東京・六本木の21_21 DESIGN SIGHTにて、さまざまなプロジェクトの成果物を通して、日本のグラフィックデザインとタイポグラフィの歴史を紐解く企画展「もじ イメージ Graphic 展」が開催されています。
本展は、同館ディレクターで館長を務める佐藤卓氏が念願であったという「グラフィックデザインをテーマにした展覧会」です。
グラフィックやタイポグラフィに関する数々の著書がある編集者の室賀清徳氏を展覧会ディレクターとしてまず最初に迎え、さらに室賀氏の声がけで、関西の2つの大学でグラフィックデザインの教鞭をとる後藤哲也氏と、グラフィックデザイナーでアートディレクターの加藤賢策氏が加わり、この3氏が共同で本展のディレクターを務めています。
本展では、世の中のグローバル化や、DTP(Desktop Publishing)が一般化している昨今の状況を踏まえ、インターネット環境が社会のインフラとして浸透していった1990年代以降のグラフィックデザインに着目、さらに日本語の文字とデザインの歴史を前提として紐解いていくことを試みています。
11月22日に会場にて行われたプレスカンファレンスで挨拶した本展ディレクターのひとり、室賀清徳氏は、デザイン誌『アイデア』(誠文堂新光社)の前編集長を務めるなど、長年にわたって国内外のグラフィックデザインの潮流をその目で見てきました。本展の狙いについて次のように語っています(以下、挨拶とディレクターズメッセージからも引用して要約)。
「世界の誰もが同じアプリケーションを使いこなすなど、この10年から20年の間にグラフィックデザインの領域でもグローバリゼーションは進んでいます。そこにはユニバーサルデザインとしての利便性の良さなどがある一方で、グラフィックデザインからは地域性が急激に失われています。ひと昔前は、そのデザイン1つを見れば、これはアメリカ、これは日本だろうといった推測がある程度は成り立ちましたが、今のデザインは均質化している。そういったトレンドあるいは世界の潮流といったものには乗らない、日本のグラフィックデザインならではのおもしろさがあると、私はずっと思っていました。本展では、それを言語化して提示する機会をいただいた。
日本語の表現には、漢字、ひらがな、カタカナがあり、近代ではローマ字も併用し、さらには漢字に本来の読みとは異なるルビをふって意味に広がりをもたせたるなど、独自の表現方法があり、発達させてきました。文字も本来は縦に書きますが、今では横書きが日常化しています。フォントを使ってコミュニケーションをするだけでなく、絵文字や記号文字などもある。いわゆる「日本の伝統的な美意識」を切り口としただけでは読み解けない、この日本独自の広がりを持つ文字表現のおもしろさを前提に、改めてグラフィックデザインというものを捉えてみたとき、どのような風景が今、見えてくるのでしょうか。そのことをテーマに、後藤哲也さん、加藤賢策さん、本展に参画した皆さんと一緒にブレインストーミングを重ね、出来上がったのが、今回の展覧会になります。」
展示の中心となっているのは、国内外54組のグラフィックデザイナーやアーティストによるプロジェクトの数々。前述のとおり、独特の表現方法をもち、文字とイメージの混ざり合いのなかで発展してきた日本のグラフィック文化が、グローバルなデジタル情報技術とどのように向き合い、何を生み出してきたのか? そして今、どのような可能性をみせているかを、グラフィックデザインを専門とする3氏のディレクションのもと、「造形性」「身体性」「メディア」「マテリアル」といった13のテーマに分けて展示しています(会場構成:中原崇志)。
参加デザイナー:明津設計、秋山 伸、アドビ、有馬トモユキ、石塚 俊、上西祐理、Experimental Jetset、M/M (paris)、大島依提亜、大原大次郎、岡﨑真理子、葛飾出身、上堀内浩平、川谷康久、菊地敦己、北川一成、小池アイ子、 佐々木 俊、佐藤可士和、佐藤 卓、John Warwicker (Tomato)、白井敬尚、鈴木哲生、Sulki & Min、祖父江 慎+ コズフィッシュ、大日本タイポ組合、立花ハジメ、立花文穂、The Designers Republic、投票ポスタープロジェクト、戸田ツトム、中島英樹、仲條正義、永原康史、名久井直子、野田 凪、Noritake、服部一成、原 研哉、羽良多平𠮷、BALCOLONY.、平林奈緒美、廣田 碧、松田行正、松本弦人、三重野 龍、水戸部 功、みふねたかし、宮越里子、山田和寛、𠮷田勝信、米山菜津子、寄藤文平、王 志弘
※「日本語の文字とデザインをめぐる断章」のコーナーにて、ポスターなどをはじめとする以下の作家の作品を展示
浅葉克己、五十嵐威暢、井上嗣也、葛西 薫、亀倉雄策、杉浦康平、鈴木八朗、田中一光、原 弘、ヘルムート・シュミット、細谷 巖、山城隆一、横尾忠則
本展の会場構成を担当した中原崇志氏(TAKASHI NAKAHARA)に、会場で話を聞きました。
「出展者数と展示カテゴリーを選定する初期段階から、本展には参画しています。最終的に54組となったデザイナーの出品がどれほどの数になり、それらをどう収めて展示するかが課題となりました。54組が決まってからは、インターネットなどでどのような作品を手がけているかを調べておおよその予想を立てていたものの、やはり実際に作品が出てくると、紙に印刷されたポスターだけでなく、いろいろな形状のデザインの成果物がありました。それらを単純に台の上に並べてしまうと、物量として会場には収まらない。立体的に展示するため、おそらくこれまでで最も”壁を立て込んだ会場になったと思います。壁を立てたことで閉塞感が出ないように、ところどころに見通しの”抜け”を確保して、単調な空間にならないように意識しました。ディレクター陣とも相談しながら、誰の作品をどこに置くかを決め、展示する作品に入っている色も考慮して、視覚的な連続性をもたせた会場としてデザインしました。」(中原崇志氏談)
会期:2023年11月23日(木・祝)〜2024年3月10日(日)
開館時間:10:00-19:00(入場は18:30まで)
休館日:火曜(12月26日を除く)、年末年始(12月27日〜1月3日)
入場料:一般1,400円、大学生800円、高校生500円、中学生以下無料
会場:21_21 DESIGN SIGHTギャラリー1&2
所在地:東京都港区赤坂9丁目7-6 東京ミッドタウン ミッドタウン・ガーデン(Google Map)
展覧会ディレクター:室賀清徳、後藤哲也、加藤賢策
グラフィックデザイン:LABORATORIES
会場構成:中原崇志、香坂朱音
会場構成協力:吉田あさぎ
企画協力:西山 萌、長田年伸
21_21 DESIGN SIGHT ディレクター:佐藤 卓、深澤直人
アソシエイトディレクター:川上典李子
プログラム・マネージャー:中洞貴子
主催:21_21 DESIGN SIGHT、公益財団法人 三宅一生デザイン文化財団
後援:文化庁、経済産業省、港区教育委員会、公益社団法人日本グラフィックデザイン協会、東京タイプディレクターズクラブ、特定非営利活動法人日本タイポグラフィ協会
特別協賛:三井不動産
協賛:TSDO
協力:公益財団法人DNP文化振興財団
21_21 DESIGN SIGHT企画展「もじ イメージ Graphic 展」詳細
https://www.2121designsight.jp/program/graphic/
「本展のポスターに、小さい文字で”辺境のグラフィックデザイン”というキャッチコピーが入っています。私はこの言葉にとても感銘を受けていました。今の社会は世界中どこでもフラットに情報が回り、デザインも均質化しがちです。でも、本展のテーマとして訴求している、さまざまな文字を併用し、ある意味で入り乱れた、イメージビジュアルがこれほど豊かな国は世界でも珍しいのではないか。本展では、ディレクターの3氏がそのことを改めて客観的に提示してくれました。辺境というと、かつてはネガティブに使われたこともあったかもしれないが、今の時代は逆に、辺境はとても貴重な存在になっているのではないか。そのことを象徴したキャッチコピーだと思います。(プレスカンファレンスにて、佐藤 卓氏談)
開催日時:2023年12月16日(土)14:00-15:30(13:30開場)
会場:21_21 DESIGN SIGHTギャラリー3
登壇者:室賀清徳、後藤哲也、加藤賢策
特別協賛:三井不動産
定員:50名
参加費:500円
参加方法:要予約(定員に達し次第終了)
トークイベント詳細
https://www.2121designsight.jp/program/graphic/events/231216.html