(HAGI STUDIOのトップ画像提供:HAGI STUDIO)
東京・谷中の地で設計事務所「HAGI STUDIO」を主宰しながら、同エリアでリノベーションした建物で事業を行っている宮崎晃吉(みやざき・みつよし)氏。
「最小文化複合施設」〈HAGISO〉、谷中の街をホテルに見立てた宿泊施設〈hanare〉、また西日暮里駅に隣接する商業施設〈西日暮里スクランブル〉など、その業態は多岐にわたる。
有名アトリエ系の事務所で設計に打ち込んでいた宮崎氏が、事業を立ち上げ、同じ街で活動を広げていった狙いはどこにあるのか。
建築を学んだ視点で街に働きかけられることは、どのようなものか。
具体的な事例をもとに、町医者のような立場で街と関わりながら、事業を持続的に発展させる秘訣を聞いた。
今回は#04「プロジェクトが生まれる瞬間に立ち会いたい」です。
(取材:2020.07.06 〈西日暮里スクランブル〉にて、jk)
Photographs: toha(特記をのぞく)
■貴重な時間をかけて取り組むべき仕事だろうか
── 事業をしたいという願望は、昔からあったのですか?
宮崎:なかったですね、全然。
何がきっかけなのかは分からないですけど、なんだか流されて(笑)。
ずっと興味はありましたけどね。なんで建築をつくるんだろう? みたいな感覚が。その答えに建築家だけでは、たどり着けないように思えて。
クライアントワークだと、「頼まれたからやる」という答えになるじゃないですか。事業があって設計を依頼されたとして、「その前提が間違っていたらどうするの?」みたいに感じることがあるかもしれない。
もちろん、仕事を断るというのはありますけど。それは消極的な選択で、積極的な選択はできませんよね。
「なんでつくっているんだっけ?」「これ本当に、つくるべきものなのか?」というのは、しょっちゅう行き当たってしまうんですよね。
しかも、自分たちの人生の時間の一部をかけて、取り組むべきことかどうかって。
もちろん、いい事業に巡り合えることもしばしばありますけど、そこを知りたくなったというのですかね。
プロジェクトが生まれる瞬間とか、どういう人がどういう関係性の中でそれを生んでいるのかとか、そういうことを知りたいなと思って。
それは頼まれているだけでは分からないし、やってみないと分からないところがある。そういうのを知りたい、ということです。
■多様なメンバーから機動力が生まれる
── 〈HAGISO〉から8年ほどが経ちました。現在の姿は予測していましたか?
宮崎:いやいやいや、まったく。
なんか〈HAGISO〉だけを細々と運営するのかなぁと、それくらいしか考えていませんでした。
とりあえず〈HAGISO〉は10年がんばろうと始めましたけど。
── 宮崎さんのところのスタッフはどんな構成なのですか?
宮崎:今は設計が7人くらいいて、宿泊が2名いて、飲食が30名くらい。飲食が多いですかね。
全部を合わせると、たぶん40人くらいですね。アルバイト入れると80か90人くらいです。
── 多いですね。
宮崎:非常に重いんですけど…(笑)。
まあでも、そういうメンバーがいるから、機動力をもってできるというのもあって。
ちょうどコロナの間はですね、「谷根千宅配便」というのをやりました。お手製のUber Eatsみたいなものを、このエリアの飲食店の人たちと一緒にするという。
運ぶものは、ウチの料理だけではなくて、他のお店のものも一緒に届けるようにして。そのサービスを急遽3日くらいでつくってローンチして、緊急事態宣言が出るとともに、ウチのお店に立てなくなったスタッフがバッグを背負って自転車に乗って配達に行って。自転車は、近くのトーキョーバイクさんが無償で貸してくれました。
そしたら本当に、応援してくれる地域の人たちが買ってくださったし、スタッフもやりがいをもってやってくれました。事業にしなやかさがあるのは、なかなかいいことだなと思いましたね。
── 意思決定が早いですね。
宮崎:まあ小さい会社だというのと、もう僕もだんだん決定力が弱まってきて、僕の了承を取らずにみんな勝手にやるようになったので。
でも、それは理想的だなと思います。お伺いを立てずに勝手にやる、その後で「あ、そういうことですか」という事後承諾で。「まあそうだよね、いいんじゃない?」みたいな感じです(笑)。
■運営目線で事業のリアルな話ができる
── スタッフは設計、飲食などとそれぞれ面接で採用するのですか?
宮崎:そうですね。社員は全員、僕が面接します。アルバイトは全員の面接はできていないんですけど、部門ごとにマネージャーがいて、彼らがすごくしっかりやってくれていますね。
それぞれ専門の分野ではありますが、飲食でマネージャーをやってくれている人は、ウチに来たのが22歳とかで、いきなり店長をやって。それまで数年いろんなお店で働いていた子ですけど、早いですよね、飲食は。
設計の連中とは業界的に全然違うので、一緒にやっていくのはすごく大変です。
あとホテルをやっている連中は、旅人みたいな人たちだし。飲食をやる人たちは、体育会系というかいうんですかね。建築の連中は、小難しいことを言っているし(笑)。お互いの摩擦は、よく起きます。
── それでも一緒にやることの意味というか、メリットはどんなところにあるんですか?
宮崎:先ほど言ったように、機動力をもって何かができるのと、ひと通り役割分担すれば自分たちでできてしまうことですかね。
あとは単純に、「こういう考えの人たちがいるんだな」と身近に感じられるのはいいことなんじゃないかと思うので。同族で集まっていると、思考が偏りがちなのですよね。
クライアントワークでも、最近では事業の源泉から生み出していくような依頼を受けたり、関わることが多くなりました。
「まず、ここをどうしましょう?」「何をやっていきましょうか、ビジネスとしても」みたいな感じの相談のされ方をして。
こちらもいろいろ考えていくときに、実際に運営しているって、すごく大事だったりしますね。
運営目線で話ができると、「お客さんは今、こういうふうに考えていますよ」とか「こういうのに反応する人が多いですよ」とか。それって非常に信頼してもらえるんですよ。
机上のコンサルティングじゃなくて、フィードバックが非常にリアルなので。
(#05 モノの見方をリノベーションする に続く)