小坂 竜さん、化粧板の未来はどうですか!?
数多くの話題の飲食店やホテルのデザインを手がけ、感性に訴える空間を創造し続ける小坂 竜氏(A.N.D.クリエイティブディレクター)。
建材メーカーのイビケンのリアルな質感を追求した「プレミアム化粧板 イビボードアッシュ」のディテールを確かめながら、利用できるシーンに言及した前半。
後半で小坂氏の話は、化粧板にこれから期待すること、そして近年高まっている抗ウイルスやSDGsの要望に、どのように応えているのかという内容に及んだ。
小坂 竜 | Ryu Kosaka
1960年東京都生まれ。武蔵野美術大学造形学部建築学科卒業後、株式会社乃村工藝社入社。現、商環境事業本部 A.N.D.クリエイティブディレクター。
主な作品に〈マンダリン オリエンタル東京〉のメインダイニング、〈新丸ビル〉の環境デザイン、〈サクララウンジ(羽田空港JAL国際線)〉などがある。そのほか、イギリスの国際的に名誉あるアワード『Restaurant & Bar Design Awards 2014』のバー部門大賞『Best Bar』の日本人初受賞をはじめ、のべ8アワード9つのタイトルを受賞した〈W広州FEI〉(中国・広州)などを手掛ける。国内外の話題のレストランやホテル、レジデンスのデザインを数多く手掛け、現在はアパレルブランドの世界展開や建築からのデザイン設計など、インテリアを中心にさらなる活躍の場を拡げている。
https://www.and-design.jp
Photographs: toha
化粧板にしかできない表現を追求してほしい
▲アッシュシリーズ「エイジングポリッシュ」(画像提供:イビケン)
── 先ほどの話(#01)にあったように、化粧板がもつ耐久性のメリットが、表現の進化でより強調されるようになってきたということですね。
小坂:リアルな自然素材を模倣していく中で、強度や耐久性を含めてリアルを超えるものが出てきたということは、デザインするうえで大きいと思います。
その先に僕が期待しているのは、こうした化粧板でしか表現できない材料です。自然界にあるものの模倣するものだけでなく、リアルには存在しない表情をつくってもらえれば、化粧板を採用するうえでの説得力があります。
発想次第だと思いますが、例えば、リアルな木目ではない木目パターンとか。金属調でも、流行りの金属の表情を真似するだけでなく、リアルな金属ではなかなか表現できない表情はあるはずです。塗装でも艶や光沢のアリ・ナシは当然ありますし、マットな表情でこれまであまり使われてこなかったパターンもあるでしょう。
すぐにでもほしいのは、革やファブリックのテクスチュアの化粧板ですね。
革であれば、少しなめした革やスウェードの革、絶妙なシボ(表面のシワ模様)が入った革、オーストリッチの凹凸感がある革とか。布であれば、平織りに編んでいる布とか。
革や布の質感や風合いが化粧板でうまく表現できれば、建具や家具に貼ってみたいです。革や布はやはり柔らかくて耐久性の面で厳しく、使い方が難しいですから。化粧板であれば、面の途中で穴をあけて棚板を渡すといったこともできます。
抗ウイルス機能がスタンダードになる
── イビケンの化粧板は、抗ウイルス機能に力を入れています(※)。近年に抗ウイルスが求められることは多くなっていますか。
小坂:昨今のコロナ禍の情勢では、抗ウイルス抜きには語れません。ウイルスとはずっと付き合うことになりそうで、材料の耐久性と同様に抗ウイルス性は重要でしょう。
イビケン製品の抗ウイルス能力は、放っていてもおよそ15分で99%の抗ウイルスを実現するというので、すごいですよね。
飲食店では皆さんアルコールスプレーをかけて拭かれていますが、建材で抗ウイルス製品をスペックしていれば、安心感があるでしょう。
カウンターの天板などでは、保護用にウレタン塗装をかけることもありますが、アルコールが付くと白化してしまうのですよね。ガラスコーティングではアルコールが付いても耐久性が損なわれないという話もあるのですが、高価なので使用がためらわれます。
学校や公共施設、病院やクリニックでは、こうした抗ウイルス製品が圧倒的に広まっていくでしょう。病院やクリニックでは、とにかく全部を拭いていますよね。それでも、変化しない材料にしなければなりません。
十数年前に初めて歯科クリニックを設計したのですが、診察室などでは「見た目がきれいなだけではいけない」と先生に言われました。風合いが良くても耐久性のある材料でないと、2〜3年で劣化してしまう。確かにそうだなと思いましたし、コロナ禍を経験してなおさら耐久性や抗ウイルス性は気にするようになっています。
※ 「イビボード ウイルヘル®」は、表面材そのものの中に有機合成抗ウイルス剤を練り込む製法により、約15分で99%以上ウイルスを減少させることを実証。2021年11月より通常価格帯の全261柄に抗ウイルス・抗菌機能が付加され標準在庫対応開始。
https://ibiboard.jp/lp/202102/Viru/
イビケン 総合サンプル帳
SDGsはデザインの見方を拡げる機会と捉える
── 耐久性や抗ウイルスとともに、SDGsについても社会的な関心が高まっています。仕事で話題にのぼることはあるでしょうか?
小坂:この1〜2年は、SDGsのことはクライアントなどから言われたり、聞かれたりすることが増えました。もはやSDGsは一過性のものではなく、一般企業から家庭にまで浸透してきたことを実感します。そして、SDGsは条件としてきちんと理解しクリアすることが、最低限必要になっています。
SDGsを意識することで、デザインもずいぶん変わりますね。僕は「日本空間デザイン賞」の審査員を毎年務めているのですが、地球環境的な資源であったりエネルギーであったり、SDGsの側面からも票を入れるようになっています。プロダクトについても、意匠性や機能性に加えて、サスティナブルや環境負荷に対する考え方は重要な要素となっています。
── 建材とSDGsも、深い関係がありそうです。
小坂:希少な資源を使うことが、地球環境へどのような影響を及ぼすかは考えざるをえませんね。化粧板で本物に近い質感ができれば、環境を保護することにもなりえるでしょう。
例えばチークなどは世界規模で伐採が禁止されてきていますし、エボニーや紫檀、黒檀などのレアな材料を使うことは難しくなっています。希少な材料について化粧板で特注できれば、本物は触る個所など限られた部分にするといったことが考えられます。
また、製品の製造過程で出てくる端材や廃番となった化粧板の活用も、ありそうです。ある衣料メーカーでは廃棄する服をプレスしてカットしたものを、再び材料にする取り組みをしています。等高線のような不思議な目が出てくるのですね。フードロスの関心も高まっていますが、以前は当たり前のように廃棄していたものの循環を、少しでも緩めようという動きです。
僕たちデザイナーも今後は、廃棄される素材について、どのような使い方をしていくかが問われるようになります。社内でも、どのような可能性があるかを論議する時間が増えてきました。
僕たちがデザインする施設も、地球環境への貢献がすごく重要になってくるでしょう。ある種類の材料を使うときにも、地球環境に貢献している材料を使うほうが僕たちもクライアントも気持ちがいい。
SDGsには、いろんな要素が関係していますよね。今SDGsというときの切り口や展開が画一的になっているように思うのですが、もう一度俯瞰してみると、実はいろいろなヒントがあるのではないでしょうか。デザイナーでできることはしておきたいし、新しい可能性を探していきたいですね。
(2021.10.18 A.N.D.にて)
■プレミアム化粧板 イビボードアッシュ
空間における素材の多様性を拡張し、その融合の妙を助ける“交響デザイン”を実現するプレミアムブランド。