【ミラノ・コルティナ冬季オリンピック】仮設小屋から都市再生へと続く選手村の建築史 - TECTURE MAG(テクチャーマガジン) | 空間デザイン・建築メディア
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History of the Olympic Village
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選手村は「都市の未来」をどう描くか

【ミラノ・コルティナ冬季オリンピック】仮設小屋から都市再生へと続く選手村の建築史

2月22日、ミラノ・コルティナ冬季オリンピックが幕を閉じます。

以前、「オリンピック会場一覧」特集にて、建築や都市の視点で注目すべき「全14の競技施設のうち、実に93%(13施設)が既存施設または仮設施設を活用」している点に注目しました。新築を今後の地域に必要なものに限り、あるものを最大限に活用するという徹底したサステナビリティへの姿勢は、今後のメガイベントのあり方の1つの規範を示したと言えるかもしれません。

しかし、オリンピックという祭典が終わってからこそ改めて価値が問われる場所があります。それが「選手村」であり、会場構成と同じく建築・都市の観点から注目すべきポイントだと言えます。

今回は、今大会の選手村が都市に何を残すのか、そして歴史的に選手村がどのように変遷してきたのかを、IOCオフィシャルフォトエージェンシーを務める「Getty Images*」の膨大なアーカイブからピックアップした歴代大会にまつわる写真と共に振り返ります。

*Getty Images(ゲッティイメージズ)は、1968年以降、Allsport時代を含めて夏季オリンピック15大会、冬季オリンピック15大会を取材してきました。今回のミラノ・コルティナ冬季オリンピックでは、39名のエディトリアルフォトグラファーに加え、ロンドンのGetty Imagesオフィスおよびリモート拠点から20名以上のエディター体制でカバーしています。

Getty Imagesのオリンピックスペシャルサイトはこちら
gettyimages.com/collections/olympics

(1371095562,David Ramos,GettyImage)

(1369859516,Matthias Hangst,GettyImages)

オリンピックのレガシーは、大会そのものと同じくらい重要な意味を持ちます。それは地域社会に以前よりも豊かな資源を残したのか、その公共空間は人々にとってより暮らしやすい場所となったのか――。アーカイブ写真は、オリンピック選手村が長い年月の中でどのような価値を生み出してきたのかを記録するうえで欠かせない存在です。文字だけでは伝えきれない形で、過去と現在を結びつけてくれます。

それぞれの大会における建築の姿や都市との関係性、そこに流れた空気や人々の営みを写し取ることで、選手村という概念がどのように進化してきたのかが浮かび上がります。そしてそこには、住まい、コミュニティ、サステナビリティ、そして都市のあり方に対する社会の価値観の変化が刻まれています。オリンピックの感動は競技の瞬間だけでなく、その後も続いていく――アーカイブ写真は、その記憶と未来をつなぐ光なのです。

ゲッティイメージズ アーカイブ担当キュレーター
メラニー・ルウェリン/Melanie Llewellyn

ミラノが示した回答「鉄道操車場から学生街への再生」

ミラノ市内に建設された選手村は、かつての鉄道操車場跡地の都市再開発プロジェクトの一環として建設されました。

このエリアは長らく都市の空白地帯となっていましたが、オリンピックを起爆剤として、広大な緑地と居住・公共空間が融合するエリアへと生まれ変わりました。設計には、スキッドモア・オーウィングズ・アンド・メリル(SOM)がマスタープランに関わっています。

SOMによる「未来への投資」としてのミラノ冬季五輪の選手村が竣工、イタリア

「会期後」こそが本番

特筆すべきは、そのレガシー(遺産)としての計画の明確さです。敷地に残る歴史的建造物を保存・再生しつつ、新築要素は既存建築と調和するよう設計されています。 アスリートたちが退去した後、この選手村は即座に改修され、1,700床規模の学生寮や低価格住宅へと転用されることが決定しています。

ミラノでは近年、学生や若年層の住宅不足が深刻な社会課題となっていました。「オリンピックのための宿舎」をつくるのではなく、「都市が必要としている住宅を、一時的に選手村として借りる」という発想の転換。これこそが、今大会が示した都市に対する誠実な回答と言えるでしょう。

建物自体も優れた環境性能を有しており、地域産の建材やリサイクル材を活用するなど、環境負荷低減が徹底されています。

〈ミラノ・コルティナ・オリンピック選手村(Milano Cortina Olympic Village)〉SOM

Photo: Dave Burk © SOM

〈ミラノ・コルティナ・オリンピック選手村(Milano Cortina Olympic Village)〉SOM

オリンピック後の完成予想図 © SOM | Pixelflakes

選手村の建築史:時代を映す鏡

選手村の歴史を紐解くと、その時代背景や都市の課題が鮮明に浮かび上がります。ここでは、建築史的に重要な転換点となった大会を振り返ります。

1. 「仮設」から始まった歴史(1924年 パリ大会)

【ミラノ・コルティナ冬季オリンピック】仮設小屋から都市再生へと続く選手村の建築史

1924年パリオリンピックで、選手村のキャビンの前に座る選手たち(1256364392,Topical Press,Hulton Archive,Getty Images)

現在から約100年前のパリ大会にて、参加選手がホテル不足で困らないよう小さな木造のコテージが建てられたのが選手村の原形といわれています。当時は木造の簡易的なコテージが並ぶキャンプのようなスタイルで、会期後には解体される「仮設」の存在でした。

2. 公式初の「選手村」(1932年 ロサンゼルス)

「選手村(Olympic Village)」と公式で呼ばれ始めたのは、1932年のロサンゼルス大会からとされています。

これまではそれぞれのチームが任意の宿泊施設を使用していたのに対し、今大会では男子選手全員の宿泊場所として、すべての国を同じ屋根の下に集めることを目的としていました。また、ジェンダーミックスによる問題の懸念から選手村は男子専用として使用され、女子選手はホテルに宿泊しました。

3. 初となる「恒久的な建物」としての選手村(1952年 ヘルシンキ)

【ミラノ・コルティナ冬季オリンピック】仮設小屋から都市再生へと続く選手村の建築史

1952年ヘルシンキオリンピック選手村の鳥瞰写真(78963613,Popperfoto,Contributor,GettyImages)

これまでは基本的に開催期間後に取り壊す前提として建てられていた選手村ですが、1952年のヘルシンキ大会では、オリンピックで最初の恒久的な建物として選手村が建設されました。大会期間後は、住宅不足に悩まされていたフィンランドの首都ヘルシンキに、新たな居住地となるよう計画された選手村です。

一般労働者のための手頃な価格の家族向け住宅となるよう建築家ヒルディング・エケルンドにより設計された、ヘルシンキオリンピック最大の単独建設プロジェクトであり、プレファブリケーション建設技術を駆使して建設されました。

4. 選手村初の「女子選手のためのエリア」(1956年 メルボルン)

1952年まで女子選手は他の宿泊施設に滞在していましたが、1956年のメルボルン大会で初めて、女子選手のためのエリアがつくられました。また、1952年に引き続き、将来の住宅および宿泊施設として機能するよう設計された建物群でもあります。

5. 軍用地を公園へと整備するプロセスとしての選手村(1964年 東京)

【ミラノ・コルティナ冬季オリンピック】仮設小屋から都市再生へと続く選手村の建築史

東京オリンピック委員会による、代々木選手村の最終検査(51015293,Keystone,Hulton Archive,Getty Images)

1964年の東京大会の本村として整備された代々木選手村は、第二次世界大戦後の1946年に建設され、1964年に全面返還された、兵舎と家族用住居などからなるアメリカ軍の軍用地「ワシントンハイツ」を整備して開村しました。

オリンピック終了後、代々木選手村は再整備されて代々木公園として開園し、4階建ての宿舎は改修され〈国立オリンピック記念青少年総合センター〉として開業しました。

6. 「都市再生の起爆剤」としての選手村(1992年 バルセロナ)

1371869590,VW Pics,GettyImages

1992年バルセロナ大会は、選手村が単なる宿泊施設を超え、「都市構造を変えるツール」として機能した好例です。敷地には放棄された工場がある工業団地が選定されました。その目的は、選手のための宿泊施設やレクリエーションエリア、緑地をつくるとともに、海岸を再生することにあります。

整備されたレクリエーション施設は選手同士のコミュニケーションを促すとともに、大会期間後には地域の住民や観光客のための施設となり、復活した海岸とともに地域を活性化させています。

7. 環境への意識を反映したプロジェクト(2008年 北京)

【ミラノ・コルティナ冬季オリンピック】仮設小屋から都市再生へと続く選手村の建築史

80899291,Feng Li,Staff,GettyImages

2008年の北京オリンピックの選手村は、21世紀において世界的に高まる環境意識の傾向を反映し、持続可能なコミュニティモデルを目指して建設されました。

村内の建物は環境に配慮した建設技術や高効率かつ省エネルギーな材料を採用し、自然通風や自然採光、暖房・給湯用 の6,000m²のソーラーパネル、汚水は生化学技術によって処理され100%無害化される。また、透水性レンガなどにより雨水を収集し、これらの水は緑地のメンテナンスに使われます。

未来へと思いをつなぐプロジェクト

小規模な仮設建築から始まった選手村は、次第に施設を使用する国や選手数が増加し、すべての選手たちを収容するための大規模なスケールの恒久的な建築となっていきました。

そして、選手たちのホスピタリティを重視していくことによるさまざまな公共機能が付随していくことで、スケールだけでなく機能も都市に近くなってきています。そのため、オリンピックを開催することによる都市の再開発、再活性化のための大きな要素の1つとして捉えられていくようになりました。

さらに現在、世界的に重視されている環境への責任やサステナビリティにも大きく関わることから、都市的なプロジェクトだからこそできる取り組みや、部分的な仮設建築の採用、資材の循環など、さまざまな計画がなされてきました。

都市に関わる側面の大きい選手村が今後どのようなビジョンを掲げて計画されていくのか、そしてパリオリンピックを含め、さまざまな想いを込めてつくられた選手村が実際にどのように活用されていくのか、今後も注目してきたいですね。

出典・参考文献:
https://www.olympics.com/ioc/news/paris-1924-celebrating-a-century-of-change
https://www.pbssocal.org/shows/lost-la/the-olympic-village-in-los-angeles
http://www.olympiakyla.fi/olympiakyla/
https://docomomo.fi/kohteet/olympiakyla-ja-kisakyla/
https://www.onlymelbourne.com.au/olympic-village-melbourne
https://www.joc.or.jp/past_games/tokyo1964/memorialplace/15.html
https://www.barcelonasiempre.com/en/olympic-village
https://www.barcelonabusturistic.cat/en/olympic-village
https://baike.baidu.com/item/北京奥运村/64699923

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