世界的に活躍するザハ・ハディド・アーキテクツの建築といえば、特徴的な流線形のデザインがとても目を引きます。
しかし、そのデザインはただ目を引くためだけではなく、「何も無駄にしない万博」や「国や文化といったしがらみを超えたコミュニティ」、「材料の特性を最大限に引き出す3Dプリント」といったように、ザハ・ハディド・アーキテクツが思い描く未来のビジョンへの思いが込められています。
ここではザハ・ハディド・アーキテクツの手がけた建築を、込められた思いとそのアウトプットとしてのデザインに注目して見ていきます。
分断された都市をつなぐ広場!?
【エレフテリア広場】
キプロスの首都ニコシアに設計された広場〈エレフテリア広場〉は、分裂された都市を再び統一することを目指し設計されています。
キプロス:16世紀にはオスマン帝国の領土、20世紀にはイギリスの植民地となっていたキプロス。1960年に独立したが、ギリシャ系とトルコ系の住民が多く内戦も発生していたことから国連によってグリーンラインと呼ばれる緩衝地帯が設けられ、ギリシャ系の住民が多い南部のキプロスと、トルコ系の住民が多い北部の国連未承認国家 北キプロス=トルコ共和国に分かれている。
キプロスを南北にわかつグリーンラインは首都ニコシアも横断しており、首都ニコシアは巨大な防護壁「ベネチアンウォール」とそこに設けられた要塞により、旧市街と新市街に分断されています。このように二重に分断されたキプロスの首都の再統一を促すための都市計画の初期段階として構想されたのが〈エレフテリア広場〉です。
ベネチアンウォールの景観を損なわぬようこれまで活用されていなかった空堀を開放して公園や遊歩道に変えることで、まちを取り囲む環状公園「グリーンベルト」となる、流動的な幾何学的形状が首都を再びつなぎなおす広場です。
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"何も無駄にしない"未来の万博!!
【オデッサ万博2030】
〈オデッサ万博2030(ODESA EXPO 2030)〉は、第171回博覧会国際事務局(BIE)総会にてザハ・ハディド・アーキテクツが発表した、東欧で初となるウクライナの都市オデッサでの国際博覧会の計画です。メインパビリオンだけでなく、各国のパビリオンも同じモジュールシステムを採用した建築とすることで、設計・施工をサステナブルにするだけでなく、解体も容易にするよう計画されています。
また、解体後のパビリオンのパーツは自国へ持ち帰るか、ウクライナへ寄贈するかを選ぶことができます。寄贈された際は、モジュールパーツはウクライナの他の都市へ運ばれ、その部品を使用して学校や医療施設などの社会的なインフラ施設が構成されるという、「何も無駄にしない」未来の万博を目指しています。
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3Dプリント×石積みの橋!
【Striatus】
〈Striatus〉は、3Dプリントしたブロックを接着せずに組み上げる歩道橋です。石積みのアーチを参考に、圧縮時に最も性能を発揮するコンクリートを、6軸ロボットアームによる3Dプリントにより出力したブロックを組み上げるアーチとすることで、圧縮力のみで構成された構造物となっています。
石積みとコンクリート、コンピュテーショナルデザイン、3Dプリントを組み合わせることで、従来のコンクリート梁や床スラブのように、非効率的に材料を積み重ねるのではなく、形状によって強度を生み出すことができるため、必要な材料の量を大幅に削減できるほか、より低強度で低公害の代替材料で建築できる可能性を示しています。
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Striatus – 3D Concrete Printed Masonry Bridge from Zaha Hadid Architects on Vimeo.
国家のバーチャルな分身としてのメタバース!
【リベルランド・メタバース】
ザハ・ハディド・アーキテクツが設計した、リベルランド自由共和国のメタバース空間〈リベルランド・メタバース〉。
メタバースプラットフォームの「Mytaverse」内につくられた、リベルランドと同じ大きさの土地をもつ仮想世界を、物理的な世界と地続きの空間として運用するプロジェクトです。
リベルランド:正式名称はリベルランド自由共和国。クロアチア・セルビア間の国境紛争のために誕生した無主地(所有者の定まっていない土地)にて、チェコの政治家ヴィート・イェドリチカが2015年に建国を宣言した7km²のミクロネーション(主要国際機関によって承認されていない独立国家)。60万人以上が市民権を希望するなど多くの人々から支持を得ており、通貨には独自の仮想通貨「メリット」を採用している。
都市のコアにあたる整理された中央エリアや、その周囲を取り囲む都市の自治を促進するためのエリア、都市計画のない自発的な秩序が築かれるエリアといった、さまざまな計画体系の区画が入れ子状配置されています。
このように分化し成長する、複数のプレイヤーによる都市という考え方に最も適合する建築・都市の形態として、デザインのすべての要素をパラメータにより変化させ適応させる、ザハ・ハディド・アーキテクツが提唱する「パラメトリシズム」を用いたプロジェクト。
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ワールドカップから難民コミュニティへ寄贈されるテント!?
【ZHA-EAAテント】
FIFAワールドカップカタール2022に合わせてファンのために開催されていたイベント、FIFAファン・フェスティバル。そこで使用されていた、ザハ・ハディド・アーキテクツが設計した27張りのテント〈ZHA-EAAテント〉が、シリア、トルコ、イエメンの難民・避難民のコミュニティの学校、診療所、緊急避難所として設置されることが発表されました。
このテントはモジュール式のフレームと膜でできており、簡単に解体・再構築ができアップサイクルやリサイクルも可能なため、避難民のコミュニティに最適な製品となっています。
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