[Interview]標高1,770mに建つ、蔓のように空へ伸びる展望塔|タカトタマガミデザイン〈SORA stairway(SORAへ登る螺旋階段)〉 - TECTURE MAG(テクチャーマガジン) | 空間デザイン・建築メディア
FEATURE
Most Viewed "PROJECT" in August 2026
FEATURE

[Interview]標高1,770mに建つ、蔓のように空へ伸びる展望塔|タカトタマガミデザイン〈SORA stairway(SORAへ登る螺旋階段)〉

多くの読者の関心を集める建築には、必ず理由があります。設計の巧みさや空間の魅力はもちろんのこと、現代の社会性や使い手の身体感覚とどこかで深く共鳴しているからこそ、人を惹きつけるのではないでしょうか。

この記事では、「PROJECT」月間PVランキングで上位となった作品を、多く読まれたという事実を1つの手がかりに、建築がどのように構想され、かたちになっていったのかを紐解いていきます。

2026年7月の月間PVランキングの1位は、タカトタマガミデザインによる〈SORA stairway(SORAへ登る螺旋階段)〉。代表の玉上貴人 氏にインタビューを行い、標高1,770mという過酷かつ雄大な自然環境と呼応する建築のあり方とともに、多くの読者の関心を集めた理由を探りました。

INDEX

  • 空まで伸びる蔓(つる)
  • 広がる設計アプローチと、可能性を押し広げる出会い
  • 「デザイン」がもつ2つの意味
  • 設計料だけに頼らないビジネスモデルの構築へ
  • なぜ、この建築は読まれたのか

 

玉上貴人 氏。

玉上貴人|Takato Tamagami

1973年 神奈川県横浜市生まれ。1996年 明治大学理工学部建築学科 卒業。設計事務所勤務を経てヨーロッパ各国を旅したのち、2000年にタカトタマガミデザインを創業。建築、インテリア、家具、水上バスなど、多様な規模・用途のプロジェクトを手掛ける。使い手や場所の個性を空間や形態に反映させ、感性に訴える建築を追求する。2009年より日本大学理工学部にて非常勤講師を務める。

タカトタマガミデザイン:https://takatotamagami.net/
X:https://twitter.com/takatotamagami
Instagram:https://www.instagram.com/takatotamagami_architect/
Facebook:https://ja-jp.facebook.com/takatotamagami/

 

タカトタマガミデザインが長野県で手掛けた、童話の風景を立ち上げたような〈SORA stairway(SORAへ登る螺旋階段)〉

空まで伸びる蔓(つる)

── まずは、〈SORA stairway(SORAへ登る螺旋階段)〉の概要や経緯についてお聞かせください。

玉上貴人 氏(以下、玉上):クライアントは長野県でスキー場を運営されている企業で、かれこれ10年以上のお付き合いになります。これまでもスキー場併設の展望テラスやカフェをはじめ、スキースノーボードのレンタルショップやチケット売り場などの設計を手掛けてきました。

今回のプロジェクトは、スキー場のサマーシーズンの活用という経営的な課題が背景にあります。標高1,770mの山頂からは見事な雲海が広がるため、そこをいかにして夏の観光名所へと昇華させるかが企画の発端でした。

〈SORA stairway〉広域配置図

〈SORA stairway〉配置図

玉上:最終的な造形のインスピレーションとなったのが童話『ジャックと豆の木』です。改めて読み返すと物語自体は決して美談ではないのですが、それでも長く親しまれているのは、やはり「ひと粒の豆から出た蔓が、空の彼方までぐんぐん伸びていく壮大さ」があるからだと思うんです。

本作でも、あの未知へと向かっていくスケール感を空間体験として取り入れたいと考えました。

Photo: 吉村昌也

── 展望台の設計は初めてとのことですが、設計で特に意識されたことは何でしょうか。

玉上:事務所のフィロソフィーでもある「衝動を喚起する建築」を、今回の展望台に翻訳するなら「登りたくなる」、そして「撮りたくなる」ですね。

ここ数年で「インスタ映え」という言葉がすっかり定着しましたが、今は思い出として写真を残すだけでなく、「いかに発信するか」も重要になっています。本作では、頂上に登った人が専用アプリで操作すると、近くに設置したカメラから自動撮影できる仕組みを導入しました。

そのため、そのカメラから見て「いかに美しく撮影できるか」が、建物を建てる配置の絶対的な基準になりました。クライアントにとっても最大の関心事でしたから、そこから逆算して設計を組み上げていきました。

Photo: 吉村昌也

玉上:もう1つ重視したのは、「風景の一部になること」です。周辺の景観と調和させるため、有機的でなめらかな印象の造形を追求しました。その思想は、徹底したディテールのつくり込みに直結しています。

たとえば、部材をボルトで接合してしまうと、大自然の中に無骨なノイズを生むことになります。景観に溶け込ませるためにはシームレスな溶接仕上げが不可欠でしたが、現場は標高1,770mの過酷な立地です。当然、重機の搬入はできず、工場で組み上げてから設置するという一般的な手法を用いることはできませんでした。

Photo: 吉村昌也

玉上:そこで私たちは、高度な技術を持つ鉄骨造作・施工会社に依頼し、約1,500もの分割パーツを現場へ搬入し、すべて手作業で溶接して繋ぎ合わせていくという異例の工法を選択しました。

結果として、どこに継ぎ目があるのか分からないほどシームレスに仕上がっており、その圧倒的な職人技には設計者として本当に驚かされました。

パーツは人が持ち運べるサイズで搬入された。

施工風景。

── これほど過酷な環境下です。施工に至るまでにも、数多くの試行錯誤があったのはないでしょうか。

玉上:終始手探りのプロジェクトでしたね。螺旋階段の形状に行き着くまでにも、橋や梯子といったさまざまな案も検討しましたが、冬場の凍結や積雪荷重、サビへの対策、さらにはコストや施工性と、クリアすべき課題が文字通り山積みでした。

計画当初の「橋」案。

先端はキャンティレバーになっていて、空中に浮いているような体験が目指された。

玉上:具体的な一例を挙げると、「いかに美しく撮影できるか」を追求した結果、配置を企画当初より斜面の下方へ移動させることになったのですが、そのぶん全体の高さを上げなければなりませんでした。最終的に地上から約14mもの高さになり、それに伴い、支柱の太さをはじめとする構造設計もすべて一から見直すことになりました。

さらに、重機を使えない急斜面に足場を組むため、まずは地面を平らにする土留めの擁壁を築かなければなりません。その擁壁自体も工作物扱いとなるため、結果的に擁壁と本体とで計2回の確認申請を通さなければならないなど、芋づる式にクリアすべきハードルが出てくるわけです。

それでも、私たち設計事務所と、鉄骨造作を担当した施工会社、地元の施工会社、そして構造設計会社の4者で、新たな課題が出るたびに幾度も協議を重ね、1つひとつ解決策を導き出していきました。

〈SORA stairway〉断面図

〈SORA stairway〉ささらの展開図

広がる設計アプローチと、可能性を押し広げる出会い

── 過去のプロジェクトと比較して、本作はどのような位置づけになりますか。

玉上:これまでのプロジェクトと比較して、今回は意匠的に少し異質なアプローチになりました。これまでのデザインは「塊」や「面」から発想することが多く、今回のように「線(フレーム)」から空間を形づくっていく手法は珍しかったからです。

思い返せば、26歳で独立する直前に、8か月ほどヨーロッパを放浪した時期がありました。その旅の最大の目的は、サンティアゴ・カラトラバの作品を見て回ることでした。

彼の建築には、構造の美しさそのものをシンボリックに落とし込んだ魅力があるのですが、今回の〈SORA stairway〉を設計している時、カラトラバに強く憧れていた当時の感覚に立ち返ったような気がしたんです。

サンティアゴ・カラトラバ〈リヨン・サン=テグジュペリTGV駅〉のスケッチ。

サンティアゴ・カラトラバ〈オリエンテ駅〉のスケッチ。

── 今後の設計にも影響を与えると思いますか。

玉上:間違いなく影響しますね。設計のアプローチを拡張する大きな契機になりました。

加えて、本作の実現の立役者とも言える鉄骨造作の施工会社との新たな出会いも、今後の設計活動における大きな財産となりました。これまでは技術的な制約から諦めざるを得なかった挑戦的なディテールでも、「彼らの技術があれば実現できる」という確信と共に、今後の視野が大きく広がった気がしています。

また本作は、プロジェクト全体が強固な1つのチームとして機能したことも大きな手応えでした。「チーム一丸」という言葉は陳腐に聞こえるかもしれませんが、これほどその言葉がしっくりくる現場もありません。

冬場に工事ができないこともあり、規模に対して比較的長い2年がかりのプロジェクトになりました。クライアントも同じ熱量で最後まで伴走してくださり、完成後にさまざまなメディアで取り上げられ、多くの賞で評価いただいた成果まで、全員で分かち合えることが本当に嬉しいですね。

Photo: 吉村昌也

「デザイン」がもつ2つの意味

── タカトタマガミデザインが大切にしている設計思想を教えてください。

玉上:私たちが設計に向き合ううえで拠り所にしているものがあります。それは「デザイン」という言葉の意味です。辞書にもよるかもしれませんが、「デザイン」には大きく2つの意味が存在します。

1つは「意匠」です。機能面や構造面は大前提として、与えられたさまざまな条件や制約を丁寧に読み解き、美しさをもたらすための新しい工夫を凝らすことです。その結果として、「人の衝動を喚起する」ような、人々の記憶と感性に響く建築を生み出すことを目指しています。

〈サンウェルミューズ北参道〉Photo: Nacása & Partners

〈N-HOUSE〉Photo: 吉村昌也

玉上:そしてもう1つが「設計」です。ここでいう設計とは「目的を達成するための計画や目論見(もくろみ)」という意味です。今回のような商業プロジェクトなら、しっかり集客力を高めて事業として成功を収めるスキームを描かないといけません。個人住宅であっても、住み手の理想の暮らしという目的を叶えることが一番のゴールになります。私たちが設計をするうえで、この視点は絶対に欠かせないんですよね。

私たち設計者は視覚的な美しさに傾倒しがちですし、一方でコストや施工の手間を優先すれば、できるだけ安く簡単に済ませる方向へと流れてしまいます。しかし、そうした相反する条件やシビアな制約の中でこそ、「意匠」と「目論見」を柔軟に統合していく思考が求められるのだと思います。

〈ESR市川DC R:Lounge, R:KiDs〉Photo: 吉村昌也

── そのような多角的な視点や設計のバランス感覚は、どのように培われていくものだと思いますか。

玉上:独立したばかりの頃は、ともすれば自身の表現や意匠の追求に偏り、視野が狭くなりがちな時期もありました。しかし、まだ実績がない中でプロジェクトを形にしていくためには、何よりもまずクライアントから「信頼を得ること」が不可欠だったのです。

どれほど前衛的な意匠を提案しても、それがクライアントの理想や事業上の目論見に寄り添っていなければ、そもそも設計の依頼はいただけませんし、建築として社会に実装されることもありません。

そうした前提に立ち、クライアントの要望とデザインとのバランスを模索しながら、1つひとつの仕事に実直に向き合ってきた結果、今では個人住宅の設計と比べて、企業案件の比率が増えてきました。

〈ESR弥富木曽岬DC R:Lounge〉Photo: 吉村昌也

設計料だけに頼らないビジネスモデルの構築へ

── 今後、新しく取り組んでみたいテーマやプロジェクトはありますか。

玉上:設計料だけに頼らないビジネスモデルの構築を目指しています。

業界全体の動向を見渡しても、設計料という単一の収入源だけで事務所を維持していくのが困難な時代に入ったと感じています。

公共プロジェクトでは、不確実性を極力なくすために「設計・施工」の一体型でなければプロポーザルを勝ち取るのが難しいケースも多く、民間案件でも初期段階での厳密なコスト提示が求められます。「図面を描き上げてから見積もりを取る」という旧来のプロセスは、もはや現代のビジネスのスピード感には通用しません。

その結果として、施主が「あえて設計事務所に依頼しなくてもよい」と判断するのも必然の流れと言えます。資材価格の高騰によって新築の着工数自体が減少している背景もあり、純粋な「設計のみ」の依頼は今後さらに減っていくでしょう。

自邸・賃貸店舗・賃貸住宅の完成イメージ。

玉上:以前からこうした危機感を抱いていた建築家や、ビジネスへの感度が高い建築家たちは、すでにさまざまな実践を始めていますよね。

タカトタマガミデザインとしてもここ数年、新たな活路を模索していましたが、3年前に事務所の借地権を運よく譲り受けたことが大きな転機となりました。現在は来年2月の竣工に向け、自宅と賃貸店舗・賃貸住宅を組み合わせた新たな拠点の建て替え工事を進めています。

自ら建物を運営して家賃収入を得ることで、本業である設計活動の基盤を安定させる。まさに今、そうした新しい事務所の形をスタートさせようとしています。

施工風景。

なぜ、この建築は読まれたのか

── 本作が月間PVランキングで1位に選ばれた背景について、ご自身ではどのように分析されていますか。

玉上:展望台のような構造物は、TECTUREなどの建築メディアで取り上げられる事例としては少し珍しいですよね。そうした、ある種の新鮮さが読者の目を惹いたのだと思います。

もう1つは、やはり、あのロケーションの美しさです。圧倒的な自然環境のなかで「人の衝動を喚起する」という私たちの設計意図が読者に届き、それが多くの方に見ていただける結果に繋がったのだとすれば、とても嬉しいですね。

Photo: 吉村昌也

── 最後に、事務所の「お気に入りの場所」を教えてください。

玉上:ミーティングルームです。もともと借りていた一軒家が建て替え中なので、マンションの一室へと事務所を移しました。

和室を改装して押入れの襖を取り払い、広いテラスにはウッドチップを敷き詰めています。室内と屋外がゆるやかに繋がり、心地よい風が抜けるのでとても気に入っています。

時々、所員や関係者を集めて食事会を開いたり、プロジェクターでスポーツ中継を投影して、みんなで観戦したりしています。

事務所のミーティングルーム。

(2026.08.21 オンラインにて)

TOP画像〈SORA stairway(SORAへ登る螺旋階段)〉Photo: 吉村昌也
特記なき図版・画像提供:タカトタマガミデザイン
Interview & text: Naomichi Suzuki

RECOMMEND

  • TOP
  • FEATURE
  • INTERVIEW
  • [Interview]標高1,770mに建つ、蔓のように空へ伸びる展望塔|タカトタマガミデザイン〈SORA stairway(SORAへ登る螺旋階段)〉

【購読無料】空間デザインの今がわかるメールマガジン TECTURE NEWS LETTER

今すぐ登録!▶