築100年ほどが経つ古民家を改修し、「時を超える宿」をコンセプトとした事業を行う、LOOOF(るうふ)。
山梨県と千葉県を中心に全国での展開を控える同社では、古い建築資産を活かして地域独自の風土や文化の体験を提供している。
設計を担当する蒲 大岳(かば ひろたけ)氏は「昔の建物の魅力を活かして未来につなげたい」という。
そして蒲氏が古民家再生の水まわり設備として、たびたび選んできたのは「ARC-X」の機器である。
「古民家宿るうふ」の事業の展開で、LOOOFが届けたい体験とは何か。
また、改修設計で鍵となる水まわりの機器選びで留意している点はどのようなことか。
インタビューを通じて、詳しく語っていただいた。
蒲 大岳 | Hirotake Kaba
1991年岐阜県飛騨市古川町出身。2014年金沢工業大学卒。東京にて商業空間のデザイナーとして従事し、2020年8月より株式会社LOOOF。
「古民家宿るうふ」 https://loof-inn.com
── LOOOFで手掛けておられる古民家の事業について、教えてください。
蒲:LOOOFでは、築100年前後の古民家などを利活用し、1日1組で1棟貸しの事業「古民家宿るうふ」をしています。代表が以前から運営していた形態を2020年にリブランドし、現在は山梨県と千葉県で12カ所を展開するようになりました。利用者の体験価値を高めるために設計から施工、運営まで一貫して行うことが特徴です。ゆくゆくは、日本全国で「古民家宿るうふ」を出店していくことを目指しています。
蒲:私たちが最も大事にしているのは、過去の素晴らしいものづくりを次の世代に継承することです。伝統的な木造建築も年々減少し、3%ほどしか残っていません。携わっていただける大工さんの数も年々減少し、今は技術と建物が、かろうじて残っている状況といえるでしょう。
私たちは昔ながらの工法や建物の魅力を活かしながら、過去と未来の結節点となって次世代につなげたいと考えています。私たちは自社で抱える大工のほか、経験豊富な職人の方々と仕事をしていて、彼らと現場で相談しながら工事しています。
── 古民家を改修するときの難しさは、どのようなところにありますか?
蒲:築年数の経った古民家では、建物の状態はさまざまです。どうしても気候や経年の影響を受けて、瓦の雨漏りや木材の虫食い、床下浸水による腐食などが起こっていることがほとんどです。
昔の家では、自然を受け入れながら暮らしていたようなところがあります。建物の気密や断熱は現代の建物とは比べものにならないので、現代人が過ごすには寒いし暑いつくりです。昔ながらの良さを大切にしながら現代の人がどう快適に過ごせるかは、私たちのバランスの取り方にかかっています。
蒲:宿で過ごしてもらうことで、利用者同士の関係性が深まることを私たちは目指しています。そのために、囲炉裏を使ってご飯を炊いて食べる、焚き火を囲んで語り合う、昔ながらの自然が残る外を散歩するといった、ある意味で原始的な体験を用意しています。
── 水まわりの空間はどのように設計されていますか?
蒲:普段の生活とは違う非日常感が得られるように考えています。例えば、一般的な住宅の水まわりよりもスペースを広くとる、屋外に浴槽をつくる、モルタルや土壁などで仕上げた空間の中でシンボリックにバスタブを置くといったことです。水まわりスペースは、基本的に既存の建物のボリューム内で納めますが、場合によっては増築したり離れをつくって水まわりを設計しています。
実際に滞在いただいたお客様にアンケートのお願いをしているのですが、回答では「水まわりの清潔さがすごく良かった」「安心しました」という書き込みが多くあります。古民家宿といっても水まわりの機能としては住宅と同じですし、宿泊施設として快適さと清潔さが満足度に直結します。居室部分は昔ながらのつくりであっても、風呂や洗面所、トイレは綺麗で安心できることが特に求められるのです。
蒲:現代の使用感を得られながら古民家宿にフィットする水まわり製品を探している中で出会ったのが、「ARC-X」の独立型のバスタブです。
最初に購入したのは、「ROUND SQUARE」スタイルの人大バスタブでした。予想どおり、存在感はありつつ、古民家宿の空間に置いても調和しました。「ARC-X」の製品は、タイムレスで匿名的なデザインがされていると思います。
形状は“空間を含む曲線”が取り入れられているといいますか、凹凸の加減が絶妙です。また、時代背景や時代性を感じさせず先進的なデザインでもないので、古民家とも合うのだと思います。あとは、人大の質感はマットで、柔らかい印象を持つものです。土壁など昔の素材と合わせても、違和感がありません。
── 「ARC-X」の製品を、その後も導入されていると聞きます。
蒲:置き型のバスタブは何度か入れていますし、「ARC-X」で扱う水栓は、造付けの浴槽と組み合わせた事例やシャワーブースで設置した例があります。
蒲:また、「ROUND SQUARE」スタイルの陶器洗面器を入れたこともあります。洗面器も角にとられたRの具合が良く、サイズが少し大きめでソープディスペンサーが置けるスペースがあるなど、こだわりを感じます。コストパフォーマンスも良いので、古民家以外で相談を受けた案件にも採用しています。
蒲:「古民家宿るうふ」では、場所や物件に応じて1軒ごとにコンセプトを決めてつくっています。ペットと一緒に過ごす、サウナでととのう、貸しスタジオのように撮影を楽しむなどです。現在、ブランドとして方向性を整理しているのですが、活かしていきたい古い建物の中にはクラシックなものもあります。そうした建物にも合う「ARC-X」の製品があればいいなと思います。
蒲:古い建物は、風土や文化によって形づくられてきた側面があります。そのため改修では、個々の建物がもつ特性を素直に出すことができればと考えています。宿泊者には、建物や空間に触れ合う機会を通して地域の気質や文化が伝わってほしい。宿泊者から「もう1度泊まりたい」という声を聞くと、とても嬉しいですね。
自分自身、昔の建物に向き合うことで暮らしの豊かさを見つめ直したいと思って現在に至ります。今だけでなく先につなげるデザインをするために、タイムレスで過去と未来をつなぐような「ARC-X」の製品は、これからも使っていきたいと考えています。
(2023.08.25 オンラインにて)
ARC-X(アークエックス)
流行に左右されることなく、普遍的な価値を備えた、水まわり製品シリーズ。
あらゆる多様性を受け入れ、どんな空間にもフィットすることで、空間づくりの可能性を拡げる。