FEATURE
[Report]MODEL Barcelona Architectures Festival
Thinking about issues together in the city
FEATURE2022.10.18

新しい都市のモデルを考えるインスタレーション

[Report] バルセロナ発! みんなで都市と街を考えるための建築フェスティバル

さまざまな課題を抱える時代に、都市をみんなで考える

スペイン・バルセロナ市議会とカタルーニャ建築家協会が協働し、「MODEL」というフェスティバルが2022年5月5日〜15日にバルセロナで開催されました。

MODELでは、都市における社会・政治・気候変動といった21世紀の問題に関する議論が展開されることを目指し、市民もそうした議論に参加できるような工夫が施されています。都市の未来は行政や政治家、また建築家のためにあるのではなく、市民のためにあるという姿勢を見ることができます。その市民が参加するためのプラットフォームをつくることもまた、建築家の仕事となってきています。

今回の会場レポートは、会期中バルセロナに在住していた松岡大雅氏によるもの。

MODELの軸となるコンセプトに連動して企画された、いくつかのインスタレーションを紹介し、新しい都市のモデルについて考えていきます。
(All text & photographs: Taiga Matsuoka)

松岡大雅 | Taiga Matsuoka
1995年東京都生まれ。2021年慶應義塾大学大学院修了。2019年〜HUMARIZINE 共同主宰。
https://twitter.com/taiga0628
https://www.instagram.com/taigamatsuoka/

 

都市のこれからを考えるための5つの“between”

MODELでは議論を通じてさまざまなことを考えていくために、次の5つのテーマが設けられています。

“Between Generations”・“Between Cultures”・“Between Species”・“Between Materials”・“Between Classes”

これらのテーマはすべて“between(=あいだ)”から始まっています。世代(Generations)・文化(Cultures)・種(Species)・材料(Materials)・階級(Classes)のあいだを考えることで、多様性やサステナビリティ、不平等などについての議論を行う狙いがあります。

実際の展示では、各テーマに対して1つの広場や道といった都市空間が割り当てられ、テーマに呼応するインスタレーションやプログラムが設置されました。

Between Generations ─ 広場で議論することの意味

Plaça Reial(王の広場)で開催された“Occupying the centre with words”(その中心を言葉で占拠する)は、世代について考える試みです。この広場の中心にある噴水を覆うように、パブリックスペースが出現しました。

この空間ではMODELの多様なトークセッションが行われるなど、まさに言葉(words)によって都市を埋め尽くそうとする、フェスティバルの狙いを伺うことができます。また、このパブリックスペースでは“MODEL Books”という試みが常に開催されており、建築や都市デザインに関するたくさんの本が置かれています。人々はこれらの本を読みながら、パブリックスペースでくつろいだり議論をすることができます。

広場にはさまざまな人々が、さまざまな目的で訪れます。こういったパブリックスペースに議論の種をまくことで、普段は都市のことを気にもとめない人々にも、何らかの気づきを与えることができるかもしれません。

この“Between Generations”に関するプロジェクトの設計を行ったのは、バルセロナで長い歴史を持つデザインスクールELISAVA(エリサバ)です。Plaça Reial(王の広場)の近くに校舎を構えるELISAVAは、バルセロナのみならず世界のデザイン研究・教育を推進している機関です。

Between Cultures ─ 食卓で起こるコミュニケーション

Plaça de Catalunya(カタルーニャ広場)で開催された“Urban Kitchen(都市のキッチン)”は、文化について考える試みです。この広場はバルセロナの中心にあり、あらゆる文化をもった地元の人から観光客までが訪れる場所です。この広場にキッチンが設置されました。

ここでは食を通じて、異なる文化の人々が対話を行うことが目指されています。また実際に料理をするワークショップなども開催され、こうした場では都市における廃棄食品に関する取り組みを考えたりなど、食と都市をとりまく問題が議論されました。

ワークショップが行われた日には、多くの人が食卓を囲むために広場に集まるというユニークな風景になったといいます。バルセロナの中心にあるカタルーニャ広場を即席キッチンにしてしまうことで、フェスティバル自体の存在感も示されたと思います。

この“Between Cultures”に関するインスタレーションを設計したのは、バルセロナとニューヨークに拠点を持つ設計事務所MAIOです。国内外でインスタレーションや店舗のデザインなどを行い、さらには展覧会のキュレーションなども手がける、バルセロナの中心的な建築家です。

Between Species ─ 人間のためだけでない都市

Llosa de Sant Antoni(サンアントニの路上)に設置された“Arca de convivència(共生の箱舟)”は、私たち人間が他の種について考える試みです。このインスタレーションには多様な植物が含まれており、人々は地球温暖化や生物多様性について考えるきっかけを与えられます。それらの植物が乗っている箱舟が可動式のプラットフォームとなり、イベントに合わせて通りを動き、人々を取り込んでいきます。

植物、鳥、虫や人間が共生していく未来の姿を示唆するこのインスタレーションは、新しい都市のモデルに、人間以外の存在の重要性を問いかけます。人間の生活のためだけに都市がデザインされてきたことによって、さまざまな問題が浮き彫りになってきています。この作品の植物たちは、本来人間が共生すべき自然の一部です。このインスタレーションは、都市において私たち人間が排除してしまったものを浮き彫りにしてくれます。

この“Between Species”の箱舟は、バルセロナを拠点にするランドスケープのLEA Atelierと建築のTAKK Architectureの共同による作品です。LEA Atelierはランドスケープ、エコロジー、建築それぞれの頭文字から名前がつけられたアトリエであり、自然との関係性をデザインしています。TAKK Architectureは自然や文化や政治に関する実践や研究を行う事務所であり、近年は国外での活動も精力的に行っています。

Between Materials ─ 歴史と材料とともにデザインする

Passeig de Lluís Companys(リュイス・クンパニィス通り)の近くの遺跡で行われた“Chronotropic memory(周期変動の記憶)”は、材料について考える試みです。このインスタレーションが設置された土地には古い裁判所が建っていました。新しい建物の計画のため、この裁判所が解体されてしまった際に、その地中から古くは7世紀のものとされる遺跡が発掘され、その土地のこれまでの変遷が明らかになりました。

こうした背景のもと、このインスタレーションでは、古い建物の解体の是非、新しい建物のあるべき姿、現在の更地となっているこの場所の活用など、さまざまな議論を誘発します。資源の有効活用から、その循環のあり方など、これからの都市の材料に対する多くの疑問が提示されています。これからも都市の中では新しい開発が起こるでしょう。新しい都市のモデルを考えるのならば、歴史や材料にも目を向けた検討が求められるのではないでしょうか。

この“Between Materials”のリサーチ・インスタレーションを担当したのはFLEXO ARQUITECTURAです。文化的な文脈と資源の活用に焦点を当てながら、スペインを中心に建築のプロジェクトを行う設計事務所です。

Between Classes ─ 平等な都市を目指して

Plaça d’Idrissa Diallo(イドリッサ・ディアロ広場)に出現した“Reversing the pyramid(ピラミッドを逆転させる)”は階級について考える試みです。この広場は以前はPlaça d’Antonio López(アントニオ・ロペス広場)と呼ばれ、19世紀の実業家アントニオ・ロペスの記念碑が設置されていました。しかしながら、奴隷所有の過去が明らかになり、2018年に街から撤去され広場の名称が変わりました。

こうした変遷を踏まえ、この記念碑があった台座の上を取り囲むように仮設の広場が建設されました。記念碑の人物を称賛するような都市の広場のあり方を考え直し、階級のピラミッドの概念を変えることを目指しています。

仮設の階段を登ると、ピンク色の半透明のフィルムで囲まれた空間に出ることができます。ここから、フィルム越しに普段とは違うピンク色になったバルセロナの街を見ることができます。こうした別の視点を取り入れることで対話を促す狙いもあります。

この“Between Classes”の仮設建築を設計したのはOjo Estudioです。人々の生活を改善し、住民と空間と建築家の関係性を生かすデザインを目指すスタジオです。

バルセロナの都市・建築のこれから

ここまで紹介した5つのコンセプトとそれに伴うプログラムを見てわかるように、バルセロナでは社会問題・政治・気候変動といった問題に対して、市民を巻き込みながら議論を進めようというムーブメントが広がっています。どの程度の市民に、この建築のフェスティバルの存在が周知されているのかはわかりませんが、街中の至るところにフェスティバルの広告が出現しており、イベントの広がりを感じることができました。

現代に起こっているさまざまな問題を都市や建築の問題として引き受け、それらに答えを出そうとしていくバルセロナの姿勢は注目に値するでしょう。そしてこうしたフェスティバルを、建築家と行政が協働して行っていることも、1つの特徴といえそうです。

2026年、世界建築首都(World Capital of Architecture)に指定されるバルセロナ。今回のMODELは、2026年に向けた布石でもあります。バルセロナでこれから起こるであろう多彩な建築・都市のプロジェクトに、これからも要注目です。

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