FEATURE
Special Interview with SANU Founder and Designer
The story behind the development of "SANU" by the sea
FEATURE2023.04.03

SANU 本間貴裕氏 & Puddle 加藤匡毅氏 独占インタビュー

ブランドディレクターと設計者が語る、海辺のSANU(サヌ)が誕生するまで

〈SANU 2nd Home 一宮1st〉開業

BUSINESS2023.11.09

加藤匡毅 / Puddleがデザインした〈SANU APARTMENT〉が初展開

"海SANU"〈SANU 2nd Home 一宮1st〉11/10 千葉県一宮町に開業[現地レポート]

SANUが山から海辺に初進出!

本稿で特集するSANU(サヌ)とは、個人で所有すれば建設費も維持費もかかる“自然の中のもう1つの家”を月額5.5万円という定額で利用できるサブスクリプションサービス「SANU 2nd Home」を展開しているライフスタイルブランドである。
ファウンダーの本間貴裕氏と福島 弦氏[*1]の2人が共同で会社を設立したのが2019年11月のこと。2020年4月にサービスの概要を発表した。2021年11月にサービスの拠点を長野県・白樺湖と山梨県・八ヶ岳に開業。現在は山中湖と河口湖、群馬県・北軽井沢、静岡県・伊豆高原にも宿泊拠点を構え、関東近江で拡大している。

『TECTURE MAG』では、開業前の2021年4月に宿泊棟の建築概要などを伝えている。

サステナブルを追求したキャビンで自然と共に過ごす、セカンドホームのサブスクリプションサービス「SANU 2nd Home」が初期会員の先行受付を開始

SANUでは「Live with nature. /自然と共に生きる。」を創業以来のミッションとして掲げており、サブスクサービスをローンチした際に発表した宿泊棟のキャビン(SANU Cabin)のデザインにも如実に反映されている。建設時の施工方法は、主に山間部となる建設地の自然環境に負荷をかけないよう、建築家や関係各社と共にイチから開発したものだ[*2]

SANU 拠点MAP

「SANU 2nd Home」2021年〜2022年の歩み(リノベーション棟を除く)

これまでのSANUの宿泊拠点はいずれも山間部だったが、いよいよ念願だった海側への進出を果たす。サイトは千葉県の一宮町で、開業は今年の夏と発表された。
宿泊棟のニューモデル〈SANU Apartment(仮称)〉[※]の設計・デザインを、Puddle(パドル)の加藤匡毅氏が手がけているのも注目だ。後述するが、山間部のキャビンとは異なるコンセプトをもとにつくられている。

※「SANU Apartment(仮称)」は2022年11月発表当時のプロジェクト名称、2023年6月にプロダクト名を「APARTMENT」に決定(Sanuプレスリリース)。本稿では発表当時の呼称とする

『TECTURE MAG』では、2022年11月22日に都内で行われた記者発表会を取材。あわせて、SANUファウンダーでブランドディレクターの本間貴裕氏と、Puddleの加藤氏に独占インタビューをおこなった。海側進出を発表するまでの経緯や、ニューモデル誕生秘話、今後の展望について両氏に詳しい話を聞いた(注.加藤氏はオンラインでの参加)。

INDEX

■ SANUが山から海辺に初進出!
■ ニューモデル開発の経緯
■ 山はなにかを決断する場所、海は・・・?
■ 山と海では異なる設計アプローチ
■ 海に向けて開き、昇る太陽に軸線をあわせた建築
■ キッチンは住まいで唯一のクリエイティブな場
■ まちに対してもコンテンツを開く
■ 海辺に「神社の杜」をつくりたい!
■ 開発=再生でなければやる意味がない
■ 今後の計画とビジョン

photo: Jun Kato


本間貴裕氏 プロフィール
SANU ファウンダー兼ブランドディレクター
1986年福島県生まれ、会津若松市出身。
2010年「あらゆる境界線を越えて、人々が集える場所を」を理念に掲げ、ゲストハウス・ホステルを運営するBackpackers’ Japanを創業。同年に古民家を改装したゲストハウス「toco.」を東京・入谷にオープン。その後、「Nui. HOSTEL & BAR LOUNGE」(東京・蔵前)、2015年に「Len」(京都・河原町)、「CITAN」(東京・日本橋)、「K5」(東京・日本橋)をプロデュース、運営する。サーフィンとスノーボードがライフワーク。

ニューモデル開発の経緯

——山間部での開業から約1年、海側初進出に至った背景を教えてください。

本間貴裕(SANU ファウンダー兼ブランドディレクター):
2019年11月の会社設立当初から、山と海の両方に拠点をもちたいとずっと考えていました。結果として、山側へのSANU出店が先になり、続いただけのことです。
僕と一緒にサブスクサービス「SANU 2nd Home」を立ち上げた福島 弦(SANU CEO)は、生まれと育ちが北海道で、スキーが大好きな彼は、山間部にSANUをつくりたがっていた。僕はといえば、生まれは福島ですが、サーフィンが大好きで、海辺にSANUをつくりたかった。
それで「山と海、どっちが先か」みたいな感じで土地を探してきたのですが、海沿いでは僕らが望む広さの土地がこれまで売り出されなかったんですね。ようやく見つけることができたのが今回のサイトでした。しかも、僕がプライベートで長いこと通っていた千葉県一宮町の海辺だったんです。

SANU イメージ

ライフスタイルブランド「SANU」設立発表時(2020年7月)のイメージビジュアル(山と海の両方への出店がこのときから意図されている)

——建物の設計は今回、Puddle(パドル)の加藤さんが担当されますが、その経緯は? 加藤さんは2021年4月から、クリエイティブボード(Creative Board)としてSANUに参画されていますけれども。

本間
そもそも、加藤さんと知り合ったきっかけは、弊社の山川 咲[*3]の紹介でした。でもその前から、加藤さんのお名前は知っていました。僕が好きな店のデザインを手掛けていらしたんですね。京都で展開しているコーヒーショップの〈%Arabica(パーセントアラビカ)〉とか、蔵前の〈DANDELION CHOCOLATE FACTORY AND CAFÉ KURAMAE(ダンデライオンチョコレート ファクトリー&カフェ)〉とか。なかでも、清澄白河にあるワインバー〈Que c’est beau(ガゼボ)〉の空間がとにかく素晴らしかった。

Que c’est beau / Puddle

お金をかけてラグジュアリーで贅沢な空間をつくったり、逆にDIY的なクラフトマンシップで唯一無二のものをつくれる人もいるでしょうが、清澄白河の〈ガゼボ〉のように、ちゃんと経済合理性を伴いながら、空間での体験を毀損せず、かつ、アーティスト性とクリエイティブ性をバランスよく配置できる。加藤さんのような設計者は稀だと思います。

SANUの空間って、僕らの想いやメッセージを込めたい一方で、会社としてはちゃんと運営して継続させないといけない。この2つを両立させていた点でも、加藤さんの〈ガゼボ〉はすごくよかった。
初めて加藤さんに会ったとき、ああ、この人がつくったからこそあの素晴らしい空間ができたんだと腑に落ちた。ぜひ、仕事をご一緒したいと、SANUにジョインしてもらいました[*4]

——では、加藤さんはどうしてSANUにジョインしようと思ったのですか?

加藤
2020年の夏にSANUがローンチしたとき、何かおもしろそうなことが起こりそうだなと思ったのを覚えています。そのあとで本間さんを紹介していただいたタイミングがちょうど、僕が20年以上暮らした東京を引き払って軽井沢に家族と移住しようと決意した矢先だったんです。話を聞くと、本間さんたちSANUのビジョンが、僕が考えていたこととかなりリンクしていて、強く共感しました。しかも、つくり手として一緒に考えていくことができるのならこんな嬉しい話はないと、SANUへの参加を決めました。
もしあのまま東京に住んでいたらジョインしなかっただろうし、今回発表した〈SANU Apartment(仮称)〉[※]も生まれてなかったでしょうね。

Puddle / 加藤匡毅氏 プロフィール
一級建築士。軽井沢在住。 工学院大学建築学科卒業。隈研吾建築都市設計事務所、IDÉEなどを経て、2012年にPuddle設立、代表を務める。 その土地で育まれた素材を用い、人の手によってつくられた美しく変化していく空間設計を通じ、そこで過ごす人の居心地良さを探求し続ける。SANUには2021年春よりクリエイティブボードとして参加。
Puddle ウェブサイト http://puddle.co.jp/

山はなにかを決断する場所、海は・・・?

——本間さんの念願が叶った海辺でのプロジェクトですが、加藤さんとはどのように役割分担して進めていったのですか?

本間
要所は一緒に決めましたけど、加藤さんにほぼ一任でした。すでにクリエイティブボードとしてジョインしていて、SANUのコンセプトや僕らが大事にしていることや細かい好みまで理解していたので。

加藤
貴裕くんはね、予算を睨んで、僕が使いたいものの採用を諦めかけたとき、いや、こっちのほうがSANUらしいよと言って、僕の意思を尊重してくれるんですよ。あやうく道を外れかけた僕を正しい方向に引き戻してくれる。

本間
こっちのほうがPuddleらしいんじゃないの?ってね。

——SANUから加藤さんに「これだけは」というリクエストはなかったのですか?

本間
そういえば1つだけ、加藤さんに伝えたことがありました。僕が考える、山側のSANUと海側のSANUの違いについて。

人が山に行くときって、「心を決める時間」で、海側に行くときは「心を緩める時間」だと僕は捉えていて。何か集中して物事を考えたり、物事を決めにいくときは、山の厳しさ、静けさ、寒さといったものが、気持ちをキュッと引き締めて、何かを決めることを手伝ってくれる。対して海は、暖かかったり、夕焼けがきれいだったり、決断に必要なシーンとは真逆な気がします。リラックスして、自分の「境界線を溶かしていく」ような雰囲気が、海にはあるんじゃないか。
だから、海辺に建てるSANUは、人と人との境界線を曖昧にして、いろんな人たちと交流しながら、リラックスしていく場にしたいなと。結局それが、海側のSANUのコンセプトの大元になっています。

山と海で異なる設計アプローチ

加藤
この「山は心を決める場所」と「海は心を緩める場所」という貴裕くんの例えはとても重要です。
今回の設計でとても難しかったのは、サイトの与条件の違いでした。山の中につくる場合、キャビンの周りには木や森、自然がある。対して海は、今回の一宮町ではすでに整地してあった。人工的な長方形がもう見えちゃってるような土地で、SANUのミッションである「Live with nature. /自然と共に生きる。」をどうやったら体現できるか、ものすごく悩みました。

そこで指針になったのが、貴裕くんから聞かされていた先ほどの言葉。山側のSANUが人の内面にグッと入り込んでくる空間とするならば、海側では外に開いていくべきだろうと。

山側のSANUは、複数のキャビンが敷地内につかず離れずで配置されている。ドアを開けてキャビンの中に入ると、奥に大きな窓が開いていて、空間が一方向に突き抜けている。
対して海辺の〈SANU Apartment(仮称)〉[※]では、隣の客室と壁を接して、但し接面は半分だけとして、雁行状につなげています。共有する部分と独立した部分の両方を生み出し、長屋方式とすることで、建設コストも抑えています。

海辺の〈SANU Apartment(仮称)〉鳥瞰イメージパース The Boundary for Sanu Inc. ©︎ Sanu Inc.

海に向けて開き、昇る太陽に軸線をあわせた建築

——全体の配置計画ではどのようなことを大事にしたのですか?

加藤:
基本計画では、2つの客室棟をシンメトリーに配置しています。この間は中庭で、人々の共有スペースとなります。キャビンが点在する山側のSANUとはここが大きく異なる点で、人々が緩やかに集う場所、出会う場所になればと考えています。

客室棟の間を通る軸線を意図的に真東の方角に向けているのもポイントです。これは今回、強い意志をもって設計しました。

サイトから九十九里浜に沿って車で90分ほど北上すると犬吠埼があるのですが、離島を除いて本州では最初に朝日が見える場所なんですね。SANUというブランドは太陽とは切っても切れない関係性があると考え、海と、太陽が昇ってくる方角、この2つに対して、きちんと建築の姿を表現したいと考えました。

——なるほど。ローンチに際して、加藤さんが発表したテキスト(以下に引用)にあった、「日の出を迎える何もない”空”を作り出す。」の背景がよくわかりました。

〈SANU Apartment(仮称)〉ローンチに寄せて、加藤氏によるステートメント

Work in progress: Emptiness is form. 空が形をつくる

海からほど近い開発・整地された自然的要素の乏しい当計画地において、私たちが考えるlive with nature は「今」ではなく「これから」をつくること。
この地のSANUをきっかけに、自然に対して感謝と畏怖の念をもって生きること。人と人の出逢いに喜ぶ事ができる未来を建築に宿していく。

海に向かい両手をひろげたようにシンメトリーに配置された建築は、その中心に日の出を迎える何もない「空」を作り出す。
空は万物の起点となることを願い、人が人と出逢い自然とつながる共有の庭となる。

その庭から左右に45°の角度で配されたメゾネットタイプの宿泊部屋は、隣接する部屋と50%の壁を共有することにより、退屈な建築のファサードを「でこぼこ」のある豊かなものに変えるだけでなく、隣人同士の物理的距離を生み出している。

室内における中心は、生活の中で唯一のクリエイティブな場として信じているキッチンである。
愛する家族と、友人と囲む食卓の時間は何にも変えられぬ一度切りの体験となる。

また、心身を清めるバスルームも、ここでしか味わえない光を感じる空間体験としたい。

水と光にインスピレーションを受けたSANUを通して、豊かな人生の成長と共に建築が、庭が育っていくことを願う。(Puddle / 加藤匡毅)

2棟がシンメトリーに配置された〈SANU Apartment(仮称)〉外観イメージ The Boundary for Sanu Inc. ©︎SANU

キッチンは住まいで唯一のクリエイティブな場

——加藤さんのテキストにもありますが、客室の設計で加藤さんが重視したのがキッチンとのこと。

加藤
はい。水まわりは家の中でとても大事だと僕は考えています。とりわけキッチンは料理というモノがつくられる、リアルにクリエイティブが生まれる場所です。設計当初から、ここでしか味わえないような体験がつくれる場所にしたいと、キッチンを中心に据えて内部を設計しました。

本間
ここでの僕からのリクエストは、ペレットストーブを設置してほしいと頼んだくらい。SANUとしては、燃焼によってCO2(二酸化炭素)を排出する石油やガスは使いたくない。ペレットストーブなら、薪が空気中から吸収して蓄えていたものを再び空気中に排出するので、いわばネットゼロ[*6]の暖房器具なんです。あと、室内に「火」というエレメントを用意したかった。

キッチンを中心に据えた〈SANU Apartment(仮称)〉客室内観イメージ ©︎ Puddle Inc.
ベッド・ワークスペースイメージ ©︎ Puddle
ベッドルームのリネンは、山側のリネンは〈SANU Cabin〉でも使われている「sinso」を採用[*5]

海辺に「神社の杜」をつくりたい!

本間
一宮町では、カフェ&ベーカリーやコワーキングオフィスもつくります(2023年6月22日発表あり、詳細はこちら)。SANUの登録会員だけでなく、地域の人々にも来てほしい。まちに対して開かれた場にしたいです。

加藤:
一宮町の地に〈SANU Apartment(仮称)〉[※]ができたことで、人々が集い、時間とともに植物も育って、建築も育っていく。ゆくゆくは「神社の杜」のような場所になったらいいよねと、貴裕くんと話しています。

——海辺で「神社の杜」とは? どのようなイメージなのでしょう?

本間
子どものころ、神社で遊ぶのって、なにか特別な楽しさがありましたよね。神聖な場所で過ごすことへの緊張感というか、何か大きいものの存在を感じるというか。この感覚を僕らは失っちゃいけないと思うんです。

僕が自分の住まいを探すときも、神社が近くにあるかどうかをよく見ます。まちに神社があると、その場所の「気」が良いと思いませんか? 抽象的な意味だけじゃなく、木々があって、フレッシュな空気があって、東京のまちなかなんだけど、生きものの多様性がぽっかりとある。コンクリートで塞いでいない土(つち)の地面を通して地球が呼吸している、そんな気持ち良さを都市部でも感じることができる。

加藤
その感覚は僕も共有しています。
神社は僕も大好きで、よく足を運ぶのですが、神社って、誰でもその特別な領域に人が容易に触れることができる場所なんですよね。
今回の一宮町のSANUでも似たようなことが言えて、ここに泊まる人々には、客室の中だけじゃなく、その外、そこに残っている「地(じ)」の部分、建築ではない部分も含めて、僕らが伝えたいSANUという領域なんだよと感じとってほしい。
これは外構部にも影響するデザインで、Yard Works(ヤードワークス)の天野 慶さんが、ランドスケープと建築と同等に扱った、この「地」と「図」の両方をつくってくれています。

本間
神社のような空間が、まちを支えている。それは別に神社でなくてもできるはずなんです。
ある開発が行われることで、何かが失われてはいけない。逆に「神社の杜」のような、地球とつながっているようなフレッシュな場所が1つでも増えれば、まちにとってものすごくポジティブな影響を与えることができる。
僕らSANUの拠点が拡がれば拡がるほど、ちゃんと森が豊かになって、海がきれいにならないと、事業を拡げていく意味がないんです。

SANUが考える、カーボンネガティブ実現のサイクル

開発=再生でなければやる意味がない

——山間部の〈SANU Cabin〉では、建築家の安齋好太郎さん(ADX代表)とともに、土地を傷めない基礎杭の工法をイチから開発しました。今回の海側のSANUではどうだったんでしょうか。

本間:
先ほど加藤さんが触れたように、今回のサイトは先に整地されていて、しかも砂利が敷き詰められ、元の自然が残っているという状態ではなかったんです。だから山とは異なる工法を探求しないといけなかった。
逆を言えば、SANUを建てることで土壌を回復させていくことができると良い。これは今後、僕らが海側でSANUを展開するうえで大きなポイントになるでしょう。先ほどの「神社の杜」の話にもつながっています。

地場の素材を使ったり、断熱してエネルギー効率を高めることは、僕らはこれまで当たり前にやってきましたが、ランドスケープもしっかりとやっていきたいんです。どんな植物を植えて、どれくらいの期間が経過すると土壌が回復していくのかを知りたい。一言で土壌の回復といっても、植物なのか微生物レベルなのか、それとも水捌けの問題なのか・・・。今は、それらへの対処の知見を貯めていく一連のプロセスの途上なんです。


#SANU YouTube「SANU | FORESTS FOR FUTURE」(2022/12/12)

本間
今年の夏に開業予定の〈SANU Apartment(仮称)〉[※]も、これが完成形ではありません。むしろ、スタート地点に立ったと捉えています。建てて、人が住んで、生活をし始めて、植栽をしていくことで、どういうふうにその土地が変わっていくのかをこの目でちゃんと見て、考え続けたい。

SANUのおもしろさは、何個も同じものをつくっていくなかでアップデートできること。会員さんの声も反映させて改善を重ねているので、山側の〈SANU Cabin〉はローンチ当初と比べるとすごくアップデートしています。
海側のSANUも同じで、今回の一宮町でやったことは2軒目でもできる。そこで気づけなかったことは次ではやれているっていうのをどんどん繰り返していけば、土や土地、海が本当に回復していくのかどうか見定めることもできるのではないか。

——長生きしないといけませんね。

本間
そうですね(笑)。まぁ、もちろん、すべての答えを最初にバチッと決めてから建築するという手法もあるでしょうが、考えるだけで時間がなくなってしまう。ならば、まずは走り始めて、その中でプロジェクトを進めていきたい。これが僕らのスタンスです。
具体的な土地を前に、PuddleさんやADXの安齋さんたちといろいろと話し合いながらすすめることで、手探りなりにも、1つの答えに近づいていけるのではないかと考えています。

加藤
アップデートの話で例えると、山と海の2つのSANUは、アップル社の「iPhone」と「iPad」のような関係かなと思います。どちらも同じ会社から出ているデバイスだけど、使われ方が違うし、それぞれで進化(アップデート)を遂げている。随時でバージョンアップしながら、共有する部分で良いところがあれば取り込んでいる。SANUもこの先、そんなふうに育っていくんじゃないかな。

「SANU 2nd Home」建築ラインナップ

今後の計画とビジョン

——山と海でそれぞれ進化を続けていくSANU、今後の展開について教えてください。

本間
短期的な計画では、2023年は山側と海側とを合わせて100棟ほど着工する予定です。入会希望者が多いので、ハコをちゃんとつくって供給していくことが大事です。
中期的には、SANUは関東圏から始まりましたが、これを山と海を問わず日本中に拡げていきたい。既存と今回のモデルや、違う滞在体験ができるモデルを駆使しながら。
長期的展望では、これが世界に拡がっていってほしい。僕らのサービス「SANU 2nd Home」の醍醐味は、その場所が自分の家(うち)のように感じられるということ。例えば、僕が北軽井沢のSANUに初めて泊まったとき、ああ、帰ってきたって思いました。ドアを開けたときに「ただいま」って言っちゃう。八ヶ岳に行っても白樺湖に行っても、その不思議な感覚がある。

SANU 展開予定

2023年 着工予定地

本間
そうやって、自分の「Home」があちらこちらに増えることは、ひいては地球全体がHomeとなり、みんなで一緒に維持していこう、美しくしていこうという思考になれるんじゃないかと思うんですね。
例えば、自分の家の床にペットボトルが落ちてたら間違いなく拾って棄てるでしょ? 庭の木が枯れそうになったら、なにが原因なんだろうと考える。それと一緒で、みんなが地球を「Home」だと思えるようになってくれたら嬉しい。そういうでっかい夢が僕らにはあるんです。

加藤
まずは、きちんと〈SANU Apartment(仮称)〉[※]を建てて、建築との対面を果たして、それを育てていきたいですね。山側の〈SANU Cabin〉がそうであるように、海でもアップデートさせていきたい。
最初の〈SANU Apartment(仮称)〉[※]が建つことで、みんなに一宮町という場所を知ってもらうきっかけになってほしいし、そこから派生して、SANU以外でも僕らでなにか手伝いができる場所が1つでもまちなかに増えると嬉しい。点が増えて、拡がって、各所で展開できれば、それこそが本当に「人と人との緩やかなつながり」になっていくのではないか。

本間
今回の建設地は一宮町の中心部にあります。これまでのような大自然の中にぽつんと建つのではなく、まわりに住んでいる人がいて、海もある。そんな場所に新たなSANUができる。「神社の杜」のようなランドスケープをつくっていくんだという僕らのビジョンが、だからこそ生きて、大事になっていくと考えています。(2022年11月22日 都内にて収録)

Interview by Naoko Endo & Jun Kato
Text by Naoko Endo



*1.福島弦 プロフィール
SANU ファウンダー、CEO
**年北海道札幌市生まれ。
2010年McKinsey & Company入社。日本、アジア、北米、中東にて、グローバル企業の戦略立案、政府関連プロジェクト、特にクリーンエネルギー事業に従事。2015年にプロラグビーチーム「Sunwolves」創業メンバーを経て、ラグビーワールドカップ2019日本大会の運営に参画。2017年に株式会社Backpackers’ Japanに非常勤役員としてジョイン、事業戦略立案を担当。
雪山で育ち、スキーとラグビーをこよなく愛する。

*2.〈SANU Cabin(サヌ キャビン)〉概要
SANUとパートナー企業のADX(代表:安齋好太郎)との共同開発。デザイン・工法の詳細は『TECTURE MAG』既出ニュースを参照

サステナブルを追求したキャビンで自然と共に過ごす、セカンドホームのサブスクリプションサービス「SANU 2nd Home」が初期会員の先行受付を開始

*3.山川 咲(やまかわ さき)プロフィール
完全オーダーメイド結婚式サービス「CRAZY WEDDING」を開始したCRAZYの創業者でアーティスト。2019年に東京・神宮前にオープンさせたウェディング施設〈IWAI OMOTESANDO〉の設計をPuddleに依頼する。2020年11月にCRAZYから独立、同年12月1日よりSANU非常勤取締役兼クリエイティブボードに就任。

*4.Puddle(パドル)の加藤匡毅氏 SANUにジョイン
『TECTURE MAG』2020年4月15日ニュースを参照

*5.リネン「sinso」
「寝装具のあり方を再構築する」を理念に、布団を中心とした寝装具を扱うブランドとしてヨネバヤシリースが2021年9月に立ち上げ、2022年12月12日に「sinso」として正式にローンチ。代表とブランドディレクターを米林琢磨氏が務める。ブランド名は「寝装」から。素材はもちろん、布団を昔ながらに打ち直して長く使い続けることで、地球と人に寄り添った寝装具を追求している。SANUのほか、山梨・富士山麓にあるホテル〈yl and Co.(イルアンドコー)〉や、2022年8月に五島列島・福江島に開業した〈Colorit(カラリト)〉の客室リネンとして採用されている。

*6.Net Zero Energy Building
ネット・ゼロ・エネルギー・ビル(略称:ZEB・ゼブ)の意。建物において、快適な室内環境を実現しながら、年間で消費する一次エネルギーの収支をゼロにすることを目指した建物を指す(環境省ウェブサイトより)


SANU Webサイト
https://sa-nu.com/

「SANU 2nd Home」サービスサイト
https://2ndhome.sa-nu.com/

〈SANU 2nd Home 一宮1st〉開業

BUSINESS2023.11.09

加藤匡毅 / Puddleがデザインした〈SANU APARTMENT〉が初展開

"海SANU"〈SANU 2nd Home 一宮1st〉11/10 千葉県一宮町に開業[現地レポート]

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〈SANU Apartment(仮称)〉[※]ローンチ ニュース

BUSINESS2022.11.23

SANU(サヌ)が海側に進出

ニューモデル「APARTMENT」の設計をPuddle(パドル)の加藤匡毅氏が担当

SANU(サヌ)ニュース アーカイブ

BUSINESS2021.04.15

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サステナブルを追求したキャビンで自然と共に過ごす、セカンドホームのサブスクリプションサービス
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「SANU 2nd Home」が白樺湖と八ヶ岳にグランドオープン!

“自然の中のもう1つの家”をサブスクでシェアできる
CULTURE2022.03.04

〈SANU 2nd Home – 山中湖 1st〉開業

富士箱根伊豆国立公園内に藍色屋根の14棟がオープン
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芦沢啓治設計の新モデル〈SANU CONDOMINIUM(サヌコンドミニアム)〉をSanuが発表

2024年7月 館山に開業予定
BUSINESS2024.02.07

Sanuが新サービス「SANU 2nd Home Co-Owners」を発表

掛け捨てのサブスク型に加え、部分"所有"できる共同オーナー型セカンドホームサービスを展開

Puddle / 加藤匡毅氏 TOPICS

FEATURE2020.07.08

Puddle Sound「#001 TOKYO」

Report, Movie: 建築家ならではの発想が息づく真空管アンプ
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sequence MIYASHITA PARK / Puddle

景色と音でまちとつながる都市型ホテル
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% ARABICA Kyoto Arashiyama / Puddle

日本的手法で景色を取り込む東屋のカフェ
PROJECT2022.10.13

DANDELION CHOCOLATE Kuramae / Puddle

既存建築と手仕事が混ざりあうチョコレートファクトリー
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Que c’est beau / Puddle

曲面と光がやわらかく招き入れる 倉庫をリノベーションしたワインバー
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IWAI OMOTESANDO / Puddle

建築とプログラム一体の 参列者も主役となる祝いの場
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haccoba craft sake brewery / Puddle

大きな縁側で地域にひらく、住宅をリノベーションした醸造所
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TINY GARDEN 蓼科 / Puddle

建築と環境をリノベーションし自然と溶け合う宿泊施設
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DIG THE LINE BOTTLE & BAR / Puddle

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加藤匡毅氏(Puddle)が語る「カフェの設計学 実務から振り返る基本とポイント」

6/23 ダンデライオン・チョコレートファクトリー&カフェ蔵前2階にて開催(Zoom配信もあり)

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