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シャルロット・デュマ展「ベゾアール(結石)」会場レポート

銀座メゾンエルメス フォーラムを藍色に染める展覧会、12/29まで

オランダ・アムステルダムを拠点に活動する、写真家でアーティストのシャルロット・デュマ氏の作品を紹介する企画展です。当初の予定では11月29日(日)までの会期でしたが、好評につき、12月29日(火)まで延長となっています。

「ベゾアール(結石)」シャルロット・デュマ展(Bezoar by Charlotte Dumas)銀座メゾンエルメス フォーラム メインビジュアル

左:Bezoar | 2018 | intestinal stone of horse | 19th century | 50 x 40 cm | High pigment inkjet print| Musée Vétérinaire in Paris
右:Image from Yorishiro | 2020 | 19’35” | 4K video | Japan
© Charlotte Dumas, Courtesy of the artist and andriesse eyck gallery, Amsterdam

シャルロット・デュマ氏は、1977年オランダ・フラールディンゲン生まれ。現代社会における動物と人の関係性をテーマに、約20年にわたり、騎馬隊の馬や救助犬など、人間と密接な関係を築いている動物たちを被写体としたポートレイト作品を発表してきました。2014年からは日本を度々訪問し、北海道、長野、宮崎、与那国島など全国8カ所を巡り、各地に現存する貴重な在来馬を撮影しています。

「ベゾアール(結石)」シャルロット・デュマ展(Bezoar by Charlotte Dumas)銀座メゾンエルメス フォーラム

《依代》 | 4K  | 2020 | 19’35”
Image from Yorishiro | 2020 | 19’35” | 4K video
© Charlotte Dumas, Courtesy of the artist and andriesse eyck gallery, Amsterdam
©Nacása & Partners Inc. / Courtesy of Fondation d’entreprise Hermès

本展の為に収録されたインタビューでデュマ氏は、人と動物との関係性について以下のように語ってます。

「私たちは動物を必要としていて——動物は、人類の存在のいわば証人です。私の作品を通して、人と動物の関係を再構築し、解き放ちたいと考えています。(シインタビューより抜粋)

会場では、作家が撮影した馬の映像など近年の作品3点を中心に構成されます。このほか、写真作品や、作家が各地で蒐集した馬に関連する資料なども展示されています。馬の撮影を通じて発見したという原始の風景を紐解くようにして、馬との対話を試み、動物と人間の関わり合い、さらには「生と死」について考えるきっかけを、見る者へと投げかけます。

潮(Shio)から海をイメージした会場デザイン

その中心とも言える作品が、デュマ氏が数年来、協働を続けている作家で、沖縄を拠点に創作活動を行なっている、テキスタイルデザイナーのキッタユウコ氏とのコラボレーションです。キッタ氏からの提案を受けて《潮(Shio》と名付けられたこの作品は、デュマ氏が2018年に制作した映像を上映したスクリーンを取り囲むようにして、キッタ氏がデザインと監修を手がけた36枚の琉球藍の布が配置されています。レンゾ・ピアノ氏の設計として知られる、ガラス・ブロックの壁面にも淡い青の装飾用シートが貼られており、会場を青一色に染め上げて、来場者をシャルロット・デュマの世界へと一気に引き込みます。時間帯によっては布の藍色がガラスに映り込み、その濃さを増して、まるで海の底にいるかのようです。宙に浮いている蚊のように設置されたスクリーンや、たゆたう藍染の布の動きも、会場全体に独特の浮遊感をもたらしています。

「ベゾアール(結石)」シャルロット・デュマ展(Bezoar by Charlotte Dumas)銀座メゾンエルメス フォーラム会場

《潮》展示風景 / Installation view of Shio
潮|HD ヴィデオ|19’49”|2018
Shio|HD video|19’49”|2018
©Charlotte Dumas, Courtesy of the artist and andriesse eyck gallery, Amsterdam
潮|オーガニックコトン・琉球藍|2020
Shio|Organic cotton, ryūkyū indigo| 2020
デザイン・監修制作:キッタユウコ、染色:澤野孝(Kitta)シャルロット・デュマとのコラボレーョン
Design, direction and production: Kitta Yuko, Dyeing: Takashi Sawano (Kitta) in collaboration with Charlotte Dumas,
©Nacása & Partners Inc. / Courtesy of Fondation d’entreprise Hermès

「ベゾアール(結石)」シャルロット・デュマ展(Bezoar by Charlotte Dumas)銀座メゾンエルメス フォーラム会場

《潮》展示風景 / Installation view of Shio
潮 | HD ヴィデオ|19’49”|2018
Shio|HD video|19’49”|2018
©Charlotte Dumas, Courtesy of the artist and andriesse eyck gallery, Amsterdam
潮 | オーガニックコトン・琉球藍 | 2020
Shio|Organic cotton, ryūkyū indigo| 2020
デザイン・監修制作:キッタユウコ、染色:澤野孝(Kitta)シャルロット・デュマとのコラボレーョン
Design, direction and production: Kitta Yuko, Dyeing: Takashi Sawano (Kitta) in collaboration with Charlotte Dumas,
©Nacása & Partners Inc. / Courtesy of Fondation d’entreprise Hermès

インスタレーション作品《潮》の展示協力を含む、展覧会全体の会場構成を手がけたのは、共にオランダでの勤務経験をもつ、小林恵吾と植村 遥の両氏。両氏は、2018年に東京国立近代美術館で開催された「ゴードン・マッタ=クラーク展」の会場デザインも担当しています[*](参加アーティストのプロフィールは後述)
*「ゴードン・マッタ=クラーク展」開催時の表記|展示デザイン:小林恵吾(NoRA)+早稲田大学建築学科小林恵吾研究室 / 植村遥

写真家×テキスタイルデザイナー×建築家

9月28日(月)に館内で開催されたトークセッションで、本展キュレーターを聞き役に、小林・植村の両氏が語ったところによれば、2020年8月27日(木)に初日を迎えた本展の準備期間は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的な拡大時期と重なり、本展開催にあわせて来日する予定だった作家との打ち合わせがオンラインとなるなど、設営には苦労したとのこと。


# Fondation d’entreprise Hermès YouTube公式チャンネル「EXHIBITIONS | Charlotte Dumas, “Bezoar” at Le Forum, Tokyo」(1/2)2020/08/31公開

今回の会場デザインの出発点は、青い布がカーテンのように吊り下げられた中に、シャルロット・デュマの映像作品があるという、作家自身が描いた1枚のイメージ画でした。作家へのインタビュー動画(2/2)でデュマが語ったところによれば、この複数の布は作品を保護するイメージとのこと。これを元に、小林・植村の両氏が、テキスタイル(琉球藍)の配置、スクリーンの位置、それを設置したときの見え方など、何度もスタディが重ねられています。

8階のインスタレーション《潮》の前に設置された、横に長く、高低差がつけられた木製の什器は、映像作品を鑑賞するためのベンチとしてだけでなく、EV前のホールを挟んで2つに分かれている展示室をつなぐという設計意図が込められています。

「ベゾアール(結石)」シャルロット・デュマ展(Bezoar by Charlotte Dumas)銀座メゾンエルメス フォーラム会場

「ベゾアール(結石)」シャルロット・デュマ展(Bezoar by Charlotte Dumas)銀座メゾンエルメス フォーラム会場(photo: en)

「ベゾアール(結石)」シャルロット・デュマ展(Bezoar by Charlotte Dumas)銀座メゾンエルメス フォーラム会場

「ベゾアール(結石)」シャルロット・デュマ展(Bezoar by Charlotte Dumas)銀座メゾンエルメス フォーラム会場(photo: en)

「ベゾアール(結石)」シャルロット・デュマ展(Bezoar by Charlotte Dumas)銀座メゾンエルメス フォーラム会場

展示風景 / Installation view
©Nacása & Partners Inc. / Courtesy of Fondation d’entreprise Hermès

「ベゾアール(結石)」シャルロット・デュマ展(Bezoar by Charlotte Dumas)銀座メゾンエルメス フォーラム会場

展示風景 / Installation view
©Nacása & Partners Inc. / Courtesy of Fondation d’entreprise Hermès

「ベゾアール(結石)」シャルロット・デュマ展(Bezoar by Charlotte Dumas)銀座メゾンエルメス フォーラム会場

展示風景 / Installation view
©Nacása & Partners Inc. / Courtesy of Fondation d’entreprise Hermès

「ベゾアール(結石)」シャルロット・デュマ展(Bezoar by Charlotte Dumas)銀座メゾンエルメス フォーラム会場

「ベゾアール(結石)」シャルロット・デュマ展(Bezoar by Charlotte Dumas)銀座メゾンエルメス フォーラム会場(photo: en)

本展は、8階と9階の2フロアにわたって展示が展開するのも特徴の1つです。2層分の大空間を使っているインスタレーションを上からの鑑賞できるという、貴重なアート体験の機会を提供しています。また、小林・植村の両氏が今回の会場構成で意図した、弧を描いた遠心状のラインも確認できます。

「ベゾアール(結石)」シャルロット・デュマ展(Bezoar by Charlotte Dumas)銀座メゾンエルメス フォーラム会場

「ベゾアール(結石)」シャルロット・デュマ展(Bezoar by Charlotte Dumas)銀座メゾンエルメス フォーラム会場(photo: en)

9階にはこのほか、3つめの映像作品や、作家が撮ったポラロイド写真、本展のタイトルにもなっている「ベゾアール(Bezoar / 結石)」の実物が展示されています。

「ベゾアール(結石)」シャルロット・デュマ展(Bezoar by Charlotte Dumas)銀座メゾンエルメス フォーラム会場

「ベゾアール(結石)」シャルロット・デュマ展(Bezoar by Charlotte Dumas)銀座メゾンエルメス フォーラム会場(photo: en)

「ベゾアール(結石)」シャルロット・デュマ展(Bezoar by Charlotte Dumas)銀座メゾンエルメス フォーラム会場

展示風景 / Installation view
©Nacása & Partners Inc. / Courtesy of Fondation d’entreprise Hermès

「ベゾアール(Bezoar)」とは?

本展のタイトルにもなっている「ベゾアール」とは、結石という和訳の通り、動物の胃や腸の中に自然にできてしまう「石」のこと。誤飲した小石が胃の中で凝固したり、馬などの草食動物の場合は、植物の繊維が絡まり、ミネラルが凝集することでも形成されます(会場展示解説より)。
本展で見ることができるその「植物性胃石」は、広島の食肉衛生検査所から貸し出されたもので、ソフトボールほどの大きさがあります。大きさと重さいかんでは馬を死に至らしめることもある一方で、魔力をもつものとして信じられ、万能薬や解毒剤に用いられるなど、生への渇望を示すものでもあります。
死んだ馬の胃袋から出てくる丸い「石」に聖なる力を感じとるという、人々の心の純真さにも惹かれたデュマは、コロナ禍の生活を数カ月間、ヨーロッパで過ごした者として、本展のタイトルを「生と死」を暗喩する「ベゾアール(結石)」と名付けました。

「ベゾアール」という石ひとつにしても、さまざまな歴史や文化をまとい、多面的な解釈が可能であるように、本展では、この「いくつかの視点」もまた展示コンセプトとなっています。2フロアを使った会場構成や、テキスタイルデザイナーや建築家とのコラボレーションによって、シャルロット・デュマが紡いできた物語と世界観が、さらなる拡がりをもって展開しています。


# Fondation d’entreprise Hermès YouTube公式チャンネル「EXHIBITIONS | Charlotte Dumas, “Bezoar” at Le Forum, Tokyo」(2/2)2020/11/24公開
註.デュマ、キッタユウコ、小林恵吾、植村 遥の4氏へのインタビュー動画です

アーティストプロフィール

シャルロット・デュマ Charlotte Dumas
1977年オランダ、フラールディンゲン生まれ。現在、アムステルダムを拠点に活動を行う。2000年にヘリット・リートフェルト・アカデミーを卒業後、ライクスアカデミーで学ぶ。現代社会における動物と人間の関係性に強い関心を寄せ、20年以上にわたり、馬や犬を中心とした作品を撮り続けている。例えば、騎馬隊の馬や救助犬など、人間生活のために特定の状況におかれ、共生する動物たちを被写体としながら、私たちが動物や他者の価値をどのように定義づけてきたのかを問いかける。2014年からは、日本全国に現存する在来馬を撮影するプロジェクトを手がけ、北海道、長野、宮崎、与那国島など8ヶ所を巡って撮影した作品は、「Stay」(ギャラリー916、東京、2016年)で発表されただけでなく、同名の写真集として出版された。近年では、写真に加え、映像作品も手がける。
主な個展に、「Retrieved/K-9 Courage」(9/11メモリアル&ミュージアム, ニューヨーク、2020年)、「Yorishiro」(アンドリエッセ・エイク・ギャラリー、アムステルダム/デ・ポン美術館、ティルブルグ、2020年)、大沼流山牧場「Paard Musée」での映像インスタレーション(北海道、2016年)、「Anima and The Widest Prairies」(フォトグラファーズ・ギャラリー、ロンドン、2015年)、「Paradis. Charlotte Dumas」(Foam写真美術館、アムステルダム、2009年)など。浅間国際フォトフェスティバル(2018年)に参加するなど、世界各地で作品を発表している。

「ベゾアール(結石)」シャルロット・デュマ展(Bezoar by Charlotte Dumas)銀座メゾンエルメス フォーラム テキスタイルデザイン:キッタユウコ

Wave | 2017 | 80x109cm | High pigment inkjet print
© Charlotte Dumas, Courtesy of the artist and andriesse eyck gallery, Amsterdam

テキスタイルデザイン
キッタユウコ Kitta Yuko

10代の頃よりビニールや古い毛布、カーテンなどを使った服を自分のためにつくり始める。化学染料での染色も試みるが、排水などの工程に違和感を覚える。「自分が美しいと感じている自然界の色と人間が生み出す化学的な色の違い」が象徴する自然と人間の不調和を解決するためのアプローチとして、1998年、東京のマンションの一室で植物染色を用いた衣服の制作を独学で始める。2003年、千葉県鴨川市を拠点に「kitta」として本格的に活動を開始。2011年、沖縄県北部ヤンバルに移住し、琉球藍に出会う。染料の栽培や採取、薪の火や発酵などによる染色、デザイン、縫製まで、物が生まれてから土に還るまでを分断のないひとつの流れとして捉え、自然と人間を媒介するというコンセプトを軸に衣服や空間作品まで幅広く制作を行なっている。国内外で衣服の展示も多数開催。

「ベゾアール(結石)」シャルロット・デュマ展(Bezoar by Charlotte Dumas)銀座メゾンエルメス フォーラム会場

「ベゾアール(結石)」シャルロット・デュマ展(Bezoar by Charlotte Dumas)銀座メゾンエルメス フォーラム会場(photo: en)

会場構成
小林恵吾 Keigo Kobayashi
1978年東京生まれ。2002年早稲田大学理工学部建築学科卒業。2005年ハーバード大学大学院デザイン学部修士課程修了後、2012年までレム・コールハース率いるOMA-AMOロッテルダム事務所に勤務。主に中東と北アフリカのプロジェクトを多数担当。2012年より早稲田大学創造理工学部建築学科助教、現在、同大学准教授。設計事務所NoRA共同主宰。

植村遥 Haruka Uemura
1984年京都府生まれ。2011年ヘリット・リートフェルト・アカデミー、インターアーキテクチャープログラム卒業。2013年 サンドベルグ・インスティテュート、The Studio for Immediate Space 卒業後、オランダのアンネ・ホルトロップ事務所に勤務。ミラノ国際博覧会バーレン館のデザイン・ランドスケープを担当したのち、2014年にUemura Architecture Lab設立。2015年ELLE DECOR JAPAN-ヤング・ジャパニーズ・デザイナー・タレント賞受賞。2017年より早稲田大学創造理工学部建築学科非常勤講師。小林恵吾(NoRA)とのコラボレーション多数。

銀座メゾンエルメス フォーラム

銀座メゾンエルメス フォーラム 外観

シャルロット・デュマ展「ベゾアール(結石)」

会期:2020年8月27日(木)~12月29日(火)
開館時間:月曜~土曜 11:00-20:00(最終入場19:30)/ 日曜 11:00-19:00(最終入場18:30)
休館日:11月14日(土)※銀座店の営業日に準じる
入場料:無料
会場:銀座メゾンエルメス フォーラム(東京都中央区銀座5‐4‐1 8・9階)
TEL: 03-3569-3300
主催:エルメス財団
助成:オランダ王国大使館

展覧会詳細
https://www.hermes.com/jp/ja/story/maison-ginza/forum/200827/

銀座メゾンエルメス 公式ウェブサイトhttps://www.hermes.com/jp/ja/story/maison-ginza/

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