写真家の川内倫子の大規模個展が、1月21日より滋賀県立美術館にて始まりました。
2022年10月から12月にかけて、東京オペラシティ アートギャラリーで開催された展覧会が巡回するもので、西日本では同館が唯一の開催となります。また、東京会場に引き続いて、建築家の中山英之が率いる中山英之建築設計事務所が会場デザインを担当しているのも見どころです。
川内倫子は、写真界の芥川賞とも称される木村伊兵衛写真賞をデビュー作で受賞。2022年11月には、国際的な写真賞である「Sony World Photography Award 2023」において日本人では初となる特別功労賞を受賞するなど、国内外で高い評価を受けている作家です。
本展では、作家のこの10年の活動に焦点をあてて紹介。新作の〈M/E〉シリーズや未発表の作品などを織り交ぜながら、写真に加え、映像やインスタレーションなど、その世界観を伝える多彩な表現で展示を行い、川内の作品の本質に迫ります。
〈光と影〉
2011年4月、友人の写真家の案内兼通訳として訪れた石巻、女川、気仙沼、陸前高田で 白と黒のつがいの鳩と出会ったことで生まれた作品。生と死、相反するものが同時に存在する世界を象徴するかのような2羽の鳩の姿を写している。本展ではスライドショーでの展示となる。
〈4%〉
ロサンゼルスのアーティストインレジデンス THE LAPIS PRESS でのコミッショ ンとして、2011年にサンフランシスコ、2012年にロサンゼルスにそれぞれ滞在して制作された作品群。球体や水平線など、宇宙をイメージさせる被写体が多く登場する、日本では初公開となるシリーズ。
〈An interlinking〉
川内の写真を象徴する「6×6」の正方形フォーマットで撮られたシリーズ。日常にあるイメージや小さな命の姿を、ローライフレックスの6×6フィルムで捉えている。過去20年以上にわたって撮影されたアーカイブから、本展のために構成した未発表を含む作品群が披露される。
〈あめつち〉
熊本県阿蘇で古くから行われてきた野焼きを、4×5のフィルムカメラを用いて撮影したシリーズ。 野焼きに加え、イスラエルの嘆きの壁など、自然への畏怖と人間の祈りや「捧げる」という行為に焦点をあてた作品など。
〈M/E〉
2019年より川内が取り組んできた新作シリーズ。アイスランドの氷河や冬の北海道の雪景色と、コロナ禍に自宅周辺で撮影した家族や生き物の姿などの身近な風景など、ミクロとマクロの視点から自然の姿を写しとっている。本展の中心に据えられたシリーズであり、空間全体を使った構成で展示される。
〈Illuminance〉
2011年に発行された写真集『Illuminance』の映像作品として発表され、展示される度に新しく映像を追加していくことをコンセプトとした作品。当初は10分程度だった再生時間は増え続け、川内の活動の軌跡であると同時に、永遠に未完であり続ける作品でもある。
本展は、建築家の中山英之が率いる中山英之建築設計事務所が、東京会場に引き続いて会場のデザインを手がけます。東京オペラシティでの会期中、建築・デザイン関係者らによってSNSに会場風景が多数投稿され、作品の世界観を伝える空間デザインが話題となりました。
中山は、事前に川内とのディスカッションを重ね、「自分が作品を制作する際に感じた感覚や経験を、展示空間において観賞者と共有したい」という作家の想いに応えた空間が、滋賀会場においても創出されます。
川内倫子氏の大規模展は国内では約6年ぶりで、作家の出身地である滋賀では初の大規模個展となります。
川内の写真は柔らかい光をはらんだ独特の淡い色調を特徴とし、初期から一貫して人間や動物、あらゆる生命がもつ神秘や輝き、儚さ、力強さを撮り続けています。
川内のまなざしは、身の回りの家族や植物、動物といった存在から、火山や氷河といった壮大な自然に対してまで等しく注がれています。日常にある儚くささやかな対象と、長い時を経て形成される大地の営みとが、独自の感覚でつながり、同じ生命の輝きを放っているところに、川内の作品世界の大きな魅力があるといえます。展覧会タイトルでもある〈M/E〉は、本展のメインとなる2019年以降に撮影された新作のシリーズです。〈M/E〉とは、「母(Mother)」、「地球(Earth)」の頭文字であり、続けて読むと「母なる大地(Mother Earth)」、そして「私(Me)」でもあります。
アイスランドや北海道で川内が撮影した火山や流氷と、2020年以降に世界を見舞ったコロナ禍の状況下で撮影された日常の風景とは、一見するとかけ離れた無関係のものに思えますが、どちらも私たちの住む地球の上で起こったことであり、川内の写真はそこにあるつながりを意識させます。
本展は、人間の命の営みや自然との関係について、改めて問い直す機会となるでしょう。(本展プレスリリースより)
会期中は、講演会、ワークショップ、学芸員によるギャラリートークなどの関連イベントも各種開催されます(詳細は滋賀県立美術館ウェブサイトを参照)。
さらに、本展にあわせて、館内展示室2において、特集展示「川内倫子と滋賀」も開催されます(会期:2023年1月11日[水]〜5月7日[日])。
会期:2023年1月21日(土)〜3月26日(日)
休館日:月曜
開館時間:9:30-17:00(入館は16:30 まで)
会場:滋賀県立美術館 展示室3
所在地:滋賀県大津市瀬田南大萱町1740-1(Google Map)
当日観覧料金:一般 1,300円、高校・大学生 900円、小学生・中学生 700円
※展示室1・2で同時開催する常設展も観覧可
※未就学児は無料、身体障害者手帳、精神障害者保健福祉手帳、療育手帳の受付時提示で無料
主催:滋賀県立美術館、朝日新聞社
後援:エフエム京都
協力:一般社団法人 KYOTOGRAPHIE
企画:荒井保洋(滋賀県立美術館 主任学芸員)、芦髙郁子(滋賀県立美術館 学芸員)
※令和4年度日本博イノベーション型プロジェクト 補助対象事業(独立行政法人日本芸術文化振興会 / 文化庁)
滋賀県立美術館ウェブサイト
https://www.shigamuseum.jp/