FEATURE
The Art of Light, Cinema, Rises on the “Shadow” Carpet
“シャドウ“カーペットで、光の芸術を立ち上げる。
中山英之建築設計事務所がロビー内装をデザインした〈Bunkamuraル・シネマ 渋谷宮下〉が5年間限定でオープン!
FEATURE2023.06.27

中山英之建築設計事務所が映画館のロビー内装をデザイン

渋谷駅前に〈Bunkamuraル・シネマ 渋谷宮下〉が5年間限定でオープン!

Bunkamuraル・シネマが宮益坂下で営業再開!

東京・渋谷の東急百貨店本店跡地の再開発事業「Shibuya Upper West Project(渋谷アッパー・ウェスト・プロジェクト)」の着工に先立ち、2023年4月10日から休館に入った映画館〈Bunkamuraル・シネマ〉が、道玄坂上から渋谷駅の至近・宮益坂下に移転、〈Bunkamuraル・シネマ 渋谷宮下〉として6月16日にオープンしました。

Bunkamura ル・シネマ 渋谷宮下

館名ロゴ・グラフィックデザイン:畑ユリエ(hata design)
館名ロゴは「若草が生えているような瑞々しく新鮮な雰囲気」をまとったデザイン

1989年9月に開館して以来、人々の記憶に残る数々の名作を上映し、映画ファンに愛されてきた、都内有数のミニシアターは、テナントビルである複合文化施設〈Bunkamura(文化村)〉が、隣接する旧東急百貨店本店(2023年1月31日閉店)の解体工事に伴い、平日に発生する工事音の影響を避けられず、やむなく一時休館、今回の移転となったものです[*1]

この再開発プロジェクトが終了した後は、再び道玄坂に戻る予定で、宮益坂下では約5年間限定の営業となります。

*1.オーチャードホールは土・日曜・祝日限定で営業中
「Bunkamuraの長期休館および施設休館中の活動について」
https://www.bunkamura.co.jp/topics/6988.html

〈Bunkamuraル・シネマ 渋谷宮下〉劇場概要

所在地:東京都渋谷区渋谷1-24-12 渋谷東映プラザ 7F&9F(チケットカウンターは1Fビル入口)
スクリーン数:2(7F:268席+車いすスペース / 9F:187席+車いすスペース)
上映可能フォーマット:7F DCP(2K/4K)、35mm、ブルーレイ / 9F DCP(2K)、ブルーレイ
スクリーンサイズ:7F W9.94m×H4.7m(シネマスコープ)/ 9F W8.7m×H4.6m(シネマスコープ)
ロビー内装デザイン:中山英之建築設計事務所
開業日: 2023年6月16日(金)

公式ウェブサイト
https://www.bunkamura.co.jp/cinema_miyashita/
公式SNS
https://twitter.com/Bunkamuracinema
https://www.instagram.com/bunkamura_lecinema/

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ロビーの内装デザインを中山英之氏が担当

移転・オープンした〈Bunkamuraル・シネマ 渋谷宮下〉のロビーの内装を、映画好きを自称する建築家、中山英之氏が主宰する中山英之建築設計事務所が担当しています。

6月14日に開催されたプレス内覧会を『TECTURE MAG』では取材。現地での中山氏への取材も交えて、映画愛に溢れた空間デザインについてレポートします。

まずは、東急文化村が内覧会開催前に撮影した写真で館内の様子を見ていきましょう。映画館は7Fと9Fに分かれています。

※本稿でクレジット特記なしの画像は全てTEAM TECTURE MAG撮影

「映画を愛する建築家につくってほしい」というオファー

道玄坂上から移転してきた〈Bunkamuraル・シネマ 渋谷宮下〉の内装デザインを、どのような経緯で中山氏の事務所が担当することになったのでしょうか。

「クライアントは、僕たちが2019年にTOTOギャラリー・間でやらせてもらった展覧会[*2]を見てくださっていて、会場全体をミニシアターにした展示についてもご存知でした。今回のル・シネマの移転・改修は、映画のことが大好きな建築家にやってほしいということで、オファーがありました。」(中山英之氏談)

中山氏にとって、渋谷のBunkamuraル・シネマは「青春の思い出の場所」とのこと。プレス内覧会での挨拶とその後の取材で、喜びに満ちたコメントを残しています。

「Bunkamuraのカフェ〈ドゥ マゴ パリ〉でお茶をして、NADiff(ナディッフ ※当時は丸善)で本を買い、映画を見る。それが、僕が学生の頃のお気に入りのコースでした。ちょっと背伸びもしていて。そんな思い出が詰まった場所をつくる仕事に、設計者として携わることができたのは本当に嬉しい。この映画館がオープンしたことをいちばん喜んでいるのは、僕自身だと思います。」(中山氏談)


*2.TOTOギャラリー・間 企画展「中山英之展 , and then」(会期:2019年5月23日〜8月4日)
https://jp.toto.com/gallerma/ex190523/index.htm

7Fシアターの壇上で挨拶する中山英之氏

「僕たちは"影色"のカーペットを張っただけ、と言っても過言ではない」

〈Bunkamuraル・シネマ 渋谷宮下〉の前身は渋谷TOEI(旧称 7F渋谷東映+9F渋谷エルミタージュ、両館とも2022年12月閉館)で、シアターとしての設備は整っていました。いわゆる”居抜き”で、さらに5年後には再び道玄坂の地に戻ることが決まっています。このことが、自ずと今回の空間デザインに反映されました。

中山事務所が選んだ手法は、劇場(シアター)空間はそのままに、映画館においては”次の間”ともいえる、人々が上映を待つロビー空間だけをリノベーションすること。中山氏は「今回の改装では、エレベーター前からロビーまで、”影色(シャドウカラー)”のカーペットを張っただけ、と言っても過言ではない」と形容しました。

今の時代に即した「廃棄物をなるべく出さない」デザイン

「5年間限りの営業のために、内装を全て変え、設備も全てやり直すと、大量に廃棄物が出てしまう。そうではなく、この映画館が元からもっている少し懐かしい雰囲気はそのままに、痛みが目立ったカーペットのみ張り替えることにしました。ポスター掲示板やカウンター、ベンチやブックストアの棚など、新規の造作は全て床置き。影がそのまま立ち上がったようなカーペット仕上げで、下地の安価な小割材と、産廃リユース材を積極的に用いたパーチクルボードは、一部をそのまま仕上げ材としています。

照明は、消費電力の大きい既存の天井照明を全消灯して、全て什器に取りつけた既成のLEDクリップライトと、同じ500mm角のカーペットをくるりと巻いた、メガホンを模した造作LEDライトで完結させました。退去時にこれらを全て取り外せば、現場復帰がしやすく、資材の廃棄も少ない。新旧が並存することで意味を持つようなデザインを提案して、採用されました。

映画からイメージされるのが、映画祭やプレミア上映で歩道やエントランスに敷かれる、レッドカーペットです。スターが歩き、両側にファンやパパラッチが並ぶと、それだけで特別な空間が生まれる。ここでは赤いカーペットの代わりに、映画という光の芸術を際立たせる、影色(シャドウカラー)のカーペットを敷きました。主役はもちろん、全ての映画ファンです。内装を全部変えてしまわなくても、カーペットを敷いて、そこに映画を愛する人々が集えば、それだけで5年間の特別な空間を生み出すことができるのではないかと考えました。

もうひとつ。予告編上映用のミニ劇場など、スタッフのアイデアをかたちにする時にも、カーペットをさまざまなかたちに変化させて用いています。カーペットには吸音効果が期待できるので、レトロな映画館ゆえに二重扉ではないシアターの内部に、ロビーのノイズが上映中に届いてしまうのを極力抑えてくれると思います。」(中山氏談)

5年の間に徐々に成長するシアター

〈Bunkamuraル・シネマ 渋谷宮下〉のロビー空間は、5年間限定営業という条件をプラスに転じさせるデザインがあちらこちらに見受けられます。

例えば、スタッフカウンターまわりに取り付けられた掲示板やスポット照明。中山氏いわく「カーペットから生えているかのようにして」立っている、塗装なし・素地のままの角材に取り付けられています。

「なにかちょっとした台などが欲しくなったときに、わざわざ天井や壁に孔を空けたりせずに、この柱にDIY感覚で後付けすることができます。あるいは、空いている場所に新しい柱を追加して立ててもいい。」(中山氏談)

シアターの入口のスタッフカウンターに設置された「時計」も、劇場スタッフから「お客さまから映画の上映終了時間を尋ねられることが多い」と聞き、用意されたもの。

「オープンした後も、現場のスタッフの声を反映しながら、人の手で使いやすく変えていってもらって構わない。そうやって新しい劇場空間がだんだんとできあがっていく。5年後には今とは違う空間になっているかもしれません。」(中山氏談)

条件を読み解いて小さな物語を生み出す

住宅設計のほか、近年では展覧会の会場デザインや舞台美術なども手がけている中山氏。それらへの設計・デザインアプローチと、今回の映画館改修になにか違いがあったかどうかを尋ねてみた。

「ゼロから別世界を創出するデザインというよりは、そこに既にある条件や関わる当事者とのコミュニケーションから自然に生まれる小さな物語を連ねていくような思考を、いつも大事にしています。今回も、材料や技術としては廉価で素朴なものの組み合わせですが、クライアントや現場の話を聞き、場所の条件などから発想されていったという意味では、僕たちらしい、もしかしたら建築的な思考の内装になったのではないかと思います。

この場所に足を運んでくれる映画ファン、劇場のスタッフといった、映画を愛する人たちとともに、5年をかけて、この空間も育っていってほしいと願っています。」(中山氏談)

中山英之 コメント

「映画館のロビーという、これから始まる未知の経験を待つ場所。同時に、あるひとつの映画館の、四半世紀に渡る記憶を一時繋ぐ場所。その場所のために、レッドカーペットではなく“シャドウ”カーペットを用意しました。映画という光の芸術を最も際立たせる“影色”のカーペットの主役が、映画を愛し、ル・シネマを愛する全ての皆さんでありますように!」(東急文化村プレスリリースより)

〈Bunkamuraル・シネマ 渋谷宮下〉今後の上映ラインナップ

〈Bunkamuraル・シネマ 渋谷宮下〉上映作品など詳細はウェブで!

公式ウェブサイト
https://www.bunkamura.co.jp/cinema_miyashita/
公式SNS
https://twitter.com/Bunkamuracinema
https://www.instagram.com/bunkamura_lecinema/

〈Bunkamuraル・シネマ 渋谷宮下〉1F入口 チケットカウンター

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