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【イベントReport】佐藤可士和展連動企画
UR都市再生機構「団地の未来プロジェクト」トークセッション
FEATURE2021.04.06

【イベントReport】佐藤可士和展連動企画
UR都市機構「団地の未来プロジェクト」トークセッション

2021年4月6日初掲
4月24日「佐藤可士和展」公式動画シェア

東京・六本木の国立新美術館にて開催されている「佐藤可士和展」の関連イベントとして、佐藤氏と建築家の隈研吾氏らが登壇したトークセッションが開催されました。

このトークセッションは、独立行政法人都市再生機構(UR都市機構)が管理している、神奈川県横浜市の〈洋光台団地〉における再生プロジェクト「団地の未来プロジェクト」の成果を報告するもので、COVID-19(新型コロナウイルス感染症)拡大防止の観点などから、プロジェクトの関係者とプレスだけが聴講する、セミクローズドで実施されました。

佐藤可士和×隈研吾 団地の未来プロジェクトトークセッション

photo: toha

「団地の未来」トークセッション
開催日時:2021年3月2日(火)13:50-15:00
会場:国立新美術館 講堂
登壇者(主催者発表順、敬称略):佐藤可士和(アートディレクター)、隈研吾(建築家、隈研吾建築都市設計事務所主宰)、大月敏雄(東京大学大学院工学系研究科建築学専攻教授)、幅 允孝(ブックディレクター、BACH代表)、中島正弘(UR都市機構 理事長)
コーディネーター:清野由美(ジャーナリスト、都市文化研究者)
内容:プロジェクトムービー上映 / 各氏プレゼンテーション / トークセッション
主催:独立行政法人都市再生機構(UR都市機構)

佐藤可士和×隈研吾 団地の未来プロジェクトトークセッション

トークセッション登壇者(敬称略、左から):大月敏雄、隈 研吾、中島正弘、佐藤可士和、清野由美、幅 允孝(photo: toha)

プロジェクトを主催するUR都市機構では、継続的に団地の価値を上げていくことで、より良い社会づくりに貢献することを目指しています。

これまでの取り組みは、「佐藤可士和展」会場の終盤、スペースブランディングのプロジェクトを紹介する中で、壁一面の展示にまとめられています。

「佐藤可士和展」国立新美術館 2021

「団地の未来プロジェクト」展示(photo: toha)

【TECTURE MAG】では、この「団地の未来」トークセッションの模様を取材。さらに終了後、UR都市機構の協力を得て、中島理事長と佐藤氏へのインタビューを行いました。インタビューの内容は、動画とあわせた特集記事として後日に公開する予定です。展覧会レポートも別ページにてまとめます。

本稿では、トークセッションで佐藤氏、隈氏らが語った内容をベースに、UR都市機構が取り組んでいる「団地の未来プロジェクト」についてレポートします。

トークセッションおよび「佐藤可士和展」会場の撮影:toha / 洋光台団地における再生プロジェクトの写真:UR都市機構提供

プロジェクトの背景と狙い

日本の高度経済成長期における社会全体の需要に応えるため、1955年に日本住宅公団が設立され、都市部および周辺部には、数多くの団地が建設されました。それらの団地やニュータウンでは、竣工から40-50年が経過した建物や設備の老朽化や住民の高齢化など、さまざまな問題を抱えています。

日本住宅公団を元とするUR都市機構が現在、管理する団地の数は全国で72万戸。同機構では、リノベーションが可能な団地に限り、現代のライフスタイルにふさわしい新しい住まい方を提案し、若い年齢層を住まい手として呼び込むことで、地域全体の活性化にもつなげるプロジェクトを展開しています。〈洋光台団地〉もその1つです。

佐藤可士和×隈研吾 団地の未来プロジェクトトークセッション資料

洋光台団地 周辺マップ(画像提供:UR都市機構)/ 青い丸は中央広場、赤い丸は北集会所をそれぞれ示す

1970年(昭和45)に建設された〈洋光台団地〉は、洋光台中央、洋光台北、洋光台西の3つから成り、エリア一帯には約1万2,000世帯が暮らしています(2021年2月時点)

再生プロジェクトは、2011年に「ルネッサンスin洋光台」としてスタート。このとき、外部から参加し、アドバイザーの座長を務めていたのが、建築家の隈 研吾氏でした。今回のトークセッションに出席した大月敏雄氏も当時からのアドバイザーです。

佐藤可士和×隈研吾 団地の未来プロジェクトトークセッション

壇上 画面左:隈 研吾氏、右:大月敏雄氏(photo: toha)

「住棟の配置がまっすぐではなく、微妙にずれていたりするのがおもしろい。現在では考えられない広さで公園や植栽も計画され、この70年代特有の『ゆるさ』を追求した住空間はとても魅力的。UR都市機構さんとしてはダメ元だったらしいが、団地再生に協力してもらえないかと打診があったときには、まさにこういうのがやりたかったので、ふたつ返事で引き受けた。」(隈 研吾氏談)

その後、プロジェクトに新しい風を吹き込もうと、隈氏が佐藤氏に声をかけ、佐藤氏がプロジェクトディレクターとして参画することに。隈氏はディレクターアーキテクトに就任し、2015年に「団地の未来プロジェクト」としてリスタートしました。

未来を象徴した当時の「団地」は人々の憧れ

とはいえ、課題は山積していたとのこと。佐藤氏と隈氏は現地・洋光台団地を歩き、そのことを実感します。例えば、面積はあるのにあまり使われていない寂しい印象があるなど。

竣工から半世紀を経て、今でこそ老朽化している団地ですが、当時は最先端の設備を備え、人々に未来のイメージを強く印象付けるものでした。当時の皇太子夫妻が視察に訪れ、ニュースで報じられたほど。団地に住むことはある種のステータスでした。
幼少期の佐藤氏も、団地に住んでいた同級生の家に遊びに行った際に、当時の自分の家とのギャップを感じて、団地住まいは「かっこいい」と羨ましく思っていたそうです。

佐藤可士和×隈研吾 団地の未来プロジェクトトークセッション

トークセッション壇上 画面左:幅 允孝氏、右:佐藤可士和氏(photo: toha)

「日本人と団地はコミュニティの形成のしやすさなどで相性が良かったのではないか。世界的にみても、これほど大量に団地を建てて、これほどの規模で人々が集まって住んでいる住宅は珍しい。この『集まって住むパワー』は強みだと、僕も佐藤氏も考えた。」(隈氏談)

UR都市機構主催「団地の未来」プロジェクト

トークセッションで発言する隈研吾氏(photo: toha)

「僕には、団地に対して昭和の幸福な時代のイメージがあり、その幸せな感じを今に取り戻せたらと思っている。デザインの力で、団地における『集まって住むパワー』を最大化していくことで、それが可能になるのではないか」(佐藤氏談)


#佐藤可士和展公式YouTube「団地の未来」トークセッション(2021/04/14)

隈氏が成功を確信した佐藤氏のロゴ

佐藤氏がまず行ったのは、プロジェクトのブランディング。数あるマイナス項目を埋めていくのではなく、プラスをもっと引き延ばすことをプロジェクトの中心に据えました。
そのシンボルマークとして、団地に人々が抱く四角いハコの角(かど)をとって丸みを与え、漢字の「団」の中に「+(プラス)」の記号を取り込んだロゴをデザイン。できあがったロゴを見たとき、隈氏はプロジェクトの成功を確信したそうです。

UR都市機構「団地の未来プロジェクト」

「団地の未来プロジェクト」ロゴマーク

佐藤氏がデザインしたこのロゴは、国立新美術館の「佐藤可士和展」会場でインスタレーション展示の1つとして披露されています。

「佐藤可士和展」国立新美術館 2021

国立新美術館「佐藤可士和展」会場より(photo: toha)

このロゴを御旗(みはた)に、プロジェクトは進行。今回のトークセッションの登壇者以外にも、建築家、コピーライター、そして地元住民ら、多くの人々が参画し、2018年に団地のシンボルとなる「中央広場」がリニューアルしました。

洋光台の「サン・マルコ広場」を目指して

UR都市機構「団地の未来プロジェクト」

洋光台団地 中央広場リニューアル(写真提供:UR都市機構)

隈氏が手がけた広場は、ヴェネツィアのサン・マルコ広場をイメージしたもの。団地から連想されるコンクリートのイメージからの脱却を目指し、縁側のような、柔らかな建築を目指しました。2階にはデッキを新設し、店舗のほか、団地の住民がさまざまなイベントを開催できる「CCラボ」もオープン。サードプレイス的な機能を有した、フレキシブルな空間となっています。

UR都市機構「団地の未来プロジェクト」

洋光台団地 中央広場リニューアル(写真提供:UR都市機構)

後述する北団地エリアのリニューアル計画を含め、今日に至る経緯は、プロジェクトの公式ウェブサイトやYouTubeチャンネル、「佐藤可士和展」開催にあわせて編集されたムービー(再生時間30分)にもまとめられ、公開されています。改修前の団地の写真も収録され、どのような変化を遂げたのかがよくわかります。


#佐藤可士和展公式チャンネル「佐藤可士和×団地の未来」(2021/01/29)

北団地エリアのリニューアル

北団地エリアでは、隣接する広場を含めた既存の集会所のリニューアルと、住棟ファサードの大規模リニューアルが行われ、2020年に完成。
既存の段差をうまく生かしたプランは、2015年から2016年にかけて実施された建築アイデアコンペで選ばれた、NAAW(長野憲太郎+王翠君)による原案を、隈氏と佐藤氏のディレクションしたものです。

芝生広場の整備と連動した「ライブラリー」

集会所に併設されたコミュニティカフェには、ブックディレクターの幅 允孝氏が監修した「団地のライブラリー」が新たに設けられました。
複数用意されたバスケットには、テーマごとに選書された3冊の本が入っていて、コミュニティカフェの外に持ち出すことができます。さらには、周囲の柵を取り払い、新たにベンチも整備された芝生で寝転べるよう、プロジェクトのロゴが大きくプリントされたレジャーシートも、本と一緒に入っています。

団地全体が大きなライブラリーに

このモノや空間をシェアするという考え方は、昨今の社会でもよく見られますが、ここ〈洋光台団地〉でも大事なコンセプトの1つに数えられています。

幅氏は「団地には、お年寄りから子どもまで、幅広い年齢層の人々が暮らしている。ライブラリーでの取り組みがうまくいけば、団地全体を大きなライブラリーとして捉えられるのではないか。」と、これからの展開に期待を寄せました[*]

*.COVID-19(新型コロナウイルス感染症)拡大防止の観点から、当初予定していた運用ルールなどが変更されています

リニューアルが完成した住棟のファサード(デザイン:SAMURAI)

佐藤可士和氏がデザインを手がけた住棟のファサードなど、北団地エリアにおけるリニューアルの概要は、本誌2020年11月17日掲載のニュース記事にて伝えていますので、詳細はそちらをぜひ(本稿ページ下の関連リンクを参照)

洋光台団地「北団地エリア」広場(写真提供:UR都市機構)

日本の住宅の未来を占うプロジェクト

洋光台団地のリニュアールは、その一部が完了し、北団地エリアにおいて現在進行中。佐藤氏は「手を入れられそうなところはまだまだある」と、トークセッション終了後のインタビューで語っていました。
UR都市機構によれば、既存の団地に人々が住み続けながらのリニューアルプロジェクトということもあり、手をつけられるところとできないところ、またエリアによっても実現の可否があるとのこと。やむなく解体された団地も少なくありません。

洋光台での再生プロジェクトは、同じような問題を抱える団地やニュータウン、それらを統括する立場にある自治体にとっても大きな試金石となるものです。日本の住宅の未来を占うものとして、今後の動向から目が離せないプロジェクトと言えます。

UR都市機構「団地の未来プロジェクト」公式ウェブサイト
https://danchinomirai.com/

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