CULTURE

隈研吾建築都市設計事務所が屋久島で校舎を設計

海と山を見渡せる大自然に抱かれた、おおぞら高校のスクーリングのための屋久島本校の増築

CULTURE2024.03.11

鹿児島県の屋久島(やくしま)の南端部に建設される、屋久島おおぞら高等学校(屋久島本校)の新校舎のデザインが先ごろ発表されました(学校法人KTC学園おおぞら高校 2024年2月16日プレスリリース)。
新校舎の設計を、建築家の隈 研吾氏(隈研吾建築都市設計事務所 主宰)が担当しています。

屋久島おおぞら高等学校(屋久島本校)

屋久島本校 鳥瞰(白い大屋根の建物が新校舎、左上の建物は既存校舎、背後にはモッチョム岳が聳える)

おおぞら高校は、「なりたい大人になるための学校®」を掲げ、学校法人KTC学園が設立、運営する教育施設で、広域通信制・単位制の屋久島おおぞら高等学校(校長:茂木健一郎、2005年4月設立)と、そのサポートキャンパスである「おおぞら高等学院(学院長:小林英仁、2002年4月設立)で構成されます。

おおぞら高校の在学生は、年1回のスクーリング(対面授業)を受けるために屋久島を訪れます。島の南端、海を一望できる敷地には、木造一部鉄筋コンクリート造で延べ床面積1,387.31m²の校舎が既存しますが、全国にサポートキャンパスを展開する同校の在学者数が2023年5月に11,429名を超え、これに対応する必要性もあり、校舎の増築が決定しました。
KTC学園おおぞら高校が設定した「屋久島みらいへのバトンプロジェクト」ふさわしい設計者として、学校側は隈氏に設計を依頼、2023年5月29日に新校舎建設プロジェクトの概要が発表されています(同校プレスリリース)。

学校法人KTC学園 屋久島おおぞら高等学校(屋久島本校)

敷地模型を挟んで対談する茂木健一郎氏(左、屋久島本校校長)と隈研吾氏(右)


KTC学園屋久島おおぞら高等学校(学校法人)YouTube:おおぞら高校 |隈研吾氏×茂木健一郎校長 屋久島新校舎打ち合わせ(2023/10/11)

 

新校舎設計者の選定にあたり

屋久島本校は、山と海を見渡せる屋久島の南側に位置しています。おおぞらへ羽ばたく鳥をモチーフとした校舎には年間を通して多くの生徒が訪れます。プロジェクトの発足に伴い、生徒だけの学びの場ではなく地域や世界の人ともつながれる開かれた場とするため、現在の校舎に加えて新たな校舎の建築を行います。
設計者を選定するにあたり、大切にしたポイントは以下の3つです。

1.屋久島の場所性を大切にし、ここでしかできない特別な体験を提供できること
2.校舎に子供たちへのメッセージを込め、それを社会に向けて発信できること
3.日本国内だけで無く、世界への発信力を持っていること

設計者選定のタイミングで、隈研吾氏の著書『建築家になりたい君へ』(河出書房新社、2021年)が読書感想文の課題図書になっているのを知りました。その中でご自身の少年時代の体験をもとに「負ける建築」がどう生まれたのか、そして今後の建築がどうあるべきかについて、未来の予測がしにくい時代に生きる 子供たちへのメッセージとして書かれていました。その内容は大人の私たちにとっても分かり易く、「人間を自然から遠ざけ、人間にストレスを与え続けていたコンクリートや鉄の建築から、自然と一体化するやわらかな建築に向かわなければなりません。」という設計思想は、私たちが期待をする新校舎のビジョンと重なるものでした。
実績および発信力については言うまでも無く申し分ない方ですので、屋久島でのスクーリングという子供たちにとって一生の宝物になる体験を提供するための校舎を、ぜひ隈研吾氏に設計して欲しいと思い、設計依頼をさせていただきました。(学校法人KTC学園 報道発表資料より)

屋久島みらいへのバトンプロジェクト 概要ページ
https://www.ohzora.ac.jp/project/

 

隈氏が設計する新校舎は、屋久島を形成する山々の美しい稜線をなぞるようにデザインされた白い大屋根を有し、その下に「海」と「山」とそれぞれ名付けた教室のほか、職員室、多目的ホールなどが配置されます。これらの間を「ナカドマ」がつなぎ、人々の交流の場として機能します。

屋久島おおぞら高等学校(屋久島本校)

屋久島本校 イメージ / 緩やかな傾斜の敷地形状を活かしたアプローチ

屋久島おおぞら高等学校(屋久島本校)

屋久島本校 イメージ / 人々を迎え入れるエントランスは可動スクリーン式で予定

屋久島おおぞら高等学校(屋久島本校)

屋久島本校 イメージ / 「海」と「おおぞら」の教室、多目的ホール、職員室の4つをつなぐ十字形の「ナカドマ」

海と山を同時に見渡すことができる屋久島本校の新校舎は、ここを訪れる人々が五感で屋久島の地形そのものを感じられるような設計となっています。

山・海・教室をつなぐナカドマは訪れる人々の交流の拠点です。職員室のほか、海の教室が2部屋・山の教室が2部屋、450席が用意できる多目的ホールがあり、これらを十字型のナカドマがつなぎます。屋久島の木材を採用した教室はいずれも海を眺めることができ、屋久島を全身で感じることができるでしょう。人々の会話の場となる職員室は、さまざまなレイアウトに可変できるオープンな空間として設計されています。

学校という空間だけではなく、屋久島そのものが学び舎であること。校舎という枠を超え、地域との交流、国際交流、多世代教育を通じ生徒も大人も、ともに学びあえる場所であり、訪れる人々の五感を震わせる場でありたいという学校側および隈氏の願いを込めた建築となります。

屋久島おおぞら高等学校(屋久島本校)

屋久島おおぞら高等学校 遠景イメージ / 海の水平線に溶け込む新校舎

新校舎は2024年9月頃に着工、2025年の秋に竣工、2025年度中にオープンする予定です。

屋久島おおぞら高等学校 新校舎 建築概要

計画地:鹿児島県熊毛郡屋久島町平内 34-21ほか(既存校舎 Google Map
用途地域:指定なし(都市計画区域外)
防火地域:指定なし
敷地面積:今後の敷地設定による
設計:隈研吾建築都市設計事務所

設計条件
必要諸室(延べ面積 2,000m²を想定)
・教室5室(収容想定人数:250名)
・用途室:保健室1、図書室1
・ホール 900m²(収容想定人数:450名)
※卒業式を行える空間を想定したホールは、常設ではなく一部の教室を可動間仕切とし、一体利用などを設計にて検討する
・職員室:400m²(収容想定人数:90名)
・そのほか、トイレや倉庫など施設運用上必要となるスペース

基本要求性能
1.事業継続性
本計画地は気象条件が非常に厳しく、大型台風や塩害に見舞われる恐れがあるため、スクーリングを行う施設という特性上、事業継続性には特に配慮した設計とする
2.意匠性
屋久島という場所性を含め、ここでしかできない体験を提供できるものであること、子供たちへのメッセージ性の強いものであること、既存施設からの景観を意識したものであること
3.構造区分
事業継続性および気象条件を考慮したものであれば問わない
4.外構計画
来客用の駐車スペースを本建物エントランス付近に設け、既存の食堂棟や校舎からの動線計画に配慮した設計とする

※本稿の内容は掲載時点のもの、今後変更される可能性あり

 

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