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空間デザインのための伝統テキスタイルを活用する

テキスタイルデザイナー福田貴久子氏に聞く『THE “KYOTO” MEISTER COLLECTION』開発ストーリーと活用術

PRODUCT2023.05.11

京都の染織技術をインテリアの分野へと広げる『THE “KYOTO” MEISTER COLLECTION』。京都の匠たちが代々受け継いできた技と知恵、そして伝統的価値を最新のテクノロジーと融合させたデジタルツインカタログとなっています。

京都の伝統染織をインテリアに! 『THE “KYOTO” MEISTER COLLECTION』とは!?

このプロジェクトにおいて、まったく新しいインテリアファブリックのデザインを手掛けたのが、テキスタイルデザイナーの福田貴久子氏です。職人たちの染織技術をどのようにインテリアに展開できるように開発したのか、デザインのポイントなどを詳しく聞きました。

福田貴久子(FUKUDA DESIGN STUDIO)

福田貴久子
兵庫県姫路市出身。東京学芸大学教育学部美術科卒業。テキスタイルデザインアトリエにてデザイン業務に従事した後、テキスタイルメーカーにて企画制作業務に従事。1998年より株式会社イッセイミヤケにて担当ブランドのテキスタイルデザインのほか、ものづくりの活動全般に携わる。2022年よりフリーランスのテキスタイルデザイナーとして独立。

インタビュー写真:TECTURE MAG
上記以外の画像:©2022 Silk Textiles Global Promotion Consortium

■ 京都の自然や文化から得たインスピレーション

── 今回、『THE “KYOTO” MEISTER COLLECTION』のプロジェクトとして、「情景」と題したインテリアファブリックを計12の事業者とともにデザインされました。デザインのポイントはどういったところにあるのでしょうか?

福田:京都のさりげなくも凛とした佇まいを、伝統を守りつつ独自の進化を続けている職人さんたちの技や最新の技術と融合させ、インテリアファブリックとして表現したものとなっています。「情景」と題したのは、どのテキスタイルも京都の自然や文化、繊細な優美さにインスピレーションを受けてデザインしたものだからです。

福田氏による生地仕様書のイメージ(一部)

福田氏による生地仕様書のイメージ(一部)

デザインするにあたっては、『THE “KYOTO” MEISTER COLLECTION』に参加している事業者さんの工場や工房を1軒ずつ回らせてもらいました。世界最高峰ともいえる技術を直接見せていただく中で、新鮮に感じた染めの技法や織りの加工技術に合わせて「こういうデザインをつくりたい」と感じたものを、各事業者につき1素材2配色のデザインに落とし込んでいきました。

例えば、京友禅の「藤田染苑(せんえん)」さんでつくっていただいたものは、図形のようにも見える篆書(てんしょ)で書いた「京都」という文字を分解して組み直すことで文字の柄をつくり、それを天然の藍や植物染料を用いた独自の型染めの技法でプリントしています。「「手捺染(てなっせん)」と呼ばれる技法で、1つひとつがハンドプリントとなっており、歴史は古く紀元前2000年のヨーロッパにまでさかのぼります。染料を乗せて発色させることが困難なため、植物性天然染料による捺染の柄表現は世界的にも珍しく、藤田染苑さんは何年もかけて研究されて、唯一無二の非常に繊細な技法を生み出しています。

京友禅の技法で文字をプリントした「京都」。右は藤田染苑で使用している天然染料

京友禅の技法で文字をプリントした「京都」。右は藤田染苑で使用している天然染料

■ “魔法使いのような” 職人の技術を活かす

── 伝統的な染織技法が息づいているテキスタイルなのですね。

福田:デザインにもそれぞれの技法が生きるようにしました。西陣織の「渡文(わたぶん)」さんに織っていただいた「宵山(よいやま)」は、京都を訪れた際に目にした祇園祭で印象に残った、宵山の駒形提灯がぼんやり灯る風景を表現してもらいました。

宵山

西陣織の技法を用いて提灯が灯る様子を表現した「宵山」

渡文で「宵山」を製作している様子

渡文で「宵山」を製作している様子

見る角度によって色や光沢感が柔らかく変化する織り組織や糸の組み合わせを見せていただいたとき、こんなに微細な表現ができる西陣織の奥深さと、「魔法使い」のような職人さんたちの技術に感動しました。

丹後ちりめんの技法で製作した「さざなみ」のサンプルを手にする福田氏

丹後ちりめんの技法で製作した「さざなみ」のサンプルを手にする福田氏

同じように、丹後ちりめんの「田勇(たゆう)機業」さんに製作していただいた「さざなみ」も、京都の風景——天橋立をモチーフにしたものです。丹後ちりめんの特徴である「シボ」は、さまざまな表情を持っていて、このテキスタイルでは独特の凹凸感や上質な絹のさらりとした風合いで京丹後の美しい海を表現してもらいました。田勇機業さんは、強撚糸(きょうねんし / 強くねじった糸のこと)の使い方で非常に多彩なシボをつくることが可能で、光の当たり方で波のきらびやかな模様が浮かび上がるようにシボの出方を細かく調整してくださっています。

田勇機業での丹後ちりめんによる「さざなみ」製作の様子

田勇機業での丹後ちりめんによる「さざなみ」製作の様子

■ テキスタイルでこれまでにない空間表現ができる

—— インテリア向けのファブリックをデザインするうえで難しく感じたことはありましたか?

福田:インテリアとしての見え方については、今回「ファブリックサンプルブック」のディレクションを担当しているインテリアデザイン事務所 スコアの中川大輔さんと原井順子さんからのご提案をいただきました。例えば壁面やカーテンに使うような大きな面積のもの、クッションなどの小さな面積のものなど、空間における使われ方を想定して、京都の伝統が最も美しく見えるデザインを心がけました。

スコア株式会社

中川大輔と原井順子が主宰する、ホテル、レストランなどの商業空間を手掛けるインテリアデザイン事務所。ブランディング手法を用いてバリューアップを目的とした空間デザインを行う。受け継がれてきた文化や歴史、伝統を学び、潜在的な固有価値を抽出しインテリアデザインに落とし込むことで、そこでしか体験できない魅力ある空間を提供している。
https://scoreworks.jp

『THE “KYOTO” MEISTER COLLECTION』ファブリックの活用イメージ

『THE “KYOTO” MEISTER COLLECTION』ファブリックの活用イメージは、ディレクションにあたったスコアによる空間デザイン。ウインドウトリートメントのほか、ソファの張り地やクッションカバーに用いる例

私自身はファッション業界で長くデザイナーをしていたので、テキスタイルをデザインする場合でも「人が着る」ことを前提にデザインしていました。服の柄が大きすぎると「柄が歩いている」みたいなイメージを与えてしまいますし、全体のシルエットを意識した柄の大きさはもちろん、色使いも肌の色とのバランスを考慮するのがセオリーなんです。

一方でインテリアに用いるテキスタイルは、大きな空間で視覚に訴えるものですよね。だから見え方も違うし、大きな壁面に使うテキスタイルに服で用いるような大きさの柄をデザインしても無地に見えてしまったりして、その良さがうまく伝わりません。例えば先ほど挙げた手染めの京友禅「京都」などは、人が着るテキスタイルの柄としては少し大きすぎますが、パーティションなどで広やかに使っていただけたら、すごく素敵な見え方になると思います。

京都引染工業協同組合の製作による「借景」製作の様子とディテール

京都引染工業協同組合の製作による「借景」製作の様子とディテール

難しく感じたという点では、どのテキスタイルでも製作できる生地幅が限られていることでした。インテリアでは大きな面積で使用することが多いため、布地を接ぎ合わせても柄のイメージが崩れないようにデザイン面で配慮する必要がありました。

けれども多くの職人さんたちにとっては、着物を仕立てる際に柄合わせができるように図柄をレイアウトすることは技術の1つとして伝統的に行われており、全く問題なく対応してくださいました。また、インテリアで使用することから、光による退色に対してどれほどの耐性があるか、防炎加工が可能か、という指標もそれぞれのファブリックでみています。

丹菱で製作した、ちりめんによる「玉砂利」のディテール

丹菱で製作した、ちりめんによる「玉砂利」のディテール

インテリアテキスタイルのデザインというのは私自身初めての挑戦だったので、スコアのおふたりにいろいろと教えていただきながらデザインしました。その中で、インテリアという分野では私がこれまでにやってこなかった表現ができること、またテキスタイルそのものの可能性をすごく感じましたね。

—— 前職ではイッセイミヤケで長くデザイナーを務められています。どのような経緯でテキスタイルデザイナーの道に進まれたのですか?

福田:大学では教育学部美術学科に入ったのですが、在学中はアパレル関係のアルバイトを4年間続けるほどファッションに興味があったんです。卒業後はテキスタイルデザインの図案を描くアトリエに就職して、さまざまな素材や図柄について学びました。その後生地メーカーに転職したのですが、勤める中でファッションとグラフィックの両方をできる仕事がしたいと思い、イッセイミヤケに入社しました。

福田貴久子

同社はアパレルの中でもテキスタイルをとりわけ大切に考えている会社で、なおかつファッションをデザインという大きな視点から見る会社でもあり、すごく面白いものづくりをしていました。テキスタイルデザイナーとして入社しましたが、ものづくりもビジネスもクリエイションだと捉える社風でしたので、企画者の立場から様々な業務に携わらせてもらい、とてもやりがいがありました。

約20年勤務しましたが、シーズンごとの新しいコレクションを作り続けることではなく自分のスピード感でものづくりをしてみたいと考え、その時やっぱり自分の中で一番楽しいと感じるテキスタイルデザインをやりたいと思って独立したというのが経緯です。

独立してからまだそれほど日が経っていないのですが、今回の『THE “KYOTO” MEISTER COLLECTION』のプロジェクトでは、テキスタイルを専門にするデザイナーを探していたということでお声がけいただき、すごく光栄に感じます。

■ 経年変化さえも美しいファブリック

——『THE “KYOTO” MEISTER COLLECTION』でデザインしたテキスタイルを、どのように使ってほしいと思いますか?

福田:今回、非常に多くの職人さんたちと一緒にお仕事をさせていただく中で、みなさん1人ひとりが世界最高峰の技術を持ちつつ、良いものをつくりたいという思いを強くお持ちで、常に努力や工夫を重ねておられることを実感しました。

その一方で、「一緒にものづくりをする」ことを厭わず、こうした新たな取り組みにも積極的に関わってくださいました。そうしてつくられたものというのは、やはり大量に製造されたものにはない美しさがあると思います。手仕事でつくられているからこそ、経年変化さえも美しい。

色が褪(あ)せていくことは、私は悪いことじゃないと思うんです。今回のテキスタイルコレクションは、どれもジーンズのように風合いが変化していく中に良さを見つけられるような、長く愛される素材になっていると思います。そうした楽しみ方も踏まえて使ってくださったら、嬉しいですね。

私を含め、多くの人がさまざまな視点や意見を持ち寄ってできたのが今回のコレクションであり、そうした意味でいろいろな人の「こんなものがあったらいいな」が実現したプロジェクトだといえる気がしますね。

インテリアファブリックの使用イメージ(ディレクション / 空間デザイン:スコア)

インテリアファブリックの使用イメージ(ディレクション / 空間デザイン:スコア)

私は、テキスタイルは人を幸せにするものだと思っています。例えば「このクッション、すごく心地良いな」という感覚だったり、とても好きな肌触りの生地が近くにあることって、大きな幸せを感じられる瞬間だと思うんです。テキスタイルのデザインを通じて、日常にそうした小さな彩りを与え、皆さんに喜びを感じてもらえたら、と思っています。

(2023.03.28 野原ホールディングスにて)

Interview & text: Tomoro Ando

『THE “KYOTO” MEISTER COLLECTION』
「インテリアファブリックサンプルブック」

今回紹介したファブリックそれぞれの詳細や表情がわかる「インテリアファブリックサンプルブック」が完成!

現在、希望者に貸し出しを行っている。申し込みは『THE “KYOTO” MEISTER COLLECTION』カタログページの「お問い合わせ」から。

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「インテリアファブリックサンプルブック」リリース記事
https://nohara-inc.co.jp/news/release/7351/

インテリアファブリックサンプルブック
ディレクション・空間デザイン:スコア株式会社
テキスタイルデザイン:福田貴久子
お問い合わせ:野原ホールディングス株式会社
〒160-0022 東京都新宿区新宿一丁目1番11号
kyoto-meister-collection@vdc-solution.jp

 

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