今年4月から6月にかけて、京都国立近代美術館で開催されたピピロッティ・リストの大規模個展が、茨城県水戸市の水戸芸術館現代美術ギャラリーに巡回、10月17日まで開催されています。
スイス北東部の生まれのピピロッティ・リスト(1962年-)は、実験的な映像表現を探究するアーティストとして、1980年代から現在に至るまで、自国スイスを拠点に世界各地の美術館や芸術祭で作品を発表してきました。
色彩に満ちた世界をユーモアたっぷりに切り取ってみせる映像と、心地よい音楽や空間設計によるリストのヴィデオ・インスタレーションは、国を越えて幅広い世代の観客を魅了し続けています。
本展は、身体、ジェンダーとセクシュアリティ、自然、エコロジーを主題とした作品およそ40点で構成されます(京都会場には出品されなかった作品を含む)。初期ヴィデオ作品から最新の大型インスタレーションまで、ピピロッティ・リストの主要作品を紹介する、国内では13年ぶりとなる大規模展です。
身体や女性としてのアイデンティティをテーマとする初期の短編ヴィデオ、ヴェニス・ビエンナーレ(1997)や、横浜トリエンナーレ(2001)で国際的な注目を集めた〈永遠は終わった、永遠はあらゆる場所に〉(1997年 / 京都国立近代美術館蔵)、自然と人間の共生をテーマにパノラミックなスクリーンへと展開する近年の大型インスタレーションなど、30年以上にわたり、現代美術における映像のあり方に新たな可能性をもたらしてきた、リストの代表作を紹介します。
本展の見どころの1つとして、大きさ5センチほどのLCDディスプレイから、高さ3.2メートル×幅10メートルを超えるマルチチャンネルのプロジェクションまで、リストによる多彩な映像表現と、鑑賞方法が挙げられます。寝転ぶ、見上げる、覗き込む、映像を浴びるなど、従来の映像展示とは異なる体験へと鑑賞者を誘います。
来場者がくつろいで鑑賞できるよう設置されたソファーやクッションなどには、本展協力者として名を連ねている、デンマークのテキスタイルメーカー・Kvadrat(クヴァドラ)のマテリアルが使用されています。
四角いフレームからの解放を企てるリストの作品は、映画館の巨大なスクリーンとも、時としてクリック1つで反射的に誤解が生じたり誤った情報が伝わる危険性を孕むモバイル端末とも違った、「集まることで個々の人間がひとつの共同体としてつながるような仕組みを見出す」ための、本展ならではの展示空間において、来場者にしか味わえない体験の共有を生み出します。
本展のタイトル「Your Eye Is My Island-あなたの眼はわたしの島-」は、ピピロッティ・リスト自身によって提案された短い詩のようなもので、複数の意味が込められています。
リストは、活動初期から一貫して人間の眼を「Blood-driven Camera=血の通ったカメラ」と呼び、創作活動を通じて「眼」は重要なテーマとなってきました。
また、「島」は複数の島で構成された日本という土地を示唆する言葉とも取れます。
リストによれば、他者の眼に映ること、まなざしを向けられることによって、私たちは自分自身の存在を発見し、その一方で、誰かに対して視線を注ぐこと、心を配ることで、光さえ届かない「ブラックホール」からその存在を救出することができるのだと言います。
この詩的なタイトルは、まなざしを介して各々の内面世界と外部的・集合的な世界とが出会う、展示空間におけるコミュナル(共同的)な体験へと鑑賞者を導きます。
作家プロフィール:
ピピロッティ・リスト(Pipilotti Rist / 本名:エリザベス・シャルロッテ・リスト)
1962年スイス北東部のザンクト・ガレン州グラブスに生まれる。2004年からスイスのチューリヒを拠点に活動。
1980年代にウィーンの応用芸術学校およびバーゼルのデザイン学校で商業美術や映像表現を学び、フリーランスで広報ヴィデオの制作に携わるかたわら、音楽バンドの舞台デザインや映像制作を行う。
1986年に自身を撮影した短編ヴィデオ作品〈私はそんなに欲しがりの女の子じゃない〉がスイスのソロトゥルン・フィルム・フェスティバルで受賞したことをきっかけに、ヴィデオ・アーティストとしての道を進む。1997年には〈永遠は終わった、永遠はあらゆる場所に〉でヴェネチア・ビエンナーレ若手作家優秀賞(プレミオ2000)を受賞、国際的な評価を獲得した。その3年後にはニューヨークのタイムズスクエアで16面のマルチビジョンによる〈わたしの草地に分け入って〉が上映され、ポンピドゥー・センター前広場(2007)やニューヨーク近代美術館(2008)でも大規模な映像インスタレーションを発表。2014年以降はアメリカ、オーストラリア、イギリス、デンマーク、地元スイスの主要美術館で大規模な個展を開催するなど、その活動は世界から注目を集めている。
日本国内では、1999年に京都国立近代美術館で〈永遠は終わった、永遠はあらゆる場所に〉が上映されて以来、2000年代の主な個展「The Cake is in Flames:ピピロッティ・リスト」(2002、資生堂ギャラリー、東京)、「ピピロッティ・リスト:からから」(2007、原美術館、東京)、「ピピロッティ・リスト:ゆうゆう」(2008、丸亀市猪熊弦一郎現代美術館、香川)などで作品が紹介され、反響を呼んだ。また「瀬戸内芸術祭」や「PARASOPHIA: 京都国際現代芸術祭2015」など芸術祭の委嘱作品として制作されたサイトスペシフィックな作品でも知られ、原美術館ARC(東京より移転)、京都国立近代美術館、東京都現代美術館、金沢21世紀美術館などに作品が収蔵されている。
出品作家:ピピロッティ・リスト
会期:2021年9月20日(月・祝)~10月17日(日)
※10月9日(土)、10日(日)、16日(土)、17日(日)は優先入場予約実施日
開場時間:10:00-18:00(入場は17:30まで)
休館日:月曜(※祝日の場合は翌火曜休館)
会場:水戸芸術館現代美術ギャラリー
所在地:茨城県水戸市五軒町1丁目6-8(Google Map)
入場料:一般 900円、高校生以下・70歳以上は無料(学生証、年齢のわかる身分証明書の提示要)、障害者手帳の提示で付き添い1名まで無料
※京都会場の入場券半券の提示で当日券が200円割引(1名につき1回限り、招待券、招待状は対象外)
※他の割引とは併用は不可
※COVID-19(新型コロナウイルス感染症)対策を実施中
主催:公益財団法人水戸市芸術振興財団、京都国立近代美術館
後援:在日スイス大使館
協賛:クヴァドラ、Luhring Augustine
協力:長谷ビル、国立新美術館、森美術館、ユニバーサル・ビジネス・テクノロジー、サントリーホールディングス
助成:スイス・プロ・ヘルヴェティア文化財団
企画協力:Hauser&Wirth、一色事務所
企画:後藤桜子(水戸芸術館現代美術センター学芸員)
#水戸芸術館 / ArtTowerMito YouTube公式チャンネル「ピピロッティ・リスト:Your Eye Is My Island -あなたの眼はわたしの島-」(2021/07/29)
展覧会詳細
https://www.arttowermito.or.jp/gallery/lineup/article_5142.html
水戸芸術館現代美術ギャラリー ウェブサイト
https://www.arttowermito.or.jp/gallery/