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国立新美術館「大巻伸嗣 Interface of Being 真空のゆらぎ」

[Report]高さ8mの大空間で最新作を披露、圧巻のインスタレーションを見逃すな!

東京・六本木の国立新美術館にて、「大巻伸嗣 Interface of Being 真空のゆらぎ」が11月1日から開催されています。
『TECTURE MAG』では、10月31日に開催されたプレス内覧会を取材しました。

大巻氏は、大規模なインスタレーションによって国際的にも高く評価されている現代美術家のひとり。空間と時間を抽出して体感させるような壮大なインスタレーションをはじめ、多くの人々と協働して場を変容させるアート・プロジェクトのほか、近年では舞台芸術も手がけています。

大巻伸嗣氏 プロフィール
1971年岐阜県生まれ。現在、神奈川県を拠点に制作。「存在」とは何かをテーマに、環境や他者といった外界、記憶や意識などの内界、そしてその境界にある身体の問題を探求している。

大巻伸嗣

撮影:ポール・バーべラ / Pic by paul barbera / where they create

近年の主な個展に、「The Depth of Light」(2023年、A4 美術館、成都)、「地平線のゆくえ」(2023年、弘前れんが倉庫美術館)、「存在のざわめき」(2020年、関渡美術館、台北)、「存在の証明」(2012年、箱根彫刻の森美術館)などがある。「あいちトリエンナーレ」(2016年、愛知)ほか国内外の数多くの国際展にも参加、近年では「Rain」(2023年、愛知県芸術劇場 / 新国立劇場)などの舞台芸術にも活動の場を拡げている。

 

本展では、国立新美術館の柱のない2000m²もの大空間にて大巻氏の代表的な作品シリーズの最新作などが展開されています。
天井高8m、奥行きもある最初の展示室に登場するのは〈Gravity and Grace〉シリーズの最新作。圧倒的なスケールで来場者を迎えます。

〈Gravity and Grace〉「大巻伸嗣 Interface of Being 真空のゆらぎ」

〈Gravity and Grace〉「大巻伸嗣 Interface of Being 真空のゆらぎ」 国立新美術館、2023年 展示風景 Photo: TEAM TECTURE MAG

〈Gravity and Grace〉「大巻伸嗣 Interface of Being 真空のゆらぎ」

〈Gravity and Grace〉「大巻伸嗣 Interface of Being 真空のゆらぎ」 国立新美術館、2023年 展示風景 Photo: TEAM TECTURE MAG

〈Gravity and Grace〉は、今年5月に新宿・歌舞伎町に開業した〈BELLUSTAR TOKYO, A Pan Pacific Hotel(ベルスター トウキョウ ア パンパシフィックホテル)〉の45階 レストランにも展示されている大巻氏の作品シリーズです。本展では、国立新美術館の展示空間にあわせ、規模を拡大したインスタレーションとなっています。

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〈Gravity and Grace〉「大巻伸嗣 Interface of Being 真空のゆらぎ」

〈Gravity and Grace〉「大巻伸嗣 Interface of Being 真空のゆらぎ」 国立新美術館、2023年 展示風景 Photo: TEAM TECTURE MAG

〈Gravity and Grace〉「大巻伸嗣 Interface of Being 真空のゆらぎ」

〈Gravity and Grace〉の内部には多面立法体のライトがゆっくりと昇降と明滅を繰り返し、会場内に流れる音とともに壮大なインスタレーションとなっている Photo: TEAM TECTURE MAG

〈Gravity and Grace〉「大巻伸嗣 Interface of Being 真空のゆらぎ」

〈Gravity and Grace〉「大巻伸嗣 Interface of Being 真空のゆらぎ」 国立新美術館、2023年 展示風景 Photo: TEAM TECTURE MAG

本作品は、詩人の関口涼子氏とのコラボレーションでもあります。大巻氏が「ギリギリまで悩んで黒くした」という床面には、関口氏の詩の言葉の断片が配されています。

〈Gravity and Grace〉「大巻伸嗣 Interface of Being 真空のゆらぎ」

〈Gravity and Grace〉「大巻伸嗣 Interface of Being 真空のゆらぎ」 国立新美術館、2023年 展示風景 Photo: TEAM TECTURE MAG

「床を黒くしたことで、この作品にどうにかして取り込めないかと考えていた関口さんの詩が、調光するライトの光によって影の世界からすぅっと浮き上がってきます。この現象に気づかない人もいるでしょう。同じように、私たちはふだん世界の些細な気配といったものにもなかなか気づきません。無関心のままではわからない。この作品では、展示室を歩いて、ふと立ち止まり、足元を見た時に、関口さんの詩の言葉の上に自分が乗っていたりする。他人の言葉や些細な気配に気づいてもらいたいなという思いで、関口さんの言葉を本作品と一緒に使わせてもらいました。2つの世界観が合わさり、この空間で完成した作品となっています。」(大巻伸嗣談)

〈Gravity and Grace〉「大巻伸嗣 Interface of Being 真空のゆらぎ」

〈Gravity and Grace〉「大巻伸嗣 Interface of Being 真空のゆらぎ」 国立新美術館、2023年 展示風景 Photo: TEAM TECTURE MAG

本展のタイトル「真空のゆらぎ」について、プレス内覧会の作品解説の場で大巻氏は次のように語りました。

「”真空のゆらぎ”というタイトルは、これまでの展覧会でも使っています。ところで、真空はなぜ、どうやって生まれるのでしょうか? 何かあったものがそこから抜き取られ、無になった空間の中からなにか新しいエネルギーが生まれてくる、そういうイメージを私はもっています。真空とは、何もない空間をかき混ぜ、振動によって新しいものが生まれてくる現象なのではないか。それは停滞でなく、その何かしら失ったものに対して、新しい息吹き、新しい運動が生まれてくる。この現象の根源が、真空のゆらぎであると私は捉えています。
コロナ禍による不安や不在の拡散によって停滞するのではなくて、私たち自身がエネルギー体として未来に向かっていくのだと、そのエネルギーは、うねりながら、空間を真空にしたり、その中に注ぎ込んでいったりする。そういった演出で新たな空間をつくりたいと考え、作品を制作し、”真空のゆらぎ”というタイトルを掲げています。」 (大巻伸嗣談)

〈Gravity and Grace〉「大巻伸嗣 Interface of Being 真空のゆらぎ」

〈Gravity and Grace〉「大巻伸嗣 Interface of Being 真空のゆらぎ」 国立新美術館、2023年 展示風景 Photo: TEAM TECTURE MAG

このほかにも〈Liminal Air〉シリーズの最新作となるインスタレーション〈Liminal Air Time―Space 真空のゆらぎ〉も披露され、本展最大の展示空間で鑑賞することができます。

〈Gravity and Grace〉「大巻伸嗣 Interface of Being 真空のゆらぎ」展示風景

〈Liminal Air Time—Space 真空のゆらぎ〉 「大巻伸嗣 Interface of Being 真空のゆらぎ」 国立新美術館、2023年 展示風景(撮影:木奥惠三)

〈Gravity and Grace〉「大巻伸嗣 Interface of Being 真空のゆらぎ」展示風景

〈Liminal Air Time—Space 真空のゆらぎ〉 「大巻伸嗣 Interface of Being 真空のゆらぎ」 国立新美術館、2023年 展示風景(撮影:木奥惠三)

〈Gravity and Grace〉「大巻伸嗣 Interface of Being 真空のゆらぎ」展示風景

〈Liminal Air Time—Space 真空のゆらぎ〉 「大巻伸嗣 Interface of Being 真空のゆらぎ」 国立新美術館、2023年 展示風景(撮影:木奥惠三)

また本展では、大巻氏が「内臓を見られるような感じがして、実はあまり見せたくない」とプレス内覧会で語っていた、作品のドローイングも多数展示されており、本展のための展示模型も見ることができます。

「大巻伸嗣 Interface of Being 真空のゆらぎ」展示風景

展示風景、〈Gravity and Grace〉のためのドローイング Photo: TEAM TECTURE MAG

「大巻伸嗣 Interface of Being 真空のゆらぎ」展示風景

展示風景、〈Gravity and Grace〉のためのドローイング、スケッチ、展示模型 Photo: TEAM TECTURE MAG

「大巻伸嗣 Interface of Being 真空のゆらぎ」展示風景

舞台「Rain」のためのドローイング 2021-2023年 鉛筆、水彩、紙 Photo: TEAM TECTURE MAG

「大巻伸嗣 Interface of Being 真空のゆらぎ」 展示風景

左の12点の作品:〈影向の家〉のためのドローイング 2015年 ボールペン、修正液、ペン、オイルチョーク、写真
右:〈影向の家〉のためのドローイング 2015年 鉛筆、紙
Photo: TEAM TECTURE MAG

大巻の空間に包み込まれた私たちは、この世界における我が身の存在に、新たな視点を投げかけることになります。空間に痕跡を残すことで自らの身体を実感し、また、闇に包まれたり、強烈な光に照らされたりすることで、身体だけでなく、意識や感覚に、内省的に向き合うことを促されるのです。

大巻は、現代社会がどのような歴史を経て今に至り、現在どのような問題を抱えているかを深く考察し、それをもとにインスタレーションの着想を得てきました。また、光と闇を重要な要素とする大巻の空間は、太陽のリズムとともに在るこの世界を象徴するかのような始原的な感覚を湛えています。この始原性とも関わるのが、大巻が好んで用いてきた繊細かつ濃厚な装飾的な造形です。人間は、自然を抽象化した文様を身近なものとすることで、自然に寄り添って生きてきたからです。大巻のインスタレーションは、現代社会に対する優れた批評である一方、人間に普遍的にそなわる根源的な造形志向を色濃く反映しているのです。(本展 序文より)

〈Gravity and Grace〉「大巻伸嗣 Interface of Being 真空のゆらぎ」

〈Gravity and Grace〉「大巻伸嗣 Interface of Being 真空のゆらぎ」 国立新美術館、2023年 展示風景 Photo: TEAM TECTURE MAG

大巻伸嗣 Interface of Being 真空のゆらぎ

会期:2023年11月1日(水)〜12月25日(月)
会場:国立新美術館 企画展示室2E
所在地:東京都港区六本木7丁目22-2(Google Map
開場時間:10:00-18:00(入場は閉館の30分前まで)
※金・土曜は20:00まで
休館日:火曜
観覧料:無料
主催:国立新美術館、独立行政法人日本芸術文化振興会、文化庁

展覧会詳細ページ(会期中も追加イベントの発表あり)
https://www.nact.jp/exhibition_special/2023/ohmaki

国立新美術館 公式ウェブサイト
https://www.nact.jp

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