大阪・関西万博の花形といえば、各種のパビリオン。日本をはじめ世界各国のパビリオンで、趣向を凝らしたデザインがされています。今回は、民間パビリオンの中でも目を引く〈住友館〉について、設計者へのインタビューを交えてレポートします。
Top image: © Sumitomo EXPO2025 Promotion Committee [Photo by Akira Ito]
木を大事に使うことから導かれた合板曲面仕上げ
万博会場の主要な動線となる東ゲートをくぐると、正面に真っ先に目に入るパビリオン。木の塊を削り出した彫刻のような姿。建物は手前が低く、緩やかに曲線を描きながら奥に向かうにつれて高くなっている。そして近づいていくと、建物の形態と表情が変わって見えてくる。

東ゲートを入った先にある〈住友館〉。Photo by Nikken Sekkei Ltd
この〈住友館〉は、住友グループ(住友 EXPO2025 推進委員会)が出展した民間パビリオン。基本設計に電通ライブとともに携わった、日建設計 設計グループのアソシエイト・白井尚太郎氏とダイレクター・喜多主税氏は「住友グループの歴史を尊重し、木をなるべく大事に使いたいと考えました。無垢材や大断面集成材の架構、また外装ルーバーなどではなく、薄い板による新しい木質建築を目指したのです」と意図を語る。
住友グループは愛媛県の別子銅山を発見し、銅の採掘精錬を始めたことで大きく発展し、金融業や林業など多岐にわたる業種を展開してきた。過去には、開発により失われた森を森林再生の取り組みとして植林活動を行い、山の緑を再生したという背景がある。住友グループが「住友童話館」を出展した大阪万博の年、1970年に植林して育った木も、今回のパビリオン建築に使われているという。

© Sumitomo EXPO2025 Promotion Committee
主体構造は鉄骨造で、屋根と外壁はヒノキの合板で覆われている。大根のカツラ剥(む)きのように薄く切り出して張り合わせる合板は、製造工程でのロスが少ない。厚さ9mmの構造用合板は曲げ加工しなくても人力でたわませることができる柔らかさ(硬さ)で、その性質を利用して〈住友館〉では曲面に追従させながら張り付けている。
屋根面でいうと、Cチャンネルの母屋でHP面(双曲放物線面)をかたちづくったうえ、下地となる構造用合板を張って断熱と防水を施し、排水の経路として50mmの隙間をあけて構造用合板を張って“仕上げ”とした。壁も、屋根と同じ構成である。

屋根面の構成(資料提供:電通ライブ、日建設計)

壁面の構成(写真:三井住友建設・住友林業特別共同企業体、図:電通ライブ、日建設計)

庇の先端部に目立たないように設けたスリットには軒樋が仕込まれている。Photo by Nikken Sekkei Ltd
「薄くて軽量な、合板ならではのデザインですね。撥水材は塗布しているとはいえ合板そのものを現しとしています。期間限定という大前提の中で、ちょうど良い建築のあり方になったと思います」と喜多氏は語る。
シンプルながら変化に富むHP曲面のボリューム

東側側面の立面。Photo by Jun Kato
HP曲面を用いた形態とシルエットは、2つの箱状の建物を繋げるようにして出てきた案だという。平面ではシンプルな長方形が2つ並んでいるのだが、立面の変化でダイナミックな印象を受ける。
「展示のコンテンツに応じた2つの大きなボリュームを設けることは、おおまかに決まっていました。2つの箱をただ横並びにするのではなく、3Dモデルでスタディしながら、2本の線分を繋いでできるHP曲面を採用して変化を付けました。HP曲面のつながりで、別子の山の嶺に近似させることも意識しています」と白井氏。実際にはパネル状の合板をひねるように曲げながら留め付ける必要があり、施工にあたってはモックアップで検証し、現場では職人が合板の寸法を調整しながら張っていったという。

ボリューム検討のダイアグラム(資料提供:日建設計)

エントランス部で張り出した軒の出隅部。Photo by Jun Kato
木を通して未来へと繋がるパビリオン
エントランス周りの壁には、さまざまなサイズのスギの角材をランダムに取り付けている。こちらが、冒頭の1970年大阪万博の年に植林された木を製材した材料である。施工は三井住友建設・住友林業特別共同企業体で、住友林業は木材の調達や木工事の労務確保、現場管理をサポート。〈住友館〉は住友グループが総力を上げてつくり上げた結晶体といえるだろう。「万博にやって来た、という高揚感をもつ来場者を迎え入れるようなパビリオンになったと思います」と、白井氏と喜多氏は自信をのぞかせる。

断面サイズの異なるスギの角材をランダムに張った壁面。© Sumitomo EXPO2025 Promotion Committee
〈住友館〉の展示では、ランタンを手に森をめぐる体験「UNKNOWN FOREST(アンノウン フォレスト)」を展開。来館者が苗木を植える「植林体験」をするプログラムも設けられている。苗木ポットは一時的にパビリオンの外壁に置かれ、住友の森まで運んで植林されるという。木々を通して過去から現在、数十年後に至るまで、未来へと繋がる、きれいなストーリーが描かれている。

© Sumitomo EXPO2025 Promotion Committee

© Sumitomo EXPO2025 Promotion Committee

© Sumitomo EXPO2025 Promotion Committee
建築概要
建築主:住友 EXPO2025 推進委員会
設計者:(基本設計)株式会社電通ライブ、株式会社日建設計
(実施設計)株式会社電通ライブ、三井住友建設株式会社
(展示設計)株式会社電通ライブ、株式会社乃村工藝社
監理者:株式会社電通ライブ
施工者:(建築全般)三井住友建設・住友林業特別共同企業体
(電気・機械設備)住友電設株式会社
工期:2023年12月〜2024年12月
敷地面積:3,568.19m²
建築面積:2,101.92m²
延床面積:2,717.12m²
Edit & text: Jun Kato
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