2023年7月20日初掲、7月24日中川エリカ氏によるテキストを追記
神奈川県・箱根のポーラ美術館にて、「シン・ジャパニーズ・ペインティング 革新の日本画―横山大観、杉山寧から現代の作家まで」が7月15日から12月3日まで開催されます。
会場構成を、建築家の中川エリカ氏が率いる中川エリカ建築設計事務所が担当しています。
「シン・ジャパニーズ・ペインティング」展は、日本画という分野が伝統を継承しつつ、これまでの定石を乗り超えながら革新し、進化しているさまを、とてもたくさんの作品、すなわち、作家たちの実践によって、伝えようとする展覧会なのだと捉え、共感しました。
革新の背景には大きなひとつの時間軸があること。そして、革新の数々には先入観に囚われない作家たちの自由なこころがあること。それらをヒントに、まず一筆書きの一本道をつくり、展示室がもつ既存のかたちや制約から逃れるように、一本道を自由に曲げながら、角を曲がるたびに、作品とともに会場が伸び縮みするような驚きと解放感、先へ先へと歩きたくなる期待感を表現できればと思い、構成しました。(中川エリカ)
本展では、近代の「日本画」を牽引した明治、大正、昭和前期の画家たちや、戦後の日本画家たちの表現方法、そして現在の「日本画」とこれからの日本の絵画を追究する多様な作家たちの実践の数々にあらためて注目し、その真髄に迫ります。
「革新」をテーマに日本画の表現手法や材料、形式の変化によりその歴史を紐解きながら、現代の作家たちによる新作も初公開し、「日本画」の誕生から現代までの展開をダイナミックに紹介します。なお、ポーラ美術館での大規模な日本画展は、13年ぶりの開催となります。
展覧会構成
第1・第2会場
プロローグ 日本画の誕生
明治政府のお雇い外国人として来日していたアーネスト・フェノロサ(1853-1908)は、当時、日本国内で目にした絵画を総じて“JapanesePainting”と呼び、この英語を日本人通訳が「日本画」と翻訳したことから、明治以後に「日本画」という概念が社会的に定着していったと言われています。
日本の伝統的な絵画と西洋画の接触により、新しい表現形式として確立された「日本画」は、日本とは何か、国家とは何かといった不断の問いと向き合う画家たちとともに発展してきました。プロローグでは、日本画と西洋画のはざまで自身の進む方向性を模索した画家たちを紹介します。主な出品作家:橋本雅邦、川端玉章、狩野芳崖、高橋由一、浅井 忠、小山正太郎
第1章 明治・大正期の日本画
日本画には、線を用いない「朦朧体(もうろうたい)」と呼ばれる手法があります。これは、岡倉天心を師と仰ぐ横山大観や菱田春草らが、師の「空気を描け」という言葉に端を発して編み出した革新的な描法です。
彼らは伝統的な日本絵画の枠を脱するために、あえて古くから重視されてきた線で「画く(畫く)」方法を排し、絵具を空刷毛で暈(ぼか)す手法や、西洋絵画にみられるような絵具を「塗る」という行為を日本画に導入しました。
第1章では、「朦朧体」という日本画の革新と同時代の洋画家たちによる日本画様式への接近に焦点をあてます。主な出品作家:横山大観、菱田春草、下村観山、浅井忠、川村清雄、田村宗立
第2章:日本画の革新
「朦朧体」の発明をはじめ、明治後半から大正期までの日本画の革新を支えた出来事のひとつに、新しい岩絵具や丈夫な和紙の開発が挙げられます。
色材の種類やその混色法が乏しいことを問題視していた日本画家たちは、従来の天然顔料よりも彩度や発色の豊かな合成顔料を求め、それまで存在しなかった鮮やかな色彩表現を行うことに成功しました。また、平滑でしっかりとした厚みを持ちながら柔軟性があり、筆運びがよく、絵具の発色も良好な和紙の開発も日本画の発展に大きく寄与しました。
第2章では技法材料と表現手法の関係性に注目します。主な出品作家:横山大観、菱田春草、菊池契月、小杉放菴(未醒)、冨田渓仙、岡田三郎助、岸田劉生、藤田嗣治(レオナール・フジタ)
第3章:戦後日本画のマティエール
日展を舞台に昭和の日本画を華やかに彩り、多くの人々から親しみと尊敬の念を込めて「日展三山」と称された杉山寧、東山魁夷、髙山辰雄。戦後の日本画を牽引した彼らは、東京美術学校在学中の1920-1930年代、19世紀のヨーロッパ美術に憧れ、戦後はヨーロッパの芸術や文化に深く傾倒し、西洋の抽象絵画などから大いに影響を受けながら独自の日本画を創出しました。彼らの絵画に共通する特徴は、油彩画を思わせるマティエールと岩絵具本来の美しさを活かした色彩、そして洗練された画面構成であるといえます。
第3章では、彼らの芸術と現代日本画を比較しながら、これからの日本の絵画の可能性に迫ります。主な出品作家:松岡映丘、山本丘人、髙山辰雄、東山魁夷、杉山 寧、加山又造、今井俊満、堂本尚郎
第4章:日本の絵画の未来 -日本画を超えて
現代の日本画家たち、あるいは日本の絵画の形式を借りて表現する現代美術家たちは、どのように「日本画」と向き合い、どのような可能性を見出しているのでしょうか? 近代以降の「日本画」の歴史をふまえ、様々な選択肢の中から自身に適した材料や技法、表現形式を選び、時代によって揺れ動く「日本」という枠組みとの距離を測りながら、自身の思想や新たな主題を具体的な形あるものにする現代の表現者たちに注目します。
彼らの姿勢や創作活動を通して、それぞれに真の「ジャパニーズ・ペインティング」へのヒントが立ち現れることを期待します。出品作家:荒井 経、山本太郎、三瀬夏之介、久松知子、谷保玲奈、吉澤舞子、長谷川幾与、マコトフジムラ、野口哲哉、深堀隆介、半澤友美、山本 基、天野喜孝、李禹煥、蔡國強、杉本博司、春原直人、永沢碧衣
第3会場|アトリウム ギャラリー「マテリアルズ 日本画材の博物館」
東京・天王洲にある画材ラボ・PIGMENT TOKYO(ピグモン トーキョー)の企画協力を得て、本展では、日本画の「革新」を支えた画材や、顔料の原料となる鉱石やクリスタル、筆や刷毛などの道具を紹介しているのも特徴です。
伝統的な天然岩絵具から、現代の作家たちが制作に用いるエフェクト顔料などの新しい画材を含む500色の顔料が展示されています。
7月16日(日):マコトフジムラによるアーティストトーク ※終了しています
7月22日(土)、23日(日):山本 基(もとい)による公開制作
10月8日(日):吉澤舞子によるボディペイント&ダンスパフォーマンス
10月28日(土):三瀬夏之介によるアーティストトーク
※2023年7月17日時点、追加イベントがある場合は、会場ウェブサイト・SNSにて発表
会期:2023年7月15日(土)〜12月3日(日)
会場:ポーラ美術館 展示室1、2、3、アトリウム ギャラリー
所在地:神奈川県足柄下郡箱根町仙石原小塚山1285(Google Map)
開場時間:9:00-17:00(入館は16:30まで)
休館日:展示替えによる臨時休館期間を除き、本展会期中は無休
入館料:大人 1,800円、シニア割引(65歳以上)1,600円、大学・高校生 1,300円、中学生以下無料
※障害者手帳の提示で本人と付添者1名まで 1,000円
会場構成:中川エリカ建築設計事務所
おもな出品作家:横山大観、川端龍子、レオナール・フジタ(藤田嗣治)、杉山 寧、東山魁夷、加山又造、マコトフジムラ、三瀬夏之介、谷保玲奈、吉澤舞子、野口哲哉、深堀隆介、山本 基、天野喜孝、杉本博司ほか
主催:公益財団法人ポーラ美術振興財団 ポーラ美術館
展覧会詳細
https://www.polamuseum.or.jp/sp/shinjapanesepainting/
『TECTURE MAG』への感想など、簡単なアンケートにお答えいただいた方の中から、本展の観覧券を5組10名さまにプレゼント!
受付期間:掲載から8月6日(日)まで(終了)
※応募者多数の場合は抽選
※結果発表:チケットの発送をもって了(個々の問合せには対応しません)
※発送完了後、都道府県を除く住所情報は削除し、データとして保有しません