CULTURE

新たなロスコ・ルームをSANAAが国際文化会館 新西館とともに設計

DICと国際文化会館がアート・建築分野を起点とする協業に合意、川村コレクションの名品の数々は六本木へ

CULTURE2025.03.14

2024年8月に休館予定を発表して以降、常設展示室「ロスコ・ルーム」[*1]を含めた20世紀美術の名品の数々の行方が注目されていたDIC川村記念美術館。美術館を運営するDICと、公益財団法人国際文化会館との間でアート・建築分野を起点とする協業に合意し、川村コレクションを中核として同館の美術品が国際文化会館[*2]に移転することが発表されました(2025年3月12日 国際文化会館プレスリリリース)。新たな「ロスコ・ルーム」は、建築家の妹島和世氏と西沢立衛氏が率いるSANAAが設計を担当します。

SANAA(サナー)近影

左:妹島和世氏 / 右:西沢立衛氏 Photo: Aiko Suzuki

DIC川村記念美術館「ロスコ・ルーム」

DIC川村記念美術館「ロスコ・ルーム」へと続く廊下 撮影:高橋マナミ

*1.ロスコルーム:DIC川村記念美術館に2008年に増築された部屋の1つ、マーク・ロスコ(1903-1970)の作品〈シーグラム壁画〉のために設計された展示室(詳細はDIC川村記念美術館ウェブサイト「ロスコ・ルーム」ページを参照)

*2.国際文化会館:1955年(昭和30)竣工。20世紀を代表する建築家であるル・コルビュジエ(1887-1965)に師事した、前川國男(1905-1986)、坂倉準三(1901-1969)、吉村順三(1908-1997)の共同設計で知られる。1956年に日本建築学会賞(作品)を受賞した本館(東館)は当時の姿を留め、モダニズム建築の外観意匠と、建物の南側に広がる7代目小川治兵衛(1860-1933)が手がけた日本庭園が融合した、日本近代建築における傑作として、2006年に国の登録有形文化財に指定(詳細は国際文化会館ウェブサイト「建築」ページほかを参照)。2005年に行った耐震補強を含む大規模改修工事での保存再生の取り組みが評価され、2007年に再び日本建築学会賞(業績賞)を受賞している

 

国際文化会館(本館)南面外観

国際文化会館(本館)南面外観 Photo: Naoko Endo

協業までの経緯

DIC川村記念美術館を運営するDICでは、美術作品、建築、自然の3つが融合する体験を継承するため、企業・社会へのインパクトを最大化できる都心にて移転先を探していました。対して、国際文化会館では、民間外交・国際文化交流のパイオニアとして、アート・建築分野での発信のさらなる強化を目指し、世界的なアートコレクションを擁する協働パートナーを求めていました。この両者の理念と戦略的目標が合致し、今回の協業に至ったとのこと。

休館発表時の『TECTURE MAG』ニュース

発表によると、今回の合意内容は以下の通りです(プレスリリースをもとに一部要約)。

協業 合意内容

・アート・建築分野を起点とする協業
・DIC川村記念美術館が所蔵する、戦後アメリカ美術を中心とする20世紀美術品のコレクション(川村コレクション)を中核に、国際文化会館に移転
・DIC川村記念美術館が所蔵するマーク・ロスコの〈シーグラム壁画〉7点すべてを、建築家ユニット・SANAAが設計を担当し、国際文化会館が新たに建設する予定の新西館に移設。常設で開設される展示室「ロスコ・ルーム」の設計もSANAAが担当する
・新設「ロスコ・ルーム」は、DICと国際文化会館で共同運営する
・アート・建築の力によって、民間外交・国際文化交流を推進する公益プログラムの充実を図る(アート・建築界を代表する有識者・アドバイザーの諮問・協力を仰ぐ)

 

国際文化会館では新西館建設プロジェクトが進行中

国際文化会館がある六本木五丁目西地区では現在、森ビルと住友不動産による再開発事業が進行中です。これに伴い、国際文化会館では、本館を除く西館と別館の解体を決定、国際文化会館の新たな顔となる新西館の建設と、本館の内装改修を予定しています(詳細は2024年7月23日発表内容を参照)。
このSANAAが設計する新西館に、川村コレクションを中心とした美術品が千葉・佐倉から移設される計画です。

国際文化会館 南面外観

画面奥:前川國男建築を象徴する煉瓦タイルの建物・西館(1975年増築)は、地区の再開発に伴い解体される(手前の本館 / 東館は内装改修にとどまる) Photo: Naoko Endo

国際文化会館 建築模型

国際文化会館 館内に展示されている建築模型 Photo: Naoko Endo

2022年8月27日に創立70周年を迎えた(公財)国際文化会館では「アジア・太平洋地域を代表する知の交流拠点となり、グローバルでより高いインパクトを発する」というビジョンを掲げ、同年に周年記念募金を立ち上げています。これから100年先を見据えた基盤づくりを目指して寄付を募り(目標額:50億円)、エリアの再開発・再編計画と連動して、人々の知的対話と文化交流を促進するサロン機能を拡充させる計画とのこと。

DIC川村記念美術館 クロージング展は3月31日まで

DIC川村記念美術館では現在、佐倉の地で最後となるコレクション展示「DIC川村記念美術館 1990–2025 作品、建築、自然」を開催中です(会期は3月31日まで。混雑状況や利用方法については同館ウェブサイトを参照)。

DIC川村記念美術館

DIC川村記念美術館 外観 撮影:渡邉 修

同展では、1990年に川村記念美術館として開館(2011年に改称)した当初より掲げてきた「作品・建築・自然の調和」というコンセプトに基づき、庭園と館内全ての展示室を用いて、約180点の作品が披露されています。そのうち11の展示室は、作品にふさわしい空間づくりを目指して設計され、多彩な作品にあわせて空間ボリュームや意匠を変えています。作品のサイズやその周辺に醸し出す雰囲気までも考慮した展示室であり、外の光や景色を適切に採り入れたそれぞれの空間設計も見どころです。

「DIC川村記念美術館 1990–2025 作品、建築、自然」フライヤー

「DIC川村記念美術館 1990–2025 作品、建築、自然」展 フライヤー

11の展示室
101室 印象派からエコール・ド・パリへ
102室 レンブラント・ファン・レイン
103室 抽象美術の誕生と展開
110室 版画、写真、ドローイング
104室 ダダ、シュルレアリスムとその展開
105室 ジョゼフ・コーネル
106室 ロスコ・ルーム〈シーグラム壁画〉
200室 ―
201室 フランク・ステラ
202室 抽象表現主義、カラーフィールド
203室 ネオダダからミニマリズム、日本の現代へ
エントランスホール アリスティード・マイヨール
ホワイエ エンツォ・クッキ
庭園 野外彫刻

DIC川村記念美術館 エントランスホール

エントランスホールのステンドグラス 撮影:高橋マナミ

DIC川村記念美術館 エントランスホール

エントランスホール 撮影:渡邉 修

「DIC川村記念美術館 1990–2025 作品、建築、自然」開催概要

会期:2025年2月8日(土)〜3月31日(月)
会場:DIC川村記念美術館
所在地:千葉県佐倉市坂戸631(Google Map
開館時間:9:30〜17:00(入館は16:30まで)
休館日:月曜(ただし最終日3月31日は開館)
入館料:一般 1,800円、学生・65歳以上 1,600円 、高校生以下無料
※障害者手帳の提示で付添1名含め無料
TEL:050-5541-8600(ハローダイヤル)

DIC川村記念美術館

DIC川村記念美術館 外観 撮影:高橋マナミ

DIC川村記念美術館 ウェブサイト
https://kawamura-museum.dic.co.jp/

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