「記録」を「記憶」として留めるために
2011年3月11日(金)14時46分に発生した東日本大震災から10年。多くの尊い命が失われ、地域社会にも大きな傷跡を残しました。
国内各地ではその後も大きな自然災害が頻発しています。さらには首都直下地震などの発生も懸念される中、COVID-19(新型コロナウイルス感染症)拡大による、いわゆるコロナ禍により、それらの対策はいっそう難しくなっています。
日本科学未来館とNHKが主催する本展では、震災を忘れず、教訓を未来へ伝えるために、「震災の記憶」、「その後の人々が生んだ絆」、「未来への課題」の3つをテーマに掲げています。過去の「記録」を見つめ、その記録を「記憶」として捉え、今後の防災・減災について考えてもらうという狙いです。
【TECTURE MAG】では、3月5日に開催されたプレス内覧会を取材。会場レポートをお届けします。
ゾーン1:東日本大震災をNHKアーカイブスで振り返る
会場で見ることができる映像は、本展の主催者であるNHKが、これまで記録・蓄積してきた映像や資料が中心となっています。これらのアーカイブス映像などをさまざまな展示で振り返るとともに、震災・復興にまつわるストーリーをもった品々もあわせて展示。復興への取り組みと課題を紹介します。
以下にシェアする動画は、本展会場で上映されているものではありません。日本科学未来館が、2011年9月より、YouTubeの同館公式チャンネルで公開しているものです。
会場では、これよりも強い揺れに見舞われた、NHK仙台支局のビル内の映像や、津波に襲われる東北各地の映像が、最初の展示となります。
# 日本科学未来館 / MiraikanCahnnel「3.11後の日本科学未来館~震災と、私たちの選択~」(2011/09/08)
建築系学生たちによる「失われた街」模型復元プロジェクト
「失われた街」模型復元プロジェクトは、東日本大震災をきっかけに、建築家で神戸大学准教授の槻橋 修氏が立ち上げたもので、全国の建築を学ぶ学生が協力し、被災前の街を縮尺1/500の模型で復元する取り組みです。
製作された模型はかつて、東京・乃木坂のTOTOギャラリー・間にて2011年11月から12月にかけて開催された特別展「311 失われた街展 / 311: LOST HOME」において展示されたことがあります。
プロジェクトはこれにとどまらず、参加大学の学生たちが、被害を受けた各地でワークショップを行い、会場に足を運んだ住民らから聞き取り調査も行っています。
生活の場は失われ、月日が経過しても、再現模型を前にした人々の記憶は鮮明です。例えば、子供の頃に通った駄菓子屋や、デートを重ねた桜並木、孫と連れ立って歩いた遊歩道でのエピソードなど(ワークショップの様子は、NHKが制作・放映した特集番組などで紹介されています)。
プロジェクトでは、これら人々の思い出の場所に、それぞれに「記憶の旗」を立ててもらうことまで行います。旗が増えていくことで、再現模型「失われた街」は、人々の思い出が詰まった「記憶の街」へと変わってゆきます。
「失われた街」模型復元プロジェクト詳細
https://www.earthmanual.org/p16ja/
会場で展示されているのは、このうち、2013年に製作された、宮城県南三陸町・志津川の「記憶の街」です(製作:宮城大学 事業構想学群 中田千彦研究室・友渕貴彦研究室)。
#「失われた街」模型復元プロジェクト YouTube公式チャンネル「失われた街 ギャラリー・リーディング/気仙沼 内湾」(2014/03/11)
ゾーン2:その後の人々が生んだ絆
「復興タイムトンネル」と題した展示では、2011年から2020年にかけての東北地方の復興の歩みを、三陸鉄道の復旧など、当時の社会の出来事などを交え、ニュース映像とともに振り返ります。レディー・ガガ氏からのチャリティ支援など、国内外からの寄せられたサポートにまつわる品々が展示されています。
ゾーン3:あなたと未来を考える
東日本大震災の教訓を踏まえ、毎年のように国内各地で頻発する自然災害や、それに伴う複合災害に備え、わたしたちの未来について考えます。
「防災クロスロード」の展示は、仮想空間の中で災害時に迫られるさまざまな「選択」を体験することで、防災について自分のこととして考えていきます。
「逃げ地図」と「防災ジオラマ」
「2つの地図の物語」と題した展示では、被災したダンボール工場が製作した「防災ジオラマ」と、日建設計ボランティア部が開発した「逃げ地図」における、これまでの活動などを見ることができます。
「防災ジオラマ」は、等高線に沿って切り抜かれた段ボールのパーツを積み重ねたもの。子供でも容易に組み立てることができるため、パズル感覚で防災感覚を身につけることにつながります。
防災ジオラマ推進ネットワーク
https://www.bosai-diorama.or.jp/
会場には、南海トラフ地震など巨大地震が発生した場合、甚大な被害が予想されている神奈川県鎌倉市・鎌倉駅周辺の「防災ジオラマ」が展示されています。
ジオラマ模型の上からは、後述する「逃げ地図」のデータが反映されたプロジェクションマッピングが投影され、沖合で巨大地震が発生した場合の津波による浸水被害をビジュアル化しています。
「逃げ地図」とは、正式名称を避難地形時間地図といい、ハザードマップを下敷きにして作成する避難用の地図のこと。災害発生時に、どの道を使い、どこに逃げるのが最善か、最速かつ安全なルートが一目でわかるよう、色分けされています。避難する1人ひとりの視点に立ち、自分たちの手で作成する点が、行政が配布するハザードマップと大きく違う点です。
「逃げ地図」は、日建設計の羽鳥達也氏らが開発したものに、明治大学山本俊哉研究室や千葉大学木下勇研究室が共同して研究と実践を重ねてきました。2019年12月には、書籍と関連シンポジウムも開催されています。
会場で上映されている、羽鳥氏ら関係者へのインタビュー映像によれば、「逃げ地図」は実際のビル設計などにも生かされているとのこと。
避難所におけるコロナ対策
最後の展示は、複合災害に備えた新たな避難所の形態。COVID-19(新型コロナウイルス感染症)の拡大防止に役立つと考えられている、飛沫感染防止用のテントが展示されています。
このほかにも本展では、東日本大震災に関する映像を各所で見ることができます。「3.11」を体験した者には、地震による強い揺れ、その後に起こった事象にまつわる記憶が、昨日のことのように思い出される内容です。
環太平洋火山帯の真上に位置する国に暮らす私たちは、災害に直面するリスクと課題を抱えていることを改めて認識し、必要な防災・減災を「自分ごと」として、常日頃から準備を怠ってはいけないことを強く実感させ、訴えかけてくる特別展です。
同時に、建築はいったい何ができるのかと、改めて考えさせられます。
特別企画「震災と未来」展 -東日本大震災10年-
会期:2021年3月6日(土)~28日(日)
休館日:3月9日(火)、3月16日(火)
開館時間:10:00-17:00(入場は閉館30分前まで)
会場:日本科学未来館 1階 企画展示ゾーン(Google Map)
入場料:無料(但し、事前予約制を導入中につき、展覧会公式サイトより予約が必要)
主催:NHK、日本科学未来館
協力:「失われた街」模型復元プロジェクト実行委員会、神戸大学減災デザインセンター(CResD)、一般社団法人ふるさとの記憶ラボ、宮城大学事業構想学群中田千彦研究室・友渕貴之研究室
日本科学未来館公式サイト
https://www.miraikan.jst.go.jp/
展覧会公式サイト
https://www.nhk.or.jp/event/art2020/