「場」を設けて関わりをつなぐ ― TECTURE AWARD 2025 Gold〈KURUTO〉の現在地 - TECTURE MAG(テクチャーマガジン) | 空間デザイン・建築メディア
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「場」を設けて関わりをつなぐ ― TECTURE AWARD 2025 Gold〈KURUTO〉の現在地

設計事務所が運営する小さな複合施設

TECTURE AWARD 2025のインテリア部門で金賞を受賞した複合施設〈KURUTO〉。大阪の建築設計事務所であるクルが企画・設計し、運営まで一貫して行っている自社プロジェクトです。集合住宅1階で開いている自社事務所の隣、2区画が同時に空いたことを機にプロジェクトが始まりました。

〈KURUTO〉の竣工から1年。店舗、シェアオフィス、イベントスペースとして企画された「場」をどのように運営し地域に受け入れられているのか、その現在地や今後について、クル CEOの水谷光佑氏、同社の企画担当でKURUTO店長の山本花純氏、設計担当の大坪元気氏にお話を聞きました。

仮KURU

〈KURUTO〉Photo: HIROKI KAWATA

〈KURUTO〉Photo: HIROKI KAWATA

—– 〈KURUTO〉を企画された経緯から教えていただけますか?

水谷光佑氏(クル CEO・以下、水谷):僕は大学では建築を学んだのち、設計者ではなく場に関わるビジネスを学びたいと思って不動産ディベロッパーに就職し、そこでは企画や販売、新規事業の立ち上げなどを経験していました。父の設計事務所であるクルを引き継いでからも、「30室のホテル」「50席のカフェ」というように要件や仕様が決まってから依頼されることが多いことにもどかしさを感じていました。そのことがネガティブというわけではないのですが、「もっとやわらかい段階から、要件そのものを一緒に定義していくような関わり方があってもいいのに」とずっと思っていたんです。

そこで、クルのなかに企画部門を立ち上げて、いろいろなところへ「何かお困りごとはありませんか」と訪ねていきました。すると徐々に「ここに空いている土地がある」「ビルが空くんだけど、どう活用しようか考えている」といった相談をいただくようになり、一緒に構想を練ったり、絵にしたり、新規事業を立ち上げたりするようなことをやっていました。

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写真左より水谷光佑氏、山本花純氏、大坪元気氏

水谷:そうした構想は、実際に動き出して初めて僕たちの設計の仕事につながるのですが、場をつくるには予算が必要ですし、企画段階は盛り上がっても「このビルにはこんな飲食店を入れたいけど、実際に誘致できるか」「運営は誰がやるのか」といったリアリティの問題が出て実現しないことも多く、僕らが周囲を動かす力そのものについても、「それ本当にできるの?」と言われることもありました。確実に成功するかどうかを問われると、「絶対いけます!」とはっきり言い切れないモヤモヤを抱えることもありました。

それならば「企画や設計を提案するだけでなく、小規模でもいいから自分たちで企画してデザインして、自分たちでリスクを取って運営もやってみるべきではないか」という議論が社内で起こっていきました。そのころちょうど事務所の隣が空くということになり、始まったプロジェクトが〈KURUTO〉です。

コミュニケーションと、次の何かを生む3用途

—– 〈KURUTO〉はこの事務所と隣の2区画で構成されていますが、用途はどのようにして決定したのですか? また、収益性はどのように考えられましたか? 

山本花純氏(企画・広報担当、以下、山本):この南堀江というエリアは、もとは材木問屋が集まる街で、今は家具やアパレルを扱うショップが増え、とても面白くなりそうな場所だと感じていたので、「街に開いて周囲の人たちが集まるきっかけになるような場所にしたい」という思いがありました。オーナーの意向で飲食店は入居できない物件だったという制約もあり、結果として街に開いてつながることの要素がうまく揃ったのが、店舗、シェアオフィス、イベントスペースという3用途でした。

水谷:オフィス機能については、そのころ事務所もスタッフが増えていたので、半分を自社利用、残り半分はシェアオフィスにして、僕らのネットワークが広がるような方に入ってもらえたら…という考えがありました。全部が全部、最初から決め切ってスタートしたわけではなく、メンバーでかなり議論をしながらこれらの用途に落ち着きました。

収益性については、正直なところ読み切れないまま決めた部分もありますが、この3用途に決めた理由として大きいのは、日常的にある特定の方だけが利用する場所にはしたくなかった、ということです。

仮KURU

Photo: HIROKI KAWATA

水谷:設計事務所にふらっと人が入ってくることはまずありませんし、クライアントや取引先との打ち合わせもこちらから訪問することが多いですよね。自分たちの事務所にいろいろな人たちが訪れ、リアルに会うきっかけがたくさんある状態というのは、僕たちのなかではホームページやSNSで広告を打つより効果があって、他社と違うポジショニングになるとも思っていました。そして設計事務所が閉じずにいることでコミュニケーションが生まれ、次の何かが生まれやすいのではないか、という感覚もありました。収益はどこのラインが適正なのかは、今も悩ましいところです。

既存の空間からデザインを探る

—– 材木の街として栄えた土地の記憶など、既存の要素を取り込んで設計されたとのことですが、TECTURE AWARDで受賞された際に、当初意図していたことと評価されたポイントに違いはありませんでしたか?

大坪元気氏(設計担当・以下、大坪):アンバサダーの方には設計事務所が一から企画をして、運営まで実際にちゃんと行っているという点を評価いただいたので、コンセプトや空間のつくり方についても、企画段階から深く関わっていることが正しく伝わったのかなと嬉しく思っています。

今回のプロジェクトは自社運営ということもあり、敷地を与えられて「こういう場所をつくってほしい」という明確な発注がある依頼とは異なります。特に店舗については、何を取り扱ってどんな空気感を目指すかも含めて、ふわっとした状態で設計がスタートしました。

もし「お菓子屋さんを設計してください」と言われれば、そのお菓子の色や形からインスピレーションを受けることができるかもしれませんが、そのインスピレーションを受けるものすらないことが通常の設計依頼と異なる点であり、同時に面白味でもありました。そこで、スケルトンになった空間をとことん観察して、そこにヒントがないかを探るところからデザインを始めたのが大きなポイントです。

—– 観察してどんなヒントが見つかりましたか?

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大坪:パッと見るとよくあるRCむき出しの空間ですが、普通なら壁と床の素材は違うところ、ここは元々駐車場として使われていたので、床がコンクリートで腰の高さまでそのコンクリートが立ち上がっていることや、柱の面によって面取りされている部分と角が出ている部分があったり、細かく見ていくうちに「要素が散らばっているみたいで面白いな」と感じました。荒々しい空間なのにコンクリートブロックは整然と並んでいることなど、既存空間のもつ要素を1つずつ丁寧に拾い上げ、再編集して落とし込んでいったら、単にRCの躯体を残して「既存を活かしました!」というものではなく、「新しいものができたのになんだか元通り」という不思議な感覚にできるのではないかと思ってデザインしています。

天然の土を用いて床と腰を同材にする仕上げや、収納のピッチをコンクリートブロックのサイズでトレースしていたり、材木の街としての歴史を想起させる桟積みのような可動式什器など、仕上げや寸法、街の歴史など、スケールを横断した既存の要素をデザインに取り込むことを試みました。

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Photo: HIROKI KAWATA

—– その段階でも、まだ店舗に何を置くかは決まっていなかったのですね。

大坪:今後さまざまな人が訪れるだろうし、商品の種類も限定していない段階だったので、ある特定の「お店らしさ」が前面に出過ぎるのはよくないと思っていました。1つのところに注目が集まるのではなく、要素が分散し、それらが集まって風景になるような空間デザインを目指しました。企画と設計の両方を行き来しながら議論することで、デザインの根底の部分が固まっていった感覚があります。

山本:それまで私自身、店舗運営の経験があったわけではないので、包装材やストックの量、それに必要な収納スペース、見せ方も分からず、明確なイメージがないまま議論を重ねながら決めていきました。

自邸でない限り、自分たちが設計した空間をその後も使い続けることってあまりないですし、当初の意図と使い出してからのオペレーションの違いなど、それは事務所としても面白い経験になっています。

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—– 現在の商品ラインナップはどういった基準で選ばれているのでしょうか。

山本:見た目が可愛い、売れそう、という基準ではなく、作り手が熱い思いをもって作っているものを選んでいます。例えば「使われなくなっていく瓦を、何か日常の風景に残したい」という思いで器を作り始めた作り手さんの作品を置いています。購入する人はデザインや使い勝手で買ってくれるかもしれませんが、どこかで「そういえば瓦って…」と思い出して少し気持ちが豊かになってもらえたら、という思いで選びました。

水谷:会社としては自社企画、自社デザイン、自社運営のプロジェクトにチャレンジできればいいというシンプルな思いで始めたので、実際の商品選定も運営もフロントに立って熱量を込められる人が判断していくという考えです。こだわっているのは、「クルでしかできないこと」「クルだからこそやる意味があること」です。

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水谷:事務所代表として僕が仕入れに関してジャッジすることは基本的にありません。むしろ僕が「これを置かない?」と提案しても入れてくれないことすらあります(笑)。でも僕はそうあるべきだと思っていて、彼女は日々作り手さんと接し、工房に足を運んで話を聞いて、彼女が作り手の熱量をよく見て分かっている立場です。

何かあったときのジャッジは会社として関わるべき部分もあるかもしれませんが、基本的には現場感を尊重すべきだと思っています。僕自身、知人から「商品を置いてもらいたい」といった話をもちかけられることもありますが、それも彼女にパスして彼女の判断に委ねる姿勢は大事にしています。

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水谷:設計の仕事はクライアントが求めるものに対して、オンリーワンをオーダーメイドで応えていくことだと思っていて、クリエイティブなデザインを世の中に届けるのが設計だとしたら、作り手さんたちも同じだと思います。こだわって作られたものが僕らの企画した空間、時間を通じていろいろな方に届いていく、そういったアプローチができる場所がいいなと思っています。

山本:もう1つ、用途の決定の際、「クルの仲間を増やしたい」と思っていました。作り手と場の運営者、発注側と受注側という関係ではなく、いろんな作り手さんの話を聞いて、これから自社事業やクライアントワークの企画をするときに一緒にやってくれる仲間を増やしたい、とにかく話を聞きたい、という思いがあったんです。建築とものづくりをされる方との親和性が重なって、さらに誰かに気付きを与えられる店にできたら、クルのやりたいことにつながると思いました。

仕上げも協業もチャレンジしてみる

—– 自社運営のプロジェクトにチャレンジという言葉がありましたが、照明や植栽、グラフィックなどはさまざまなクリエイターと協業されていますね。

大坪:通常のクライアントワークで協業をお願いするときのような依頼ではなく、かなり手前の「どんな場にするか」というフェーズからクリエイターの人たちにも関わってもらいました。イベントスペースの照明は「とにかくフレキシブルな空間。でも設計事務所がやるからには既存の要素を活かして何かステートメントをつくりたい」という、かなりざっくりしたイメージ段階からAURORA Inc.の市川善幾さんにデザインしていただいています。

結果としてライン照明とスポットライトを組み合わせた照明や、店舗側なら天井があらわしになっているという要素を活かしたペンダント照明の製作というかたちで協業できました。早い段階からコンセプトを共有しながら進められたのが面白かったです。

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Photo: HIROKI KAWATA

山本:まさに挑戦も失敗もできるチャレンジ物件なので、グラフィックも今後、別の機会で一緒に仕事ができるかもしれない方、これまでお付き合いがなかった方にあえて声をかけました。こちらの企画も固まっていないプロジェクトの早い段階で、いろいろわがままを言わせていただきながら進めさせてもらいました。

水谷:オリジナルをつくったり、初めての仕上げを試すことで均一にならなかったり、既製品ではないものを使うことは多少のリスクは伴ったりもしますが、限りある予算でできることを小さく実験しながらアグレッシブに進めました。この土間の舗装は土を固める仕上げにしてみたのですが、硬化剤の浸透が甘かったようで、完成後2週間ほど毎日砂が出てくる状態でした(苦笑)。通常のクライアントワークだったら大変なことですが、いろんな挑戦ができるのも自社物件の醍醐味です。

動き続けるギャラリーを軸に循環

—– 2025年7月の竣工から1年が経ちました。現在まで、想定していた使われ方をされていますか?

仮KURU

Photo: クル

山本:イベントスペースが想定以上に面白い展開をしています。もともと店舗は近所の方が日常的に来てくれる場所、シェアオフィスは毎日のように一緒に働く人がいる場所、イベントスペースは外からいろいろな要素が入ってきて、それに対して人が集まってくれる場所、という関わり方のレイヤーの違いを企画段階で想定していましたが、その想定以上に、ここで起こることが私たちの新しい関係性を生んでいます。

アパレルの方がポップアップを開いたときの話で、私たちの設計事務所は要素を少なくすること、引いていくことを考える傾向があるのですが、アパレルの方々は逆に付け足すのがとても上手で、そこから気付きを得ることもありました。出展者と建材屋さんが意気投合して自身の実店舗にも採用したり、イベントのご縁がきっかけでシェアオフィスに入居したいという方が現れたり、思っていた以上にちゃんと循環している感覚があります。

そして想定していたより街に馴染んでいる感じがあります。店舗前で餅つき大会を開いたり、近隣の数店舗と一緒に夏祭りを開催したり、着実に周辺とのつながりが生まれています。隣に保育園があるのですが、アートの展示中に子どもたちが入ってきてくれるといった光景もあってうれしいですね。当初はもう少しシュッとした感じの空間になるかと思っていたのですが(笑)。

仮KURU

Photo: クル

水谷:2区画借りて事業を始めることは、会社の状況を考えるとチャレンジングな決断ではあったのですが、この1年とにかく動き続けることだけは考えていました。用途がはっきり決まっていないからこそ、何もしなければ放置されたような状態になりかねないからです。そのため、とにかく毎週何かをやろうと決めてやり続けました。だんだん「ここって使ってもいいんだ」と気付いてもらえるようになり、今では自分たちから声をかけなくても「展示会で貸してほしい」という方が来てくださいます。

場を運営し、関わりしろをつくる

—– 自ら運営を行うことで得られたことがあれば、これから同様のプロジェクトに取り組むほかの設計事務所へのメッセージも兼ねてお話しいただけますか?

水谷:お客さんが集まってくれたり楽しんでくれたりする理由は、僕らは立場上、空間の美しさやデザインセンスが影響を及ぼしていると思いたくなりますが、そういったことはそれほど影響力がないと思って取り組む方がいいんじゃないかと思いました(笑)。

「次もまた来よう」と思ってもらえるのは、店に立っている人がその店を好きだと伝わることかもしれませんし、この事務所に何かを相談しようかなと思う最初の一歩も、実は空間デザインとは関係のないところにあるのかもしれません。

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山本:運営を始めて気づいたのは、協力してくれる近隣の事業者さんや設計のプロジェクトにおけるクライアントの社員さんが本当にやる気になる状態をつくることが、この世にないアイデアや設計案を出すこと以上に難しいし、大事なのかもしれないということです。

この1年やってきた感覚として、コンセプトだけでは人は1回しか来てくれない。2回、3回と来てくれるのは、結局はそこにいる人や居心地、その場の空気による部分が大きくて、それは人の熱量でしかつくれないものだ、と感じています。これをほかのプロジェクトでも再現できるかたちで提案していくかは、今後向き合わないといけない課題です。

水谷:プロジェクトに携わる方の熱量をどう引き出すかは、アイデアをいくつも出すことではないと思います。クルは父の代から40年近く続く会社なのですが、以前のお取り引き先で、最近はお付き合いのなかった方が何かのきっかけで来てくださり、そこから改めて仕事につながるということもありました。いろんなかたちで「クルと一緒にやってみたい」と思ってもらえる関係性ができれば、そのかたちを変えながらもうまくいくのではないかと思います。

その「かたちを変える」ことに僕たちらしさや関わりしろが生まれるのかもしれません。これからもそんな余白をつくり、長い関わり方ができる場にこれからもしていきたいと思っています。

クル

 

インタビュー:2026年8月31日 KURUTOにて
Photograph:Shun Fukuda(特記以外)


次週、クルがどのようにさまざまなプロジェクトを手掛け、業務を進めているのか、クルの経営術や事務所運営について深掘りします!

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