FEATURE
NEXT GENERATION ARCHITECT Vol. 4(1/2)
Interview with Naoki Hayasaka, Yuta Onoda, Kazuto Nakamura(1/2)
FEATURE2025.01.22

邸宅巣箱:"ネオ"地域密着型アーキテクト

[Interview]次代の建築をつくる 第4回(前編)

[Interview]後編 / NEXT GENERATION ARCHITECT Vol. 4

FEATURE2025.01.31

邸宅巣箱:"ネオ"地域密着型アーキテクト

[Interview]次代の建築をつくる 第4回(後編)

TECTURE MAG では、若手の建築家の手がけた事例を積極的に取り上げている。今回の連続記事では「次代の建築をつくる」と題し、これから本格的に活躍する建築家たちにインタビュー。これまで何を大事にして自らの基軸を見出してきたのか、これからどのように建築をつくろうとしているのかを浮き彫りにする。

「建築家」と一概にいっても、人々の暮らし方・働き方が多様化する現代においては建築活動の領域や方向性は多岐に渡る。この記事では、さまざまな視座からその活動が特徴的な建築家たちに注目していくことで、現代の建築界の全体像と、その次代を探ることを試みる。

第4回目は、鎌倉・逗子葉山にエリアを限定して設計をしている邸宅巣箱の早坂直貴氏、斧田裕太氏、中村一翔氏の3者にインタビュー。活動するエリアを絞ることのメリットや、進行中のプロジェクト、また今後の展望などについて詳しく聞いた。

Photo: 白井祐介

早坂直貴 | Naoki Hayasaka
建築家 / 邸宅巣箱 共同主催

1984年 神奈川県生まれ。2014-17年 Atelier Tsuyoshi Tane Architects勤務、〈Todoroki House in Valley〉〈A House for Oiso〉など住宅案件を歴任。2014-17年 渡仏。2017年 鎌倉地元に特化した設計事務所、邸宅巣箱を設立。

Photo: 邸宅巣箱

斧田裕太 | Yuta Onoda
建築家 / 邸宅巣箱 共同主催

1986年 大阪府生まれ。2011年 芝浦工業大学大学院 卒業。2014-2019年 手塚建築研究所 勤務。〈海風の家〉〈ふじようちえん(第Ⅳ期)〉などを歴任。2007年 芝浦工業大学 卒業。2019年 邸宅巣箱に参画。

Photo: 中山翔太

中村一翔 | Kazuto Nakamura
建築家 / 邸宅巣箱 共同主催

1993年 静岡県生まれ。2016年 多摩美術大学 卒業。2016-2024年 佐久間徹設計事務所 勤務。2024年 邸宅巣箱に参画。

INDEX

  • 新しい地域密着型アーキテクト
  • 自然と人文が共存する鎌倉の魅力と難しさ
  • 多様化する暮らし方・働き方の最前線
  • 地域密着だからこそ得た、業界を超えた繋がり
  • 早い段階で完成形のイメージを共有する
  • 鎌倉を通して見せる、パリのクラフトマンシップの美学

新しい地域密着型アーキテクト

── はじめに、邸宅巣箱について改めて教えてください。

早坂直貴氏(以下、早坂):私たち邸宅巣箱は地域密着型のアーキテクトチームで、神奈川県の鎌倉・逗子葉山にエリアを限定して設計活動をしています。

ここでは「鎌倉エリア」と呼ぶことにしますが、鎌倉エリアは自然と人文が共存する豊かな環境です。また、暮らしの多様性やエコロジーといった現代的な建築の課題においても、住民は積極的に受け入れる傾向が見られるため、建築家として活動するうえで、やりがいのある土壌が整っていると言えます。

斧田裕太氏(以下、斧田):その鎌倉エリアでの暮らしや社会活動をいっそう豊かにするために、建築にもできることがあると信じて活動しています。エリアを絞ることでパフォーマンスを最大限高め、建築の力で鎌倉エリアに暮らす人たちのQOLを向上する。それが邸宅巣箱の理念です。

中村一翔氏(以下、中村):私が邸宅巣箱に参画したのは比較的最近のことですが、地域密着型のアーキテクトチームというのは全国的に見てもめずらしいと思います。建築を考えるうえでの切り口が多様な鎌倉エリアにおいて、チームとしてそれぞれの視点を共有することで、この土地がもつ新たなポテンシャルを見出すことができると考えています。

早坂:私たち3人は、邸宅巣箱の中での役割を明確に分けてはいません。互いを補いながらもそれぞれの得意を高め合い、チームとしてより良い建築をつくり出すことを目指しています。

左から斧田裕太氏、早坂直貴氏、中村一翔氏。Photo: 中山翔太

自然と人文が共存する鎌倉の魅力と難しさ

── 鎌倉エリアの土地的な特徴は何でしょうか。

早坂:真っ先に挙げられるのは自然環境です。山と海のどちらにも近く、それぞれの敷地がもつコンテクストも多彩です。

その一方で、山側では崖地(レッドゾーン)や斜面地、難接道などが課題となりますし、海側では塩害や湿気などに配慮しなければなりません。それに加えて複雑な行政規制が絡んでくるので設計者からすれば、難解な土地条件が特徴、とも言えますね(笑)。

〈北鎌倉のぼうし屋根の家〉。山の上の住宅地に建つ小住宅。Photo: 長谷川健太

幅6mを超える水平窓が、六国見山への雄大な眺望を切り取る。Photo: 長谷川健太

〈北鎌倉のぼうし屋根の家〉の概要は「TECTURE」サイトページをご覧ください。
https://www.tecture.jp/projects/3963

〈ポジティブ・イミテーション〉。別荘が立ち並ぶ海岸通りに建つ。Photo: 長谷川健太

前面道路の電線をかわしながら、この土地の財産であるオーシャンビューを獲得する。Photo: 長谷川健太

〈ポジティブ・イミテーション〉の概要は「TECTURE」サイトページをご覧ください。
https://www.tecture.jp/projects/3966

斧田:現状、私たちへの依頼は住宅や別荘がほとんどで、鎌倉エリアに移住したいという方が全体の9割程度。その中の3割程度が別荘になります。別荘の需要が高いことから分かるように、自然を近くに感じながら暮らしたいと希望される方はたくさんいます。結果的に私たちの建築には、大きな開口部と、それに伴った大きい気積のワンルームをもつ事例が多いかもしれません。

早坂:その際、単に広いだけではなく、空間にグラデーションを与えるようにしています。天井や床の高さを変化させてみたり、素材を変えたり、人の動線の中に家具を置いてみたりと、空間の中に濃淡を与えるようなイメージです。

〈庭園緑地の邸宅〉。都市と自然との境界部にあたる敷地に建つ平屋住宅。Photo: 根本健太郎

天井高や梁、素材感、家具の配置などによって空間に濃淡をつくる。Photo: 根本健太郎

〈庭園緑地の邸宅〉の概要は「TECTURE」サイトページをご覧ください。
https://www.tecture.jp/projects/3961

── 「自然と人文の共存」とおっしゃっていましたね。人文についてもお聞かせください。

斧田:雄大な自然にほど近い街並みや建造物に、独自に発展してきた歴史や文化が見られます。鎌倉エリアの魅力の1つであると共に、これらも建築を考えるうえでの与条件となり得ます。

特に旧市街地と呼ばれるエリアでは、埋蔵文化財や風致地区、景観条例などの行政規制が大きな課題です。もっと細かく言うと、同じ第二種風致地区であっても僅かな立地の違いによって、屋根形状の制限が異なることもあるのです。

多様化する暮らし方・働き方の最前線

── 文化的な側面が見られる中で、具体的にどういった依頼があるのでしょうか。

早坂:例えば、2023年に竣工した〈編み込まれた家〉は、鎌倉市の歴史的風土保存地区に位置する住宅です。テキスタイルをコレクションしていた建主は「我が家にテキスタイルのギャラリースタジオを併設したい」という理想の暮らしをこの土地を通して見ていました。私たちは機能面における解答として、平時ではリビングに、使途に応じてギャラリーに設定ができるフレキシブルな大空間を設計しています。

〈編み込まれた家〉。鎌倉の中でもっとも景観規制の厳しい歴史的風土保存地区に位置する。Photo: 根本健太郎

内観。ギャラリーとしても利用できる空間。天井からテキスタイルを自由に吊るすことができる。Photo: 根本健太郎

〈編み込まれた家〉の概要は「TECTURE」サイトページをご覧ください。
https://www.tecture.jp/projects/4201

早坂:鎌倉エリアは観光地としても人気ですから、店舗やギャラリーなどの公共性を住宅に求める「住空間+α」の依頼が多くなってきています。コロナ禍以降の暮らし方・働き方の多様化に起因した傾向かもしれません。全国的に見ても移住者が多く、その傾向が顕著な鎌倉エリアでは、多様化に備えた建築のあり方を率先して検討していく必要があります。

また、鎌倉エリアに限らず住宅の平均寿命は伸び続けていますよね。長い寿命の中、そこでの暮らしに変化が見られるのは当然です。このまま多様化が進めば、住宅が住居空間としてのみ消費されることの限界が予想できます。私たちは建築家として、土地の特徴や住まい手の要望に応えながらも、もう少し広い視野で「住宅」という器を捉えるべきかもしれません。

── 同じ鎌倉エリアと言っても、特徴が細かく分かれているのですね。

中村:邸宅巣箱に依頼される方の多くが、理想の暮らしに対して明確なビジョンを描いています。土地の魅力が多岐に広がっているぶん、鎌倉エリアの魅力に感じる箇所も人それぞれで、具体的に想像しやすいのだと思います。私たちの設計は、そうした理想と実際の土地的な与条件を比較していくことから始まります。

早坂:また、鎌倉エリアに住む住民は暮らしに対する意識が高く、新しい街づくりに前向きな人が多い印象です。建築家が設計した建築物も多いですし、建築家を受け入れてくれる土壌が比較的整っていると言えます。

さまざまな条件下で建築と向き合えることは、建築家として大きなやりがいです。新しいプロジェクトに取り掛かるごとに発見と驚きは絶えませんが、地域密着型だからこそ、鎌倉エリアにおける建築のノウハウが日々蓄積されていると実感できます。

地域密着だからこそ得た、業界を超えた繋がり

── 設計において、特に大切にされていることは何ですか。

早坂:手仕事による「空間のムラ」を取り入れています。コストや機能において高効率な既製品による「均一な空間」が溢れる現代において、とても価値あるものだと考えています。

斧田:鎌倉エリアを拠点とする協力業者と直接的なコネクションがあるので、例えば、スチール造作物や特殊な左官仕上げなど、プロジェクトの性格に合わせて発注していきます。建設コストの制約から既製品を優先する時もありますが、設計の根幹に関わる「ここぞ」という場面では特に重視しています。完成した建築物の価値を高めるだけでなく、地元のチームでつくり上げるというプロセス自体にも価値を見出しています。

中村:鎌倉エリアでのみプロジェクトを受注しているため、各分野における業者や職人を積極的にアサインしています。毎回同じ業者や職人に依頼し協力関係が密に築かれていくことで、一見では敬遠されそうなリクエストにも応えてくれます。結果として、手仕事が感じられる質の高い仕上げに繋がっています。

 

早坂:地元の協力業者による手仕事を積極的に取り込んでいくためには、さまざまな業界にアンテナを張っている必要があります。地域密着で活動してきた私たちには、業界を超えた繋がりと、お互いへの信頼の積み重ねがあります。

先ほど紹介した〈編み込まれた家〉では、この積み重ねを感じる機会ができました。かねてより、不動産業者が催すような物件の内覧会になりがちな完成見学会をよりクリエイティブな場にできないかと考えていたのですが、この住宅では、鎌倉エリアで活動しているクリエイターたちによる展示会のような完成見学会として企画しています。

〈編み込まれた家〉完成見学会の様子。Photo: 邸宅巣箱

早坂:建築家や他業種の方、またクリエイターに限らず鎌倉エリアに住む多くの方が足を運んでくれて、大成功に終わりました。何より、ギャラリースタジオを開くというクライアントの理想を先んじて見せることができました。準備や宣伝に労力はかかりますが、常に現場が近くマネジメントしやすいローカルアーキテクトという立場だからこそ実現できました。

── 逆に、鎌倉エリアに活動を絞ることで困ったことはないのでしょうか。

早坂:ほかの土地へ活動を展開するのは難しいですね。ただ、鎌倉エリアに興味のある人は国内外問わずいるので、外側から引き込む機会は十分にあると思っています。

斧田:常に工務店が足りていないことも悩ましい点です。例えば、ほかの土地で活動している若手建築家が鎌倉エリアで工務店を捕まえるのは難しいでしょう。よほど運が良いか、コネクションがないと。工務店の需要が高すぎて、建設費が比較的安価だと予想される若手の案件にまで手が回らないのです。

一方で、工務店側にも土地的な条件や行政規制に対応できるノウハウが求められるので、新規参入が難しい現状だと思います。

早い段階で完成形のイメージを共有する

── 具体的な設計アプローチについてお聞きします。どういったところから着想を得ているのでしょうか。

早坂:建物のかたちにおいては、敷地を訪ねた際のインスピレーションを大事にしています。インスピレーションの土台となるコンセプトは、クライアントとの会話やその時々の関心ごとなどで、それらが重なる点を模索していくことが多いですね。

思考が煮詰まった時にはすぐに現地に向かいます。どんな現場でも事務所から近いですからね。模型や3Dは、間取りが固まってからで十分なのですが、クライアントと共有するために初期段階から準備することもあります。

Photo: 中山翔太

── クライアントと共有する際に気を付けていることは何ですか。

斧田:何事においてもプロセスをしっかりと見せることです。敷地の条件整理、法規の整理、歴史の調査、クライアントの要望をまとめ、分析した内容も含めてすべて共有しています。そのうえでコンセプトの説明を始めるのです。

敷地を訪ねた際のインスピレーションというのも、こうしたリサーチの積み重ねによって得られるものです。例え感覚的だったとしても、もとを辿ればその敷地ならではの合理性を見出すことができます。提案するかたちのすべてに納得してもらうために、窓の配置1つを取ってもダイヤグラムで理由を説明します。

進行中のプロジェクトのダイアグラムの一部。Image: 邸宅巣箱

プレゼン時には、多くの完成イメージをクライアントと共有する。Photo: 白井祐介

早坂:クライアントの希望の中に、私たちが実現したいことを織り交ぜていくわけですからね。初回の打ち合わせから毎回30枚ほどのプレゼン資料を準備して臨みます。完成形に近いイメージをはじめから共有しておくことで、後々の大きな変更が起こらないように心掛けています。

鎌倉を通して見せる、パリのクラフトマンシップの美学

── 邸宅巣箱さんが掲げるコンセプトの1つに「鎌倉×パリ」という、キャッチーなフレーズがありますね。

早坂:「鎌倉×パリ」は、邸宅巣箱への依頼を検討している方に向けて掲げたコンセプトです。私がパリを拠点に活動していたころから、そこで出会ったクラフトマンシップの美学を尊敬していて、鎌倉を通してその魅力を伝えたいです。

中村:このクラフトマンシップの美学というのは、当然、高い技術力あってのものですが、他者と共有するうえで感覚的な側面もあります。そのため、私たちの感覚と手掛ける職人との間にギャップがないよう、円滑な情報共有が必須です。私たちは現在、工務店と事務所をシェアしていて、精度の高い仕上げや納まりへチャレンジできる体制になっています。

完成イメージに齟齬がないよう、工務店との意見交換を入念に行う。Photo: 邸宅巣箱

〈庫裡と参道〉のモックアップ製作の様子。Photo: 邸宅巣箱

早坂:いわゆる「建築言語」的なコンセプトではありませんが、ヨーロッパらしい美学と鎌倉らしい美徳を混ぜ合わせたような世界観を、端的に伝えるのは難しいんですよね。

例えば、鎌倉の住宅と聞いて「古民家」を連想する人もいるかと思うのですが、「田舎にある祖父母の家」や「古民家カフェ」といったイメージに寄ってほしくはありません。そこで「鎌倉×パリ」。鎌倉の風土が成す街の雰囲気や素材の手触りの良さなどのイメージに、パリという言葉が引き寄せてくれると考えています。

(後編へ続く)

[Interview]後編 / NEXT GENERATION ARCHITECT Vol. 4

FEATURE2025.01.31

邸宅巣箱:"ネオ"地域密着型アーキテクト

[Interview]次代の建築をつくる 第4回(後編)

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