「発電するガラス」が都市を巨大な発電所に変える - TECTURE MAG(テクチャーマガジン) | 空間デザイン・建築メディア
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「発電するガラス」が都市を巨大な発電所に変える

「発電するガラス」が都市を巨大な発電所に変える

[Interview]パナソニック ホールディングスが挑む「ガラス型ペロブスカイト太陽電池」の社会実装最前線

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政府は3月10日に発表した「先行して検討を進めている主要な製品・技術等の官民投資ロードマップ素案」において、2040年にペロブスカイト太陽電池など次世代型太陽電池の20GW導入を目指すべき姿としています。現状、電力の8割を消費していると言われる都市部では平地面積が限られ、建物屋上もさまざまな設備があるため、太陽光パネルを広く設置することは難しく「電力の地産地消」は進んでいません。

パナソニック ホールディングス 技術部門(以下、パナソニック HD 技術部門)は、同社の材料技術、発電層を外気から保護するガラス封止技術、耐久性向上や大型化の製造技術により、窓や壁面を利用した建築物での発電を目指し、建材一体型太陽電池の開発を推進しています。

今回、同社が開発中の「ガラス型ペロブスカイト太陽電池」がどのような製品なのか、その技術やスペック、今後の展開について、実証実験中の研究・開発拠点「Technology CUBE」で技術部門 ペロブスカイトPV事業推進室の中村雄志氏に話を聞きました。

中村雄志氏

パナソニック HD 技術部門 ペロブスカイトPV事業推進室・中村雄志氏

透過と発電の両立を実現する「ガラス型ペロブスカイト太陽電池」とは

ガラス型ペロブスカイト太陽電池

ガラス型ペロブスカイト太陽電池 採用イメージ

中村雄志氏(以下、中村):パナソニック HD 技術部門で現在開発中の「ガラス型ペロブスカイト太陽電池」は、建築材料として特にビルのファサードや窓ガラスに使うことを想定した太陽電池商品です。特長は独自の材料技術、インクジェット塗布製法、レーザー加工技術を組み合わせることによる、サイズ、透過性、描画の自由度の高さ、そして発電をしながら外側が透過し、視認性も確保するという「透過と発電の両立」にあります。建築物や室内空間に合わせてデザインを工夫できるよう開発を進めており、実証実験ではリーフ柄やグラデーションパターンのものをビジョン部の窓ガラスとして実装しています。

実証実験では、6mm+6mmの合わせガラス構成とし、サイズ・グラフィックパターン・透過性の異なる5枚を設置している

中村:インクジェット塗布した太陽電池材料をレーザー加工により窓ガラスとしての視認性を調整し、透過と発電を両立します。一面に塗布した最も色味の濃い状態の発電量を100%として、発電量を20%下げただけでも透過性に差が出るため、発電量を大きく減らすことなく多様なデザインを表現できると思います。

1枚のガラスの中でも一様のパターンではなく、「腰より下は濃く暗く、目線の高さは抜け感を出す」といったグラデーションの調整もできるため、発電量と空間デザイン、室内にいる人の心地よさを両立できます。リーフ柄のほうは、カラートーンは同じですが明るさを4階調にして、組み合わせてできるパターンのデモンストレーションとして実装しました。

ガラス型ペロブスカイト太陽電池

中村:リーフ柄のようなデザインパターンも塗布した太陽電池材料にレーザーを当てて削り取ることで表現しており、目視でガタつきが視認できないくらいの滑らかさで表現できる技術をもっています。グラデーションだけでなく、複雑なグラフィック、企業のロゴなども高精度で再現ができます。

高精度のレーザー加工技術と濃淡によりさまざまなグラフィックパターンを表現することで、ビルテナントの内装に合わせた意匠のバリエーションが増え、設計者のデザインに応え、空間デザインの一部として検討してもらえると思います。

ガラス型ペロブスカイトPV加工プロセスーイメージ

ガラス型ペロブスカイト太陽電池の加工プロセス(イメージ)

——– どのようにガラス型建材というかたちに帰着されたのですか?

中村:パナソニック HD 技術部門では、シリコン型の太陽電池から次世代型太陽電池など、さまざまな種類の太陽電池の開発をしていて、最初からガラス型を製品化することに絞っていたわけではありません。薄くて曲がるフィルム型なども検討していましたし、建築物の適応、家電に近いものへの適応などいろいろと検討していました。

パナソニックグループとして、中長期環境ビジョン「Panasonic GREEN IMPACT*」を掲げるなか、どのようなかたちで実装すべきかを議論し、「脱炭素の実現に貢献する太陽電池ならば、長く使える製品のほうが脱炭素にもつながるし、お客様にも喜んでもらえるのではないか」ということに行きつきました。そこで合わせガラスの構造を採用して開発を進め、高信頼性と長寿命を実現して建築に広く使ってもらえるようポイントを絞っています。
(* 2050年に向け、事業活動を通じて、より良いくらしの実現と持続可能な社会への貢献を両立することを目指す、パナソニックグループの中長期環境ビジョン)

中村:液体のペロブスカイトという材料は本来、水や空気に弱く非常に不安定な材料です。世の中に普及して使ってもらおうとするには扱いやすく、水や外気から守られたものでなければなりません。複層ガラスや3層ガラスなど、建築ガラスの長期耐用性はすでに実証されているので、ガラスの中に入れれば材料をもたせること、長く使ってもらえることを同時に実現できるのではないかと。加えて設計や施工の面においても、ガラスは設計者が採用することに慣れているだろうということも考えました。

——– ガラスの窓や壁面からどのように発電した電力が取り出されるのでしょうか?

ガラス型ペロブスカイト太陽電池

ガラス型ペロブスカイト太陽電池 採用イメージ

中村:通常のガラスとの違いとして、ガラス型ペロブスカイト太陽電池には「ジャンクションボックス」と呼ばれる電気を取り出す配線ケーブルが付いています。これをビルの系統電力システムに繋いだり、蓄電池に繋いで発電した電力を貯めることができるようになっています。近年、フリーアドレスのオフィスなどで使われる稼働式の小型バッテリーのようなものに貯めたり、近くの照明に必要な電力はガラスから引いたり、電力活用の選択肢が増えるよういろいろなパターンの実証実験をしていきます。

中村:発電のための配線はサッシ枠を通る仕組みで、配線設備は基本的にはサッシの中に収まるよう非常に小さく細い設計になっています。その点は従来の建築ガラスと同じ施工方法で導入できるよう考えました。ジャンクションボックスはガラス1枚1枚に付いており、我々はガラスに挟み込み、ケーブルを出すところまでを製造します。サッシ化やカーテンウォールへの加工はサッシメーカーやカーテンウォールを手がけるパートナー企業と協力し、製品化していく予定です。

私たちで分からない点はサッシメーカーやディベロッパーに、どういった形状にするとサッシの設計がしやすいか、施工しやすいかをヒアリングしています。フレームの細さや納まりなど画一的に決めるのではなく、ケーブルを細く、ジャンクションボックスをさらに小型化するといった改良を重ね、汎用性やデザインの自由度を高めて、建築設計者の方々が採用しやすいように製品化していきたいと思っています。

これから自社の拠点だけでなく、一般のお客様が利用する商業施設、公共施設などでも実証実験をしていきます。サッシや配線の取り出し方を見てもらい、透過性も多くの方々に体験してもらいたいですね。

ガラス型ペロブスカイト太陽電池

Technology CUBEを見上げる

——– 耐久性やメンテナンス性は従来のガラス建材とどのような違いがありますか?

中村:ガラス型ペロブスカイト太陽電池は、今の建築ガラスと同等の信頼性、寿命、そして普及しているシリコン太陽電池と同じ性能をもたせようとしています。ほかの太陽電池と同様に最大で年1%程度劣化する可能性がありますが、建材としてはこのままの形状を保たせるというのが設計思想です。実力値はこれから検証していきます。現在、内部での試験はしていますが、これから外部でも実証実験を行うフェーズです。

メンテナンスに関しては、従来のガラス建材と同様で頻繁に想定していることはありません。万が一、ガラスが飛来物などで割れて取り換えるとなった場合、サッシと同じ方法で交換することを考えています。外壁に使用した場合、光を透過できる程度であればよいのですが、付着する汚れにより発電効率が下がることがあります。既存のオペレーションでメンテナンス清掃を行っていただけると思っています。

ガラス建材であり太陽電池でもあるので、施工には通常の建築工事と電気工事が必要になります。その点をより簡単に、安全にできるようにするため、ガラスメーカーのAGCとパナソニック環境エンジニアリングで実証実験をしています。

パナソニックグループのさまざまな技術を集結し、設計者の要望に細かく対応

ガラス型ペロブスカイト太陽電池

写真提供:パナソニック HD 技術部門

中村:開発中のガラス型ペロブスカイト太陽電池は、従来の結晶シリコン系の太陽電池と同等の発電効率を有し、30cm角モジュールとして業界トップクラスの変換効率18.1%(第三者認証)を達成しています。このように高い変換効率を達成できた背景には、パナソニックグループの総合力があります。長年続けてきたシリコン型太陽電池などの知見に加え、車載電池の材料技術、さらには有機ELディスプレイ開発で培ったレーザー加工技術などがすべて組み合わさっています。

例えば、建築用ガラスのような大きな面積に均一に塗布するインクジェット技術も有機ELに関する開発技術の転用です。太陽電池の知見が長年あったことと、多くの事業部門で技術の蓄積があることはパナソニックグループの強みです。開発チームをつくるときもグループ全体からプロフェッショナルを集めることができ、ゼロから開発するのではなく、社内に蓄積された多様な技術を統合できたことが開発期間の短縮と高性能化につながりました。今後、国内の大手ガラスメーカー、サッシメーカーと共同で開発させてもらい、最終的にはどんな建築ガラスにも対応できるようにする予定です。

中村:製品化にあたっては量産ラインで製造していきますが、基本は「一品一様」のカスタム対応です。建築物のデザインやかたちはもちろん、ガラスもミリ単位でサイズが違いますし、用途や設置階によって厚みも異なります。同じサイズ、形状を大量に製造することより、設計者の意匠の要望にはすべて対応するカスタマイズ性にも力を入れています。

現在、色味の面ではカラートーンは1種類ですが、自社の研究・開発拠点 Technology CUBEでの実証では、4階調でパターンをデザインできるようにしています。将来は、需要に応じて色味のバリエーションも表現できると、より普及が加速すると思っています。

ガラス型ペロブスカイト太陽電池はユーザーが直接、建物の内外から目にするところへ設置するものです。パナソニックはレーザー加工の技術もノウハウももっているので、設計者の面白いデザインを実現できるのではないか、建築物のあり方が変えられるのではないか、と思っています。建築家やディベロッパーが新しい可能性を見出してくれるとうれしいですね。

都市の建築が発電所となり、設計者がエネルギーもデザインする未来

ガラス型ペロブスカイト太陽電池

ガラス型ペロブスカイト太陽電池 採用イメージ

——– この技術が実装されたら、都市の風景はどう変わるでしょうか?

中村:パナソニック HD 技術部門の考える理想形は、ガラス型ペロブスカイト太陽電池が普及し、「エネルギーを使う建築物でエネルギーを発電し、電力の自給自足が当たり前になっている状態」です。窓ガラスが当たり前に発電するようになれば、送電コストの削減や災害時の非常用電源としても機能します。

今年1月にラスベガスで開かれたCES2026において、我々のペロブスカイトが街に普及したらどう変わるかというモックアップを発表しました。将来的に「窓ガラスが発電するのは当たり前」というレベルまで普及すれば、建築家が電気システムまで含めて空間をデザインするような、新しい建築のかたちや建築家像が見えてくるはずです。

ガラス型ペロブスカイト太陽電池

CES2026で展示されたモックアップ(写真提供:パナソニック HD 技術部門)

中村:今は電気について電気設備設計者が考えることが多いかもしれません。これからは建築家のなかにエネルギーデザイナー、エネルギーアーキテクトという職能も当たり前になり、新しいジョブや需要が生まれるのではないでしょうか。

現状の延長で考えるとなかなかそういった発想にならないと思いますが、今後、みなさんに見てもらえるところでの実験も増やしていき、設計者やユーザーと共創して都市のあり方を変えていきたいと思います。

 

 

インタビュー:2026年3月19日 パナソニック ホールディングス 技術部門 Technology CUBEにて
Photograph:Kei Sasaki

 

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