東京都豊島区にある学習院大学 目白キャンパス内に現存する、建築家の前川國男(1905-1986)が大学図書館として設計した建物が改修され、霞会館記念学習院ミュージアム[*1]として3月14日にリニューアルオープンしました。
『TECTUER MAG』では、3月12日に実施されたプレス内覧会を取材。大学キャンパス内にあるためこれまであまり知られていなかった前川國男建築と、開幕したリニューアルオープン記念展の概要をレポートします(注.本稿では、1877年に神田錦町に開校し、麹町、四谷に移転した旧制学習院高等科と、1945年に官制が廃止され、今日に至る学習院大学までを総称として「学習院」と名称を略す)。
霞会館記念学習院ミュージアム 外観(前川國男設計 / 旧大学図書館)
エントランス付近 注.本稿に掲載した青天時の外観写真3点はすべて霞会館記念学習院ミュージアム提供
ミュージアムの前身である学習院大学旧図書館は、1963年(昭和38)の竣工。目白キャンパス内にはそのほかにも7つの施設が前川の設計で建てられました(詳細は後述)。ただし、そのうち2棟はすでに解体されています。かつ、現存する建物の多くは白く塗装されているため、霞会館記念学習院ミュージアムとして再生されたこの建物の姿は、竣工当時の姿に近づけた貴重な復原となります。
前川國男は新潟の生まれ。東京・本郷で育ち、旧東京帝国大学(現在の東京大学)の出身です。その前川がなぜ母校ではない学習院の施設設計に関わったのか?
プレス内覧会での説明(ほか、霞会館記念学習院ミュージアムに常設された「前川國男コーナー」の映像資料など[*2])によれば、学習院出身で長らく教授も務めた美術史家・美術評論家の富永惣一(1902-1980)の声がけによるものと推測されています。富永は東京・上野の国立西洋美術館(1959年開館)の初代館長を務めた人物で、フランスでの師匠であるル・コルビュジエ(1887-1965)の設計コンセプトに基づき実施設計を担当した前川とは交流がありました。
複数の校舎を建設した背景には、皇族・華族の子弟のための学び舎という明治の設立当初から社会体制などが大きく変わり、誰でも進学できるようになったため、学生数が急増したことがあります。このため前川は、校舎単体のみならず、目白キャンパスの計画地全体を俯瞰する基本計画から参画。当時の建築専門誌(『新建築』)でも紹介された大型プロジェクトでした。
学習院大学 目白キャンパスにおける7つの前川建築
1960年(昭和35)竣工
・ピラミッド型大教室(中央教室):2001年解体
・政経文学部棟(北1号館):現存
・理学部棟(南2号館):現存
・本部棟:1991年解体1963年(昭和38)竣工
・大学図書館(霞会館記念学習院ミュージアム):現存1983年(昭和58)竣工
・南5号館(大学計算機センター):現存1985年(昭和60)竣工
・男子高等科部室:現存※カッコ内はのちの名称
旧大学図書館に関する掲示 Photo: TEAM TECTURE MAG
1963年(昭和38)竣工当時の旧大学図書館 外観 / 前川國男設計(学習院アーカイブズ蔵)
上のモノクロ写真は、竣工当時のものです。鉄筋コンクリート造、地上3階+地下1階の規模で建設され、その後は約60年のあいだに、建物全体が白いペンキで塗装されていました。今回のリニューアルでは、この塗装をすべて剥がしてクリーニングを施し、型枠に焼杉が用いられたコンクリートの外装が再生されています。加えて、エントランスなど庇の裏には、竣工当時はなかった杉板を張って仕上げています。
エントランスを入って左側、常設展示室の手前には「前川國男コーナー」が新設されており、目白キャンパス計画に関する貴重な資料が展示されています。なかでも大学を象徴する建築だったピラミッド校舎(通称)の建設の様子がわかる貴重なタイムラプス映像は必見です(撮影不可)。
霞会館記念学習院ミュージアム「前川國男コーナー」 Photo: TEAM TECTURE MAG
「前川國男コーナー」の前に置かれた、旧大学図書館時代に使用されていた椅子とテーブル Photo: TEAM TECTURE MAG
このほどオープンした霞会館記念学習院ミュージアムは、主に、皇族・華族の学び舎であった学習院ゆかりの史・資料、美術作品など約25万点を収蔵・研究・展示するための施設です。
1975年(昭和50)2月、当時の名称は学習院大学史料館、学習院大学の附属研究施設として開館。1985年(昭和60)に博物館相当施設となり、1997年(平成9)に学芸員課程事務室が併設されました。
これまで、前川建築に移る前も、目白キャンパス内にて企画展を多数開催していましたが、展示スペースは88m²しかなく、かつ常設展示コーナーもなかっため、企画展ごとに限られたスペースを設営して運営してきました。学習院大学史料館(現称:霞会館記念学習院ミュージアム)では、大学および学校法人に対して長年にわたり、美術館・博物館機能の拡充を申請してきましたが、近年になってやっと、地上14階建ての大学図書館新棟の建設計画が立ち上がったタイミングと、来場者が1万人を超える企画展の開催実績などを背景に、収蔵庫と常設展示室などを有するミュージアムの誕生に至りました。
霞会館記念学習院ミュージアム 1F イメージパース(提供:霞会館記念学習院ミュージアム)
霞会館記念学習院ミュージアム 企画展示室イメージパース(提供:霞会館記念学習院ミュージアム)
霞会館記念学習院ミュージアム 企画展示室イメージパース(提供:霞会館記念学習院ミュージアム)
リニューアルオープンを記念する特別展「学習院コレクション 華族文化 美の玉手箱 ―芸術と伝統文化の パトロネージュ」は、学習院ならではの多彩で貴重なコレクション・史料の中から約100件を厳選して展示するものです(以下はその一部)。
ローブ・モンタント(上皇后陛下所用) 絹 平成時代に上皇后陛下より学習院へ下賜 / 展示期間:2025年3月14日〜3月22日
菊花紋菊枝蒔絵手箱 木製漆塗 1905〜06年(明治38〜39)明治天皇より伯爵寺内正毅へ下賜 展示期間:2025年4月15日〜5月17日
菊御紋銀瓶 玉屋商店製 銀製 1920年(大正9)皇太子(昭和天皇)より侯爵山階芳麿へ下賜
和船形ボンボニエール 銀製 製作年不詳
八稜鏡形鳳凰文ボンボニエール(大正大礼 東京宮中饗宴) 銀製 1915(大正4)12月8日下賜
企画展示室は、芸術と伝統文化のパトロネージュをテーマに6つのコーナーに分類され、絵画、工芸品、古文書、文学資料などを見ることができます。会期中、研究者による講座や特別講座、担当学芸員によるギャラリートークも開催されます。さらに、本展終了後は展示を入れ替え、リニューアル記念展の第二弾も予定されています。
常設展示室(学習院沿革年表の一部) Photo: TEAM TECTURE MAG
会期:2025年3月14日(金)5月17日(土)
会場:霞会館記念学習院ミュージアム
所在地:東京都豊島区目白1-5-1 学習院大学目白キャンパス内(Google Map)
開館時間:10:00-17:00(最終入館時間 16:30)
休館日:日曜・祝日(ただし、3月20日[祝・木]・4月13日[日]・4月27日[日] は開館)、4月14日(月)
観覧料:無料
問合せ先電話番号:03-5992-1173
注.目白キャンパス立ち入りの際は、正門および西門の守衛室への声がけが必要
霞会館記念学習院ミュージアム(旧称:学習院大学史料館)ウェブサイト
https://www.gakushuin.ac.jp/univ/ua/
*1.新たに施設名称に冠された「霞会館」とは、旧華族の親睦団体名で、華族会館が前身。学習院大学史料館から移設・建物のリニューアルに際し、霞会館より支援を受けた
*2.本稿作成にあたり参照した史料:
発行物:学習院大学史料館「ミュージアムレター」No.47 前川國男特集号(2022年)
映像史料:霞会館記念学習院ミュージアム「前川國男コーナー」資料映像「前川國男設計・学習院大学 目白キャンパス計画(1959〜1963)」