『TECTURE』(https://www.tecture.jp/)には、日々多くの建築作品が投稿され、さまざまなクリエイターのアイデアや取り組みが共有されています。その膨大なデータの中から、作品の特徴やテーマに焦点を当てながら『TECTURE MAG』編集部視点で紹介していきます。
本記事では、プラスチック系の樹脂素材「ポリカーボネート」を建材として採用した事例をピックアップします。スマートフォンやCD、トランクケース、自動車のヘッドライトカバーなどにも使われており、建材以外でも身近なところで広く活用されている素材です。
優れた耐衝撃性と耐候性、軽量性、そして高い透明性を併せもつポリカーボネート。光や視線、内と外との距離感をどのように空間化しているのか。設計者による多様な応答を見ていきましょう。
INDEX
ポリカーボネートはどんな素材?
- 耐衝撃性:ガラスの約200倍ともいわれる強さ
- 耐候性:雨風や温度変化にさらされる環境下でも性能を維持
- 軽量性:施工と構造負担の軽減
- 透明性:光を透過し、拡散させる素材
- 寸法安定性:精密成形に適している
ポリカーボネートの活用事例8選
- 野里の家 / pilot architects.
- 西九条のオフィス / アリアナ建築設計事務所
- 1:1のハウス / 河嶋正樹建築設計事務所+XYZ structure
- ROOF HOUSE / 玉田脇本建築設計事務所
- FRESH share ASAKUSABASHI / KADA
- ORCHARD / /360°
- Pergola / 葛島隆之建築設計事務所
ポリカーボネートはどんな素材?
ポリカーボネート(Polycarbonate)は、1898年にミュンヘン大学のドイツ人科学者によって発見され、1953年にドイツの化学メーカーが工業生産に適した合成方法を確立したことで、初めて製品として実用化されました。日本では1960年代初頭から生産と利用が本格化。現代の建築分野では、曲げ加工を施した波板や、2枚の板で空気層を挟んだ中空板などに加工されることも多く、その高い透明性から、時にはガラスの代替となる外装材として位置づけらます。
その素材特性は、大きく5つに整理できます。

ポリカーボネート中空板。Photo: iStock
耐衝撃性:ガラスの約200倍ともいわれる強さ
一般にガラスの約200倍、アクリルの約30倍ともいわれる衝撃強度をもち、強い外力を受けても割れにくく、破損時にも破片が飛散しにくい性質があります。そのため建設用途に加え、防護パネルやヘルメット、航空機の窓材など、安全性が求められる用途にも採用されています。
耐候性:雨風や温度変化にさらされる環境下でも性能を維持
紫外線や雨風にさらされる屋外環境下でも性能を維持できます。また、100〜120℃程度まで物性を保ち、低温下でも脆化しにくい特性をもちます。表面にUVカット層を施した製品も多く、長期使用における劣化を抑制する仕様が選択可能。さらに、自己消火性を有するグレードもあり、防火性能が求められる用途にも対応します。

Photo: iStock
軽量性:施工と構造負担の軽減
比重はガラスのおよそ半分程度と軽量で、大判パネルでも取り扱いやすい素材です。構造体への負担を抑えられるため、既存建築の改修や仮設用途にも応用しやすく、施工性の向上にも寄与します。軽さと高い強度を両立している点が、建築用途を広げている理由の1つです。
透明性:光を透過し、拡散させる素材
ガラスに匹敵する光線透過率をもちながら、表面加工や中空構造によって光をやわらかく拡散させることが可能です。透明から半透明、乳白色といった色彩にも幅広いバリエーションがあり、採光と視線制御を両立できる素材として用いられています。
寸法安定性:精密成形に適している
熱可塑性樹脂でありながら寸法安定性に優れ、精密な加工や成形が可能です。曲面や複雑なディテールにも対応でき、工業製品から建築部材まで幅広く活用されています。加工後の変形が比較的少ないことも、設計上の扱いやすさに繋がっています。

Photo: iStock
ポリカーボネートの活用事例8選
〈野里の家〉pilot architects.

Photo: 貝出翔太郎
並列する家型のうち一方をポリカーボネート波板で覆った住宅です。内部には2層吹き抜けの土間空間があり、庭のほか、エントランスやガレージを兼ねた多機能な場となっています。アウトドアやDIYを趣味とする夫婦が、隣家からの視線や天候を気にすることなく活動を楽しめる空間です。住居スペースとも連続しており、住宅地にありながら光溢れるおおらかな暮らしを実現しています。
〈西九条のオフィス〉アリアナ建築設計事務所

Photo: 土出将也 / エスエス
住宅地の一角に建つ、古い倉庫を活用したオフィスです。穴の空いていた屋根をポリカーボネートでふさぎ、道路側の開口部にも透明なポリカーボネートやビニールカーテンを用いることで、街に開かれた構えとしています。内部には木架構と構造用合板による諸室を入れ子状に設け、既存の大空間を活かしつつ、倉庫内に立体的な半屋外空間を生み出し、多様な働き方を受け止める場へと更新しています。
TECTURE:https://www.tecture.jp/projects/4594
TECTURE MAG:https://mag.tecture.jp/project/20241001-office-in-nishikujo/
〈1:1のハウス〉河嶋正樹建築設計事務所+XYZ structure

Photo: YASHIRO PHOTO OFFICE
農業地帯と工業地帯の狭間に建つ住宅です。ヴォールト屋根の母屋と片流れ屋根の下屋を噛み合わせ、内部と半外部の関係を反転させた構成が特徴です。気積の半分を割いたポリカーボネートに覆われた空間は、夏には大きな軒下として、冬には温室のように機能し、中間期には室内の延長として使われます。ポリカーボネートは、光や熱を調整する膜として働き、外部環境を取り込みながら、暮らしに余白をもたらしています。
〈ROOF HOUSE〉玉田脇本建築設計事務所

Photo: 長谷川健太
建物を複数のボリュームに分け、全体を大屋根で覆う構成としています。土間空間は、食事や交流など、さまざまな場として機能します。屋根の一部にポリカーボネートを用い、強度と耐候性を備えながら、光をやわらかく取り込んでいます。敷地の自然や地域との関係を大屋根が包み込みつつ、暮らしを内外へと拡張する住まいです。
TECTURE:https://www.tecture.jp/projects/5600
TECTURE MAG:https://mag.tecture.jp/project/20250421-roof-house/
〈FRESH share ASAKUSABASHI〉KADA

Photo: 中村 絵
主要な外壁にコンクリートブロックを積み上げ、その外側をポリカーボネートの透明波板で覆ったシェアハウスです。波板の凹凸が光の透過と反射を反復させ、内側の鉄骨やブロック積みをスクリーン越しに滲ませながら、ファサードに揺らぎをもたらしています。見る角度や時間帯によって印象を変え、近隣の河川と呼応する風景をつくり出しています。
〈ORCHARD〉/360°

Photo: 吉田 誠
老朽化した戸建て賃貸住宅群を再編するプロジェクトです。8棟のうち3棟を解体し、5棟を改修。そのうちの1棟をポリカーボネートで囲い、広場と一体で使える半屋外のシェアキッチンとして再生しています。住宅群全体を1つの場として再構築するなかで、ポリカーボネートはコミュニティを支える半外部空間の輪郭をかたちづくっています。
〈Pergola〉葛島隆之建築設計事務所

Photo: 葛島隆之建築設計事務所
山々に囲まれ、敷地内を渓流が流れる自然豊かな環境に建つ農業用倉庫です。既存の小屋群を解体し、道路に沿って新たな小屋を配置。屋根の一部にポリカーボネートを用い、木々のあいだを縫うように架けられた軽やかな架構の下に、作業や天日干し、農機具置き場など多様な場を内包しています。自然と生活、その両者に溶け込む建築です。
TECTURE:https://www.tecture.jp/projects/2268
TECTURE MAG:https://mag.tecture.jp/project/20230614-pergola/
ポリカーボネートが編む、内と外のあわい
ポリカーボネートは、透過と遮蔽のあいだにある繊細な領域を扱うことのできる素材です。完全に閉じるのでも、全面的に開くのでもない。その中間に生まれる曖昧さをいかに設計へと転換するかによって、内と外の関係や空間の質は大きく変わります。
今回紹介した事例で注目したいのは、ポリカーボネートの性能そのものではなく、その透過性をどのように空間表現へと昇華しているかという点です。光をやわらかく拡散させ、視線をほのかに受け止め、内と外の距離を滲ませる。透けることをどう設計するか。その応答の差異が、設計者それぞれの空間表現の輪郭を浮かび上がらせます。
text: Naomichi Suzuki