FEATURE
NEXT GENERATION ARCHITECT Vol. 3(1/2)
Interview with Takayuki Kuzushima(1/2)
FEATURE2024.07.10

葛島隆之:"田舎らしさ"から見出す個別具体的な建築

[Interview]次代の建築をつくる 第3回(前編)

インタビュー後編 / NEXT GENERATION ARCHITECT Vol. 3

FEATURE2024.07.17

葛島隆之:"田舎らしさ"から見出す個別具体的な建築

[Interview]次代の建築をつくる 第3回(後編)

TECTURE MAG では、若手の建築家の手がけた事例を積極的に取り上げている。今回の連続記事では「次代の建築をつくる」と題し、これから本格的に活躍する建築家たちにインタビュー。これまで何を大事にして自らの基軸を見出してきたのか、これからどのように建築をつくろうとしているのかを浮き彫りにする。

「建築家」と一概にいっても、人々の暮らし方・働き方が多様化する現代においては建築活動の領域や方向性は多岐に渡る。この記事では、さまざまな視座からその活動が特徴的な建築家たちに注目していくことで、現代の建築界の全体像と、その次代を探ることを試みる。

第3回は、事務所を構える愛知県とその周辺の東海地方を拠点に活動し、プロジェクトごとの特徴を掬い上げて空間に落とし込むことで、新たな暮らしの可能性を模索する、葛島隆之建築設計事務所代表の葛島隆之氏。現在進行中のプロジェクトについて、また独立後の活動と今後の展望などについて詳しく聞いた。

Photo: 金川晋吾

葛島隆之 | Takayuki Kuzushima
建築家 / 葛島隆之建築設計事務所 代表

1986年三重県生まれ。2010年名古屋工業大学大学院修了。2010-16年studio velocity一級建築士事務所勤務。2017年葛島隆之建築設計事務所設立。現在、名古屋造形大学・大同大学・名古屋工業大学・名古屋市立大学 非常勤講師。主なプロジェクトに、〈Hut〉〈Rural House〉〈Pergola〉〈7部屋のコートハウス〉〈廊下とアトリエ〉など。主な受賞歴に、日本建築学会作品選集 新人賞、日事連建築賞 奨励賞、U35 若手建築家による建築の展覧会 選出、愛知建築士会名古屋北支部建築コンクール 最優秀賞、JIA東海住宅建築賞、JIA優秀建築選 100選、中部建築賞 入選など。
http://kztkoffice.site/

INDEX

  • 田舎の建築
  • 家+小屋という選択
  • 暮らしの多様性と小屋
  • 設計の過程に価値を見出す

田舎の建築

── 早速ですが、設計において特に大切にされていることを教えてください。

葛島隆之 氏(以下、葛島):個別具体的な建築のあり方を模索することです。個人の設計事務所が社会に対して出来ることは、施主や敷地に、”特別さ”を感じられる建築を建てることではないかと考えています。そのために、それぞれのプロジェクトに対して”ゆっくりと丁寧に”向き合うことを意識しています。

たとえばハウスメーカーのような組織体の場合、設計の与条件を絞り、それに対する解答を単純化しています。区画整理による宅地に建つ分譲住宅が分かりやすい例ですね。効率よく大量に生産することで、コストを抑えながら一定の品質を確保します。もちろん社会にとって重要な役割ですが、そこで零(こぼ)れ落ちてしまう施主や周辺環境における理想があると思うのです。

オンラインインタビューの様子。

葛島:これまでの経験から、依頼を受ける段階で施主が自身の理想を明快に想い描けているケースは稀です。その理想を僕たちとの間で表面化させ実現していくためには、ゆっくりと時間をかける必要があります。そうして施主や敷地にとっての唯一といえる建築ができれば、個人事務所で活動していることの意義があると考えています。

── どのように理想を表面化させていくのでしょうか。

葛島:着想の段階においては、プロジェクトごとの固有性を手掛かりとすることが多く、そこでは”田舎らしさ”をキーワードの1つにしています。敷地の境界線を例に挙げると、田舎では自然地形や長年の慣習などと深く結び付いた不正形のものが多く、プロジェクトの固有性を表面化するうえでの説得力があります。一方で、都市では制度や産業の原理といった構造が色濃く出ていて、どうしても画一的なものになりがちです。

新築のプロジェクトを並べた敷地境界線と伏せ図(縮尺1/300)。

葛島:たとえば〈Rural House〉は、周辺に田畑が広がるのどかな環境に建つ平屋住宅で、三角形に近い敷地境界をほぼそのまま立ち上げています。また敷地内には1m以上の高低差があるのですが、あえて造成はせず、室内にスロープとして落とし込んでいます。

ほかにも大小さまざまな要因から出来上がっていますが、敷地境界に沿ってできた平面、高低差が現れた室内床、地面と平行に下る屋根など、特徴的な環境を建築の固有性として置き換えていきました。

〈Rural House〉鳥瞰。建物内部は、4つの中庭と蛇行する道状のワンルーム。Photo: 葛島隆之建築設計事務所

土地形状に沿って緩やかな傾斜が付いた構え。Photo: 葛島隆之建築設計事務所

〈Rural House〉の概要は「TECTURE」サイトページをご覧ください。
https://www.tecture.jp/projects/2294

── 建築業界では、”都市”という言葉に対しては”地方”がよく使われますよね。あえて”田舎”としているのは何故でしょうか。

葛島:明確に言語化するのは難しいですが…田舎という概念は、都市という概念ができてはじめて対比的に登場しました。その境界は明確ではなく、田舎とは都市の外側に広がる無数の点の集まりと考えることができます。地方というと、たとえば中部地方のように特定の面的な範囲を示していたり、山岳地方のようにある属性をもつ範囲といったイメージが先行します。地方という言葉にはフレームがあると思うのです。

田舎は、それぞれがランダムな固有性をもつ点の集合体で、都市に見られる人工的な構造からは外れた唯一性の高い条件が存在すると思うのです。それらをゆっくりと丁寧に読み解いていくことで、その点における固有性に沿った建築に近づくことができると考えています。

家+小屋という選択

── 敷地やその周辺環境のほかでは、どのようなところに固有性を見出すのでしょうか。

葛島:地域柄か、僕が依頼を受けるプロジェクトはブルーカラーの仕事をしている人からのものが多く、その仕事がそのまま建築の個性に繋がることも多くあります。

独立後はじめてのプロジェクト〈Hut〉は、電気工事を生業とする施主のための職住一体空間の計画でした。同じ敷地に多世帯で暮らしていて、母屋が2軒とそれらに付属する勉強小屋や農機具小屋が既に建っていました。ここに増築するうえで求められたのは、書斎やダイニングキッチンなどの居室と共に、資材置き場・職場の同僚とのリフレッシュ空間・災害時などに地域の人が集まれる場など、プライベートな使われ方をする母屋に対して、一回り大きな社会との生活を付加することでした。

〈Hut〉外観。大開口をあけ放つことで内土間が半外部化する。Photo: 葛島隆之建築設計事務所

プレメッキの角パイプ(□-50×50×2.3)を組柱とした構造躯体。Photo: 葛島隆之建築設計事務所

葛島:母屋が生活の必要条件を確保してくれているので、家に付随する小屋といった+αにこそ仕事や趣味といった固有性が現れやすくなります。そういった環境では、生活は1軒の住宅の中で完結されるようなものでなく、むしろその周りを充実させることによってより豊かになるのではないかと考えています。

このような”家+小屋”に可能性を感じていて、商品化住宅が並ぶ画一的な風景を変えていくきっかけになると期待しています。

既存の小屋越しに見る。Photo: 葛島隆之建築設計事務所

〈Hut〉の概要は「TECTURE」サイトページをご覧ください。
https://www.tecture.jp/projects/674

暮らしの多様性と小屋

── “家+小屋”がもつ可能性とは、具体的にはどういったものでしょうか。

葛島:現代人が商品化住宅のもつ高い性能をいきなり手放すことは難しいでしょう。”家+小屋”は既存の商品化住宅を認めたうえで、多様性を求める現代的な価値観に応え得ると思うのです。かつての住宅が、軒先や縁側、土間などが街との接点となり道沿いの風景を彩っていたように、小屋がその役目を果たせないだろうかと考えています。

〈廊下とアトリエ〉は、愛知県の市街化調整区域に建つ陶芸アトリエです。敷地北側に建つ既存母屋は、南端の一部屋にアトリエをもつ兼用住宅で、本計画では敷地南側の残余部分に増築を行い母屋のアトリエ機能を拡張する計画でした。

〈廊下とアトリエ〉鳥瞰。Photo: 葛島隆之建築設計事務所

窯部屋のケンドン扉は、取り外して隣家の視線を遮るパーテーションになる。Photo: 葛島隆之建築設計事務所

葛島:建主の要望としては、作業中高温になるガス釜などの設備と作業台を設けることでした。ここでは母家を含めた作業工程を考慮し、細長い平面の廊下を骨格とした機能配置を考えています。さらに縁側のような半屋外空間を担うことで、この小さな建物の中に、街の風景の一部となるような中間領域を取り込んでいます。

母屋アトリエ内の作業部屋からは、廊下を貫通して道路を挟んだ向こうまで視線が抜けるような長大なスケールを小さなインテリアに取り込んでいます。本計画では単にアトリエとしての機能を満たすというよりは、家として完結した母屋を解きほぐし、街を含む外部との関係性を縫合することが重要だと考えました。

母屋アトリエ内の作業部屋からは廊下側を見通す。Photo: 葛島隆之建築設計事務所

〈廊下とアトリエ〉断面図。Image: 葛島隆之建築設計事務所

〈廊下とアトリエ〉の概要は「TECTURE」サイトページをご覧ください。
https://www.tecture.jp/projects/4561

── 土地が広いことも田舎の特徴の1つですね。

葛島:東京近郊と比べ、僕が拠点としている中部圏では土地が広いことから、”家+小屋”のような建ち方がよく見られます。カーポートやレジャー用品を収納する物置、農業用倉庫など小屋の用途はさまざまで、この小屋が街に対して広がりをもつようになれば、商品化住宅の良い部分を享受しながら、固有性に富んだ面白い風景が生まれてくると考えています。多様化が進んでいるといっても、暮らし方に対して保守的な考えの人もまだまだ多いので、ローコストで実現できることも大きな利点の1つですね。

設計の過程に価値を見出す

── 固有的な要素を、どのように建築に落とし込んでいくのでしょうか。

葛島:プロジェクト次第ではありますが、構想段階では模型で検討を進めていくことが多いです。僕たちの事務所ではつくる模型を2つに分類していて、固有性を手掛かりとした大雑把な形から全体の方向性を固めていくものを案出し模型、固まった方向性の中で変数を入れていくものをスタディ模型としています。

〈廊下とアトリエ〉案出し模型。Photo: 葛島隆之建築設計事務所

〈7部屋のコートハウス〉案出し模型+スタディ模型。Photo: 葛島隆之建築設計事務所

〈Pergola〉スタディ模型。Photo: 葛島隆之建築設計事務所

葛島:こうした模型はしっかりと発信するよう心がけています。もちろん建築にとっては竣工してからがもっとも大切ですが、プロジェクトによっては写真や図面、テキストよりも、そこに辿り着くために時間をかけた過程の方が本質を掴めていることもあります。設計費に納得してもらう根拠になりますし、次の新たな仕事に繋がればという期待もあります。

また今の時代、自己発信の方法がいくつもあるので、何を発信するかと共にどのプラットフォームに何を発信するかを考え、選択することもできますよね。既存の雑誌だけでなく、webメディアやwebサイト、SNSなどから僕たちのことを知ってくれたという方もたくさんいます。ほかにも、Youtubeで動画をあげていたり、Amazon Kindleでセルフパブリッシングもしています。

YouTubeチャンネル「葛島隆之」www.youtube.com/@user-ml4rx4zw2h

Amazon Kindleストア「葛島隆之」。https://amzn.asia/d/06h3DFaP

── “ゆっくり丁寧に”というのは、竣工後にも当てはまるのですね。

葛島:こういった作業自体が好きというのもありますが、資料としての精度を高めるための試行錯誤が思考のトレーニングにも繋がっています。手から離れてからのほうがプロジェクトが客観的に見えることもあり、新たな発見や言葉が付いてきて、その後にフィードバックしやすくなります。

反対に、資料にすることを先回りして想像し、そのイメージを実現するために頭を捻りすぎると建築にとって悪循環になることもある気がするので気を付けています。

自己発信の環境が整った現代だからこそ、建築の新たな可能性を模索し、旗振り役として実践することも建築家の役割といえるでしょう。”家+小屋”という考え方も、現時点では個人事務所の小さな取り組みに過ぎませんが、これを広めるためにさまざまなプラットフォームを活用することに社会的な意義を感じています。

(後編へ続く)

インタビュー後編 / NEXT GENERATION ARCHITECT Vol. 3

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