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[Interview]「玄関のない家」が変える、街と家族の関係性|dot studio〈街と息づく家族の住まい〉

多くの読者の関心を集める建築には、必ず理由があります。設計の巧みさや空間の魅力はもちろんのこと、現代の社会性や使い手の身体感覚とどこかで深く共鳴しているからこそ、人を惹きつけるのではないでしょうか。

この記事では、「PROJECT」月間PVランキングで上位となった作品を、多く読まれたという事実を1つの手がかりに、建築がどのように構想され、かたちになっていったのかを紐解いていきます。

2026年5月の月間PVランキングの1位は、dot studioによる〈街と息づく家族の住まい〉。dot studio共同代表の沼 俊之 氏と、設計スタッフの村井千乃 氏にインタビューを行い、本作が提示する都市と建築の新たな関係性、彼らの根底に通底する設計思想とともに、そして多くの読者の関心を集めた理由を探りました。

INDEX

  • 住み手がコントロールする街との境界線
  • 街との距離を縮め、軽やかに浮遊する大屋根
  • 富山を「歩いて楽しい場所」に
  • 人と人、人と街との関係をデザインする
  • なぜ、この建築は読まれたのか

沼 俊之 氏。

沼 俊之
1982年 富山県生まれ。2006年 法政大学大学院 修了。2007-12年 設計組織ADH 勤務。2014年 dot studio 設立。2020年 合同会社dot studio 設立。

dot studio
Website: https://www.dotstudio.co/
Facebook: http://www.facebook.com/dotstudioarchitects/
Instagram: https://instagram.com/dot_studio/

 

街と息づく家族の住まい / dot studio – 街を暮らしに取り込み、共に歩んでいく住まい

住み手がコントロールする街との境界線

── まずは、〈街と息づく家族の住まい〉の概要についてお聞かせください。

沼 俊之 氏(dot studio共同代表/以下、沼): 敷地が位置するのは、富山市の中心市街地である総曲輪(そうがわ)エリアから徒歩5分ほどの距離にありながら、生活と商業が心地よく混在する、落ち着いた住宅街の一角にあります。

クライアントは、ご夫婦とお子さん2人の4人家族。ご主人は公務員として幅広くまちづくりに携わられています。奥さまはお菓子作りがお好きで、今回の住宅では菓子製造の許可も取得しました。

北側外観。幅2,730mmの大扉を開放すると、土間を介してリビングダイニングまで視線がまっすぐ通る。Photo: 田川紘輝

:クライアントは仕事柄、まちなかでの住まい方について考えることも多く、「街を家の延長として暮らしたい」という明確なビジョンを持たれていました。

建物は生活の機能とプライバシーを担保する2階建てのボリュームと、東屋のような屋根の2つで構成しています。前者にキッチンや寝室、水回りといった機能を固める一方、後者にはリビングダイニングを配置。通りに面した大扉を開け放つと、リビングダイニングは土間を介して街と直結する開放的な空間となります。この大扉の開閉度合いによって、街との繋がり方を住み手が主導的にコントロールできる計画です。

村井千乃 氏(設計スタッフ/以下、村井):この土間スペースは、子供の成長やライフスタイルの変化を意識しながら、お菓子販売などのイベントスペースに活用することも設計段階から見据えていました。実際にオープンハウスの際に試みたところ好評で、イメージ通り使えそうな確証も得られたので、今では月に1回ほど大扉を開放し、お菓子を販売する日常が定着しています。

オープンハウスの際に催された、ギャラリー(左)お菓子販売(右)の様子。

村井:一般的な住宅のように「まず玄関を介して出入りする」という形式では、玄関そのものが外と内を隔てる心理的なブレーキになってしまうため、玄関として区切られたスペースは設けなくて良いというクライアントの意向がありました。

これは、人を呼び込むためだけではなく、住み手がいかに気軽に外へ踏み出せるかを追求した結果でもあります。本を読みたくなれば街の図書館へ行き、コーヒーが飲みたくなれば近くのカフェへ行く。街の機能を自らの住まいの一部として使いこなすような、軽やかな暮らしを形にしたいと考えました。

リビングから土間を見る。特注の大扉は、910mm幅の扉としても開閉可能。Photo: 田川紘輝

街との距離を縮め、軽やかに浮遊する大屋根

── 検討プロセスの資料を拝見すると、初期案の段階で、すでに現在の佇まいが導き出されていますね。

村井:クライアントの要望が明確だったため、最初に提案した2案のうち、一方はすでに最終形に近い構成でした。ただ、初期案ではキッチンが大扉に連なるオープンな位置にあり、逆にリビングは奥まった位置に配置されていました。

そこから打ち合わせを重ねる中で、キッチンを料理やお菓子づくりが好きな奥様のためのラボスペースとして独立させ、位置をリビングと反転させていきました。プライベート性の高いリビングを街とこれほど近しい距離に置くことができたのは、街とのつながり方を大扉で主導的にコントロールできるという安心感があったからこそだと思います。

クライアントの要望を受け、最初に提案したイメージパース。

〈街と息づく家族の住まい〉平面図。

村井:平屋部分の切妻屋根がかかっているボリュームは、どこか東屋のような軽やかな居場所をイメージしています。そのため、通りに面する西側の外壁はあえて「住宅の外壁」としてつくるのではなく、街並みに現れる「塀」のような佇まいと素材感で仕上げました。

富山の住宅地では、敷地を塀で囲み、庭などを挟んだ奥に建物がある構成が典型的です。その塀を模して外壁を設えることで、街との心理的な距離感を近づけられると考えました。

西側の外壁は、周辺の敷地の塀と合わせた板金仕上げ。その上部に柱と同ピッチの窓サッシを配することで、屋根の浮遊感を生み出している。Photo: 田川紘輝

ハイサイドライトの設置により、通りからの視線を遮りながら、常に空へと視線が抜ける開放感をもたらしている。Photo: 田川紘輝

村井:大扉へのアプローチにおいても、外壁に角度をもたせ平面的に「ハの字」型にすることで、道路側から敷地の奥へと人々を迎え入れるように構えています。

構造面では、初期案は屋根の棟が建物の中心にありましたが、軽やかに屋根を支えられないことから、棟の位置を2階建てボリュームへと寄せています。結果として、正面から見たときにアプローチが強調され、奥へと引き込まれるようなファサードが立ち上がりました。

さらに、登り梁のピッチは道路側を細かく、奥に行くほど広く設定することで、構造の安定性を担保しながら、内外が心地よく連続するような体験を意図しました。

梁ピッチはピロティの中ほどを境に、道路側を227.5mm、建物側を303mm、室内で455mmとした。Photo: 田川紘輝

富山を歩いて楽しい街に

── 過去のプロジェクトと比較した際、本作はどのような位置づけになりますか。

:富山は雨や雪が多い気候ゆえに、屋外空間を積極的に使うことに抵抗感のある地域性があります。しかし私たちは、富山を歩いて楽しい街にしたいと常々考えており、豊かなオープンスペースを確保する設計を意識してきました。そのため、これまでの作品は、建築側から「入ってきていいよ」と街に呼びかけるものが多かったように思います。

たとえば、本作の近くには、私たちが2020年に手掛けた〈花水木ノ庭〉という、テナント、シェアスペース、賃貸住宅2戸、2世帯住宅からなる建物があります。ここでは1階部分をピロティとして街に開き、誰でも自由に立ち入れるオープンスペースとすることで、街の一部となるような場を目指しました。

それに対して本作は、開きたいときだけ主導的に開くスタンスをとっています。アプローチの手法こそ異なりますが、「街との境界線をどう定義するか」という私たちの継続的なテーマにおいて、新しい視野を広げてくれた作品になりました。

── 富山において、「街に開く建築」を実践されるようになったきっかけは何だったのでしょうか。

:私たちが手掛けた〈笑色(わらいろ)〉という、飲食店のプロジェクトが転機となりました。通りに対して大開口のガラス張りを設け、この地域では珍しく外部席を備えた計画です。雨や雪が多く、屋外空間にはあまり投資しないという富山特有の通念がある中で、この場所が活気に満ちた空間として街に受け入れられたことで、同じように街へ開いたプロジェクトの依頼が増えていきました。

また、〈花水木ノ庭〉は私の自邸でもありますが、自身の変化も大きいのかもしれません。当初は多少の抵抗感を抱いていたものの、今では街の気配を身近に感じられることに心地よさを感じています。自ら身をもって実践しているからこそ、クライアントに対しても確信をもって「開くことの豊かさ」を提示できているのだと感じています。

〈笑色茶屋〉(2号店)。〈笑色〉(1号店)を道路を挟んで拡張したイメージで、ファサードをセットバックして外部席を設けている。Photo: 田川紘輝

〈笑色〉(右)と〈笑色茶屋〉(左)。Photo: 田川紘輝

人と人、人と街との関係をデザインする

── dot studioのチーム体制についてお聞かせください。

:共同代表である私と増山武、上野宏岳の3人は、全員大学の同じ研究室の出身です。ただ、大学時代から一緒に何かをしようと計画していたわけではなく、私と増山が富山で再会したのがきっかけでした。そこに上野が加わり、設計の統括を私と上野が担いながら、現在は富山と東京の2拠点で活動する体制を敷いています。

増山は創業170年ほどの歴史を持つ富山の老舗家具屋で、彼を通じて地域の職人たちとの深いネットワークが自然と築かれていきました。図面の上だけでなく、職人たちと膝を突き合わせてディテールを突き詰めていけるこの距離感が、日々の設計活動の確かな足場になっています。

さらに現在は、増山の家具屋の新規事業として、回収した家具をアップサイクルして循環を生み出すプロジェクト「トトン」との協働プロジェクトにも取り組んでいます。

〈高岡向陵高等学校〉の職員室テーブル。https://mag.tecture.jp/project/20260522-takaoka-koryo-highschool/

〈紀文堂〉のディスプレイ什器。

:富山と東京の2拠点を行き来しているからこそ、それぞれの都市がもつ空間の特性やポテンシャルが、より鮮明に浮かび上がってきます。

富山はもともと持ち家率が高い地域ですが、近年、東京などから若い世代がUターンし、親世代の大きな住宅を相続するケースが増えています。そうしたクライアントの多くは、東京の空間に対する価値に触れているからこそ「持て余してしまうほど広い空間」をいかに再定義するかという点に、強い関心があるようです。

こうした時に必要なのは、限られた空間を効率よく使うアプローチではなく、いかに豊かな余白を生み出すかという視点です。これは私たちの重要な設計テーマの1つとなっており、地方都市だからこそ実践できる設計のあり方だと感じています。

富山市内の古民家改修プロジェクト〈大きな屋根と、小さな暮らし〉

── 今後、取り組んでみたいテーマや現在進行中のプロジェクトがあれば教えてください。

:直近で楽しみにしているのは、今年の7月末に竣工を控えている自社オフィスの移転計画です。〈花水木ノ庭〉に隣接する築78年の建物をリノベーションしています。

これまでは主に「敷地と街の境界線」をいかにデザインするかを考えてきましたが、「隣地との敷地境界線を曖昧にできるか」という次なる挑戦でもあります。〈花水木ノ庭〉のピロティから新オフィスを往来できる計画で、両者が抱えるそれぞれの時間や空間がグラデーションのように移り変わっていく、新しい空間体験の場になるはずです。

テナント棟(左)、dot studioの新オフィス+シェアオフィス棟(中)、〈花水木ノ庭〉(右)

〈花水木ノ庭〉のピロティから見た、新オフィスの施工風景。

:このほかにも、地域に根付いた屋敷林と古民家を改修、増築する形で、在宅医療クリニックの拠点と有床診療所の計画も進行しています。患者がその日の体調や心理状態に応じて、周囲とつながるか、あるいは静かに過ごすかを主体的に選択できる空間を目指しています。敷地内には地域交流拠点も併設されるため、病床を併設したクリニックでありながらもすぐ隣で地域の活動や賑わいが感じられる、これまでにない医療のあり方を形にしたいと考えています。

クリニックのワークショップの様子。

ワークショップ時の集合写真。

:敷地の条件や気候風土、そして何より人と人、人と街との関係性から導かれる建築の形は、必ず異なります。私たちの作品は一見すると、造形やスタイルに分かりやすい共通性がないように見えるかもしれませんが、それは、特定の建築の型を当てはめるような設計アプローチではなく、その場所だけに現れる固有の関係性を模索し続けた結果でもあるからです。そのプロセスそのものが、私たちの設計における一貫性なのだと考えています。

なぜ、この建築は読まれたのか

── 本作が月間PVランキングで1位に選ばれた背景について、ご自身ではどのように分析されていますか。

:自分なりに理由を考えてみると、大きな扉や屋根という分かりやすい要素に対して、私たちが仕掛けた通常とは異なるバランスや設えが違和感となり、パッと見たときの興味に繋がったのだと思います。

何より、作品名にもした「街と息づく」という暮らしの姿勢が、ファサードに潔く表れていたこと。それこそが、今回選ばれたいちばんの理由だと感じています。

Photo: 田川紘輝

── 最後に、事務所の「お気に入りの場所」を教えてください。

:先ほどお話しした、7月末に完成を控える新しいオフィスがお気に入りの場所になる予定です。dot studioの次のステージへの挑戦が詰まった空間になるので、ぜひ皆さんにも体験していただきたいですね。

(2026.06.23 オンラインにて)

TOP画像〈街と息づく家族の住まい〉Photo:田川紘輝
特記なき図版・画像提供:dot studio
Interview & text: Naomichi Suzuki

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