2026年7月27日、韓国・釜山で開催された第48回ユネスコ世界遺産委員会において、ポーランド北部の港町グディニアにある「グディニア・モダニズム都市中心地区(Gdynia Modernist City Centre)」が、ユネスコ世界文化遺産に正式登録されました。
1926年の市制施行からちょうど100周年という記念すべき節目に誕生した、ポーランド国内で18件目となる世界遺産です。今回評価されたのは、第一次世界大戦と第二次世界大戦の間のわずかな期間に計画・建設された、市中心部の歴史的都市景観です。
なぜ、バルト海沿岸の小さな漁村が、近代都市計画とモダニズム建築の傑作へと変貌し、世界遺産に名を連ねることになったのでしょうか。この歴史について知るために、まずはポーランドとグディニアの歩みをまとめたタイムラインをご覧ください。
グディニア発展のタイムライン
- 1795年〜1918年【ポーランド分割時代】
近隣列強により123年間にわたり国家が消滅- 1918年【ポーランド独立回復】
第一次世界大戦終結に伴い、ポーランド第二共和国として独立- 1920年代初頭【グディニア港の建設決定】
「自国の自由な海へのアクセス(世界への窓)」を求め、漁村を独自の港湾都市とする国家事業を開始- 1926年【市制施行と都市開発の本格化】
グディニアが市に昇格、モダニズムの理念に基づく中心市街地の建設が急ピッチで進む- 1939年【第二次世界大戦勃発】
この時までに現在の世界遺産となるモダニズム都市の中心部がほぼ完成、戦時中も大きな破壊を免れる- 2026年7月【ユネスコ世界文化遺産に登録】
市制100周年の節目に、「グディニア・モダニズム都市中心地区」として正式登録

出典:ポーランド政府観光局
タイムラインにもある通り、グディニアの都市開発はポーランドの独立回復と密接に結びついています。ポーランドは18世紀末に近隣列強(ロシア、プロイセン、オーストリア)によって領土を分割され、123年もの間、世界地図から姿を消していましたが、1918年、第一次世界大戦の終結とともに「ポーランド第二共和国」として独立を果たします。
独立を果たした新生ポーランドにとって、自由な貿易を行うための「海への玄関口」の確保は急務でした。これは当時、近隣の主要港グダニスクは国際連盟管理下の自由都市となっており、ポーランドが自由に利用できる状況ではなかったためです。
そこで政府は、何もない小さな漁村であったグディニアを新たな港湾都市として開発する国家プロジェクトを始動させました。1926年から1939年という驚異的なスピードで市街地と港が計画的に建設され、グディニアはポーランドの近代化と海洋国家としての発展を象徴する都市となりました。この全く新しい都市の誕生は、当時の建築家や都市計画家たちにとって、まさに「白紙のキャンバス」に理想の都市を描く絶好の機会となったのです。

出典:ポーランド政府観光局
今回登録された区域は87.9ヘクタール(緩衝地帯335.88ヘクタール)に及びます。ユネスコの登録基準(iv)として世界的に高く評価されたのは、当時の最先端であった「モダニズムの理念」が、大規模かつ一貫して都市づくりに取り入れられている点です。
登録地区には、両大戦間期の街区、集合住宅、公共施設、商業建築がまとまって残されています。東西・南北を結ぶ主要道路といった伝統的な街路構成をベースにしながらも、建物には十分な採光、衛生、緑地が確保され、すべての人に衛生的な住環境を提供するという近代的な設計が組み込まれました。
さらに、海運都市ならではの建築的意匠も特徴です。水平に連なる窓、丸みを帯びた建物の角、船のデッキを思わせる広いバルコニー、そして明るく白い外壁、まるで「豪華客船」を陸上に再現したかのような海を連想させる意匠が随所に見られます。港と海辺の景観に結びついたこの特有の構成は「客船様式(Styl okrętowy)」とも呼ばれ、グディニアならではの圧倒的な個性を放っています。

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出典:ポーランド政府観光局
グディニアでは現在も、中心街を歩きながら、これら両大戦間期に建てられた貴重なモダニズム建築群を肌で感じることができます。
海辺の景観も豊かで、博物館船「ダル・ポモジャ」や駆逐艦「ORPブウィスカヴィツァ」が停泊。また、旧海運ターミナルをリノベーションした「移民博物館」では、グディニアという「世界への窓」から海を渡っていったポーランドの人々の歴史に触れることができます。
グディニアは、歴史都市「グダンスク」、海辺のリゾート地「ソポト」とともに「三連都市(トリシティ)」を形成しています。中世の面影を残すグダンスクから、最先端のモダニズムが息づくグディニアへ。三連都市の周遊は、建築、歴史、そして海洋文化の変遷を一度の旅で体験できるルートとして、建築ファンはもちろん、多くの旅行者から今後さらに注目を集めることでしょう。
都市の誕生から100年。奇跡的に戦火を免れ、当時の理念を今に伝える「グディニア・モダニズム都市中心地区」。次回のヨーロッパ建築巡りの目的地として、ぜひリストに加えてみてはいかがでしょうか。

出典:ポーランド政府観光局
世界遺産登録概要

出典:ポーランド政府観光局
公式情報
参考資料
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000003.000182613.html
https://www.worldheritageexplorer.org/sites/gdynia_modernist_city_centre.html
https://modernizmgdyni.pl/en/
https://pamon.sekaken.jp/wh-list/gdynia/