東京・原宿にある〈Seiko Seed〉にて、Seiko Seed Exhibition「からくりの森 2023」が10月13日より開催されています。
〈Seiko Seed〉は、セイコーウオッチの新たな情報発信拠点として、JR原宿駅前の大型商業施設〈WITH HARAJUKU(ウィズ原宿)〉の1階に2022年10月20日にオープンしたもので、ちょうど1年前にこけら落としとなる企画展「からくりの森」が開催されました。
会場レポート:セイコーウオッチの新たな情報発信拠点〈Seiko Seed〉がウィズ原宿にオープン、クワクボリョウタ氏とnomenaによるインスタレーション「からくりの森」は11/20まで会期延長!
本展では、セイコーの機械式腕時計のムーブメントを用いての作品およびインスタレーションがそれぞれ展開されています。
展覧会ディレクターは平瀬謙太朗氏が担当。クリエイターとして、1年前にも作品を出品したエンジニア集団・nomena(ノメナ)のほか、松山真也氏が代表を務めるsiro(白)、東京とロンドンに拠点を構えるデザインエンジニアリングスタジオのTANGENT(タンジェント)、そしてセイコーウオッチのデザイン部の4組が参加し、それぞれの作品を披露しています。
初日の13日に開催されたプレスカンファレンスを『TECTURE MAG』では取材、本展の概要と会場の様子を速報します。
INDEX / クリエイター4組による展示作品
・〈連鎖するリズムのコラージュ / A Collage of Chained Rhythm〉by nomena
・〈時のしずく / Drops of Time〉by siro
・〈時の鼓動 / Heart of Time〉by TANGENT
・〈時のかけら / Fragments of Time〉by セイコーウオッチ
平瀬氏によれば、参加クリエイターに対して、セイコーが機械式腕時計を用意。各組で分解して再び組み立て直すワークショップを行っています。そのときの経験が、本展のテーマとタイトル「機械式腕時計 と Animacy (生命感)の正体」の決定に大きな影響を及ぼしたとのこと。
「時計とは、淡々と時を刻み、正確無比に動き続けるものです。生命や有機性というイメージの対極にあり、振る舞いも逆です。にもかかわらず、分解した後で各組が申し合わせたように『生きものみたい』と表現した。とてもおもしろい現象でした。Animacy (生命感)をテーマに据え、展覧会へ向けて全体を組み上げていきました。」(プレスカンファレンスにて、平瀬氏談)
クリエイターコメント
初めて機械式腕時計を分解した体験は、驚きの連続だった。
洗練された部品はひとつひとつが美しく、それらが複雑に組み合って動く様は、機械を超えた生命感や時間を司る物理法則そのものがかたちになったような純粋さすら感じさせた。
それが人の手で生み出されたものであることの驚異に触れた時、自らの手で歴史上の時計機構を再現することで、先人たちの創意工夫の積み重ねを追体験したいと考えた。かたちの意味、小さいことの難しさ、正しく時間を刻むこと。自らつくることで初めて感じる技術者たちの試行錯誤の跡。
作品はセイコーの機械式腕時計が0秒(編集部註.12時)を指した時を合図に動き始める。自らの歴史を振り返るように、動きは隣接する機構へと連鎖し、それぞれのリズムを刻む。過去から現代、そして未来へと機械式腕時計の技術のバトンは受け継がれていく。企画制作:nomena
制作協力:セイコーウオッチ
クリエイター プロフィール
nomena
エンジニアの武井祥平氏が中心となり2012年に設⽴。以来、⽇々の研究や実験、クリエイターやクライアントとのコラボレーションを通して得られる多領域の知⾒を動⼒にして、前例のないものづくりに取り組み続けている。近年では、宇宙航空研究開発機構JAXAなどの研究機関との共同研究や、「東京2020オリンピック」における聖⽕台の機構設計などに参画している。主な受賞歴に、⽂化庁メディア芸術祭アート部⾨優秀賞(2022)、Pen クリエイターアワード(2021)、DSA ⽇本空間デザイン賞⾦賞(2017)、⽇本サインデザイン協会SDA 賞優秀賞(2017)、東京都現代美術館ブルームバーグ・パヴィリオン・プロジェクト公募展グランプリ(2012)ほか多数。
nomena Website
https://nomena.co.jp/
クリエイターコメント
「歩度測定器」というものがあることを知った。時計の速度を調整するための測定器だが、実は機械式腕時計の「音」を使って計測している。まるで人間が「心臓の音」を聴くことで健康状態をみているかのようだ。機械式腕時計の音を聞いた当初から持っていた「生きているみたいだな」という感覚は、これを機に一層強まった。
私たちは正確に刻まれる「時」そのものにも想いを馳せた。議論を重ねる中で、「水」を使って「時」を考えてみてはどうか、と思った。刻々と生まれる水滴が、時間の経過と共に一つになり溜まっていく。そんな「時を刻むもの」を考えた。
「時のしずく」は、機械式腕時計の正確な音を「心臓」として時を刻む、水滴の時間表現装置。水滴の振る舞いを眺めつつ、時を忘れて御覧いただきたい。企画制作:siro
共同制作:セイコーウオッチ
ディレクション:松山 真(siro)
制作メンバー:神山友輔(SPLINE DESIGN HUB)
渡辺浩彰(VODALES)
松下裕子
狩野涼雅(siro)
森 隆太(siro)
クリエイター プロフィール
siro
siroは、ものづくりの会社です。我々が考える「ものづくり」とは、コンセプトや企画から始まり、デザインやエンジニアリングなど様々なスキルを集結し、絶妙なチームワークで最高に素晴らしいものをつくることだと思っています。siroでは、さまざまな社外の才能と親密な連携により仕事をしています。今回の「からくりの森」の制作チームも、siroの社外のメンバーも多くコミットしています。デザイナーやエンジニアなどのスキルで構成されているチームですが、それぞれ作品を作る活動もしているメンバーでチームを作りました。それぞれのスキルやアイデアを集め、高め合いながらいい作品につなげていきます。
siro Website
https://si-ro.jp/
クリエイターコメント
機械式腕時計の中には、一定のリズムを刻み続ける部品がある。
その部品は時を正確に測る・示すための核であるが、単体では時刻を表すことはなく、ただ揺れ動いている。
その様子を眺めていると、人間の作った文字盤は時間を表すひとつの手法にすぎず、それとは無関係に時間は流れ、刻まれ続けていることを感じた。
本作品では、機械式腕時計の部品を石に埋め込むことで、そのような時間の普遍性の可視化を試みた。
人の心臓を模した位置で動き続けるその部品は、人と石の時間の根底には同じ時間が流れていることを示している。
長くて100年の人生である我々と、地球の誕生から姿かたちを変えながら46億年の時を経た石も同じ時を刻み、人にとっての1日は石にとっても1 日であり、すべてのものは時間を共有しながら、日々変化し、生きているのである。企画制作:TANGENT
共同制作:セイコーウオッチ
デザイン:舌 佑樹 (TANGENT)
制作協力:大蔵山スタジオ
クリエイター プロフィール
TANGENT
2015年に吉本英樹氏がロンドンで設立。デザインとエンジニアリングの発展的な融合を得意とし、世界的なラグジュアリーブランドに多くのデザインやコンセプトを提供するほか、テクノロジー起点の新規事業開発から街づくりまで、幅広い領域のプロジェクトに携わる。近年では、日本の伝統工芸と先端技術を繋ぐ国際的なイニシアティブ「Craft x Tech」を創立し、日本文化の進化・継承にも取り組んでいる。TANGENT Website
https://www.tngnt.uk
クリエイターコメント
人はもともと「時」をどのように意識していたのだろう?
月の満ち欠け。水の流れ。影の傾き。草花の成長。きっと自然の現象から「時」の移り変わりを感じていたはずだ。
太陽の光を使った日時計。水の流れを使った水時計。そして、金属のばね性を使った機械式腕時計。時計の進化はいわば「自然のちから」を凝縮する歴史であり、その軌跡は、歯車の形や素材といった時計機構全ての部品にあらわれている。
しかし、正確な時刻が画面上でいつでも確認できる現代では、「時」は均一な情報となり、その背景を意識することは少なくなった。
本作品は、自然から贈られたモチーフを時計機構の動きに重ねあわせ、機械たちに凝縮されていた「自然のちから」の解放を試みたものである。機械式腕時計ならではの秒針の拍動が、ワイヤーに繋がれたモチーフを通じて空間全体に拡張され、機構の奥に潜む自然の息吹を感じさせる。健気に動き続ける小さな機械たちが生み出す情景を通して、それぞれの「時」の記憶に思いを馳せてほしい。
企画制作:セイコーウオッチ 時計設計部・デザイン部
制作アドバイス:平瀬謙太朗
クリエイター プロフィール
セイコーウオッチ
1881年の創業以来、セイコーは創業者の信条「常に時代の一歩先を行く」とともに、精度と美しさへの飽くことない探究により、日本初の腕時計や、世界初のクオーツ式腕時計など、数々の革新的な腕時計を人々の手に送り届けてきた。現在、世界でも数少ないマニュファクチュールとして、先進技術と匠の技を組み合わせ、日本の美意識に基づく腕時計により、ユーザーの感性に響く「喜びと感動」を提供し続けている。セイコーウオッチ ウェブサイト
seikowatches.com/
会期中、ギャラリーツアーやワークショップが行われる予定です。詳細が決まり次第、特設サイトにて告知されます。
展覧会コンセプト
機械式腕時計とAnimacy(生命館)の正体
不思議なことが起こった。
近年、「機械」と呼ばれるもののほとんどは電気の力で動いている。
私たちは、電気の力に疑いを持たず、そればかりか、まるで電動であることが、
正確・精緻であることを保証しているかのようにすら感じている。だからこそ、私たちは「機械式腕時計」という存在に感動してしまう。
眼の前で狂いなく正しく時を刻み続けるこの小さな機械が、電気ではなく、人が手で巻いたぜんまいの力によって動いているという事実。
そして、それを実現している恐ろしく精巧な機構と、その美しさに心を奪われる。本展は、その抗いがたき感動を受け取った4組のクリエイターが、
「機械式腕時計」の魅力を独自の視点から解釈し、各々の表現によって再構成する展覧会として始動した。しかし、そんな最中、不思議なことが起こった。
それぞれの作品の制作が始まってみると、まるで示し合わせたかのように、すべてのクリエイターからある共通のキーワードが出てくるようになったのである。
Animacy = 生命感
たとえそれが無生物であっても、まるで生きているかのような有機的な振る舞いに、私たち人間が「生命感」を感じてしまう認知現象は、決して珍しいことではない。
しかし、この「機械式腕時計」の振る舞いは、むしろ、その逆である。
正確無比に、淡々と、規則正しく針を動かし続ける機械。それが「時計」である。では一体、彼らは「機械式腕時計」の何処に、「Animacy(生命感)」を見出したのか。
結果として、
本展は「機械式腕時計」というモチーフを通じて、時計に宿る「Animacy(生命感)」の正体を、4つの視点から垣間見ようとする展覧会として再構築されることとなった。また、言うまでもなく、ぜんまいを巻く限りいつまでも動き続ける「機械式腕時計」は、持続性の低いエネルギーに多くを託して生きている私たちにとっては「永続性」の象徴とも読み解ける。
その小さく、しかし力強い針の動きをじっと見ていると、
700年以上の歴史をもつこの機械の中に、私たちが歩むこれからの未来への手がかりが隠れているのではないかと、どうしても期待してしまう。展覧会ディレクター プロフィール
平瀬謙太朗
1986年サンフランシスコ生まれ。慶応義塾大学SFC脇田玲研究室卒業。東京藝術大学大学院映像研究科 佐藤雅彦研究室修了。2013年デザインスタジオ・CANOPUSを設立。2020年映画・映像の企画事務所・5月を設立。メディアデザインを活動の軸として、映像・映画・デジタルコンテンツ・グラフィック・プロダクトなど、さまざまなメディアにおける新しい表現を模索している。CANOPUS Website
https://spnc.jp/
会期:2023年10月13日(金)〜12月24日(日) ※会期中無休
開場時間:11:00-20:00(入場は19:45まで)
会場:Seiko Seed(セイコーシード)
所在地:東京都渋谷区神宮前1-14-30 WITH HARAJUKU 1F(Google Map)
参加クリエイター:nomena / siro / TANGENT / セイコーウオッチ デザイン部
技術監修:セイコーウオッチ 時計設計部
展覧会ディレクター:平瀬謙太朗
プロデューサー:桐山登士樹(TRUNK)
グラフィックデザイン:小島利之(小島デザイン事務所)
撮影:大木大輔
Seiko Seed「からくりの森 2023」特設サイト
https://www.seiko-seed.com/karakurinomori2023/
「DESIGNART TOKYO 2023」開催概要
https://mag.tecture.jp/event/20231018-100438/