[Interview]日本建築の伝統と海外の価値観を繋ぎ、普遍的な豊かさを引き出すキューボデザイン建築計画設計事務所 - TECTURE MAG(テクチャーマガジン) | 空間デザイン・建築メディア
[Interview]日本建築の伝統と海外の価値観を繋ぎ、普遍的な豊かさを引き出すキューボデザイン建築計画設計事務所

[Interview]日本建築の伝統と海外の価値観を繋ぎ、普遍的な豊かさを引き出すキューボデザイン建築計画設計事務所

BUSINESS

神奈川を拠点に、住宅や別荘を中心に手がけているキューボデザイン建築計画設計事務所。近年は国内外を問わずハイエンドな住宅も数多く手がけ、日本建築と海外の価値観を融合させた、唯一無二の空間を提案しています。また、代表である猿田仁視氏は元大工というキャリアを活かし、石や木といった自然素材がもつ圧倒的な質感を引き出した設計で高い支持を集めています。

今回は同氏に、大工から建築家へと至る異色のキャリア、ハイエンド住宅を手がけるブランディング戦略、そして次なるステージとして、より公共性の高い建築へと領域を広げようとする今後の展望についてお話を伺いました。

対話から導く、機能性を超えた普遍的な豊かさ

猿田仁視 氏。

猿田仁視 氏(代表取締役/以下、猿田):キューボデザイン建築計画設計事務所は、神奈川を拠点に住宅や別荘を中心に手掛けています。

私たちが目指しているのは、歳月を重ねるほどにいっそう美しく、力強さを増していく、普遍性をもった建築です。光と影の移ろいや、木・石といった自然素材が持つ固有の表情、そして空間に漂う静けさなど、言葉にできない「非言語的な要素」を丁寧にすくい取ることを大切にしています。

その場所に身を置いたときに直感的に心地よさを感じ、機能性を超えた豊かさを享受できる空間。私たちはそれを単なる感覚的な表現に留めず、クライアントとの対話から導き出した確かな裏付けをもって実践しています。

伝統の現代的意訳と自然素材を活かしたグローバルデザイン

猿田:近年は、特に海外のクライアントからご依頼をいただく機会が増えています。その契機となったのが、鎌倉の海と富士山を望む高台に計画した〈T3〉という、フランス人アーティストとそのご夫婦のための住宅プロジェクトでした。

〈T3〉Photo: Koichi Torimura

猿田:日本建築特有のディテールを随所に盛り込み、内装には天然石や和紙といった自然素材の物性をそのまま活かすアプローチをとりました。そこにクライアントがもつ西洋インテリアの美学が融合することで、日本の伝統的な建築要素を現代的に意訳した空間を実現しています。

実際、ネットで「Japanese Modern Architecture」と検索すると〈T3〉の画像が上位に表示されるようで、今では事務所を象徴するアイコンとして、世界中のクライアントの目に留まるフックとなっています。

猿田:〈T3〉のクライアントは高い審美眼をもっていて、ものづくりに対して一切の妥協を許さない、熱量にあふれたアーティストでした。設計中はもちろん、着工してからも現場に足を運び、ご自身の五感を通じて検証するプロセスを重視されていたため、設計者である私にとっても多くの学びを得る機会となりました。

たとえば、私たち日本人の身体感覚には「尺」という寸法規格(モジュール)が深く刻まれていますが、クライアントの要求と向き合うなかで、私の中にあったスケールの基準が心地よく壊されていきました。素材本来の佇まいを引き出す余白の取り方や、空間がもつ豊かな広がりに対する感覚が、アップデートされていくのを感じたのです。

また、このプロジェクトに着手するまでは、建築費で1億円を超えるような物件を手がけた経験はありませんでした。そこに飛び込んできた、3億円を超える規模の挑戦です。空間のスケールから素材の選定まで、すべてが初めて尽くしでしたが、試行錯誤を重ねる中で「本当の心地よさとは何か」という、ラグジュアリー空間の本質を掴み始められたような気がしていました。

〈10M〉Photo: 藤井浩司(TOREAL)

〈10M〉Photo: 藤井浩司(TOREAL)

大工経験がもたらす現場のリアリティ

猿田:私は建築家としてのキャリアを、大工からスタートさせています。子供の頃から、ゼロから図面を引いてものづくりをする建築士に憧れていました。ただ、理系科目が本当に苦手で、大学では経営学を専攻しました。それでも設計への道を諦めきれず、知人の建築士に相談したところ、「現場を知らなければ、生きた図面は引けない」と助言を受けたことが、実務の世界へ飛び込む契機となりました。

卒業後はすぐに工務店に入り、大工や施工管理の仕事を始めました。大工の仕事は奥深く、最初の3年間は現場作業に没頭しましたが、建物と実直に向き合うほど、自ら設計を手がけたいという思いは強くなっていきました。

その後、設計事務所に転じて住宅や店舗の設計・現場管理の経験を重ね、2004年にキューボデザイン建築計画設計事務所を設立しました。

自邸兼事務所である〈cnest〉にて、インタビューを行った。

猿田:こうした大工としての経験は、ディテールへの理解を深めるだけでなく、現場におけるリスクヘッジにも直結しています。「職人がどこに不満やストレスを感じるのか」「どのような状況で事故のリスクが高まるのか」を身をもって知っているため、設計段階から施工時の不確定要素を予測し、事前に回避することができます。

図面を作成する際は詳細な納まりの数値だけでなく、「どういう意図でこの空間を構築したいのか」という設計思想までを描き切る手法をとっています。そうして現場との認識の齟齬を徹底して避けることで、そのぶん手間はかかりますが、施工フェーズにおいて想定外の追加コストや手戻りが発生するのを未然に防ぐことができます。

猿田氏が設計のインスピレーションを得る本棚。ルイス・バラガン、ピーター・ズントー、カルロ・スカルパらの書籍が並ぶ。

猿田:建築のクオリティを担保するためには、クライアントの要求を一方的に通すだけでも、施工側の都合を優先させるだけでも成立しません。双方が対等な関係を保てるようバランスをとることも、設計を手掛けるうえでの重要な役割の1つだと考えています。

私たちはすべてのプロジェクトにおいて、必ず何かしらの新しい技術的・意匠的な試みに挑戦することを意識しています。ときに難度の高い設計に踏み込みつつも、クライアントの満足度を最大化し、同時に施工現場に無理な負荷をかけない実務的な着地点を見極める。設計だけでなく、大工や施工管理の実務経験を積み重ねてきたからこそのバランス感覚が、私たちの大きな強みなのです。

土木と建築の間にある自邸

猿田:自邸兼事務所である〈cnest〉もまた、私にとって大きな挑戦の1つでした。水平線を望む眺望に一目惚れして土地の購入を決めましたが、そこは最大高低差14m、最大傾斜約70度におよぶ過酷な崖地。120坪の敷地に対して、平坦な部分はわずか30m²ほどしかありません。建築家の自邸としてどのような意義を提示できるのか、最初のスケッチを描いてから丸1年間、プランニングに悩み抜きました。

〈cnest〉Photo: Hiroshi Ueda

〈cnest〉Photo: Hiroshi Ueda

猿田:このプロジェクトは、いわば「土木と建築の中間」にある住宅です。4m×13mにおよぶ巨大なボリュームを跳ね出すキャンティレバー(片持ち梁)構造とし、それを樹木の枝を思わせる細い鉄骨とRCスラブで支えています。さらに、半分土に埋まる地下フロアでは、窓から差し込む光を分節することで、陰の部分との強いコントラストと明暗の美しいグラデーションを描き出しました。

このプランニングに頭を抱えていた時期、偶然にもすぐ隣の敷地での設計依頼をいただきました。その後、近くにもう1棟を設計する機会にも恵まれ、今ではこの一角が、私たちの設計した建築を実際に体験できる、格好のプレゼンテーションの場となっています。

〈cnest〉模型。

ハイエンド市場へ舵を切ったブランド戦略

猿田:人は心の充足や癒やしを求めるとき、無意識のうちに木や石といった自然の恵みに回帰していくように思います。たとえば無垢の木材や天然石は、人工的な代替品と比べて、空間に宿る気配そのものを決定的に変えてくれます。居心地のよさを突き詰めていくと、最後はやはり自然素材に行き着くのです。私自身、大工として直に木や石に触れてきたからこそ、素材そのものがもつ表情には人一倍のこだわりがありました。

しかし、こうした妥協のない空間づくりを突き詰めるためには、素材の力を存分に引き出せるハイエンド市場へと舵を切る必要がありました。そこで、外部コンサルタントを招き、事務所のブランディングをドラスティックに進めました。

同時に、ハイクオリティなCG制作にも注力しました。数億円規模のプロジェクトであっても、クライアントが完成後の意匠や質感を極めて高い解像度でイメージし、十分に納得した上で意思決定を下せる強固なプロセスを確立したのです。

ありがたいことに、現在はそうしたハイエンドなプロジェクトを主軸に据えることができ、素材がもつ力を十全に引き出せる環境が整っています。

〈House in the Forest〉Image: CdA

〈Mysterious Prifundity〉Image: CdA

猿田:この恵まれた環境のもと、私たちが目指す空間のあり方をストレートに形にしたのが、駒沢のモデルハウス〈C4L〉です。

ここでは、谷崎潤一郎の『陰翳礼賛』に語られるような、薄暗がりの中でこそ美しさが引き立つ素材や設え、そして内と外が融和する「庭屋一如」といった日本古来の空間概念を最大限に表現することに挑みました。

数寄屋、左官、和紙、組子、組紐、建具、漆塗りを専門とする7名の伝統職人や作家の方々と協働し、先人たちの技術に敬意を払いながら、次世代へ受け継ぐべき住宅のあり方を提示しています。

〈C4L〉Photo: 藤井浩司(TOREAL)

〈C4L〉Photo: 藤井浩司(TOREAL)

ハイエンド住宅の知見を携え、ホテル・公共建築の領域へ

猿田:私たちの次のステージとして、より公共性の高い領域へ挑戦したいと考えています。中でもホテルは、居住性を極限まで追求できるビルディングタイプであり、私たちがこれまでの住宅設計で培ってきたラグジュアリー空間への経験との親和性が高いはずです。

東京・御徒町エリアで設計中のホテルのコンセプトスケッチ。

猿田:規模が拡大しても、現場で得てきた大工としての身体感覚やものづくりのリアリティは、私たちの揺るぎない指針です。一邸の住宅をつくるときと変わらない高密度な設計を維持し、より多くの人々が直感的に心地よさを感じられる空間を目指す。そうして、機能性を超えた普遍的な豊かさを、より広く社会へ提供していきたいと考えています。

インタビュー:2026年7月7日 〈cnest〉にて
特記なき写真:福田 駿


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