「Live with nature./自然と共に生きる。」をコンセプトに、自然の中でのもう1つの暮らしを会員制を基盤にしたサービスor 共同所有やサブスクリプションなどで提供し、日本中の美しい自然へと広げているSANU。従来の富裕層向けの「所有する別荘」という概念をアップデートし、都市に住む人々が気軽に、かつ日常的に自然へアクセスできる新しいライフスタイルを確立しています。
2019年末の共同創業からわずか数年で、調達総額は約180億円超に達し、多くのファンを抱える巨大なサービスへと急成長を遂げました。この圧倒的な推進力の背景には、不動産やファイナンスの常識を覆す「需要起点」の信用創造や、極めてクリエイティブな「対話と協働」の仕組みがありました。SANU CEOの福島弦氏の視点から、建築をビジネスとして持続可能にし、社会に普及させるための革新的な経営思考を紐解きます。
* この記事は「建築と経営のあいだ研究所(通称:あいだけん)」の動画コンテンツ(2025年収録)を、TECTURE MAGで編集したものになります。
1. IとWeの結合がもたらす共同経営のイノベーション
2. 「100人の熱狂」から信用を作る「需要起点」
3. プリファブ化による不確実性の排除と、常識を疑う経営ロジック
4. 体験と品質をアップデートし続ける
©︎SANU
福島 弦(SANU CEO / 共同創業者)
2010年McKinsey & Company入社。日本、アジア、北米、中東にて、グローバル企業の戦略立案、政府関連プロジェクト、特にクリーンエネルギー事業に従事。2015年、プロラグビーチーム「Sunwolves」創業メンバーを経て、ラグビーワールドカップ2019日本大会の運営に参画。2017年 株式会社 Backpackers’ Japanに非常勤役員として、事業戦略立案を担当。 北海道札幌市出身。雪山で育ち、スキーとラグビーを愛する。
高橋「SANU 2nd Homeというサービスは、立ち上げ当初からブレない強い哲学を感じますが、共同創業者である本間貴裕さんとの最初の期間はどのように過ごされていたのですか?」
福島「実は僕と本間さんは、退路を断って新しい会社を立ち上げたものの、最初は『何をするんだっけ?』という状態でした。そこから「Live with nature./自然と共に生きる。」という言葉を紡ぎ出し、その背景にある意味を考え抜き、言語化するまでに丸1年を費やしています。このブレない哲学を磨き切った時間こそがSANUの全てのベースになっています。」
高橋「何をするかも決まっていない中で1年間も話し続けるというのは、普通なら途中で空中分解しそうですが、なぜそこまで対話を続けられたのでしょうか?」
福島「やはり、根っこの部分で好きなものや大切にしている家族感・自然感といった哲学が、2人の中で強烈に共有されていたからだと思います。プライベートで一緒にサーフィンをしたりトレイルランニングの大会に出たりして、自然の中で遊ぶ時間を共有していたベースがありました。だからこそ、手段としての事業アイデアに飛びつく前に、自分たちが本当に信じられる「看板」としての理念を表明できるまで、妥協せずに磨き込むことができたのだと思います。
高橋「2人経営の場合は衝突も多いと聞きますが、実際の事業運営における役割分担や2人の関係性はどのように着地したのですか? 」
福島「SANUにおける建築やクリエイション、ブランドのコアのリードは、全面的に本間さんが担っています。僕はそこに対する絶対的な信頼をベースに、ファイナンスや全体の経営戦略、仕組み化に集中しています。よく『建築家になりたいけれど、営業やお金の話は苦手だ』という声を耳にしますが、僕の持論としては、クリエイションを作る脳と、ビジネスをゴリゴリ営業して回す脳は、求める役割が全く異なります。もし本当に自分が苦手だと思うなら、腹を括って一人で両方やるか、そうでなければ、自分とは全く違う脳を持っている信頼できる相方を見つけるべきです。
また、我々は考え方のアプローチも全く違っていて、本間さんは「自分がこの空間を好きか嫌いか」で動く「I」の人。僕は「みんなが幸せか、社会がハッピーになるか」をメタで考える「We」の人です。この異なるアプローチの脳が結合するからこそ、シュンペーター理論でいうイノベーションが生まれると確信しています。また、ブランドの祖はファウンダーの本間さんですが、日常の意思決定は僕がCEOとしてスピード感を持って行うというバランスを、最初の期間に徹底的に話し合って決めたことが、今も機能している最大の理由だと思います。」

2021年11月に第一弾がオープンした〈SANU CABIN〉内観
高橋「SANUのビジネスモデルを最初に拝見したときは、非常に驚きました。通常のディベロッパーは、まず土地を仕入れ、そこに建物を建て、それを供給することで初めて顧客が集まります。しかしSANUは、まだ建物が建っていない初期段階から熱量の高いユーザーを抱えていましたね。この仕組みはどう組み立てたのですか?」
福島「僕たちがまず意識したのは、「1億人に何となく知られているブランド」ではなく、「目の前の100人に熱狂的に愛されるブランド」になることでした。自分たちが信じる哲学に、心から共感してくれる特定多数のコアファンを見つけ出し、彼らと強い関係性を築くことが重要だと考えていました。
そこで、「供給起点」ではなく「需要起点」でビジネスを立ち上げ、僕たちの思想に共感してくれる方の会員登録を募ったのです。すると、ありがたいことに僕たちの「Live with nature./自然と共に生きる。」という思想に強く共感してくれる方が現れました。この「目に見える需要」が、その後のファイナンスや事業推進における、僕たちの最も強力な武器になりました。」

©︎SANU
高橋「建物というハードウェアがない段階で、先に『使いたい』という人々の熱量とデータを可視化したのですね。」
福島「はい。そうすることで、金融機関や投資家に対して交渉することができました。稼働の確実性を実需データとして提示できたことが、結果として大きな信用に繋がりました。」
高橋「「需要を先に作る」という会員制のサブスクリプションという発想は、創業当初から狙って組み立てられたのでしょうか?」
福島「そうですね。そもそも僕たちがやりたいことは、富裕層に数億円の豪華な別荘を売ることではなく、都市で働く一般の人々にとって自然の中での暮らしを当たり前にする「民主化」です。僕が育った北海道もそうですが、自然に触れることは人間にとって本来ライフラインのはずなのに、現代の都市生活ではそれが非常に贅沢なものになってしまっている。
北欧のフィンランドを見ると、500万世帯に対して200万軒のサマーハウスがあり、2世帯に1世帯が自然の中に家を持っています。日本でもこれを実現するためには、初期費用を数千万円、数億円というレベルではなく、月額制のサブスクリプションでシェアリングする仕組みが絶対に必要だと確信していました。」

高橋「SANUは不動産・建築スタートアップでありながら、これまでに180億円を調達され、その内訳は、一般的なスタートアップとは対照的に、銀行からのデットが中心となっています。一般的な不動産開発の常識から見ると非常に難度の高い資金調達ですが、これを可能にした経営ロジックはどこにあるのでしょうか?」
福島「前職のマッキンゼー時代に叩き込まれた「常識を疑う」という思考アプローチがベースにあると思います。マッキンゼーでは、その業界で長年当たり前とされてきたことに対して、『それは本当に正しいのか?』とゼロベースで問い直す訓練を繰り返します。周囲から『無理だ』『前例がない』と否定的な意見が出る時ほど、そこには既存の常識を疑うことで生まれる新しい仕組みのチャンスがあるという教えがありました。
SANUを立ち上げる際も、建築業界の「土地に合わせて一点物の建物を建てる」という常識をまず疑いました。一点物の建築はクリエイティブである反面、工期の遅れや資材の高騰、職人の技術差による品質のばらつきといった「不確実性」が常に付きまといます。これが、銀行の融資審査のハードルを上げる大きな要因になっていました。」
高橋「その「不確実性」という課題に対して、どのような解決策を検討されたのですか?」
福島「その土地の文脈に寄り添う一点物のリノベーションや建築を手掛けつつも、建築領域の核としては建築を再現性の高いプロダクトとして捉えて、パーツ製造するプレファブ手法に注力しています。これにより、デザイン性を担保したまま、現場での工期をわずか2週間に短縮し、品質とコストの「規格化」を実現したのです。
建築を計算可能なプロダクトに変換したことで、銀行側が最もリスク視する「予定通りに完成するか」「予算内に収まるか」という不確実性を構造的に排除することができました。」
高橋「なるほど。先ほどお話しいただいた「事前の需要の可視化」と、この「プリファブ化による供給側の不確実性の排除」の2つが揃ったからこそ、金融機関からの信用が強固なものになったのですね。」
福島「そうですね。いくら『需要があります』と伝えても、建物が予算通りに建たなければ事業計画は破綻します。逆に、いくら仕様が規格化されていても、借り手がいなければ不良資産になります。
「100人の熱狂」によって需要のリスクに応え、「プリファブ化」によって供給(工期・品質)のリスクに応える。この両輪をデータと仕組みで証明し、銀行の審査に備えたことが、良い結果に繋がったと思います。」
高橋「SANUのユニークな特徴として、社内に建築の設計チーム(ハードウェア)だけでなく、エンジニアチーム(ソフトウェア)という2つのものづくり部隊を擁している点があります。なぜ建築ビジネスにおいて、この両輪の体制が必要だったのでしょうか?」
福島「ハードウェアの中にソフトウェアレイヤーを1枚噛ませることで、UXと呼ばれる空間の体験価値が劇的に広がるからです。分かりやすい例として「車」をイメージしてください。現代の車というハードウェアの中には、たくさんのソフトウェアが入っています。両手が買い物袋でふさがっている時に近づいたら自動でドアが開く、雨が降ってきたらワイパーが動く、暗くなったら自動で照明がつく。これらはすべてソフトウェアの力による体験の拡張です。
僕たちも、ただ家や別荘を便利にすることを目指しているわけではありません。無人管理を実現するスマートロックの導入もその1つですが、自然の中でユーザーが安心感を持って過ごし、むしろ能動的に『外に出て焚き火をしよう』と思ってもらえるような、建築におけるソフトウェア性をデザインするためにこの体制をとっています。」
高橋「なるほど。この2つのチームのシナジーはどのように生まれているのでしょうか?」
福島「SANUでは、泊まっていただいたお客様からの膨大な滞在レビューがAIで自動解析されています。たとえば「キッチンの幅をあと1センチ小さくすることが重要」というデータがあれば、次に建てる101棟目の図面にそれを即座に反映して変えていく。作って終わりではなく、運営プロセスも含めて建築を少しずつメンテナンスし、情報の中から優先順位を決めてソフトウェア的にアップデートしていけるのは、エンジニアがいて仕組みを作ってくれるからこそです。」
高橋「建築がデータによって自律的に進化していくというのは、これまでの建築設計事務所やディベロッパーにはなかったアプローチですね。データのもととなる「顧客の声」がこれほど大量かつアクティブに集まるのは、なぜなのでしょうか?」
福島「通常のホテルや賃貸物件だと、利用者は「宿泊予約サイトの星評価」くらいしかフィードバックの手段がありません。しかしSANUでは、会員専用アプリというソフトウェアを通じて、自然の中での過ごし方や『ここが良かった』『ここをこうしてほしい』というリアルな声が、毎日ダイレクトに届く設計になっています。
これは単なるクレーム対応の窓口ではなく、ユーザーが『自分たちのSANUを一緒に良くしていこう』というコミュニティ感覚を持っているからこそ機能する、経営的な仕組みです。集まったディープな口コミは即座にAIで解析され、ハードウェアである建築の改善や、次の新しいサービス開発へと反映されます。「声が集まりやすいソフトウェアの仕組み」があるからこそ、ハードウェアも常にアップデートされ続ける。これこそが、SANUの体験価値を高め続ける強力な経営エンジンになっていると思います。」

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©︎建築と経営のあいだ研究所
「建築と経営のあいだ研究所(通称:あいだけん)」は、建築士に特化した会員制の動画メディアで、設計力だけでは足りない時代に必要な「経営思考」や「マネジメント」といった知識の学び場です。経営学の論理(建築設計事務所経営論)と、実践的なインタビュー・ショートレクチャーを組み合わせ、インプットとアウトプットのサイクルで習慣化を目指しています。毎月更新のゲスト対談や動画視聴、マーケティング、ブランディング、プロジェクト管理、企業会計など、会員限定セッションを通じた学習コンテンツも充実。月額990円(税込)で、生きた経営スキルの体得が目指せます。
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