隈研吾設計、東工大の新たなランドマーク
東京・目黒区にある東京工業大学(以下、東工大と略)大岡山キャンパスに、同大学の国際交流・学生支援施設〈Hisao & Hiroko Taki Plaza〉(ヒサオ アンド ヒロコ タキ プラザ / 以下、Taki Plazaと略)が竣工しました。
〈Taki Plaza〉は、国際舞台で活躍する学生を育成することを目的に、主に海外からの留学生と日本人学生の交流の場として建設されました。計画の概要は2018年2月に発表されており(東工大 3月15日プレスリリース)、隈 研吾氏(隈研吾建築都市設計事務所)が東工大の施設設計を手がけることが話題となりました。
〈Hisao & Hiroko Taki Plaza〉
所在地:東京都目黒区大岡山2-12-1 東京工業大学大岡山キャンパス
規模:地上3階+地下2階
延床面積:約5,000m²
設計:隈研吾建築都市設計事務所
施工:鹿島建設
着工:2019年5月
竣工:2020年12月
グランドオープン:2021年春予定
公式ウェブサイト
https://takiplaza.gakumu.titech.ac.jp/
建物は、地形のようなスロープ状の外形と、それに沿った内部の吹き抜けを有します。大岡山の起伏に富んだ地形のような「丘状の建築」が、隣接する附属図書館の緑地や、キャンパスの桜や銀杏並木と一体となって緑のアプローチを創り出し、キャンパスに新たな流れを生み出しています。
また、同施設の1階には、漫画家で映画監督の大友克洋氏が描いた原画を元に制作された陶板の壁画作品が設置され、2020年12月12日に関係者が出席して行われた竣工記念式典で初めて披露されました。あわせて開催された内覧会を【TECTURE MAG】では取材、館内外の写真とともにレポートします。
大地と一体となった緑の丘のような建築
東工大キャンパスは、東急目黒線・大井町線が乗り入れた大岡山駅前の目の前に正門があり、駅前からは、同大学の創立100周年を記念して篠原一男(1926-2006)が設計したことで知られる〈百年記念館〉と並んで、〈Taki Plaza〉の段々状になっている外観がよく見渡せます。
キャンパスは周辺住民に対しても開かれているようで、買い物カートを引いたお年寄りらが施設横の銀杏並木をゆっくりと通り抜けていくのを見かけました(追記:COVID-19・新型コロナウイルス感染症対策実施期間中は構内への立ち入り[通行、散策など]を制限する方針)。
学内で関係者に聞いたところによると、〈Taki Plaza〉の敷地にはかつて木造の大学附属図書館大岡山本館(旧図書館)があり、老朽化のため取り壊されて以降は何年か更地だったとのこと。〈付属図書館〉は2011年に新しく建て替えられ(設計:東工大安田幸一研究室+佐藤総合計画)、現在は正門を背にして右奥の敷地(キャンパスマップ⑤)で2011年より稼動しています*[*1]。
*1.参照元:東京工業大学附属図書館「新刊紹介」渋谷真理子+小野理奈+落合恭子テキスト)、〈東京工業大学附属図書館〉パンフレット
このほど竣工した〈Hisao & Hiroko Taki Plaza〉の建設にあたっては、同校の卒業生である滝 久雄氏(ぐるなび代表取締役会長・CEO、公益財団法人日本交通文化協会理事長)が多額の資金を母校に寄付しています。これは、自身のイギリス留学経験などに基づく、若い頃に体験する国際交流こそが、多様性を認めあい、相互理解につながり、ひいては世界平和にもつながっていくという理念と想いから。
「つながり」をキーワードに「外国人学生と日本人学生がここで出会い、絆を深め、共にまだ見ぬ未来を生み出そう」というコンセプトのもと建設された施設は、滝氏の平和への願いを反映して夫妻の名を冠しています。
〈Taki Plaza〉のフロア構成は、地下2階+地上3階。畳敷きのコーナもある2階のフロアには、外部のウッドデッキを上った先のドアからも中に入ることができます。そのほか、内包する施設は、教育改革によるカリキュラム刷新に伴い活発化した、グループ学習のためのスペースや、海外の大学や留学支援の情報、学生同士の情報を共有できるインフォメーションスペース、学生にとって必要なサービスがスムーズに受けられるサポートスペースなどが設けられました。地下2階のイベントスペースには、国際交流には料理が有効としてキッチン設備も設けられています。また、1Fには周辺住民も入りやすいカフェも用意されています(内覧会開催時はクローズ)。
国際交流と「Student-Centered leaning」の拠点に
施設の運営は、東工大が指定国立大学として2018-2023年のアクションプランの1つに掲げている「Student-Centered leaning」の拠点となる見込みです。企画運営は学生が主体となり、2018年10月には、〈Taki Plaza〉の活用を検討する学生ワークショップが開催され、参加者の中から発足した「Taki Plaza学生ワーキンググループ」がコンセプトシンボルとして「1本の木」を策定。これは、地下2階から地上2階までの4フロアから成る建物のかたちと、東工大に息づく丘の文化からイメージしたものとのこと[*2]。
*2.東工大ニュース「Hisao & Hiroko Taki Plazaのフロアコンセプトを学生グループが考案」より(2020年1月23日)
建物を設計した隈研吾氏は、2018年2月の記者会見の席上、次のように語っています*[*3]。
「〈Taki Plaza〉は大岡山キャンパスに息づく”丘”の文化の特徴を捉え、学生を迎え入れる新しい地形(プラットフォーム)となるような建物を目指す。建物は、地下部分で附属図書館と接続し、個人で読書や各作業を進める”静”のイメージと、グループで語り合いながら進めていく”動”のイメージを、1つのまとまりの中で実現することで、学習の幅が広がり、相乗効果が生まれることを期待している」
*3.「東工大ニュース」(2020年3月15日公表)より
計画発表から2年と10カ月、竣工した建物の地下1階で開催された記念式典にて、隈氏は「滝さんは私の小学校の先輩にあたる。学生の頃には、東工大の近くに住んでいたので、東工大はいわば自分ちの庭のようなもの。とても思い入れがある」と東工大の思い出を語り、さらに「当時は篠原研にも出入りをしていた。その頃の”学友”というと変かもしれないが(註.隈氏は東京大学卒)、篠原研にいた伊藤 仁(ひとし)君とは仲良くしてもらっていた。その彼が、今ではこの建物の施工を手がけた鹿島建設の常務に。いろいろな人との縁、つながりを感じている」と感慨を語りました。また「建物と大地とをつなぐ」というコンセプトを改めて説明し、館内の空間については「階をまたいで、いろんな場所で人々の視線が生まれている。教育施設としてはとてもユニークなものになったのではないか」と感想を述べました。
隈 研吾氏コメント:
東京工業大学のキャンパスの入口に位置する〈Hisao & Hiroko Taki Plaza〉は、大地と一体となった緑の丘のような建築です。〈Taki Plaza〉の内部空間もまた、大地のようなステップ状の空間が拡がり、留学生との交流スペース、コ・ラーニング、ワークショップなどの複数の活動がシームレスに展開されます。1つの大きな建築空間にこれらの活動が展開されることで、それぞれが視覚的にも体感的にもつながり、多様な交流が生まれます。
この大きな交流空間の中心に置かれた、大友克洋氏の原画をもとに制作された陶板作品「ELEMENTS OF FUTURE」は、施設の理念である多様性の未来を、具体的に指し示してくれます。
今後、ますます進んでいく国際化の中で、この緑の丘からさまざまな交流と交換が生まれていくでしょう。(当日配布された「ELEMENTS OF FUTURE」パンフレット記載のテキストより、全文)
大友克洋氏の原画・監修による壁画作品が1階ロビーに登場!
東工大の新たなランドマークとなる〈Taki Plaza〉。その施設のシンボルとなるのが、1階メインエントランスの正面に設置された、大友克洋氏の壁画作品「ELEMENTS OF FUTURE」です。日常的にアートに触れてもらい、豊かな感性を育んでほしいという滝氏の想いから、『AKIRA』などで世界的に知られ、メッセージ性のある作品でも知られる大友氏に白羽の矢が立ちました。
「ELEMENTS OF FUTURE」
企画・制作:公益財団法人日本交通文化協会
原画・監修:大友克洋
製作:NKB、クレアーレ熱海ゆがわら工房
大友克洋(おおとも・かつひろ)プロフィール
1954年生まれ。宮城県登米氏出身。1973年にプロスペル・メリメ『マテオ・ファルコーネ』を原作とした『銃声』で漫画家デビュー。代表作に1980年連載開始の『童夢』、1982年の『AKIRA』などがある。ペンタッチに頼らない均一な線による緻密な描き込み、複雑なパースをもつ画面構成など、それまでの日本の漫画にはなかった作風で、1980年代以降の漫画界に大きな影響を与える。映像では、長編アニメーション作品『AKIRA』(1988年)、『MEMORIES』(1995年)、『スチームボーイ』(2004年)などを自ら監督している。長編アニメーション作品が『ORBITAL ERA(オービタルエラ)』が次回作として待機中。
構想から約2年半を経て完成した「ELEMENTS OF FUTURE」
縦横が約5メートルもの大作「ELEMENTS OF FUTURE」は、大友氏が描いた原画を元に、焼かれた陶板を組み合わせてつくられています。粘土造形のための縮小模型(エスキース)から、本造形、切り分け・割り付け、素焼き、施釉、本焼成、取り付けまでの制作を、本作のような陶板や、ステンドグラスのパブリックアートも数多く手がけている、クレアーレ熱海ゆがわら工房が担当しました。東京駅地下中央通路大階段正面に設置されている「ステンドグラス作品」も、同社の制作によるものです(福沢一郎:画)。
大友氏とは、同協会の企画のもと、仙台空港国際線到着ロビーに2015年に設置された陶板レリーフ「金華童子風神雷神ヲ従エテ波濤ヲ越ユルノ図(キンカドウジフウジンライジンヲシタガエテハトウヲコユルノズ)」でもタッグを組んでコラボレーションしています(仙台空港ウェブサイト「陶板レリーフ」)。
同協会によれば、壁画作品としては初となる、球状鉄骨構造の上に設置される陶板作品とのこと。2層構造になっている壁画の表面には、人の顔やビルディング、鳳凰、さまざまなモチーフが散りばめられ、かつ立体的で躍動感ある作品に仕上がっています。
原画を描くにあたり、大友氏は〈東京工業大学百年記念館〉が所蔵するさまざまなコレクションを見せてもらい、それらが作品に反映されていると語りました。例えば、作品の中心からやや上に見られる”黒い窪み”は宇宙、そのきらめきから連想される曜変天目をイメージしたもので、その下の”昇龍”は若者の上昇感を表現。また、桜の季節に東工大を訪れた際に、キャンパスの桜で花見を楽しむ近隣の人々の姿も印象に残っていたそうで、本作品はそれら人と都市との関わりや、さまざまな記憶や要素がコラージュされているとのこと。未来を生きる若者たちへのメッセージが凝縮された大作です。
〈Hisao & Hiroko Taki Plaza〉のグランドオープンは、2021年春を予定しています。カフェの営業状態など詳細・最新の情報は、施設の公式ウェブサイトで確認してください。(en)
〈Hisao & Hiroko Taki Plaza〉公式ウェブサイト
https://takiplaza.gakumu.titech.ac.jp/
東工大ニュース「東工大の新たなランドマーク Hisao & Hiroko Taki Plazaが完成」(2020年12月18日)
https://www.titech.ac.jp/news/2020/048534.html