建築家・原 広司(はら ひろし|1936-)の活動の軌跡を総覧する展覧会が、文化庁国立近現代建築資料館にて開催されます。
原 広司は、アトリエ・ファイ建築研究所と共同で設計活動を行い、個人住宅から美術館や教育施設、駅舎、高層建築、ドーム建築などの大規模建築に至るまで、さまざまな建築作品を世に送り出してきました。その中には、JR京都駅、大阪の新梅田シティ・スカイビル、札幌ドームなど、その都市を代表するようなランドマーク的な建築もあります。
設計活動と並行して、1969年から退官する1997年のあいだ、東京大学大学院生産技術研究所で教鞭を執り、優れた教育者でもありました。原研究室からは、隈 研吾(1954-)、小嶋一浩(1958-2016)、遠藤克彦(1970-)ら数多くの建築家、建築史家を輩出しています。代々の教え子たちとともに、世界各地の集落研究に取り組んだことも広く知られています。
また原は、哲学、芸術、とりわけ数学に造詣が深い建築家でもあります。圧倒的な知識に裏付けされた多様な視点からの建築へのアプローチと思索は、日本の建築界を常に牽引し、その発展に大きく寄与してきました。
代表的な例が、1967年に原が著した書籍『建築に何が可能か』(初版 学芸書林)です。同書で示された「有孔体」と「浮遊」の思索に始まる原の考え方は、その後、反射性住居、多層構造、機能から様相へ、集落の教え、離散的空間など多彩な建築概念へと発展し、現代建築界に多大な影響を与えました。
加えて、建築界だけでなく、その外側の文化領域に属する作家への影響も見逃せません。例えば、原氏の同年代の友人でもある文学者の大江健三郎(1935-)の故郷・愛媛県に、原が設計して建てた内子町立大瀬中学校は、大江の小説『燃えあがる緑の木』(1993年に『新潮』に発表)の中に、かたちを変えて登場しています。
本展では、近年、原広司+アトリエ・ファイ建築研究所から、文化庁国立近現代建築資料館に対して寄贈が進められている建築資料群の中から、「有孔体」と「浮遊」というテーマの展開を示す図面とスケッチが、年代を追いながら展示されます。
原広司作品の根源であるこの2つの発想が、住宅から大規模建築、都市に至るまで、いかに具現化し、発展したかという点に着目した構成です。
展示構成
1.有孔体と浮遊の思想の誕生 1960年代
伊藤邸(1967)、慶松幼稚園(1967)
2.反射性住居と世界の集落調査 1970年代
原邸(1974)、ニラム邸(1978)、工藤山荘(1976)
3.公共建築と様相論 1980年代
田崎美術館(1986)、飯田市美術博物館(1988)、ヤマトインターナショナル(1986)、那覇市立城西小学校(1987)、内子町立大瀬中学校(1992)
4.巨大建築での有孔体と浮遊の実現 1990年代
新梅田シティ・スカイビル(1993)、JR京都駅ビル(1997)、宮城県図書館(1998)、札幌ドーム(2001)
Ⅹ コンペティションとイマジナリー
500M×500M×500M(1992)、ピエモンテ州新庁舎設計競技(2000)、実験住宅モンテビデオ(2003)
「思想:オブジェ、イメージ図、著作物」、「構想:スケッチ」、「実想:設計図面」という3つの「想」による展示を通して、原広司の思想と実体的建築の関係を解読するための場、独創的な建築デザインの背後にある思考や知的側面を紐解くことが試みられます。
会期:2022年(令和4)12月13日(火)~2023年(令和5)3月5日(日)
休館日:月曜(但し、1月9日は開館し、翌日1月10日休館)、12月26日(月)~1月4日(水)
開館時間:10:00-16:30
会場:文化庁国立近現代建築資料館
所在地:東京都文京区湯島4丁目6-15 湯島地方合同庁舎内(Google Map)
入場料:無料 ※旧岩崎邸庭園から入館する場合は庭園観覧料400円が必要
無料入場の際の注意事項:春日通り沿い、湯島天満宮向かいの湯島地方合同庁舎(および文化庁国立近現代建築資料館)通用門より敷地内に入る(守衛所にて入館バッチの貸し出しを受け、退去時に同所にて要返却)
文化庁国立近現代建築資料館展示担当スタッフによるガイドツアー
日時:2022年12月16日(金)、20日(火)、23日(金) 14:00開始(約50分程度)
集合場所:同館 2階ロビー(展示室前に14:00集合)
料金:不要、予約不要
定員:約15名(先着順に受付予定)
主催:文化庁
協力:アトリエ・ファイ建築研究所、公益財団法人東京都公園協会
文化庁国立近現代建築資料館 ウェブサイト
https://nama.bunka.go.jp/