パナソニックの公共施設やオフィスに向けたパブリック建材の新商品に触れた、建築家の小堀哲夫氏(小堀哲夫建築設計事務所)。
彼が常に考えている次世代のオフィスや公共施設で、パナソニック製品はどのような場面で導入できるのだろうか。そして常に建築設計において、その場の可能性の最大化を念頭に置いている小堀氏。次世代の施設には “家”の要素をもつ“ホームユース”が鍵になるとみる小堀氏が抱いた、製品へのさらなる意見や提案はどのようなものだろうか。
小堀哲夫 | Tetsuo Kobori
1971年 岐阜県生まれ。2008年 株式会社小堀哲夫建築設計事務所設立。日本建築学会賞、JIA日本建築大賞、Dedalo Minosse国際建築賞特別賞など国内外において受賞多数。代表作品に〈ROKI Global Innovation Center –ROGIC–〉〈NICCA INNOVATION CENTER〉〈梅光学院大学 The Learning Station CROSSLIGHT〉〈光風湯圃べにや〉など。その場所の歴史や自然環境と人間のつながりを生む、新しい建築や場の創出に取り組む。
前編INDEX
・質感が高く 貼り剥がしが容易な天然木仕上材
・サイズ・面材・機構などをオーダーできる建具と壁
・特定天井の該当個所で設計の自由度を高める軽量天井材後編INDEX
・オフィスにはホームユースが求められている
・ホームユース化するオフィスにフィットする製品
・天然木床材や軽量天井材はここで使えば効果的
・リサイクルを前提としたものづくりでオフィス設計の慣習を変える
── 小堀さんは先進的なオフィスを数多く設計されてきましたが、オフィスのニーズとそこで使われる建材をどのように見ていますか?
小堀 オフィスのニーズは劇的に変わってきています。例えば「オフィスの面積は今はこれくらい必要だけど、何年か後には半分の広さで済む」といった企業もあるでしょう。その結果、唯一無二の固定的な空間か、流動性がありフレキシビリティの高い空間かという二極化が進んでいるとみています。「オフィスは本当にいるのか?」という議論は現実味を帯びており、従来型のオフィスというビルディングタイプは近いうちになくなるかもしれません。
またコロナ禍を経てオフィスと家の概念が変わり、製品でも「パブリック / ホーム」と公私を分けるカテゴリも変化してきていると思います。家具も今は、住宅でもオフィスでも使えるような椅子が売れていますよね。立ち上がるときに少し座面が動くといったオフィス用家具の機能をもつけれど、脚が木でできている住宅用のような椅子をよく見ます。
家の要素をもった「ホームユース」をいかにしてつくるかがオフィスの設計では求められていますし、自分はホームユースで行われる活動の可能性を感じています。「オフィス」は語源からすると、自己表現する仕事を行う場所というのがそもそもの意味です。さまざまな活動ができる関係性をつくる場としてオフィスや家を捉えることで、何かできないかなと考えています。
── 先ほど実際に触れて見たパナソニックの製品についてはいかがでしょう?
小堀 フレキシビリティを高めるという点では、OAフロアに貼って剥がせる、軽量天井材を付け替えられる、建具も変更できるというのはいいですね。すごくフレキシビリティが高く、質感のある唯一無二の世界も追求でき、新しいゾーニングをつくれるように思えました。そうすると、これまでは無難なオフィスをつくるしかないと諦めていたデザイナーも「これを使って設計してみよう」とやる気が出る。そうした可能性をすごく感じました。
また先ほども言いましたけど(前編を参照)、パナソニックのニーズの捉え方がきめ細かいことに驚き、探究の度合いが深いと思いました。間違いなく、住宅事業に長年携わってきたから出てくる着眼点や発想だと思います。きめの細やかさが積み重なって製品ができていることは強みですし、もっとアピールしたほうがいいんじゃないですかね。「我々は住宅のことを知っているからこそできる」みたいに、言い切ってもいいと思いますよ。
住宅の施主は、いい意味ですごくわがままじゃないですか(笑)。リアルに自分のものだからです。その一方でオフィスや公共施設の利用者は、本当に自分のものとは思っていないことも少なくありません。それでは人が寄り付かなくなってしまうので、最近のオフィスや公共施設の設計では、利用者が「自分のもの」と思えるように一所懸命に工夫されています。「借りている場所」ではなく「私の場所」と思えるようになりたいと、ホームユース化しているんです。パナソニックの皆さんには、住宅で培われたきめ細やかさを幅広く製品に取り入れることを、続けていただきたいですね。
── 製品の利用シーンを具体的に思いついたでしょうか?
小堀 そうですね、1つは床材「ボアシス」についてです。あれはぜひ使えるといいなと思っているんですよね。「オフィスといえばタイルカーペット」というイメージがあるところで、天然木の床にすることでホームユース的で「みんなが自由に使っていいんだよ」というシーンをつくれそうです。
ワイワイガヤガヤした中で仕事をしたいというニーズも増えています。でも、自分とは全然関係ないワイワイガヤガヤであれば働きやすいけど、顔見知りが会話している中では集中できない。であれば、他の部署で知らない人ばかりだから仕事がしやすい、そういう発想を持ったオフィスがあってもいいなと思うんです。そのときに、天然木の床材のエリアをつくって「ここは誰でも使えるよ」というゾーンにするようなデザインもできますよね。
特定天井を対象とした「エアリライト」も、天井が高い空間で使ってみたいものです。今はできないということでしたが曲面などのバリエーションが出ると面白いと思いますし、本当は特定天井だけでなく、オフィスの基準フロア用の天井材をつくっていただけるといいなと思います。
システム天井も床のタイルカーペットのように原状復帰のために一度外す場合が多いのですが、一般的なシステム天井はカーペット床と同じように、つまらないんですよね(笑)。また、すでに開発段階に入られているかもしれませんが、「エアリライト」に吸音性能があったらいいなと思います。
── パナソニックの建材に期待されることも具体的にあがってきましたね。
小堀 木材ということでは、最近ではクライアント側から特定の地域産材を利用したいという要望があったり、どこの木材を調達してどこで加工しているのかということにも意識が高まっています。要望の質が、以前とは少し変わってきているわけです。
また今は、企業にとってはリサイクル材をどれほど使っているかは重要になってきていますし、解体や廃棄への問題意識も高まっています。使われた製品は最終的にどうなるかということも今後は確実に関心を集めるようになるでしょう。これから5年から10年のうちに、解体を踏まえて環境に配慮したものづくりが必須になるはずです。
オフィスの原状回復では1回つくって、また壊しては戻すことが習慣になっていて、無駄をすごく感じます。クライアントの中には、フローリングで汚れが目立たないようにユーズド加工をした製品を希望される方もいます。例えば剥がして再利用できる「ボアシス」であれば、ユーズド品のマーケットをつくれるのではないでしょうか。パナソニックなら、ユーザーやクライアント、オーナーなどでリサイクルする関係性をつくることも可能だと思います。
今日はパブリック商材を見て、住宅の領域と連携したパナソニックの開発のすごさを感じたのですが、これからは逆にパブリック商材で培われたことが住宅の領域に向かう現象が生まれるのかもしれませんね。そうした予感を強く感じました。
Interview & text by Jun Kato
Photograph & by toha
■パナソニック関連プロダクト ページ
パナソニックのオフィス・公共・商業施設向け床材
https://sumai.panasonic.jp/public/products/floor/#officeパナソニックの施設・店舗用建材 ベリティス パブリック
https://www2.panasonic.biz/jp/sumai/facilities/interior/不燃軽量天井材エアリライト
https://sumai.panasonic.jp/public/products/airylight/index.html
パナソニック ハウジングソリューションズは、東京ビッグサイトで2023年2月28日(火)〜3月3日(金)開催中の「建築・建材展」に出展。「不燃軽量天井材 エアリライト」「OAフロア用木質仕上材 ボアシス」「自動ドア イーカインド」などを展示する。
そして今なら「カタログ・サンプルセット」をお送りいたします。2023年3月31日までの期間限定。
下記リンクよりお申し込み、お問い合わせ欄に「TECTURE MAGを見た」と記載ください。
https://panasonic.co.jp/ssform/cgi-bin/inq.cgi?ID=JP001_06312_a