分かっていて。
最初の打ち合わせで自己紹介しようとすると「いらないです」って言われます。確かにみんなSNSから来られるので、ほとんどの人が自己紹介のハイライトも見られているんですね。
▲仕事とプライベートの活動をハイライトで紹介(@poyostagram0213)
見る人の視点で面白さとタメになることを両立させる
── ホームページはありますか?
辻:ホームページ、もっていないです。2021年に法人をつくって、1年くらい経ってから20件くらいお見せできるものをまとめて載せようと考えているので。
あとは今、デベロッパーさんと新規事業開発の企画もしているので、設計事務所のようにできた事例を載せるのか、今やっていることを載せるのかと迷っています。
少なくとも1年くらいやってみないと、どんな会社になっているか、また方向性が見えてこないなと思っていて。ホームページの組み方とか、変わるだろうなと。
── コンセプト重視のホームページは、分かりにくかったりします。
辻:建築家の事務所のホームページって、けっこう苦手なんですよね。自分の世界をつくることが優先で、「お客さんが若干置いてかれていない?」と感じることがあって。
自分には、見せ方にこだわりがそれほどないのかもしれません。自分のホームページをどうしたいというより、見てくれる人は何を求めて来てくれて、どう設定しておくのがいいかなということがファーストにあって。
Instagramでも、見ている人が有益な情報を効率よく収集できたり、保存できたりするのはどういうかたちなんだろう、じゃあそれに合わせて伝えたいことを分かってもらえるように発信しよう、という軸を大切にしています。いろんな反応が来るのが嬉しいので。
▲辻氏Instagramのフィード欄。リノベーションのお役立ち情報をトピックごとにまとめ投稿しつつ、まとめ機能でカテゴリごとにも見られるようにしている (@poyostagram0213)
同世代の設計者から「どうやってそんなに仕事をとっているんですか?」と聞かれることがあります。そうした方の投稿を見るとだいたい、ディテールが格好いい写真やパースとかを上げていて。それはそれでいいのですが、仕事につながるかというと…、どうでしょう。
「一般の方が見て面白くなければ、頑張って発信していてもお客さんが来ないんじゃないですか」と言うことはありますね。
── リノベーションに興味を持ってInstagramを見る人は、具体的にはどんなことを求めているのでしょうか?
辻:たぶん建築ではなくなってしまうんですけど、建築より少し不動産側の話、建築も不動産も両方が求められていることは感じますね。いかに相場よりリーズナブルに物件を買って、でもいい暮らしができる状態にするにはどうすればいいか、ということでしょうね。
どう物件探しをするのか、どういうリノベーションしたらいいのか、どういうところに頼んだらいいか、どんな建材を使ったらいいか、間取りをどう工夫したらいいか、といったエッセンスを確実に求めていると思います。
ただ、そうしたことに答えているだけでは勉強的になりすぎるので、完成した例をもとにして「ここは、こんなことを考えてこういうことをしたよ」という話題も入れます。面白さとタメになることが両立すると、やっぱり反応がいいですね。
▲自邸のbefore / after のポイントを写真に書き込んで解説(@poyostagram0213)
フィードとストーリーズの使い分け
── 辻さんの投稿は、ノウハウに落とし込まれていますね。フィードやストーリーズなどの使い分けはどのようにされていますか?
辻:ストーリーズは消えていきますけど、フィードのほうは残っていきます。それで、ストーリーズでは日ごろ行った場所を建築的な視点で解説してみたり、質問機能を使ってフォロワーさんとコミュニケーションを取ったり、旅行やゴルフやサウナなどの趣味を上げて、フィードはフォロワーさんが見てタメになる情報をきっちりまとめています。「ストーリーズに上げたものを送ってもらえませんか」という人もけっこういるので、ストーリーで評判がよかったものをフィードにまとめて溜めていったりもしています。
フィードは保存数や「いいね」数が見られて、反応が分かりやすいのが特徴です。ストーリーズだとハイライトで残すことはできても、リアクションが見えづらいですね。一時期は毎日フィードで上げていたのですが、フォロワーは増えても、情報量の多さにフォロワーさんが付いてこられずに「いいね」数などは減ってしまい、投稿頻度も重要なんだなと学びになりました。フィードのほうが反応が得やすくて、「次はどうしよう」と考えやすいのも違いかなと思います。
あとはハイライトって、みんな意外と見ないんです。「この人は何を投稿しているのかな」と思って見るとき、まずはフィードを確認しているので。 もともと自分はストーリーズのほうが上げやすかったので、当初はストーリーズでパパッと上げてハイライトに貯めていたんですけど、最近ではフィードを中心に計画的に情報を伝えるようにスイッチしてきました。
フィード投稿の目指すところとしては、フィードを見ることで、物件購入からリノベまでを中心に、どのリノベ本よりもタメになって分かりやすい内容を読んだことになる発信として考えています。
お施主さん側が少し知っているだけで、より希望に近いものをつくれることは多いと思うんです。それで、あくまで建築の専門的な発信ではなく、「もうちょっと一般の方が知っていたらいいな」というラインの情報を意識しています。
個人的には、 Instagramのラフさや、保存ができるといった特性は、マンションリノベーションの話題と相性がいいのかなと思っています。
▲フィードでまとめた不動産購入についてのノウハウ投稿(一部。@poyostagram0213)
── Instagramの投稿にかける時間はどれくらいでしょうか? けっこうかかりそうですけど。
辻:ストーリーを含め何かしら毎日投稿をしているんですけど、週のうち1日くらいを発信のために使っているイメージでいます。フィード投稿に関しては、ネタ帳みたいなものをバーッとつくるのと、投稿画像をつくるのと、あとは投稿するという3段階があって少しずつ空き時間で進めています。
以前は2週間に1回くらいの頻度で投稿していた時期がありました。フォロワーの方は「つじさん上げてんじゃん」みたいな感じで追ってくれて、1週間くらいで「いいね」が貯まり続ける。投稿が貯まるとハッシュタグで上に出てくるので、知らない人もその後に流入して1週間くらい知らない人が「いいね」をしてくれて。投稿して2週後に、次の投稿をするみたいな感じでした。投稿負荷も少なくて、いいサイクルだったなと思います。最近はそれだと情報発信が少ないなと感じていて、週に1回・月曜日に必ずフィード投稿をするようにしています。毎日投稿していた時は、そのサイクルが回らず反応はよくありませんでした。
── 実際にコンタクトされてくる方は、やはりリノベをしたいという一般の方ですか?
辻:そうですね、基本的には一般の方が多いです。他社でリノベーションされていて「間取りだけお願いできませんか」とかも、けっこう多いです。あとは、リノベ業者の方から「間取りの考え方をうちの会社でレクチャーしてください」とか「インテリアのパッケージを一緒に考えてくれませんか」というコンタクトもあります。あとは日々質問や相談系はいっぱい来ますね。「結露がすごいんですけど、何か改善法ありますか」とか(笑)。
── 質問は、1つずつ答えるわけにはいかないですよね?
辻:DM(ダイレクトメッセージ)には全部返していますよ。アンチみたいなのもたまにありますけど、それも含めて全員に。
PR案件で「単価いくらでこういう条件でやりませんか」というのは返事をしていませんけど、それ以外は全部返信しています。だからよく「返信が来てびっくりしました」って言われます。
── すごい。けっこう時間を取られそうですけど。
辻:サササッて、やっていますけど。たまに自分の発信とかを見て、脅迫観念というか「つじさんみたいにしなきゃいけないんですかね、やっぱり」というDMも建築の方からたまに来ます。
自分は、無理はしていないですよ。義務感で上げるのはやりたくないと思っているので。無理に感じるんだったら、違う方法で集客する方法を考えたほうがいいと思います。それだけが正解じゃないですからね。
設計事務所が投稿するならコレ!
── 設計事務所のSNSでオススメすることはありますか?
辻:設計事務所さんって、きれいな空間の写真を撮るじゃないですか。普通にそれだけでもInstagramとかに上げていけばいいと思います。
写真に文字を載せると説明は分かりやすくなりますが、画像を加工するのは面倒くさいと思うので、「どこにどうこだわった」というポイントをテキストで一緒に投稿すればいいのではないでしょうか。
そのとき、一般の人が見てメリットになる視点があるといいですね。例えば「こういう色とこういう色を合わせると、空間が広く見えますよ」とか、「狭かったけど広がりを感じるように、ここにハイサイドライトを取りましたよ」みたいに。
それだけで、すごく有益なんです。そのレベルでもやっている事務所はほとんどないので、今はチャンスだよ、と思います。
あと、自分はやりたくてもあまりできないんですけど、ダイアグラムの図を使った説明をするとかですかね。「光を入れるにはこうやるといいよ」とか、3Dの図などで説明すれば、一般の人は分かりやすいと思います。
▲フィードでまとめた間取りについてのノウハウ投稿(一部)。図解や写真を多用する(@poyostagram0213)
そういう発信をする設計事務所が出てきたら、めっちゃ仕事が来そうだなって。なんか仕事は簡単にとれるんじゃないかなって、個人的に思うんですけど。
── 名言、出ましたね!
辻:自分は建売住宅を会社員の頃にたくさんつくりましたが、あとは自宅のリノベを1軒やっただけでしたから。
発信の仕方がうまかったかもしれないけど、それだけで仕事が断るくらい来るのであれば、ずっと建築のことを考えてこられた方が仕事をとれないわけがないですよ。
つじぽよ。Instagram
https://www.instagram.com/poyostagram0213/