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美術鑑賞の新プラットフォーム「ARTLOGUE VR β」

十和田市現代美術館とモリムラ@ミュージアムが、有料の3DVRコンテンツを配信

十和田市現代美術館(青森県十和田市、館長:鷲田めるろ)と、モリムラ@ミュージアム(大阪府大阪市、ディレクター:森村泰昌)が、常設展示の一部をオンラインで体験できる、3DVRによる有料のオンライン鑑賞コンテンツの販売を、2021年1月21日より開始しました。公開期間は1カ月の期間限定商品になります。

このオンラインコンテンツは、「Art for Human and Planet」をビジョンに掲げ、アートメディア『ARTLOGUE』の運営のほか、アートを基軸とした企画・プロデュースを行っているアートローグ(本社:府北区、代表取締役CEO:鈴木大輔)が主体となり、文化庁の文化芸術収益力強化事業「美術館展覧会の3DVRコンテンツ 有料化による収益力強化事業」の一環としてリリースしました。3DVRで会場を巡るバーチャルツアーなどを有料で公開するプラットフォーム「ARTLOGUE VR」の第一弾となります。

リリースに先立つ2021年1月19日に、アートローグ代表の鈴木氏と、十和田市現代美術館館長の鷲田氏が登壇し、コンテンツの背景など概要を説明する記者説明会がオンラインで開催されました。

記者説明会の席上、鈴木氏は、「ARTLOGUE VR」は、「東京一局集中」というアート以外の領域でも顕著な問題の解消につながり、このプロジェクトを市民10万人あたりの美術館数が全国最下位の大阪府から発信することに意味があるとしています。

「ARTLOGUE VR」イメージ(モリムラ@ミュージアム)

モリムラ@ミュージアム エントランス

アートローグでは、3Dビューの撮影と再生に、アメリカで測量用に開発された技術を不動産の内覧用に転用したという、Matterport(マーターポート)のシステムを採用。COVID-19(新型コロナウイルス感染症)拡大防止対策のため、会期途中で閉幕となった、森美術館での企画展「未来と芸術展」が期間限定で公開した3DVRは、アートローグの鈴木氏が森美術館の当時館長だった南條史生氏に制作を打診し、実現したものです。

2020年春以降に予定されていた展覧会は、そのほとんどが中止または途中閉場を余儀なくされました。やむなく、無人の会場を撮影し、オンラインで展覧させるコンテンツは、森美術館以外の文化施設でも公開されましたが、視聴を無料とした会場がほとんど。アートローグの説明によれば、Matterportには課金システムを併設できなかったとのこと。

今回、文化庁の事業としてローンチした「ARTLOGUE VR」では、配信側にとって念願だった有料配信を実現。また、無料と有料のコンテンツに分けた配信も可能となっており、2021年も引き続きコロナ禍の影響を受けることが必至の文化施設にとって、企画した展覧会をオンラインで広く披露できる機会を得て、かつ収益も見込めるコンテンツとなります。会期が終了して撤収された後も、展示品の細部をさまざまな角度から再び観覧することができるため、アーカイブ資料としても有効です。

見学するユーザー側の利点としては、後述するような、オンラインコンテンツならではの新しい鑑賞方法の獲得があります。さらに、今回の十和田市現代美術館会場での有料コンテンツでは、学芸員による約1分程度の音声解説が特典として付くほか、今回のオンライン鑑賞コンテンツを用いた、十和田市現代美術館学芸員によるギャラリートークが2月6日(土)19時より開催されます(要申し込み)。

〈十和田市現代美術館〉館内フリースペース

〈十和田市現代美術館〉館内フリースペース、ミュージアムショップ・カフェとレセプションをつなぐ回廊にて、2014年撮影(photo: en)

記者説明会の席上、十和田市現代美術館の鷲田館長は、今回の配信については「テクスチャー、素材感、細部、寄りの限界などを踏まえ、リアル体験の代わりにはならないという大前提での試み」であるとしています。
当初は「どこまでバーチャルで再現できるのか懐疑的」でしたが、その後、β版のテストビューを視聴して、西沢立衛建築設計事務所が設計したことで知られる〈十和田市現代美術館〉と3DVRとの相性はよい、という印象に。

具体的には、箱型の展示室が敷地内に複数配置されている同館において、「展示室どうしをつなぐ回廊が水平方向に展開し、回廊もガラス張りでリズム感も楽しめる、建物としてのおもしろさを伝えている」とのこと。常設展示が主体となっている美術館の、建築と一体化した展示空間を案内することができており、また、二次元表現である写真と比べた場合に、空間と作品との位置関係を把握しやすいことも、3DVRの利点として挙げました。

西沢建築設計事務所「十和田市現代美術館 模型」(2014年十和田市現代美術館 企画展「妹島和世+西沢立衛 SANAA展」にて撮影)photo: en

西沢建築設計事務所「十和田市現代美術館 模型」(2014年十和田市現代美術館 企画展「妹島和世+西沢立衛 SANAA展」にて撮影)photo: en

難点として、現状のシステムでは撮影できない画角があることを挙げ、「例えば、ス・ドホの常設作品では天井付近にモザイクがかかってしまっていた」とのこと。とはいえ、総合的には「1つの決まった順路で会場を巡るのではなく、ユーザー自身がコースを選び、追体験できるところが良い。コロナ禍が収まった後に、実際に会場を訪れて見たいと思わせてくれる」と評価。「ARTLOGUE VR」の今後の可能性に期待を寄せました。

「ARTLOGUE VR」イメージ(十和田市現代美術館)

十和田市現代美術館 アナ・ラウラ・アラエズ《光の橋》

「ARTLOGUE VR」を運営するアートローグでは今後、本事業を通じて、3DVRアーカイブを美術館、アート業界のスタンダードなサービスにするだけでなく、業界のDX(デジタルトランスフォーメーション)を促し、美術館の新たなサービスとビジネスモデルの創出を目指すとのこと。
本サービスのローンチに関連して、DXをテーマにしたオンラインシンポジウムの開催も予定しています(日時など詳細は、決まり次第、アートローグのウェブサイトなどで発表)。

今回、2館で公開された3DVRでは、エントランスやカフェなど、普段から入館料不要で出入りできるスペースに関しては、無料での視聴が可能。有料スペースの3Dビューより料金の支払いが必要です。詳細は、会場ウェブサイトの案内を参照してください。(en)

「ARTLOGUE VR β」

公開期間:2021年1月21日(木)~2月21日(日)
配信される展覧会
十和田市現代美術館「美術館内の常設作品(館内の9作品)」
https://towadaartcenter.com/projects/permanent-exhibition-3dvr/
モリムラ@ミュージアム「北加賀屋の美術館によってマスクをつけられたモナリザ、さえも 」
https://www.morimura-at-museum.org/
配信内容:無料版+有料版(無料版から有料版にアクセスする際に課金あり)
料金:各館 200円(視聴可能時間:48時間)
配信方法:オンライン(3DVR)
主催:文化庁、アートローグ
協力:十和田市現代美術館、モリムラ@ミュージアム
制作:アートローグ
https://www.artlogue.org/

「ARTLOGUE VR」公式ウェブサイト
https://artlogue-vr.com/

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