COMPETITION & EVENT

伊東豊雄展覧会「公共建築はみんなの家である」 住民たちがみた公共建築

〈水戸市民会館〉開館記念、講演会を同館ユードムホールにて7/22開催

茨城県水戸市の中心部・泉町に、建築家の伊東豊雄氏が設計した〈水戸市民会館〉が7月2日にグランドオープンを迎えます[*後述]
これに伴い、同施設の北側・芸術館通りを挟んで隣り合う〈水戸芸術館〉が主催し、水戸市民会館の開館を記念する展覧会「公共建築はみんなの家である」が7月2日より開催されます。
関連企画として、7月22日には水戸市民会館の482席を有するユードムホールにて、伊東氏の講演会も開催されます(聴講無料、ただし予め座席の指定が必要)。

伊東豊雄〈水戸市民会館〉

〈水戸市民会館〉やぐら広場 撮影:中村 絵

伊東豊雄からのメッセージ

私達は30年に亘って国内外の公共建築の設計に携わってきました。当初、「西欧では公共建築に関わらない建築家は建築家として認められない」といった言葉を信じ、公共建築の設計に関わることに固執していました。
しかしいざ参加してみると、次第に日本の公共建築の問題が明確に浮かび上がってきました。管理意識が強く、利用者にとっては必ずしも望ましい建築がつくられていないと気付いたのです。
では、利用者にとって望ましい建築とはどのような建築でしょうか。

伊東豊雄〈せんだいメディアテーク〉

〈せんだいメディアテーク〉2001年開館

伊東豊雄〈まつもと市民芸術館〉

〈まつもと市民芸術館〉2004年開館

利用者にとって望ましい建築とは、毎日でも行きたくなる建築です。毎日でも行きたくなるのは、行くのが楽しい建築、居心地の良い建築だからです。
しかし我が国の公共建築は、利用者にとって楽しい建築、居心地の良い建築をつくろうとするよりも機能的な建築、管理しやすい建築をつくろうとする傾向が強いように感じられます。「機能」という概念は20 世紀以来の近代主義建築にとってきわめて重要な言葉です。「機能」は機械を構成する部品の性能とか効率のようなもののはたらきを指す概念です。
建築における機能概念は、機械部品のように人々の活動を分割して、それぞれに特化した空間に振り分け、活動別に人々をその空間に入れ込もうとしてしまうのです。
しかし人々の多様な活動を機械部品のように要素に分割し、その組み合わせと考えるのは科学技術に頼る西欧近代主義的思想に他なりません。そうした方法から楽しい空間や居心地の良い空間が生まれるとは思われません。
楽しさや心地良さは人間の身体感覚に基づく性質であり、決して機能毎に分割された空間(部屋)から得られるのではありません。

伊東豊雄〈座・高円寺〉

〈座・高円寺〉2009年開館

人は屋外、即ち自然の中では機能によって自らの活動を制限されることはありません。自然の中にはさまざまな変化に富んだ場所があります。明るい場所、暗い場所、乾いた場所、じめじめした場所、広い場所、狭い場所等々・・・。自然の中で人々は、自分の活動の場所を自由に選ぶことが出来ます。例えば読書をしたい時、人は木陰のベンチで読書することも出来れば、芝生に寝転がって読書することも出来ます。我々は自然の中で読書するような図書館をつくりたいと考えてきました。即ち、建築の内にいても特定の部屋に居ることを強要されるのではなく、自然の中にいるようにさまざまな場所を自由に選ぶことが出来る建築、母子も高齢者も一緒にいることが出来る、子供も好き勝手に走り回ることが出来る、そんな公共建築をつくりたいと考えてきました。

〈みんなの森 ぎふメディアコスモス〉

〈みんなの森 ぎふメディアコスモス〉 2015年開館 撮影:中村 絵

私達がこれまで携わってきた公共建築の多くは日々沢山の人々で賑わっています。その賑いは自由に振る舞える場所をつくろうとしてきたからだと信じています。機能にとらわれた部屋に分けてしまうことを極力避けようとしてきたからだと思います。
私達のつくってきた公共建築の多くで壁が少ないのは、部屋に分節されない流動的な空間の中に、変化に富んだ場所をつくろうと考えたからです。
その結果、そのような賑わいの空間では、幼児、主婦、ビジネスマン、学生、高齢者など多くの人々が自由にそれぞれの居場所を定めることが容易になりました。混在している様子は、ゆるやかで、大きな家族の姿を想わせます。
私達が東日本大震災や熊本地震後の被災地でつくった「みんなの家」は、仮設住宅団地を中心に近隣の人々が集まって話し合いや食事をしたり、各種イベントなどの場として活用されています。「みんなの家」は、従来の公共施設のように自治体が内容を予め設定するのではなく、利用者と話し合い、利用者の要望をベースにつくられてきました。これからの公共建築は「みんなの家」のように利用者主体に考えられなくてはならないと思います。

伊東豊雄氏近影 撮影:藤塚光政

撮影:藤塚光政

今回の展覧会では、私達がこれまでに設計した4つの公共建築を取り上げ、それらがいかに利用されているかを追求してみました。
とりわけ館長や芸術監督にインタビューを試み、どのような施設を意図しようとしているかを語ってもらいました。また利用者やスタッフの人達にもインタビューやアンケートを通じて、実態に迫ろうとしました。新しい水戸市民会館は7月2 日にオープンしますが、あらゆる年齢の市民の方々が毎日でも集まって利用してくださるような施設になることを心から願っています。(伊東豊雄)

水戸市民会館開館記念事業 開催概要

展覧会「公共建築はみんなの家である」  住民たちがみた公共建築

会期:2023年7月2日(日)〜10月9日(月・祝)
開館時間:8:30-22:00  ※7月2日(日)のみ9:00開場
休場日:会期中無休
会場:水戸市民会館 1階やぐら広場
所在地:茨城県水戸市泉町1丁目7番1号(Google Map
入場料:無料
※館内では新型コロナウイルス感染拡大防止対策を実施


伊東豊雄講演会「公共建築はみんなの家である」

開催日時:2023年7月22日(土)14:00-16:00(開場13:30)
会場:水戸市民会館「ユードムホール」(中ホール)
所在地:茨城県水戸市泉町1丁目7番1号(Google Map
入場料:無料(以下の方法にて座席指定要、先着順に受付)
定員:400名(定員に達し次第、終了 / 残席僅少)
※講演会チケット予約は1人2枚まで(未就学児もチケット要)
チケット予約方法
1.窓口:水戸芸術館エントランスホール内チケットカウンター(営業時間内、月曜休館)
2.電話:チケット予約センター TEL: 029-225-3555(営業時間内、月曜休館)
3.ウェブページ
https://www.arttowermito.or.jp/ticket/

水戸芸術館 公式ウェブサイト
https://www.arttowermito.or.jp/


水戸市民会館 公式ウェブサイト
https://www.mito-hall.jp/

*.水戸市民会館について
水戸市による新市民会館計画に基づき、2017年(平成27)12月に告知、実施された「水戸市新たな市民会館等施設建築物設計候補者選定に係る公募型プロポーザル」に技術提案書を提出した53社の中から、最優秀者として伊東豊雄建築設計事務所を選出。2022年11月13日に竣工、2023年7月2日に開館。
同館のネーミングライツ(施設命名権)により、大ホールを「グロービスホール」、中ホールを「ユードムホール」と呼称している(使用期間:2023年4月1日〜2033年3月31日)
https://www.city.mito.lg.jp/life/3/21/112/

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