「Live with nature. / 自然と共に生きる。」を掲げ、都市と自然を行き来するセカンドホームサービス「SANU 2nd Home」を展開するSANU。デジタル加工やモジュール化を駆使した「建築のプロダクト化」によって、一品一様が前提とされてきた建築業界において、美しさや快適性と、技術開発・量産との高度な両立に挑んでいます。
今回は、建築プロダクトの企画・設計・開発を統括する安齋好太郎氏にインタビュー。「建築のプロダクト化」がもたらす施工負担や環境負荷の軽減、継続的な技術開発のメリット、100年先の森を見据えた素材の循環、そして、建築の力で世界中の自然を身近な目的地へと変えていく今後の展望についてお話を伺いました。

安齋好太郎 氏。
安齋好太郎 氏(以下、安齋):私たちは「Live with nature. / 自然と共に生きる。」を掲げ、都市と自然を行き来するライフスタイルを提案しています。それがセカンドホームサービス「SANU 2nd Home」です。私は、その空間を支える建築プロダクトの企画・設計・開発を統括し、事業・設計・製造を横断しながら、新しい建築のあり方を形にしています。
私がこうした建築や暮らしのあり方を追求している背景には、自身の原体験があります。これまで数多くの山を歩き、自然の中で何度も言葉を失うような景色に出会ってきました。そのたびに感じてきたのは、自然には単に美しいだけではなく、人の価値観を変え、人生そのものを豊かにする力があるということです。
だからこそ、この感動を限られた人だけのものにせず、より多くの人へ届けたい。その想いが、今の仕事の原動力になっています。
SANUが掲げる「Nature for all. ── 自然と共に生きる喜びをあらゆる人に届け、地球の美しさを明日へ繋ぐ。」というミッションは、単に自然の近くに建物をつくるということではありません。自然と出会い、心が動き、人生が少し豊かになる目的地を、世界中につくっていくこと。そして、その1つひとつの場所から、人と自然の新しい関係を育んでいくことです。
まだ誰も見たことのない景色や体験を、建築の力で世界中につくっていく。その挑戦の真ん中にいられることに、大きなワクワクを感じています。
安齋:建築の歴史を振り返ると、その始まりは雨風や寒さ、野生動物などから人を守る「シェルター」でした。その後、技術の進化とともに、人々の暮らしをより安全で快適にするものへと発展してきました。その役割は今も変わりません。しかし、これからの建築には、もう1つ新しい役割があると考えています。
それは、人と自然をもう一度近づけることです。
都市で暮らす時間が長くなった現代だからこそ、自然の中で光や風、音、香りを感じながら過ごす時間には、人の価値観を変え、人生そのものを豊かにする力があります。建築は、そうした体験を生み出す存在になるべきだと思っています。

〈BEE〉Photo: Kohichi Ogasahara
安齋:もちろん、その体験を一部の人だけのものにしてはいけません。私たちが掲げる「Nature for all. ── 自然と共に生きる喜びをあらゆる人に届け、地球の美しさを明日へ繋ぐ。」を実現するためには、より多くの人が自然へアクセスできることが重要です。そのために取り組んでいるのが、建築のプロダクト化です。
プロダクト化することで、品質を安定させ、コストを最適化できることは大きな価値です。しかし、それ以上に重要なのは、これまで一般的な建築では難しかった研究開発に、継続して取り組めるようになることです。
建築は通常、1棟ごとの予算や工期の中で完結します。そのため、新しい素材や構造、製造方法、エネルギー技術など、本当は挑戦したくても、開発コストや時間の問題で実現できないことが数多くありました。一方、建築をプロダクトとして継続的に供給することで、研究や技術開発に投資できるようになります。さらに、実際に使われた建築から得られるフィードバックを次の開発へ反映し、建築そのものを進化させ続けることができます。
建築を「一度つくって完成するもの」ではなく、「使われながら進化し続けるプロダクト」へ変えていく。それが、私たちの目指しているものづくりです。

〈BEE〉Photo: Junya Igarashi
安齋:現在は国内でその基盤づくりを進めていますが、その先には世界を見据えています。2030年を目標に、高度に自動化したマザー工場を国内で稼働させ、建築をより高品質に、より効率的につくる新しい製造プラットフォームを実現したいと考えています。
その工場は、単に建築を量産するための場所ではありません。世界中の建築から得られるフィードバックをもとに、新しい素材や構造、エネルギー技術、製造技術を研究・開発し続ける、建築の研究開発拠点でもあります。
そこで生まれた技術を世界へ展開し、それぞれの地域の気候や自然環境に適応した建築をつくっていく。そして、水やエネルギーを自給するオフグリッド技術なども組み合わせることで、自然への負荷をできる限り抑えながら、人が自然の中で快適に過ごせる環境を実現していきます。
建築とは、本来、自然に手を加える行為です。だからこそ、私たちはテクノロジーの力でその影響を最小限に抑え、これまで行くことが難しかった場所や、暮らすことが難しかった自然の中にも、人が安心して滞在できる環境をつくっていきたい。
世界中の自然を、誰もが訪れたくなる目的地へ。その未来を、建築の力で実現していきたいと思っています。

〈MOSS〉Photo: Ryo Tsuchida
安齋:現在、SANUには大きく2つの設計チームがあります。1つは、これまでお話ししてきた建築プロダクトを開発する「プロダクトチーム」。もう1つは、敷地ごとの個性や可能性を引き出す「アーキテクトチーム」です。
この2つは競い合う存在ではなく、それぞれ異なる役割を担っています。プロダクトチームは、品質・コスト・施工性・生産性まで含めて最適化し、多くの人へ届けられる建築をつくるチームです。一方、アーキテクトチームは、特殊な敷地やリノベーション、まだプロダクト化されていない新しい建築など、1つひとつの場所と向き合いながら、新たな可能性を探る役割を担っています。必要に応じて外部の建築家やデザイナーとも協働し、プロダクトの枠を広げる挑戦も行っています。

〈SKY〉Photo: Tatsuya Kondo

〈ARC〉Photo: Ryo Tsuchida
安齋:大切なのは、どちらが優れているということではありません。アーキテクトチームで生まれた新しい発想や技術は、将来のプロダクトへと還元されます。一方で、プロダクトチームで培った品質や製造の考え方は、アーキテクトチームの建築にも活かされています。
この2つのチームが互いに学び合い、循環することで、建築そのものを進化させていく。それが私たちの設計体制です。
建築を考えるときに、私たちが最初に考えるのは、「どうすれば自然が主役になれるか」ということです。地形や樹木、風、光、雨、音。その土地がもともと持っている自然環境を丁寧に読み解き、建築はそれを邪魔するのではなく、自然の魅力を最大限に引き出す存在でありたいと考えています。
そのうえで、事業として成立することも同じくらい重要です。たとえば土地価格の高いエリアでは、客室構成や建築計画を工夫することで、より多くの人が自然を体験できる価格帯を実現することもあります。自然を主役にすることと、事業として持続可能であること。そのどちらかを選ぶのではなく、両方を成立させることが私たちの仕事です。
1つひとつの土地に向き合い、その場所にしかない自然の価値を引き出しながら、より多くの人へ届けていく。その積み重ねが、「Nature for all. / 自然をあらゆる人へ。」の実現につながると考えています。

〈SANU 2nd Home 南アルプス 1st〉にてインタビューを行った。
安齋:実際に、まず最初に手がけた建築プロダクトが「BEE(ビー)」です。ハニカム構造を採用したこのモデルでは、すべての部材をデジタルデータ化し、コンピュータ制御で精密に木材を切り出す「NC加工機」を用いて製造しました。建築をデジタルパーツ化することで、将来的に交換が必要になった際にも柔軟に対応でき、建物を長寿命化させる狙いもありました。
さらに、いずれ迎える解体の際にも、素材を段階的に再利用する「カスケード利用」を前提とした設計を行いました。しかし、理想を詰め込んだBEEにおいて、約2.5ヶ月という施工期間の長さは大きな壁となりました。愛着のあるプロトタイプではあったものの、自然環境への負荷や人的リソースの観点において課題を残していたのです。

〈BEE〉Photo: Tatsuya Kondo
安齋:そこで次に取り組んだのが、モジュール化への本格的な移行であり、その実践の形が「MOSS(モス)」です。天候に左右されない制御された環境で製造できるメリットは極めて大きく、現在は建物全体の約65%を工場生産しています。
ただし、あらゆる工程を機械化すれば良いというわけではありません。私たちが重視しているのは、職人がもつ高い技術力を現場で最大限に活かすための「適切な分業」です。技能を必要としない定型工程を徹底して自動化することで、職人が真に付加価値の高い作業に集中できるバランスを追求しています。
設計の基本姿勢として据えているのは、「自然の領域におじゃまする」感覚。建築プロダクトの工法においては、環境負荷の高いコンクリートを使用せず、地中の支持層まで貫入させた鉄杭の上にモジュール化した建築物を載せる構造を採用しています。
結果的に、現場での施工期間をわずか2週間へと大幅に短縮できました。工期を極限まで短縮することは環境負荷の最小化に直結し、同時に建設に携わる職人の拘束時間や肉体的負担を減らすことにも繋がっています。

〈MOSS〉Photo: Masaaki Inoue
安齋:こうした建築プロダクトの開発から管理・運営までを一貫して手がける体制によって、一品一様の建築では成し得なかった「改善サイクルの高速化」が実現しています。日々現場から集まるリアルな声をもとに、設計の仮説検証と細部のアップデートを絶え間なく繰り返しています。
このサイクルは、宿泊体験の向上に留まらず、自然環境への配慮においても同様です。「この木は切らずに済んだのではないか」「どうすれば野生動物にストレスを与えずに施工できるか」といった問いを立て、より自然をそのまま保つ設計を模索し続けています。こうした改善を積み重ねていくために、1つの建築を洗練させていく「プロダクト化」が必要なのです。

〈BEE〉Photo: Junya Igarashi

〈MOSS〉Photo: Junya Igarashi
安齋:これまで建築の世界では、美しい建築と量産を両立することは難しいと考えられてきました。デザインを突き詰めれば一品一様になり、量産を目指せば個性や品質が失われる。そのどちらかを選ばなければならないという考え方が当たり前だったと思います。
私たちが挑戦しているのは、そのトレードオフを技術とものづくりで乗り越えることです。美しい建築を、より多くの人へ届ける。そのために、設計から製造まで、あらゆる工程をゼロから見直しています。
だからこそ、私たちの仕事はとても泥臭いものです。ビス1本、金物1つ、数ミリの納まりまで議論を重ねます。建築家から見れば面白みに欠ける作業かもしれません。しかし、図面の1本の線にも必ず理由があり、その積み重ねが、美しい建築と量産を両立する技術になっていきます。

〈MOSS〉Photo: Junya Igarashi
安齋:この姿勢は、素材選びにも表れています。私たちは、建物に使われる木材が、どこの森で育ち、どのような環境で育ったのかまで把握しています。森林の所有者や管理者のもとへ足を運び、木そのものだけでなく、その森を未来へつないでいこうとする想いまで共有しています。
そして、原木の状態から1本1本を見極め、「この木は床材に」「この木は屋根材に」と素材を起点に建築を考えていきます。一般的には図面を描いてから材料を選びますが、私たちは森を知り、木を知ることから建築が始まります。
それはコストを最適化するためだけではありません。100年後も豊かな森が残り、その森からまた新しい建築が生まれる循環を守るためです。

安齋:私は工務店の三代目として育ち、幼い頃からものづくりが身近にありました。だからこそ目指したいのは、一部の人のための作品ではなく、多くの人に長く愛され、使われながら進化し続ける建築です。
自動車や航空機のような産業は、美しさ、品質、安全性、生産性を高い次元で両立させながら、世界中で進化を続けています。私は、建築も同じように、技術を蓄積し、改善を繰り返しながら進化し続ける産業になれると信じています。
プロダクトとして継続的に改善を重ね、その技術を世界へ届けていく。それは建物を量産することが目的ではありません。その先にあるのは、1人でも多くの人が自然と出会い、人生が少し豊かになる体験を届けることです。風の匂い、木漏れ日、雨の音、森の静けさ。情報だけでは決して伝わらない自然の価値を、建築を通して世界中へ届けていきたい。
100年後も、人と自然がともに豊かであり続ける未来をつくる。その挑戦に、今とてもワクワクしています。
インタビュー:2026年6月24日 〈SANU 2nd Home 南アルプス 1st〉にて
TOP画像:〈MOSS〉Photo: Junya Igarashi
特記なき撮影:福田 駿
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