[Project]細長い敷地に建つ住宅特集 - TECTURE MAG(テクチャーマガジン) | 空間デザイン・建築メディア
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Houses built on long, narrow sites
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細長い敷地に建つ住宅特集

『TECTURE』掲載事例から読み解く、間口の狭い敷地への創意

『TECTURE』(https://www.tecture.jp/)には、日々多くの建築作品が投稿され、さまざまなクリエイターのアイデアや取り組みが共有されています。その膨大なデータの中から、作品の特徴やテーマに焦点を当てながら、『TECTUREMAG』編集部の視点で紹介していきます。

本記事では、間口の狭い敷地に建つ住宅をピックアップします。都市部に多く見られる、いわゆる「うなぎの寝床」とも呼ばれる敷地条件は、採光や通風、動線計画などにおいて、設計者に高度な応答を求めるテーマでもあります。

限られた間口という制約を、どのように空間構成へと転化しているのか。平面や断面、光の取り込み方、奥行き方向への展開などに着目しながら、間口の狭さを個性へと昇華させた住まいのかたちを見ていきましょう。

INDEX

日本に細長い敷地が多いのはなぜ?

  • 狭い土地面積のなか、街路の価値を最大化する
  • うなぎの寝床
  • 間口2mが「成立可能な最小単位」になる
  • 敷地統合が進みにくい相続・権利分散と法制度
  • 分譲と市場原理

細長い敷地に立つ住宅事例8選

  • 西ノ京の別宅 / アリアナ建築設計事務所
  • エア・ガーデンハウス / kumo
  • 風景を掬う小さなイエ / n o t architects studio
  • 工具箱の家 / 山本嘉寛建築設計事務所
  • houseSY / モカアーキテクツ
  • 軸組の家 / y+M design office
  • A Japanese Artist’s House / Tan Yamanouchi & AWGL

日本に細長い敷地が多いのはなぜ?

日本の都市部に細長い敷地が多く見られる背景には、近世を通じて固定化・継承されてきた都市構造に由来する地割のあり方と、現代に至るまで運用されてきた法制度、さらに住宅供給を担う事業者による分譲のあり方などといった、複数の要因が関係しています。

歴史的な都市形成が細長い敷地を生み出し、法制度がそれを更新・維持する枠組みとして作用する一方で、分譲の現場では、限られた土地から戸数を確保しやすい細長い区画が合理的な選択肢として選ばれてきた、と整理できます。

近世初期の京都市街を描いた古地図。出典:1696年 京都古地図(元禄9年、パブリックドメイン)Wikimedia Commons

狭い土地面積のなか、街路の価値を最大化する

日本の都市部に多く見られる「間口が狭く奥行きの深い敷地」のなかには、歴史的に形成された都市の地割(区画)に由来するものも多くあります。

とくに近世の都市では、街路に面して多くの戸数を並べたいという都市的条件が、敷地形状に強く影響しました。城下町や商業都市などでは、通りに面すること自体が商い・交流・生活の中心となり、その価値を最大化するために、通りに面した間口を細かく刻み、奥行き方向で面積を確保する敷地形態(短冊状地割)が標準的に採用されていきました。

江戸の街並み。出典:『熈代勝覧』絵巻の一部(1805年頃、パブリックドメイン)Wikimedia Commons

うなぎの寝床

細長い敷地は、比喩的に「うなぎの寝床」と呼ばれることがあり、こうした敷地は「京町家」の一般的な敷地構成としてもよく知られています。

京町家は、狭い間口を店の「顔」として街路に向け、奥を居住空間や中庭、庭として展開してきました。この形式は京都に限らずさまざまな地域で見られ、都市の暮らしとともに洗練され、長い時間をかけて都市空間の基本単位として定着してきたと考えられています。

京町家が並ぶ京都の花見小路。Photo: iStock

間口2mが「成立可能な最小単位」になる

建築基準法では、建築物の敷地は原則として、「幅員4m以上の道路に2m以上接する」ことが求められます。これは防災や通行安全を目的とした規定ですが、土地を分割する際、「2m接すれば建て替えが可能」という条件が、細長い区画を成立させる要因となり、結果として「狭い間口+奥行きで面積を確保する」分割が、合理的な選択肢として残りやすくなります。

YUUA〈1.8M WIDTH HOUSE〉 Photo: 傍島利浩

敷地統合が進みにくい相続・権利分散と法制度

都市部の敷地は、相続や共有化を経て、権利関係が分散しやすいという特徴があります。結果として、細分化された敷地が累積していく状況が生まれています。

一度権利が分散した土地は、再統合や再編に高い合意形成コストを要します。法制度が直接的に敷地の形を決めているわけではないものの、現実的には敷地が細分化され続ける要因の1つとなっています。

分譲と市場原理

さらに、住宅供給を担う事業者による分譲(分割譲渡)のあり方も大きく関係しています。

限られた土地を分割して住宅として供給する際、間口を抑えつつ奥行き方向で面積を確保する区画は、接道義務を満たしやすく、造成コストを抑えながら戸数を確保できるという点で、事業者にとって合理的な選択となります。とくに都市部では、土地取得費が高額であるため、敷地を細分化して販売するモデルが成立しやすく、その結果として、細長い敷地は増える一方となるのです。

アキチ アーキテクツ〈ダイカンヤマの家〉 Photo: 大倉英揮

参考文献:国土交通省「接道規制のあり方について」「狭あい道路の整備について」「空き地等の新たな活用に向けた課題と方向性」

細長い敷地に立つ住宅事例8選

細長い敷地はその土地の成り立ちゆえに、間口の制約だけではなく、隣地との近接、法規によるボリューム規制といった、避けがたい条件を抱えていることが多くあります。また都市の合理性が生んだ典型的な区画であるため、住宅のかたちは均質な解答へと収束しがちです。

一方で設計者は、構造や断面、生活の重なり方に工夫を凝らし、限られた寸法の中に奥行きや高さ、内外の関係性を見出しています。そうした応答の差異が、それぞれの住宅に固有の空間体験を生み出していると言えるでしょう。ここからは、そうした個性に富んだ住宅をご紹介します。

〈西ノ京の別宅〉アリアナ建築設計事務所

photo: 土出将也

京都の住宅地にある、約17坪の細長い敷地に計画された小さな別宅です。愛車や私物の保管を主目的としながら、滞在や仕事、催しの場としても使える余白を備えています。自由度を確保するため、切妻屋根を門型トラスで受ける木造架構を採用し、内部を遮らない伸びやかな空間を構成。中庭や水まわり棟へと視線と動線が抜け、開閉操作によって内外の関係を柔軟に切り替えられる建築としました。

TECTUREhttps://www.tecture.jp/projects/3639

〈エア・ガーデンハウス〉kumo

Photo: 水谷夏樹

外部との関係を保ちながら伸びやかな内部を確保するため、建物を高さ方向へ引き延ばしたプロポーションを採用。建物中央には、階に属さない高さ約1.8mのガラスに囲まれた層を挿入し、上下階を緩やかにつなぐ空間的な核としました。基礎と木造架構の性格差を生かし、床のレベルや位置によって多様な居場所を生み出すことで、街との距離感を日常の動作の中で味わえる住まいを構成しています。

Section

TECTUREhttps://www.tecture.jp/projects/4528
TECTURE MAGhttps://mag.tecture.jp/project/20240913-air-garden-house/

〈代田の家〉山路哲生建築設計事務所

Photo: 長谷川健太

住宅地に建ち、間口に対して奥行きの深い敷地条件のもと、耐震性と開放性を両立させるため、建物中央の吹き抜け階段室に斜め材を集約して構造的な核を形成。道路側に大きな開口を確保しつつ、間仕切りに頼らない上下左右へ連続する空間を実現しています。地下から2階までを貫く斜めの構造体は、動線や光・風を束ねながら家族の距離を近づける存在として、住まい全体を支えています。

TECTUREhttps://www.tecture.jp/projects/5596

〈風景を掬う小さなイエ〉n o t architects studio

Photo: 高木康広

街の気配を内部へ引き込む住宅です。周囲に密集する建物の隙間を読み替え、敷地の両側にある道路や通路の関係を重ね合わせることで、住まいの中央に縦に伸びる空間を挿入。反射性のある面や多様な開口を介して、光や植栽、空の色、天候の変化が柔らかく取り込まれます。内部を回遊しながら居場所を選ぶことで、日常の動きそのものが街の断片と出会う体験へと変わる構成としています。

TECTUREhttps://www.tecture.jp/projects/2517
TECTURE MAGhttps://mag.tecture.jp/project/20230601-scenery-scooping-house/

〈工具箱の家〉山本嘉寛建築設計事務所

Photo: 笹倉洋平(笹の倉舎)

大阪市内の下町、再開発で高層建築に囲まれた敷地に建つ、住居・事務所・倉庫を併せもつ建て替え計画です。長年この地で商いと暮らしを重ねてきた生活リズムや業務動線を丁寧に整理し、細長い敷地形状に沿って小さな諸室を連ねた平屋としました。その上部に切妻屋根を架け、天窓から光を落とすことで、密集市街地の中でも明るさを確保しています。

TECTUREhttps://www.tecture.jp/projects/2177
TECTURE MAGhttps://mag.tecture.jp/project/20230125-toolbox-house

〈houseSY〉モカアーキテクツ

Photo: 笹倉洋平(笹の倉舎)

Section

かつて長屋が連なっていた街区に見られる、狭い間口と隣地境界に沿う建ち方を手がかりに、外周を壁体で定めて内部の領域を確保。その内部に構造と間仕切を兼ねる板状の壁を点在させ、トップライトからの光や素材の重なりが、屋内外の感覚を曖昧にし、歩行に応じて表情が移ろう住まいです。長屋の構成原理を抽象化し、現代的に読み替えています。

TECTUREhttps://www.tecture.jp/projects/2249
TECTURE MAGhttps://mag.tecture.jp/project/20230328-housesy

〈軸組の家〉y+M design office

Photo: 笹倉洋平(笹の倉舎)

駅近くの建て込んだ地域に位置する、間口約6mの細長い敷地に建つ住宅です。敷地いっぱいに木造架構を立ち上げ、幅を二分するかたちで屋内空間と半屋外空間を並列させ、通りと住まいの間に緩衝帯を設けました。半屋外部分は階ごとに用途を変え、1階では庭や駐車スペースとして、2階ではテラスとして室内を拡張。採光や日射を調整する屋根や床の操作により、上下階が緩やかにつながります。

Plan, Diagram

TECTUREhttps://www.tecture.jp/projects/777
TECTURE MAGhttps://mag.tecture.jp/project/20210712-framework-house

〈A Japanese Artist’s House〉Tan Yamanouchi & AWGL

Photo: 田中克昌

東京都心部、作家に所縁のある土地に建つ木造住宅です。創作活動が住まいの中で完結することを前提に、外部への開放を抑えつつ、空間体験の密度を高めた構成を採用。曲面の耐震壁によるアプローチや、高低差を伴う断面操作、光庭とヴォイドを組み合わせることで、明暗と奥行きに富んだ立体的な内部を形成しています。日常に寄り添いながらも、物語性を内包する創作の場を目指した住まいです。

TECTUREhttps://www.tecture.jp/projects/3056

細長い敷地、その先にある住まいの可能性

細長い敷地は、これからも都市の中に増え続けていくでしょう。だからこそ、その条件をどう引き受け、どのように転換していくのかという問いは、今後ますます重要になります。今回取り上げた住宅はそれぞれ、その問いに対する1つの現在地であり、都市の合理性が生んだ区画のなかにも、なお多くの住まいの可能性が残されていることを示しています。

text: Naomichi Suzuki

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