長崎・南山手の丘、かつての外国人居留地に佇む歴史的建造物。その記憶を現代のラグジュアリーへと昇華させた「ホテルインディゴ長崎グラバーストリート」は、森トラストが手掛ける意欲的な再生プロジェクトです。この難易度の高いフルリノベーションにおいて、空間の質を決定づけるマテリアルとして選ばれたのが、ボード株式会社の薄型天然木床材「スリムウッド」でした。設計を手掛けたDESIGN STUDIO CROW(以下CROW)に、その選定理由と設計の裏側を詳しく伺いました。
――今回の「ホテルインディゴ長崎グラバーストリート」は、非常に重厚な歴史を持つ建物が舞台ですね。まずはプロジェクトの背景について詳しくお聞かせください。
藤本泰士(以下、藤本): 舞台となったのは、長崎の南山手にある、かつて外国人の商人たちが多く住んでいた閑静なエリアです。そこにある歴史的な修道院をホテルへと改築し、さらに隣接して新築棟を建てるという計画でした。既存の建物を活かす「本館」のフルリノベーションと、現代的な「北館」の新築という、性質の異なる二つのプロジェクトが同時に動く非常に難易度の高いプロセスでした。

――デザインの核となるコンセプトはどのように導き出されたのでしょうか。
藤本: 長崎独自の「和華蘭(わからん)文化」を現代的に再構築した「時空を旅する」という物語を掲げました。長崎はまさに「ネタの宝庫」であり、和・中華・オランダの文化が混ざり合って生まれたプロダクトや情緒が至る所に存在します。それらをストーリーとして一つひとつ紡ぎ直し、ゲストが滞在を通じてこの地の魅力を再発見できるようなホテル作りを目指しました。
具体的には、パブリックエリアをかつての「社交場」に見立て、客室は「商人たちのコレクションに囲まれて住まう空間」とするなど、エリアごとにテーマを細分化しています。
――歴史的な建物を扱う上で、設計時に特に意識されたポイントは?
藤本: 歴史に寄り添いすぎず、あえて「対比」させることです。レンガ造りの趣ある雰囲気にマッチするものをそのまま作っても、新しい価値は生まれません。現代的なインテリアを「対比」させることで、それぞれの良さを引き立たせるアプローチを採りました。その対比を支える上で、床材の「質感」は極めて重要な要素でした。
――床材として「スリムウッド」をスペックインされた決め手は何だったのでしょうか。
藤本: このような高いポテンシャルを持つ建物では、決してチープな素材は選べません。昨今はプリント技術も進化していますが、やはり自然光がさんさんと入る客室などでは、シート材特有のラミネート感が出てしまいます。
スリムウッドは表面に天然木を使用しているため、納めてしまえばプロの目で見ても本物と区別がつかないほどのクオリティがあります。一枚ごとに異なる天然木ならではの表情や揺らぎが、ブティックホテルに求められる情緒的な豊かさを担保してくれると考えたのです。

――リノベーション特有の課題として、既存建物との取り合いがあったかと思います。
藤本: 改修現場では、既存の床高の制約があるため、レベル合わせ(段差解消)が常に大きな課題になります。ホテルはエリアによってタイル、カーペット、フローリングと素材が頻繁に切り替わりますが、スリムウッドはその圧倒的な「薄さ」ゆえに、他素材とのフラットな納まりを容易にしてくれました。
また、本館(改修)と北館(新築)では床のコンディションが全く異なりますが、施工性の高いスリムウッドを使うことで、施設全体に統一感のあるデザインを展開できた点も大きなメリットでした。

――不特定多数が利用するホテルにおいて、メンテナンス性についてはどう評価されていますか。
藤本: 非常に重視しています。スリムウッドは特殊な塗装と複合樹脂シートを組み合わせているため、へこみ傷やすり傷に非常に強く、土足でハードに利用される百貨店の共用部などでの実績もあります。天然木の美しさを享受しつつ、ホテル運営に必要な堅牢性を備えている点は、設計者として大きな安心材料になります。
――ボード社の製品ならではの強みを感じる部分はありましたか?
藤本: 「合わせやすさ」ですね。ボード社はスリムウッドと同じ色味や質感で、天然木化粧合板などの壁材も揃えることができます。メーカーが異なると微妙なズレが生じてしまいますが、シリーズで統一できるため、空間全体のトーンを完全に一致させることができました。

――最後に、今後の製品展開への期待をお聞かせください。
藤本: 「室内の床材をそのまま屋外のデッキまで伸ばして視覚的な広がりを作りたい」という要望が多いため、外部で使えて内装と表情を合わせられる材料には非常に期待しています。また、この薄さで「うづくり」のような深い木目の凹凸を表現できれば、光の当たり具合でさらに表情が豊かになるはずです。歴史の深みを現代に編み直すためのツールとして、さらなる進化を楽しみにしています。
■ボード株式会社
公式WEBサイト:https://www.board.co.jp/