FEATURE

Monet: In The Light
(Exhibition Design: Hideyuki Nakayama)

「モネ-光のなかに 会場構成:中山英之」箱根ポーラ美術館にて開催

FEATURE2021.05.24

Monet: In The Light (Exhibition Design: Hideyuki Nakayama)

「モネ-光のなかに 会場構成:中山英之」箱根ポーラ美術館にて開催

建築家の名前が展覧会タイトルにクレジットされているモネ展

神奈川県・箱根町のポーラ美術館にて、「モネ-光のなかに」展が来年3月30日(水)まで開催されています。
本展は中山英之氏の会場構成によるもので、企画協力として岡安泉照明設計事務所がクレジットされている、注目の展覧会です。

ポーラ美術館では、印象派を代表する画家クロード・モネの作品を国内最多の19点を収蔵しており、そのうちの11点を展示。《ルーアン大聖堂》(1892年)や《睡蓮の池》(1899年)などの名品が展示されます。

箱根 ポーラ美術館「ネ-光のなかに 会場構成:中山英之」

クロード・モネ〈ルーアン大聖堂〉1892年(ポーラ美術館収蔵)

陽光と色彩を求めて戸外に赴き、作品を描いたモネ。モネ作品11点を展示する本展では、その理想的な環境として「会場全体を自然光に限りなく近い質の光で満たされた空間に置く」というコンセプトが設定されています。
中山氏が岡安 泉氏との協働によってつくり出した、空間全体を満たす柔らかい光のなかで、モネ作品の新たな魅力に迫る試みです。

ポーラ美術館「モネ 光の中に」展(会場デザイン:中山英之+岡安 泉)

会場風景 ©︎Gottingham

自然光に限りなく近い質の光を地下空間でつくりだす

ポーラ美術館の公式インスタグラムには、4月7日から15日にかけての投稿で、設営中の様子を写真で伝えるとともに、中山氏と岡安氏による会場デザインに関する記述があります。

@polamuseumofart
https://www.instagram.com/polamuseumofart/

それによれば、四角い展示室の天井と壁が接するコーナー部分には、弧を描いた下地フレームが取り付けられ、その上に白い膜素材が張られて、天井の四隅から角(かど)を消しています。端部の曲面を含めて天井全体が膜で覆われ、ここに照明の光が反射して、どこまでも続く空の下にいるような、柔らかな間接光で空間全体が包み込まれるようになっています。

天井の造作には、伊東豊雄氏や平田晃久氏、長坂 常氏が率いるスキーマ建築計画など、建築家とのコラボレーション実績が多数ある、丸八テント商会が協力しています。

ポーラ美術館「モネ 光の中に」展(会場デザイン:中山英之+岡安 泉)

会場風景 ©︎Gottingham

床のしつらえもまた、靴音や反響音を抑えて、屋外空間にいるような感覚を生み出すためのじゅうたんが選ばれ、微妙な淡い青緑色を求めて、ドイツのハーメルンから取り寄せられました。環境への配慮もなされたエコなインテリア商材とのこと。
緩やかな空間を仕切る曲面の展示壁の裏面の色も、美術館を取り巻く周辺の深い緑との連続性から、じゅうたんと同様の淡いグリーンが選ばれ、同時に、印象派の画家たちがフィールドとした野外を想起させる展示空間となっています。

さらに、この展示壁の上部には照明器具が仕込まれていて、作品ではなく天井を照らしています。上向きに照射された光は天井面で拡散し、あたかも曇り空の下に居るような視覚効果をあげています(会場を訪れたらぜひ、絨毯の上に自身の影が落ちていないことを確認してください)

ポーラ美術館「モネ 光の中に」展(会場デザイン:中山英之+岡安 泉)

会場風景 ©︎Gottingham

会場で最も美しく見える作品は・・・?

最終的に、展示作品の1つひとつに岡安氏が照度計をあて、本展において最も重要な要素である光を、LED照明の調光機能で調整。細かなピッチで整え、鑑賞に必要な光を確保するとともに、柔らかな光を造作(協力:遠藤照明)。本展の会場では、日の入り2時間前、あるいは日の出2時間後の光を色温度に設定されています。

「この光の中で、おそらく最も美しく見えるのは、1899年作の〈睡蓮の池〉」と中山氏は言い、担当学芸員の鈴木幸太氏もそれに同意を示しました。「我々も初めて見るような色の立ち上がり方をしていて、青系、緑系の色が強い作品に関しては特に、風景が立ち上がってくるように見えるだろう。本展でしか体験できない光の効果」のこと(2021年4月16日プレスビューの両氏の発言より)

ポーラ美術館「モネ 光の中に」展(会場デザイン:中山英之+岡安 泉)

写真の中の作品:1899年〈睡蓮の池〉©︎Gottingham©︎Gottingham

本展で採用されている最新のLED照明の機能を使えば、モネが〈セーヌ河の日没、冬〉を描いた、1880年のセーヌ川の冬の河畔への「時間旅行」も可能に。4月16日に現地で開催されたプレスビューでは、特別に設定を変え、一瞬にして場内がオレンジ系の薄暮の光に包まれる場面も(「描かれた水面がキラキラ輝いて見える」とは中山氏の談)

クロード・モネ〈セーヌ河の日没、冬〉 1880年(ポーラ美術館収蔵)

曲線を描く展示壁の大事な働き

会場内で曲線を描く展示壁は、作品保護のためにどうしても額に入れなければならないガラスの面に、明るい天井が映り込んでしまうことを抑える働きも担っています。暗色に塗られた壁の裏面が常に額と正対するように配置されており、コンピューターシミュレーションで検討を重ね、中山氏いわく「針の穴を通すような」作業を経て、この曲線が導き出されています。

あえてトタンという安価な外装材を選んだことは、短い配置換え期間で大きな曲面を目地なしで施工するためであると同時に、「積み藁」のようななんでもない風景を題材に選んだモネの絵には、そのくらいの素っ気なさがふさわしいように思われた、とも。

このように、絵を見るための光の質をとことん突き詰めながら、鑑賞者にはそうと気付かせない環境をつくり出した、中山氏による空間デザインも、本展の見どころの1つです。

「モネ-光のなかに」展(会場デザイン:中山英之+岡安 泉)

会場風景(写っている作品は1908年〈サルーテ運河〉) ©︎Gottingham

「この会場を訪れた方の多くは、この天井が本展のために造作されたと気付かないまま、会場を出ていくかもしれない。けれども、本展における最も重要な仕事は、実はこの天井。
既存の天井は、プレキャストコンクリートが美しく波打つ、ひと目で箱根のポーラ美術館のそれとわかるアイコニックなもの。ただ、本展ではそれを薄い膜で覆った。単に覆うだけでなく、写真スタジオが壁と床の境をなくすために曲線の壁をつくる『ホリゾント』の効果を用いて、壁と天井との境目を消す、いわば『逆ホリゾント』の状態をつくっている。部屋の輪郭を越えてどこまでも広がるような、本展のための天井ができあがった。

通常の美術館では、展示する作品ごとにスポットがあてられるが、本展では、天井全体に光を反射させているので、あたかも曇り空の下にいるような、ひとつだけの大きな光に会場全体が包まれる。1世紀以上も前に、発明されたばかりのチューブ入りの絵の具を手に、アトリエから外の世界へ飛び出して、空の下、さまざまな風景の中にカンヴァスを置いたモネ。本展のために造った、この『たったひとつの大きな光』の中で作品を鑑賞するうちに、いつのまにか画家がかつていた風景の中に、カンヴァスと一緒に立っているような気持ちになれば。そんなことを考えながらこの会場構成を設計した。

都会の美術館では味わうことのできない緑豊かな環境で、木漏れ日の中を通り抜けた先の、地下3階にあるこの会場で、もう一度空と出会う。影のない光に包まれて、11枚のモネの旅路を巡るうち、ここではない時空へと旅に出るような。そんな体験を、会場で味わってもらえればと願っている。」(2021年4月16日プレスビューの中山氏発言を編集部にて構成+中山氏の加筆)

中山英之(なかやま ひでゆき)プロフィール

中山英之 近影

中山英之氏

建築家。1972年福岡県生まれ。1998年東京藝術大学建築学科卒業。2000年同大学院修士課程修了。伊東豊雄建築設計事務所勤務を経て、2007年に中山英之建築設計事務所を設立。2014年より東京藝術大学准教授。
主な作品に、〈2004〉〈O邸〉〈Yビル〉〈Y邸〉〈家と道〉〈石の島の石〉〈弦と弧〉〈mitosaya薬草園蒸留所〉〈Printmaking Studio/ Frans Masereel Centrum〉(LISTと協働)など。
主な受賞に、SD Review 2004 鹿島賞(2004年)、第23回吉岡賞(2007年)、Red Dot Design Award(2014年)、JIA新人賞(2019年)などがある。

中山英之建築設計事務所 Webサイト
http://www.hideyukinakayama.com/

若手作曲家とのコラボレーションしたコンテンツも配信

また、本展では、現代音楽において今、最も注目を集める若手作曲家の1人、ニコ・ミューリーも参画しています。

ニコ・ミューリー(Nico Muhly)近影

ニコ・ミューリー(Nico Muhly)氏

ミューリーが手掛けた全29曲(2時間23分)のプレイリストを、オーディオ ストリーミングサービス「Spotify」上で3月18日(木)より公開中。無料のアプリをダウンロード・すれば、会期終了まで聴くことができます。
ビョーク、シガー・ロス、サン=サーンス、宮城道雄など、ポップ・ミュージックからクラシック、古今東西の音楽を自在に行き来しながら、モネが生きた時代の空気感と、現代の私たちの目にうつるモネ作品のリアルな印象を、「モネx現代的な会場構成」という展覧会コンセプトにあわせた音楽を通じて感じてもらいたいという趣向の特別なプレイリストです。

Spotify「Monet: In The Light」プレイリスト:
https://open.spotify.com/playlist/1VxcAihdQi6LSXf5M1GcGQ

「モネ-光のなかに 会場構成:中山英之」展覧会概要

会期:2021年4月17日(土)〜 2022年3月30日(水)
※展示替えあり、9月6日(月)〜10日(金)は休館
会場:ポーラ美術館
所在地:神奈川県足柄下郡箱根町仙石原小塚山1285(Google Map

開館時間:9:00-17:00(最終入館は16:30)
休館日:年中無休(但し、上記の展示替え期間を除く)

入館料:大人1,800円、シニア割引(65歳以上)1,600円(他の割引との併用不可)、大学・高校生1,300円、中学生以下無料
※団体15名様以上割引あり
協力:丸八テント商会、遠藤照明、アーテリア

企画協力:中山英之建築設計事務所、岡安泉照明設計事務所

※COVID-19(新型コロナウイルス感染症)拡大に伴う政府および地方自治体の要請により、スケジュールが変更となる場合があります。最新の情報は、会場ウェブサイト上の発表を確認してください

展覧会特設サイトhttps://www.polamuseum.or.jp/monet_inthelight/

ポーラ美術館 公式インスタグラム @polamuseumofart
https://www.instagram.com/polamuseumofart/

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