東京・飯田橋の日建設計東京ビルにて「暮らしのアイデア55展」が開催中です。
少子高齢化や人口減少、世帯構成の変化、テレワークの定着。社会やライフスタイルが大きく変化する今、住まいには「変化を受け入れる柔軟さ」と「持続可能性」が求められています。このような変化の中で、日建設計が提案するのは“変化を受け入れる器”としての住宅のあり方です。
今年は、1970年に分社した日建ハウジングシステムが55年の歩みを経て再び統合された節目の年。本展では、集合住宅設計で培った知見をもとに、「変化する暮らし」に応えるための住まいのアイデアが紹介されています。会場では、現物展示や模型、家具プロトタイプ、映像など通して、建築と暮らしがどのように関係し合い、変化していけるのかを体感できる構成になっています。

Reforest(再生する)、Relax(癒やす)、Recreate(創造する)をコンセプトに、国産材を活用した可変型家具・空間システムを展示。組み替え可能な構造体とパーツを組み合わせることで、用途や場所に応じてしなやかに変化する家具・空間を実現。住宅からオフィスまで幅広い空間と用途に対応できる柔軟なデザインを提案しています。

[1F]R³ Reforest × Relax × Recreateのキャスターシリーズ(畳)
渋谷 篤氏(設計監理部門 ハウジングシステムグループ 部長)
「暮らしのアイデア55展」では、これまでに培った知見を再構築し住宅の新しい可能性を探っています。展示タイトルの「55」は、長年の活動を象徴する数字として設定され、数多くのアイデアの中から現代の暮らしに即したテーマを厳選しました。また、単なるパネル展示ではなく、身体的体験を通して、住まいのデザインを実感できる構成となっています。
会場では、住宅を単なる建築物としてではなく、社会課題を解決するための“生活の器”として捉え直す視点が示されています。人口動態や住宅ストック数といったデータに基づき、これからの住宅が果たすべき役割を問いかける内容です。また、日建設計が住宅分野にも深く関わっていることを広く知ってもらう機会にもなっています。
展示什器や素材は、過去に東京ビッグサイトで使用したものを再利用しています。その後は一度分解してオフィスへ移設して再構成しました。磁石を用いた軽量パネルや印刷クロスなど、若手社員の創意を活かした再利用型の構造も見どころのひとつです。また、展示で使用している家具や設備の一部は、実際にオフィスでも使っています。循環式のレンジフードや吊り下げ構造の什器などは、社員が日常的に使いながら改良を重ねています。建築における“サーキュラーデザイン”をオフィスの中でも実践しています。
日建ハウジングシステムの統合により、住宅・オフィス・教育施設などの領域を越えた提案が可能となった今、暮らしと働く場の境界を超える新たな設計思想が生まれつつあります。住宅設計に留まらず、社会の変化に応じて柔軟に拡張する“生活空間のデザイン”へと発展していく姿勢が、この展示全体の軸となっています。さらなる新しい展開が生まれることに大きな期待を寄せています。

[1F]キャスターシリーズ BASE内部は収納として利用可能

[1F]R³ Reforest × Relax × Recreateのパーティションシリーズ。接着面は磁石で固定

[1F]可動式キッチンユニット「Imagie kitchen」(三井不動産レジデンシャルとの共同開発、商標登録は三井不動産レジデンシャル)
レールや敷居を使わずに間取りを自在に変えられる可動間仕切りシステム。パネルや引き戸、吊棚を組み合わせることで、工事を伴わずに、住まいの「間」を日常的に更新できる仕組みです。住居に限らず、オフィスや医療施設、店舗など多様な空間への展開も可能。暮らしの変化に応じて、空間を呼吸するように調整できる仕組みです。
渡辺いづみ氏(設計監理部門 ハウジングシステムグループ lid lab課 アソシエイト)
「自在区 ZIZAIKU」は、マグネット式の可動間仕切りシステムです。天井に鉄板を設置し、磁力でパネルを固定することで、レールやビスを使わずに空間を自由に区切ることができます。アジャスターによる安定構造を備え、引き戸レール部分もマグネットで脱着可能。建具を立て込むだけで壁や扉が成立する仕組みです。従来の可動間仕切りがレールの位置に制約されるのに対し、自在区はどの位置でも設置できる自由度が特徴です。
このシステムは、東京オリンピックのゲストハウスでも実際に利用され、宿泊ユニットの間取り調整に活用されました。住まいでは、子どもの成長や家族構成の変化に合わせて、リフォームすることなく間取りを変化させることが可能で、週末にパーティーやイベントがある際は広い空間を生み出すなど、日常の“間”を柔軟に更新できます。賃貸住宅でも、入居者の希望に合わせたレイアウト提案が可能となり、管理側にとっても運用効率が高くなる仕組みです。
また、「R3プロジェクト」においてはR3パーテーションシリーズは木のフレームの梁座にスチールプレートを張り巡らせることでマグネットを装着した黒板やブラインド、カーテンなどを簡単に付け替えられるため、学校やマンションの集会室、災害時の救護スペースなど、公共空間への応用も視野に入れています。収納付きの可動家具や畳モジュールを組み合わせれば、だいたい四畳半の空間の和室や多目的教室など多様なシーンを即座に構築可能です。生活と社会の変化に寄り添い、“空間を動かす”という新たな建築的発想を体現したプロジェクトです。

[2F]「自在区 ZIZAIKU」実寸展示
ワークウェアプロジェクト「SWITCH WEAR」
「現場でもカッコよく働きたい」そんな女性設計者の声から生まれたワークウェア。試行錯誤を重ね約一年をかけて開発されました。建築素材のタイベックを採用し、軽量かつ耐久性、収納性を兼ね備えています。女性ならではの視点から生まれたアイデアは、現場だけでなく日常にも馴染むデザインとなっています。
𠮷岡 智子氏(設計監理部門 ハウジングシステムグループ ダイレクター)
女性社員の増加に伴い、現場服の課題が気になりはじめ、もっとかっこいいものを作りたいと思いました。アンケートの結果、軽くて運びやすい以外にも、急に現場に行く必要が出た場合に備え、上から着れる少し大きめサイズが理想的など、必要な要素が見えてきて。検討の結果パーカーの形になりました。建築資材と親和性のある素材を使いながら、軽くて機能的なデザインを追求しました。もともとは社員用につくったものでしたが、同じようにコンセプトからの開発という流れからうまれたワークウェアを、建築現場以外の方にも使ってほしいという思いが芽生えました。色々な提案していく中で、今では養鶏場のユニフォームとしても利用していただいています。
製品名の「SWITCH WEAR」には、”服を着ることで気持ちが切り替わる”という意味が込められています。単なる制服ではなく、着ることでモチベーションが上がるようなワークウェアを目指しました。

[1F]ワークウエアプロジェクト「SWITCH WEAR」
全国的な課題である「放置竹林」に着目し、竹を資源へと転換するため、竹の強度・弾力性を活かした集成材構造を研究。鹿児島大学、株式会社ハフニアムアーキテクツと共同で「竹集成材構造モデルプロジェクト」を始動し、国内初の性能評価を取得。地域資源を循環させることで、自然と共生する新しい住宅文化の形を模索しています。
古山明義氏(設計監理部門 ハウジングシステムグループ 部長)
竹は木ではなくイネ科の植物で、建築基準法やJIS・JASにも構造材としての記載がないため、利用には性能評価書の取得が必要です。そのため、竹を集成材として使うというプロジェクトを通して、性能評価を取得しました。かつて日本では生活の中で多用されていた竹ですが、安価な海外製品やプラスチックの普及により需要が減少し、その結果、手入れされない「放置竹林」が増え、獣害や土砂災害などの問題を引き起こしています。竹は3〜5年で資材として利用でき、伐採後も地下茎から再生し続ける循環性の高い素材です。しかも強度は杉やヒノキの約1.5倍。また、乾燥工程を適切に行えば割れにくく、曲げ方向の強度にも優れています。戦前の建築には、鉄筋コンクリートではなく竹筋コンクリートという、鉄筋の代わりに竹を使っている建物があるくらい、竹の強度は高いのです。
現在、この強度を活かしたプロジェクトの実用に向けた段階にあり、実際に建築に活用するパートナーを募集しています。都市部は防火規制が厳しいため、比較的地方との親和性が高いので、地域資源の活用による地方創生の観点からも可能性の枠が広い印象もあります。

[2F]パネル展示「新しい価値体験と Well Beingを実現する住まい」エリア
多様性・持続性・コミュニティをキーワードに、これからの集合住宅の在り方を再構築。プライバシーと交流を両立する「コミュニティコリドー」や、ライフステージに応じて空間を拡張できる「アネックスユニット」など、住まいの柔軟性を高める提案が示されています。再生素材や自然換気、緑化など、環境配慮にも重点を置き、これからの都市型集合住宅の姿を提案しています。

[2F]パネル展示「多様な暮らしに対応した柔数性の高い住まい」エリア

[2F]THE LANDMARK & SWANLAKE RESIDENCESの模型

[1F]日建設計の歩みと集合住宅のこれからの課題について映像と展示で紹介

[1F]床に示されているのは集合住宅「大倉山ハイム」の住戸プランの一部を実寸大

[1F]ハウジングシステムグループ歴代ノベルティ
今回の展示では、日建設計が積み重ねてきた集合住宅設計の知見を社会に還元し、変化する暮らしに応えるデザインの方向性、姿勢が示されています。社会の変化に柔軟に寄り添いながら、環境に配慮した“これからの住まい”を考えるきっかけとなる展示となっています。
「暮らしのアイデア55展」開催概要
日時:2025年10月7日(火)~ 2025年12月5日(金) 9:00-17:00
会場:日建設計東京ビル1・2F
所在地:東京都千代田区飯田橋2-18-3
入場料:無料※ 土日祝日は閉館
主催:株式会社日建設計
企画:ハウジングシステムグループ
公式サイト:https://www.nikken.co.jp/ja/news/news/2025_09_26.html
イベントに関するお問合せ:日建設計広報室
Tel:03-5226-3030
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