FEATURE
How to create "the future of logistics facilities"?
Dialogue: Kashiwa Sato and Yoshiyuki Chosa (2/2)
FEATURE2024.03.13

「物流施設の未来」を叶える空間をいかにつくるか

SAMURAI佐藤可士和氏と日本GLP帖佐義之氏が再編する 物流拠点の未来(後編)

「物流施設の未来」を叶える空間をいかにつくるか

FEATURE2024.03.07

「物流施設の未来」を叶える空間をいかにつくるか

SAMURAI佐藤可士和氏と日本GLP帖佐義之氏が再編する 物流拠点の未来(前編)

「物流施設の未来」をつくり、物流のイメージを刷新したいという想いを受けて実現した〈GLP ALFALINK相模原〉。佐藤可士和氏(SAMURAI)と日本GLP 帖佐義之社長が導き出したビジョンやコンセプトを、いかに実現していったのか。そのプロセスのベースには、プロジェクト推進に関係する設計者が参考にすべき姿勢と、練り上げられた信念があった。

〈GLP ALFALINK相模原〉(一部)の鳥瞰。Photo: Takumi Ota

INDEX

  • コンセプトを詰めている間は案を見せない
  • 徹底してディテールにこだわる
  • 狙った「創造の連鎖」を目の当たりに!
  • 地域に開き、根づいた新たな施設

コンセプトを詰めている間は案を見せない

── 「OPEN HUB」「創造連鎖する物流プラットフォーム」というコンセプトを、どのように具現化していったのでしょうか?

佐藤:物流施設を「コストセンターをプロフィットセンターにしたい」と言われても、具体的にどうしたらそうなるのか、パッとはわかりませんよね。そこについてもディスカッションの中でだんだんと理解が深まって、「創造を連鎖する物流のプラットフォーム」という施設全体のコンセプトに決まっていきました。そしてそこから「OPEN HUB」というブランドのコンセプトを形成していったんです。

コンセプトを詰めている半年のあいだ、こちらから施設のデザイン案や図面などは一切出しませんでした。「何か提案して見せてこないかな」と帖佐さんは感じられていたと思います。でもアウトプットをお見せするのは、コンセプトが決まった後にしたほうがいいと思っていました。

佐藤:ロゴ、ネーミング、建築など、すべての分野に共通しますが、アウトプットというものは非常に強いんですよ。仮の状態であっても、アウトプットを見てしまうとそれに自分のイメージが支配されてしまう。「あ、そうそう。こういう感じ」となって、アウトプットにコンセプトを合わせにいってしまいます。

先にコンセプトを練りきれていないと、できあがったあとで「なんか違ったかもしれない」と後悔するんですね。過去の自分の経験でもしばしばそういうことが起きました。だからクライアントにもコンセプトが練りきれていない段階では、迂闊にアウトプットを見せないようにしています。もちろん、GLPさんには見せていないだけで、僕とSAMURAIスタッフのあいだでは、さまざまなアイデアをスタディしながらディスカッションに臨んでいました。

SAMURAIでのプレゼンテーションの様子。Photo provided by GLP Japan Inc.

ブランドネームの「ALFALINK」はロゴとしても制作し、敷地内のエントランスに特注で高さ10mのブランドシンボルを設置した。Photo: Takumi Ota

徹底してディテールにこだわる

ロゴデザインをモチーフとした直径86m×高さ10mの円形建築は、「リング」と名付けた共用施設棟。Photo: Takumi Ota

帖佐:コンセプトを練ることにものすごい時間をかけたおかげで、デザインを見せてもらう段階になると、自分の意見を素直に伝えられました。「創造の連鎖」を起こせるのはどんなデザインか、自分の中でもイメージできるようになっていたからです。

共用施設棟である「リング」を巡っては、社内で反対の声もありました。例えば、共用施設棟にレストランやコンビニを設置したことについて「実際に働いている人の利便性を無視しているのではないか」という反対の声もありました。これまでの常識では、レストランや売店などは物流施設の各棟の中に設置したほうがいい。なぜなら働く人がいちいち共用部分まで移動しなくてよいからです。しかし私は「これまでの常識を覆す、物流施設の未来をつくるんだ」という思いが固まっていたので、固定観念を捨てることができました。トップである私の思いに勢いがあると、周囲の人々も共感してくれるし、巻き込めてしまうんですね。

物流業界って、いわゆるスマートな業界ではありません。でも実際に働く人たちが前向きな気持ちで仕事に誇りを持てることが重要なんです。そのために必要なのがデザインの力だと今回、改めて感じました。そして、家族や友人に「自分はここで働いているんだ」と自慢できるかっこいいものをつくるためには、ディテールまで突き詰められていないといけない。

実際、可士和さんは徹底してディテールにこだわるんです。リング棟のバス停につながる通路があって、雨に濡れたくないから屋根をつけました。このリングに、直線的な屋根がつくと、どうしても納まりが悪く、不格好になってしまう。それを納まりがよいように見せるには現状のアールの加工技術だと難しいので、施工者も面倒そうなんですね。でもそれをちゃんとロゴのイメージ通りになるように、きれいな曲線でつながるように調整しようと粘る。他にも、何箇所も同じようにディテールにこだわっている姿をみて、本当にすごいなと驚きました。可士和さんが指摘することで、できあがりが変わってくるんです。

工事現場での様子。Photo provided by GLP Japan Inc.

「リング」の屋根と庇、デッキのディテール。Photo: Takumi Ota

狙った「創造の連鎖」を目の当たりに!

 

中庭から「リング」とエントランス方向を見る。Photo: Takumi Ota

── 完成した〈GLP ALFALINK相模原〉の反響はいかがでしたか?

佐藤:1つの棟ができあがってから、すべてできるまでに2年くらいかかって、やっと昨年の2023年にグランドオープンしました。オープン時から、満床スタートで素晴らしいですね。

オープニングイベントの際に、実際に入居されたテナントの方々によるトークセッションが開かれて、それを聞かせていただいたんです。そうしたら、本当に物流施設で「創造の連鎖」が生まれていて、「こんなに理想的な展開に!」と感激しました。

〈GLP ALFALINK相模原〉グランドオープン時のトークセッションの様子。Photo provided by GLP Japan Inc.

帖佐:我々が狙ったことをすべてユーザー側が言ってくれたんです。物流施設は本来、入居者同士でもライバル企業です。新商品や機密資料も扱うことがあるので、基本的には完全に隔離されているのがセオリーなんですね。だから必要な道具をそれぞれの会社がすべて用意しないといけない。もちろん商品や資料のセキュリティは守らないといけませんが、トラックやリフトなど、本来はお互いにシェアできたほうがよいものもあります。さらに入居者同士で、本来はいろんなビジネスが生まれるはずなんですね。

そうした相乗効果を狙って、アルファリンクでは「カスタマー連携協議会」を立ち上げて、さらに懇親会など、入居者同士が出会う機会となるイベントをたくさん企画していきました。そうしたら実際に入居者同士で「あれを貸してほしい」とやりとりができたり、「御社のサービスを使わせてほしい」とビジネスにつながったりすることが生まれていたんです。

「カスタマー連携協議会」の様子。Photo provided by GLP Japan Inc.

佐藤:大手運送会社の所長さんが、素晴らしいことを語っておられましたね。「GLP ALFALINK相模原では、競争相手が共創相手になった」と。懇親会などを積極的に開くGLP側も素晴らしいと思います。大小あわせて、年間300本もイベントが行われたと聞き、驚きました。入居したまま何もしないと、なかなかそんな関係は生まれないと思います。イベントを通じてさまざまな企業が出会う機会を提供することで、連携が生まれていってます。あと「GLPコンシェルジュ」というサービスもあるんですよね?

帖佐:そうですね。荷物って、たくさんあるときもあれば、少ないときもあります。入居者によって、多い時期と少ない時期も違う。だから荷物が多いときは、その日荷物が少ない入居者を見つけて融通を効かせられるようにGLP側で調整しています。昔の「寄り合い」のようなものですね。

また、大手の物流会社から独立して会社を立ち上げた社長さんが、売上が入居前の6倍に伸びたと言っていました。まだ全然荷物がない入居企業に、コンシェルジュが荷主を紹介してあげる。そうすると、会社として成長できるのですね。

佐藤:また、リクルーティングにも効果が表れているようですね。今は物流業界全体としてドライバーの確保が難しい中ですが、ALFALINKで募集したところ、すごい数の応募があったと聞きました。

地域に開き、根づいた新たな施設

「GLP ALFALINK相模原 サマーフェスタ2023」にて、リング棟前のイベントステージ広場での様子。Photo provided by GLP Japan Inc.

帖佐:地域とのつながりも大切にしています。夏に地域の方々を呼んで、夏祭りを開きました。そこである女性従業員が娘さんを連れて来たんです。反抗期で、普段はあまり会話をしないそうなのですが、その日は働いているところを自慢したくて母親が無理やり連れてきたらしい。そうしたら娘さんが「お母さんこんなところで働いているんだ!」と、母親を見直すきっかけになった、という話を聞きました。

佐藤:それは嬉しいエピソードですね。

「リング」2階のカフェ・レストラン。Photo: Takumi Ota

帖佐:最近、放課後に共用施設棟で勉強する中高生もいるようです。図書館よりも、Wi-Fiや電源があって、レストランやカフェ、コンビニもあるので、快適だということで。PTAの集まりもカフェでされている、と聞きます。今までは我々がイベントなどを提供していましたが、私たちが介入しなくても、すでに入居者や地域の方々から「創造の連鎖」が自発的に始まったんですね。これからは有機的にそれが広がっていくように思います。

佐藤:新しく伺う話も多くて、とても嬉しいです。クリエイティブディレクターとしては、「建物を建てた」だけで決して終わりたくない。どうすれば地域に開いていけるのか、地域の人々の自発的な「創造の連鎖」が起きるためにどうしたらよいかを考えて、帖佐さんと練り上げました。今のお話を受けて、今回、かなり本質的なコンセプトに行き着いたのかなと感じました。

帖佐:おそらく、コンセプトだけではもちろん実現しなかったと思います。それを実装したデザインになっていたから、働いている人や、地域の人々がアクションをしてくれたのだろうと思います。今後、さらに私たちをびっくりさせてくれる創造の連鎖が生まれてくれることに期待したいです。

(2024.02.13 SAMURAIにて)

Text: Goshi Asai, Edit: Jun Kato

「物流施設の未来」を叶える空間をいかにつくるか

FEATURE2024.03.07

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